第63話 クリスマスプレゼント 前編


 11月の半ば過ぎの、ジュリ宅。
 本日はミラとレオン、グレルの誕生日パーティーだ。
 ミラは28歳に、レオンは43歳に、グレルは58歳に。
 純モンスターのレオンはもちろん、ハーフのミラもまだ20歳の頃と何ら変わりはないが、グレルは何だか1年前よりも熊化している気がする。
 まあ、白髪があるわけでもなく、髪の毛が薄くなるわけでもなく、若々しいといえばそうかもしれないが……。

 そんなグレルに、

「さすがあたしの彼…♪ 年々熊さんになってく…♪ 素敵…♪」

 とマナが頬を染める一方。
 マナの近くにいたジュリは「そうですね」と適当に同意しながら、小さく溜め息を吐いた。
 分かってはいたが、やっぱりリーナは来てくれなかった。
 リーナに付き添っているミカエルも来ていない。

(パーティーが終わるだろう時間までまだまだあるけど、やっぱり来ないよね……リーナちゃん)

 と、思いながら、ジュリがビールを一口含んだときのこと。

「遅れてごめんなー♪」

 とリーナとミカエルがリビングの入り口に瞬間移動で現れ、仰天したジュリは咽返る。

「――ごっほ! ごほごほっ……! えっ…、リ、リーナちゃん……!?」

「咽てどうしたん、ジュリちゃん」

「だ、だって、そのっ…、リーナちゃん、お仕事はっ……!?」

「あー、今日の分な、昨日頑張ってやっておいたん。やっぱりうちも、ミラちゃんとレオ兄ちゃん、グレルおっちゃんの誕生日祝ってやりたいからな♪」

 と、ミラとレオン、グレルにプレゼントを渡したリーナ。
 視線を感じて振り返った。

「……なんやねん、ユナちゃん。うちが来たらあかんかった?」

「ううん。ありがとう」

 ミカエルさまを連れてきてくれて。

 と、心の中で続けてユナは笑顔を返した。
 リーナを見たサラが、くすっと短く笑って呟く。

「愛されてる余裕……ってか」

 そんな言葉を猫耳で聞き取ったユナがむっとした一方、リーナは「ふふん」と笑った。

「ま、そんなところや! うち、ダーリンにめっちゃ愛されてんのやで!」

「僕にもだよ、リーナちゃん」

 そんなジュリの言葉に、今度は困惑してしまったリーナ。
 ガラステーブルの前にミカエルと並んで座り、話を逸らす。

「う、うち、めっちゃお腹減ったわ! はよご馳走食べよかっ……!」

 その途端、

「うん、たくさん食べて行ってねリーナちゃん」

 と、すかさずリーナの隣にはジュリが、

「ミカエルさま、何食べたい? あたしが取ってあげる」

 ミカエルの隣にはユナが座る。

「……」

 ぴくっと頬の筋肉を引きつらせた後、にっこりと笑顔を作ったリーナとミカエル。
 リーナはユナを、ミカエルはジュリを見て言う。

「ダーリンにはうちが料理取ったるから、ユナちゃんは気ぃ遣わんといてーな♪」

「狭いからもう少しそっちに行ってくれないか? ジュリ♪」

 一方のジュリとユナも、にっこりと笑顔を作り。
 ユナはリーナに、ジュリはミカエルに返す。

「ううん、いいの♪ リーナお腹空いてるでしょ? どんどん食べて♪ あたしはもうお腹いっぱいになったし、ミカエルさまにはあたしがお料理取ってあげるから♪」

「ごめんなさい、ミカエル様♪ これ以上は行けないようです♪ 狭いのが嫌なら、後ろのソファーに座ったらどうですか? ほら、一人分空いてますよ?」

 と、ジュリが背後にある3人掛けソファーをぽんぽんと手で叩いた。

 そのソファーの上に、シオンと共に座っていたローゼ。
 続けられる目の前の4人のやり取りを見ながら、涙目になってシオンの腕にしがみ付いた。

「シ、シシシ、シオンさんっ……! ジュリさんもリーナさんもユナさんも兄上も、こっ…、怖いのにゃあぁ……!」

「笑顔全開なところがますますな。心の中ではぜってー相手のことフルボッコしてんぞ」

 とシオンとローゼが小声で話していると、リーナが眉を吊り上げて振り返った。

「くぉらっ! さっきからボソボソ何話してんねん! うちの猫耳には聞こえてんで!」

「じゃー、何話してんのかなんて訊くなよ」

「揚げ足とんなっ!」

 とシオンに突っ込んだあと、リーナはふとシオンとローゼの手元に目を落とした。
 2人の右手の薬指にはめられているものを見て、目を丸くする。

「あれっ? これペアリングっ? いつからしてたんっ?」

「シオンさんのお誕生日からですにゃ」

 と、ローゼが頬を染めて笑った。
 それを見たあと、「へえ」と笑顔になったリーナ。

「まったく気付かへんかった。ラブラブやんなあ、あんたら。にしても、ペアリングかぁ…、ええなあ……」

 と、2人のリングを見つめながら瞳を輝かせた。
 そんなリーナを見たミカエルは決める。

(リーナへのクリスマスプレゼントはペアリングにするか)

 リーナを見ながら優しく微笑んだミカエルの横顔を見て、ユナは胸を痛ませた。
 今ミカエルが何を考えたのか分かった。

(ミカエルさま、リーナへのクリスマスプレゼントはペアリングに決めたんだ。それじゃあ、あたしは用なし……?)

 とユナは不安になってしまう。
 ミカエルとは、リーナへのクリスマスプレゼントを選んであげるという理由で会う約束をしているから。

 そこへ、ミカエルがユナに顔を向けた。
 ペアリングのことについてあれやこれやとシオンやローゼと話しているリーナに聞こえぬよう、小さな小さな声で口を開く。

「例の約束、頼んだぞ」

「――…っ……」

 明るい表情になりながらユナが頷くと、リーナがふとミカエルに顔を向けた。

「え? なんか言った?」

「いや、何も」

 と笑い、リーナの右手を取ったミカエル。
 その薬指の根元を親指と人差し指で摘んだ。

 それを見て、リーナが首をかしげる。

「ん? なんや、ミカエルさま? 指なんか摘んで……」

「サイズはいくつかと思ってな」

「え?」

「頼まれたんだ。サンタクロースにな」

「…えっ……!?」

 と、頬を染めたリーナ。
 嬉しそうに笑い、答えた。

「7号やっ、7号っ……! ちゃんとサンタクロースに伝えておいてなっ……?」

「ああ」

 とミカエルが微笑む一方、ジュリがリーナの顔を覗き込んだ。

「リーナちゃん!」

「おっわぁ!」と仰け反って驚いたあと、リーナは訊く。「な、なんやジュリちゃんっ?」

「今年は僕からのクリスマスプレゼント、何がいい!?」

「えっ? …え…えと、いら――」

 いらへん。

 と言おうとしたリーナの言葉を、ジュリが遮って再び訊く。

「何がいい!?」

「せ、せやからな? いら――」

「何がいい!?」

「いら――」

「何がいい!?」

「……」

 リーナ、苦笑。
 どうやらジュリは、このリーナに何が何でもクリスマスにプレゼントを渡したいらしい。
 去年までは恋人同士が贈り合うようなものを頼んでいたが、今年はそういうわけにもいかない。
 よって適当に答えた。

「んと……、まな板」

 次の瞬間、カレンがリーナにリボルバーの銃口を向け。

「それってあたくしのことぉぉぉぉ……!?」

 リーナ、顔面蒼白して狼狽。

「ちゃっ、ちゃうちゃうちゃうちゃう! そんなカレンちゃんの胸元がまな板やなんて――」

「あたくしの胸元が、何ですってぇぇぇぇぇぇ……!?」

「なななななんでもあらへんよ、何でもっ! …え…えと……、せ、せやジュリちゃん! うちやっぱり、しゃもじがええわ! しゃもじが!」

 それを聞いたジュリ。

「うん、分かった! しゃもじね!」

 と笑顔で承諾した。
 リーナの好きな料理を皿に盛り、リーナに手渡す。

「はい、リーナちゃん!」

「う…うんっ…、ありがとうっ……」

 とジュリが盛ってくれた料理を口に入れるリーナ。
 カレンの視線が逸れるまで冷や汗を掻きながら頬張ったあと、ちらりとミカエルに顔を向けて頬を染めた。

(うちのサンタクロースは、どんなペアリング選んできてくれるんかなっ……♪)
 
 
 
 
 12月上旬のとある朝食後。
 武器であるチャクラムを持たずにハナと共に玄関へと向かって行くジュリを階段の上から見、これから仕事に行こうとしていたユナは後を追いながら訊いた。

「ねえ、ジュリ。武器は? 今日仕事じゃないの?」

 螺旋階段の途中でジュリが止まり、振り返ってユナを見る。

「あ、ユナ姉上。僕とハナちゃんは今日1日お出掛けしてきます。父上にもちゃんとお仕事お休みの許可を取りました」

「そう。でも、お出掛けってどこに行くの?」

「飛行機に乗って、睦月島に」

「睦月島にっ?」

 と、ユナは驚いて声を高くした。
 だって、睦月島までは飛行機で約8時間も掛かるのだ。

 ジュリが「はい」と頷き、笑いながら続けた。

「調べたところ、睦月島にしゃもじ専門店があるんだそうです。そこに行けば、きっととても良いしゃもじが見つかると思って」

「へ?」

 しゃもじ?

 と首をかしげたあと、ユナは思い出した。
 ミラとレオン、グレルの誕生日パーティーの日のことを。

(そっか…、リーナへのクリスマスプレゼントを……。あんなのきっと、リーナは適当に答えただけなのに……)

 胸が痛み、ユナがジュリの頭に手を乗せる。
 ハナがユナの顔を覗き込みながら訊いた。

「そういえば、ユナちゃんはいつ行くんだべ?」

「え?」

 とユナがハナに目を移すと、ハナが続けた。

「リーナちゃんへのクリスマスプレゼントを選ぶミカエ――」

 と、ハナははっとして言葉を切った。
 サンタクロースを信じているジュリを一度ちらりと見、そのあと言い直す。

「サンタさんを、お手伝いに行くんだべ?」

「ああ、うん……。そうなんだけど……」

 と小さく溜め息を吐いてポケットの中から携帯電話を取り出し、ユナはメールをチェックする。
 毎日毎日ミカエルからの連絡を待っているが、未だに来ない。

「もしかして、もう一人で選んじゃったのかも……」

 そんな不安に駆られてしまう。

「そんなことないべよ。クリスマスまでに、まだ時間あるしね」

 とハナがにこっと笑ってフォローしたとき、ユナの手の中で携帯電話が鳴った。

「わわっ、メールだっ……!」

 と狼狽してしまいながらそれをチェックすると、それは噂をすれば何とやらでミカエルから。
 そしてそこには、こう書かれていた。

『今夜、大丈夫か?』

 YES.
 
 
 
 
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