第54話 『4番バッター、行くよ!』 前編


 10月。
 カレン27歳の誕生日パーティーに集まっている一同。
 内、ハンターである者はリュウの言葉に耳を傾けていた。

「つーわけで、知っての通り一週間後のギルドイベントは今年も『全島ハンター・各階級別トーナメントバトル』だ」

 と、リュウ。
 ウィスキーをロックで飲みつつ、そのギルドイベントについて話していた。

 リンクが続く。

「いつも通り、初日は新人ハンター級、2日目は四流ハンター級、3日目は三流ハンター級、4日目は二流ハンター級、5日目は一流ハンター級、そして最終日は超一流ハンター級な。今年もおれは審判役や。治癒もいつも通りケリー(キャロルの母親)さんな」

 うんうんと頷きながら聞いている、ハンターの一同。
 シュウがふと手をあげて口を開いた。

「なあ、今年はオレたちの中で誰が参加すんの? オレや親父、サラ、レオ兄、グレルおじさんは当然超一流ハンター級に出るだろ。一流ハンターのおまえらは今年どうすんの?」

 と、シュウが顔を向けたのは、周りにいるカレンとリン・ランである。

「わたしたちも出ますなのだ、兄上」

 と、リン・ラン。

「あたくしも一流ハンター級に出るわ、アナタ」

 と、続いたカレン。
 ガラステーブルを挟んで向かいにいるユナに顔を向けた。

「ユナちゃんは今年どうするの? 二流ハンター級に出てみる?」

「う、うーん。あたしはリーナが出ないなら、出てみてもいいかなあ……」

 と、身体が勝手にミカエルの隣という席を選んでしまったユナ。
 ミカエルを挟んだ先にいるリーナの顔を見ながら続けた。

「去年はリーナが出たよね。今年もリーナが出る? あたし、やっぱり怖いし……」

「まーたそんなこと言ってるんか。今年はユナちゃんが二流ハンター級に出て頑張ってきてや。うちは遠くから応援しとるわ」

 ミカエルが笑いながら口を挟む。

「余裕で優勝じゃないか、ユナ」

「え、ええっ? で、出来ないよ優勝なんて! あたし、いっつもパパのところに逃げちゃうから……」

「じゃあ、今年は逃げ出さないように見張ってなきゃな」

 とのミカエルの言葉を聞いたユナ。

(ミカエルさまが傍に居てくれるなら、頑張れるかも……)

 と思って二流ハンター級に出ることを承諾した。
 そのあと、ミカエルに訊く。

「ミカエルさまは出るの? 新人ハンター級に」

 当然だと言わんばかりに、ミカエルが張り切った様子で言う。

「ああ! 私とて幼少の頃から剣稽古に励み、さらにトーナメントバトルが行われると知った一ヶ月前からは剣稽古の時間を増やして鍛えてきたからな!」

 そんなミカエルの言葉のあと、口を閉ざしていたジュリがリュウの方を見ながら手を上げた。

「あの、父上」

「なんだ、俺の可愛いジュリ。え、暇だから抱っこして? そうだな、おまえには関係のない話だもんな。よーしよしよし、来い来い」

「いえ、父上。僕も新人ハンター級に出たいのですが」

「おう、そうか! おまえは偉いなあ――って……!?」リュウ、驚愕。「な、何!? トーナメントバトルに出たい……だと!?」

「はい」

「だ、駄目だ駄目だ駄目だ! そんな危な――」

「はいはい、うるさいうるさい」

 ドスッ!

 と、リュウの胸元にブッチャーを入れて突っ込んだのはサラである。
 リュウの耳元に口を寄せて言う。

「アタシの――4番バッターの作戦なんだよ、ジュリがトーナメントバトルに出るのは」

 リュウがサラの顔を見ると、サラが続けた。

「ここはミカエルに勝って、リーナにカッコイイとこ見せなきゃってもんでしょ」

「……」

 ジュリに顔を向けたリュウ。
 ミカエルの横顔をライバル心むき出しの表情で見つめているジュリを見つめ、小さく溜め息を吐いた。

「ああ……、そうだな」と小声でサラに返したあと、リュウはジュリを呼んだ。「分かった。新人ハンター級に出て頑張って来い」

「はい、ありがとうございます父上!」

 と笑顔で返したあと、ジュリは再びミカエルを見つめた。

 ジュリの視線に気付いたミカエルも、ジュリを見つめる。
 そしてジュリのその表情を見てふと微笑み、呟いた。

「これは気を引き締めて戦わないとな」

「負けませんよ、ミカエルさま」

「ああ、ジュリ。私とて負ける気はない。正々堂々勝負しようぜ」

 ミカエルと火花を散らしあったあと、不自然に顔を逸らしているリーナを見たジュリ。

「リーナちゃん、僕、頑張るからね」

 そうリーナの応援が返ってくること願って言ったが、それはミカエルへと向けられてしまった。

「が…頑張ってな……、うちのダーリン」
 
 
 
 
   そして一週間後、『全島ハンター・各階級別トーナメントバトル』。
 大抵そうであるが、今年も隣の文月島で行われることに。
 リーナの瞬間移動で、ジュリ一同はその野外に作られた会場へとやって来た。

 本日・トーナメントバトル初日は、新人ハンター級。
 一流以上は一対一で戦って勝ち抜いていく形になるが、人数の多い新人ハンター級から二流ハンター級までは初戦を複数で戦うことになる。

 本日参加するジュリとミカエルを始め、ハンター用に作られた強力な防具を身につける新人ハンター級に参加する一同。
 新人なだけに、皆緊張した面持ちだった。

 そんな中、割とリラックスした様子でいるジュリとミカエル。
 正直、お互いの敵はお互いだけだった。
 並んで防具を身につけながら会話をする。

「とりあえずどうしようか、ジュリ。初戦は各ブロックごとに約50人ずつ戦い、2人だけが次に進めるそうだ。私とおまえの初戦はそろってBブロック。次の準々決勝からは一旦別れて戦うが、決勝でまたおまえと私を会えるようにしてくれるそうだ」

「はい、そうしてくれる父上に感謝です。召還獣も武器の一つとして使っていいみたいなので、初戦の他の皆さま方はテツオに任せましょうか」

「ああ。申し訳ないが、そうしよう」

「分かりました」

 と承諾したジュリに、ミカエルは少し間を置いてから訊く。

「おまえ、このトーナメントバトルでずいぶんと私を敵視しているようだが……。やっぱりまだリーナを想っているのか?」

 そんなミカエルの言葉に動き止め、その顔を見上げたジュリ。
 数秒後、再び手を動かしながら答えた。

「はい。僕はリーナちゃんのことが好きです」

「……そうか」

「はい。そのせいか僕は、ミカエル様には絶対負けたくありません」

「……そうか」

 と短く笑ったあと、防具を身につけ終わったミカエル。
 参加するBブロックへと向かって行きながら、続けた。

「悪いがリーナの手前、私も負ける気はないぞ」

「分かってます」

 と返しながら、ミカエルに続いてBブロックへと向かって行ったジュリ。
 バトル開始の笛が鳴るなり、

「皆さん、ごめんなさいっ……!」

 と涙ぐみつつも、召還カブトムシ・テツオを呼び出し。

 ズドドドドドドドドドッ!!

 とテツオを突進させ、己とミカエル以外の一同をK.O。
 新人ハンター級Bブロック初戦・ほんの7秒で終了。

 次の準々決勝、準決勝もジュリ・ミカエルそれぞれ難なく突破し。
 あっという間にやってきた決勝戦の時間。

 ジュリとミカエルどちらも新人離れした力を持つということで、リュウがさらに強力な防具に着替えるよう指示した。
 ジュリは防具を着替えなおしながら、寄ってきたサラ――4番バッターの言葉に耳を傾けた。

「いい? ジュリ。これは列記としたギルドイベントの上での戦いだよ。遠慮なんかせずに、思いっきり倒しに行くんだよ。それにミカエルに遠慮なんかしてたら、逆にやられる可能性だってあるからね。あの子、本当に強いよ」

「はい、サラ姉上」

 と承諾したあと、ジュリは戦場へと向かって行った。
 それから数秒して着替え終わったミカエルも、リーナと一言二言交わしてから戦場へと向かう。

 戦場の中央、5メートルほど距離を置いて向かい合っている2人の間にあるのは、さっきまでは無かった緊張と火花。
 審判のリンクが2人の顔を見つめ、口を開く。

「準備はええか、ジュリ?」

「はい、リンクさん」

「ミカエル王子もええですか?」

「ああ、リンク。バトル開始の笛を頼む」

「ほな、2人とも頑張ってな」

 頷いたジュリとミカエル。
 ジュリは両手のチャクラムをぎゅっと握り、ミカエルは腰の剣の柄に手を持っていく。

 そしてバトル開始の笛が鳴り響き、

「行くぞ!」

 と、抜刀しながら飛び出したミカエル。
 真正面から凄まじい超高速で空を切りながら飛んでくる、2つのリング状の刃――チャクラムに気付き、慌てて跳び退りながら防御を取る。

 ガキキィンッ!

 と、金属音を響かせ、2つのチャクラムをぎりぎりのところで受け止めたミカエルの剣。
 1つは弾いて来た道を戻り、もう1つはミカエルの腕を掠めて後方へと飛んで行った。
 防具がなかったら、間違いなく腕が切り落とされていただろう。

 一方、弾かれ戻ってきたチャクラムをすぐさま手に取り、間髪入れずに再びミカエルに投擲しようと思ったジュリ。
 だが、そうはさせてくれないようだった。

 ガキンッ!

 再び響いた金属音と共に、目の前で咲いた火花。
 手に伝わってきた衝撃。
 空高くに弾かれたチャクラム。

「――あっ……!」

 と、弾かれたチャクラムを目で追い、空を仰いだジュリ。
 途端にミカエルの剣が振り下ろされてきて、慌てて跳び退った。
 だが、完全には避けきれず、喉の下から胴体へと向かって刃が掠めた。

 その後も武器を取りに行かせまいと言わんばかりにミカエルが間を置かずに剣を振るい、ジュリを後方へと下がらせて行く。
 そのうち、溜め息を吐いたミカエル。

  「さすがにすばしっこいな、猫は」

 と、それまで頭頂から振り下ろす唐竹割りと、右上段からの袈裟斬り、左上段からの逆袈裟斬り、左下段からの右切り上げ、右下段からの左切り上げ、真下からの切り上げ、左右からの胴斬りで攻めていたのを、ぴたりと止め。
 突然、後方、後方へと下がって行くジュリに向かって中段突き の構えになった。

「わわっ!?」

 胴体の中央へと向かって突っ込んできた先鋭な刃を、ぴょんと高く宙に舞って避けたジュリ。
 ミカエルの頭を思い切り踏みつけてから、落ちているチャクラムの元へと駆けて行く。

 そして再びチャクラムを両手にした瞬間、唐竹割りの形で振り下ろされてきた刃を受け止め、力一杯押してミカエルを後方に飛ばせた。
 大地に砂埃を立てながら踏ん張って止まったミカエルが、首元を手で押さえながら言う。

「おい、ジュリ。さっき本気で首が折れるかと思ったぞ。容赦がないな」

「僕だってさっき串刺しにされるところでしたよ、ミカエル様」

「……」

「……」

 普段とは打って変わって、鋭い瞳でお互いを見つめるジュリとミカエル。
 弾んできた息を整えながら思った。
 共に仕事をしていたこともあって重々承知していたが、刃を交えて尚もって感じた。

(やっぱり強い……)
 
 
 
 
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