第74話 気になるリーナの気持ち


 ジュリ宅のリビング。
 クリスマスパーティーは、気を失って帰ってきたチビリュウ3匹が目を覚ましてから始まった。
 ご馳走を食べるのも忘れ、リーナが興奮して喋っている。

「でなでな! シオンがな、いきなり王さまに土下座してな!」

 先ほどヒマワリ城に行かなかった一同らが興味津々と聞いている一方、シオンが口を挟む。

「おい、リーナ。何で話すんだよ」

「ええやん、シオン! めっちゃかっこ良かったで!」

「それに、オレやセナ、カノン・カリンもそのシーン見てないから知りてーし」

 と、シュンがリーナに話の続きを催促させた。

 結局全て話されてしまい、シオンの眉間に不機嫌そうに皺が寄る。
 でもそれは、腕にしがみ付いてきたローゼに顔を向けたときに消えた。
 頬を染めて嬉しそうに笑っているローゼと見つめ合い、ふと微笑む。

 そんな幸せそうなシオンの顔とローゼの顔を交互に見、リーナがさらに興奮して声を上げる。

「あっっっかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! も・だ・え・る・わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっっっ……!! うちのおとん相手やイマイチやけど、いつかシオンみたいなことやって欲しいわあぁぁああぁぁあぁぁあぁあ――」

「へえ」とリーナの声を遮り、サラが訊く。「誰にやって欲しいの?」

 ぴたっと、声が止んだリーナ。
 左からはジュリの視線を、右からはミカエルの視線を感じる。

(ミカエル様がうちの彼氏なんやから、答えを迷う必要なんてあらへんのやけど…、けど……)

 答えられそうにないと思った。

(せやかて、そんなことジュリちゃんの前で言えへん……)

 サラの質問が聞こえなかったフリをして、リーナは話を戻す。

「…ほ…ほんまに良かったな! シオン! ローゼさま! 最高のクリスマスプレゼントを王さまからもらったやん!」

「はいですにゃ!」

 とローゼが笑ったあと、「まあな」と同意したシオン。

(たしかに、俺とジュリ兄はいいクリスマスだった。だが、一方でユナ姉は最悪なクリスマスだったな……)

 ふと、ミカエルに目を向けた。

(本気で好きな男に振られちまったんだから)

 リビングの中、いつもの一同の中にユナだけがいない。
 眠いからだなんて言い訳をして部屋に篭っているが、一人で泣いているに違いなかった。

 ミカエルもユナを心配しているのか、パーティーを楽しむその笑顔は不自然な作り物だ。
 隣でジュリと会話を楽しんでいるリーナのことよりも、ユナのことが気になって仕方がないようだった。

「余計なこと気にしてねーで、自分の方気にした方がいーんじゃねーの」

 そんなシオンの言葉に、ミカエルは「ああ」と答えながらもユナのことが頭から離れなかった。
 シオンの言う通り、ジュリと仲良くするリーナの方を気にしたいところなのだが。

「……悪い、シオン。その…、心配なんだ。見てきてくれるか……」

 ユナの様子を。

 そんなミカエルの言葉を察し、シオンが溜め息を吐いた。

「俺が様子見てきて、大丈夫そうじゃなかったらどうするわけ? 優しい言葉でもかけてやるわけ? そーゆー半端な優しさは止めた方がいーんじゃねーの」

「分かってはいるんだが……」

 そんなミカエルとシオンの会話には、まるで気付いていない様子のリーナ。
 ジュリが取ってくれた料理を頬張り、ジュリが注いでくれたビールを飲み、楽しそうに話している。

「でな、ジュリちゃん! 今朝もジュリちゃんからもらったしゃもじ使ったんよ! おとんとおかんも一緒に朝ご飯食べたんやけど、めっちゃ美味いゆーてた!」

「そっかあ、良かったあ」

「ほんまにええしゃもじ、ありがとなジュリちゃん!」

 嬉々としているリーナ。
 リーナの笑顔を見つめ、幸せそうに微笑んでいるジュリ。

 外はサックリ、中はグニグニな食感のカイコの佃煮を食べながら、2人の顔を交互に見たマナ。

(昨日のイブでリーナがジュリに近づいた感じがするけど…、実際のところはどうなんだろう……)

 と疑問に思っていると、隣に座っていたレナが耳打ちしてきた。

「ねね、マナ。ジュリとリーナ、また近づいたと思わない?」

 同意してマナが頷くと、レナが続けた。

「ジュリとリーナの間を遮ってた一線が消えたっていうか。ユナは結局ミカエルさまに振られたけど、ちゃんとジュリのために一役買ったっぽいね」

 再びジュリとリーナを交互に見たあと、マナも同様に小声で口を開いた。

「本当に2人が近づいたかどうか、たしかめてみたい…。あたしの薬で…」

「マナの薬でっ?」

 マナが頷いて続ける。

「出た結果によっては、ユナはまだミカエルさまのこと諦めなくていいかもしれない…」

「たしかに、ジュリとリーナの2人が近づいたって分かったら、終わったと思ったユナの恋にもまだ可能性が出てくるよねっ……!」

 頷いたマナ。
 そっと箸を置くと、レナも続いて箸を置いた。

 そして2人でリビングを後にした。
 
 
 
 
 以前、三つ子のユナ・マナ・レナが使っていた部屋は、レナがミヅキと結婚してからはユナとマナの2人部屋になっている。
 リビングで行われているクリスマスパーティーから抜けてきたマナが自分の部屋に戻り、それに続いてレナも中に入ると、ユナがベッドの上で膝を抱えて泣きじゃくっていた。

「まだ泣いてるの、ユナ…?」

 マナの声を聞き、ユナがしゃくり上げながら口を開く。

「なっ…、涙っ…、とっ、止まんなくてっ……!」

 当然だろうと、マナとレナは思う。

 性格はそれぞれ違うものの、キラの腹の中にいるときから一緒だった3人。
 ユナが口に出さなくても、どれだけミカエルを想っているか分かっていた。
 マナもレナも、ユナのように泣き虫ではない。
 それでも、もし己がユナの立場になったら十日間は涙が止まらないだろうと思う。

 レナがユナをぎゅっと抱き締める。

「泣かないで、ユナっ……! ミカエルさまが、もしかしたらユナに振り向いてくれる日が来るかもしれないからっ……!」

 それはどういうことかと、ユナが顔を上げてレナを見つめる。
 マナが言う。

「ジュリとリーナが、何だかまた近づいたように思えて…。リーナ、またジュリに惹かれ始めてるんじゃないかって思えて…」

 うんと頷き、レナが続く。

「そうしたら、ユナはまだミカエルさまのこと諦めなくても良くなるかもしれないでしょっ?」

 マナとレナの顔を交互に見つめ、ユナは困惑する。

「で、でも、リーナがまたジュリに惹かれ始めてるって、はっきりと分かったわけじゃないしっ……」

「それを確かめてみるの…、あたしの薬で…」

「マナの薬でっ?」と鸚鵡返しに訊いたあと、ユナは続けて訊く。「それって、どんな薬っ?」

「うーん…」

 と首をかしげたマナ。
 10秒ほど頭の中であれやこれやと考えたあと、ユナとレナに目を向けた。

「前にリーナがジュリのこと好きだったときって…、どんな感じだったっけ…」

「前にリーナがジュリのこと好きだったとき?」

 と声を揃えたユナとレナ。
 顔を見合わせながら、当時のことを思い返す。

「どうだったっけ、ユナ? ジュリがハンターになる前は、もう本当ラブラブだったよね」

「うん。2人一緒にいるときは、凄く幸せそうだったし。で、ジュリがハンターになってから変わったんだよね、レナ?」

「うん。ジュリがハンターになって間もなく、リーナの様子がおかしく……って、何でおかしくなったんだっけ?」

「ローゼさまだよ。ローゼさまが現れて、ジュリのことが好きだってなったから」

「ああ、そうだそうだ! ローゼさまっていうライバルが現れて、リーナの様子がおかしくなったんだ!」

 ぱちん、とマナの指が鳴った。

「それだ…」

「え、何?」と、レナがぱちぱちと瞬きをしながら訊く。「ジュリのことが好きだっていう女の子が現れちゃう薬でも作るのっ?」

 ユナが続く。

「た、たしかにそういう女の子が現れたら、リーナの反応分かりやすいかも。あたしがミカエルさまのことでライバル宣言したとき、凄かったし……」

「らしいね…」と、マナ。「あたしはそのときその場にいなかったけど…、リーナの怯えた様子が目に浮かぶ…」

「怯えた? …ああ、うん……、そんな感じだった」

「きっと、支えてくれるミカエルさまを失うのが怖かったんだよ…」そう言ったあと少し間を置き、マナが続ける。「前のリーナは本当にジュリのことが好きだって傍から見ても分かったけど…、それと違って今のリーナはミカエルさまの優しさに甘えてるだけのように見える…」

「えっ? それってどういう――」

「まあ、今はそのことは置いといて…」とユナの言葉を遮り、マナは本棚から分厚い魔法薬の本を何冊か取り出して机に着いた。「何かいい薬を探してみる…」

 ぱらぱらとめくられていくそれを見ながら、レナが訊く。

「マナが6番バッター?」

「あたしはただリーナの今の気持ちを知りたいだけだけど…、それでもいいかもしれない…。ジュリのことが好きだっていう女の子が現れて、リーナがもし嫉妬したら…、何か進展ありそうだし…」

「たしかに! ジュリとリーナの間に何か進展ありそうっ! 進展あったら、充分な作戦成功だよね! ねね、ここはさ、ジュリにも秘密で6番バッターの作戦をやらない?」

「ジュリにも秘密でっ?」

 とユナが鸚鵡返しに訊く一方、マナが同意して頷いた。

「それが1番自然に見えると思う…」

「でしょでしょっ? よし、じゃあ6番バッターの作戦はジュリ本人にも秘密ってことで!」

 そういうことになったあと、ユナが疑問を口にした。

「でも、いつ6番バッターの作戦開始するの? 普段ジュリはパパに着いて仕事してるから、リーナと会わないだろうし。今月末のパパとママの誕生日でジュリとリーナまた会うことになるんだろうけど、突然知らない女の子が現れるのも不自然だし……」

「ああ、そういえばいつ作戦開始しよう?」

 とレナがマナに顔を向けると、マナがふと本のページをめくっている手を止めた。

「うーん…、タイミングが難しい…」

 と、机の上のカレンダーに目を向ける。
 あと約一週間で終わる今年中には無理そうだと思った。

 よって、机の引き出しの中から来年のカレンダーを取り出す。
 そして元日を見るなり、「あ…」と静かに声を上げた。

「今年も元旦にギルドイベントあるんでしょ…?」

「うん、あるよ」と、二流ハンターのユナ。「いつも通り雪合戦大会が。優勝者には300万ゴールド、準優勝者には150万ゴールド、それからトップ10までに50万ゴールドだって。ミヅキ君が作った兄ちゃんドールが商品になったときほどにはならないけど、年々賞金が増えるから参加者も増えていくよね」

 そう言ったあと、レナと共に「あっ」と声を上げた。
 レナが言う。

「そうだ、雪合戦大会のときに6番バッターの作戦を開始するのがいいよね! 全島からハンターが集まってくるし、ジュリのことが好きだっていう女の子が現れたって何ら不自然じゃないよ!」

 うんと頷いたマナ。

「6番バッター・マナの作戦…、来年の元旦に開始です…」

 そういうことになった。
 
 
 
 
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