第79話 サンタクロースのクリスマス 中編


 次男で末っ子のジュリ(4歳)がサンタクロースにお願いしたこと。
 それは、

『最強部隊・ファイブレンジャーより強い部隊の人たちに会わせてください』

 というもの。

 そしてサンタクロースのシュウはそれを叶えてやらなければならない。
 自らファイブレンジャーを超える『超最強部隊』の一員に変装して。

(そうしねーと親父に殺されっからな…)

 只今ミラとバスタイム中のジュリ。
 リビングに戻ってくるまでの約30分の間に準備しなければならない。

 玄関から慌ててリビングへと戻って来るなりシュウは、リュウから『超最強部隊』のメンバーとして選ばれた妹たちの名を年齢順に上から呼んだ。

「サラ、リン、ラン、マナ! 今すぐ――」

 準備だ!

 と言おうとしたシュウは、途中で言葉を切った。

 リンクとレオンが、ステージを作るために廊下へとソファーやテーブルなど邪魔になるものを運び。
 カレンとユナ、レナが料理を一旦、安全なキッチンへと運んでいる。

 そしてその傍ら。
 シュウが呼んだサラとリン・ラン、マナに加えて、キラとミーナ、リーナ、超最強部隊の敵役のグレルが円を作っていた。

 リーナが眉を吊り上げてシュウに振り返る。

「はよこっち来ぃや、シュウくん! ジュリちゃんお風呂からあがってしまうやん!」

「おっ、おう、わりぃっ」

 どうやらもう準備は始まっているらしい。
 リーナが中心となって、あれやこれやと指揮を取っているようだ。

 シュウは小走りでリーナの傍らに並んだ。

 ミーナが言う。

「それで、リーナ。おかんはキラとどこで何を買ってくれば良いのだ?」

「おかんとキラ姉ちゃんは、今すぐドン○キホーテのパーティーグッズコーナーでファイブレンジャーの衣装買ってきてや! ファイブレンジャーと見た目かぶってしまうけど、時間あらへんから仕方ないわ! それとグレルじっちゃん用には…、うーん…見た目もともとクマやから、リアルなクママスクでも買ってきてや! グレルじっちゃんは服脱いでマスク被ればリッパなクマモンスターやで! ほな、よろしくな!」

 キラとミーナが承諾し、玄関へと駆けて行った。
 靴を履き、ミーナの瞬間移動で屋敷から出て行く。

 そのあと、リーナがリビングの戸口へと駆けて行った。
 振り返り、シュウとサラ、リン・ラン、マナ、グレルに言う。

「はよう、うちに着いて来てや! ここやったらジュリちゃんに見つかるかもしれへんから、シュウくんの部屋で準備すんで!」

 と、いうわけで。

 超最強部隊役の5匹と敵役のグレルは、リーナに着いてシュウの部屋へと向かった。
 リーナが集まった役者一同の顔を見回しながら言う。

「ええか、みんな。ファイブレンジャーの衣装の色は、赤と青、黄、緑、桃や。まずはダレがどの色着るか決めんで!」

「アタシ赤ね」

 と、サラ。
 それに続いて、リン、ラン、マナの順に言う。

「わたし桃が良いぞ」

「わたしは黄色が良いぞ」

「じゃあ、あたしは緑で…」

 そうなるとシュウは必然的に、

「青か、オレ」

 リーナがうんうんと頷き、再び口を切った。

「ほな、次は名前を決めんで!」

「名前? 普通に『赤レンジャー』とか『青レンジャー』とかでいいんじゃねえの」

 とシュウが言うと、リーナが呆れたように溜め息を吐いた。

「そんなんつまらんやん、シュウくん。ユーモアのカケラもあらへんわ」

「ユーモアなんていらねーよ…」

 とシュウは苦笑するが、リーナは断固として首を横に振る。

「あかんあかん! ちょっとひねった名前がええんや、うちは!」

「そうかよ…。じゃ、どうすんだよ」

「せやなあ、うーん…」と、思案顔で腕組みするリーナ。「アレやんな。やっぱ『ジャー』はつけへんとな」

「……。おい、リーナ。『レンジャー』と『ジャー』じゃ大分意味ちげーぞ。オレらはポットか。それとも炊飯器か?」

「うっさいわあ、シュウくん。うちが真剣に考えとんのに、気ぃちるやないかい。男が細かいこと気にすんなや」

「って、まったく細かくな――」

「あっ、せや!」と、リーナがシュウの言葉を遮り、ぱちんと指を鳴らした。「赤は『赤いんジャー』、青は『青いんジャー』、黄は『黄色いんジャー』、緑は『緑なんジャー』、桃は『桃なんジャー』! これがええで!」

「……」

 なんじゃそりゃ。

 と思わず顔が引きつるシュウ。
 リーナが続ける。

「5人そろって『超最強部隊・強いんジャー』やで!」

「……」

「なんやねん、シュウくん変な顔して。文句あるんかいな」

「……。…変えね?」

「もうこれでいいじゃん、兄貴」とサラが溜め息を吐いた。「本気で時間ないんだからさ」

 たしかにそうなので、シュウはしぶしぶ承諾した。
 それを確認したあと、リーナが続ける。

「ほな、次! おとんとレオ兄ちゃんがステージ作ってくれてるんやから、ストーリー作ってハデに演じなあかんで! ええか、まずは」と、リーナが一同の顔を見た。「グレルおっちゃんクマモンスターが、突然リビングに入ってくるところから始まんねん! それで……」

 とストーリーやそれぞれの台詞をぺらぺらと話すリーナ。
 一同はそれを聞きながら覚えた。

 そしてリーナが最後まで話し終えると、ジュリがバスタイムを終えるまであと10分だろう時間に。
 そこでようやく、キラとミーナが衣装をそろえて戻ってきた。

 役者一同は急いで衣装に着替える。

 グレルはパンツ一丁になって熊のマスクを被り。
 シュウとサラ、リン、ラン、マナはそれぞれ選んだ色の全身タイツみたいなスーツとマスクを身につける。

「ほいで『強いんジャー』5人の並び方は、左から『黄色いんジャー』、『緑なんジャー』、『青いんジャー』、『赤いんジャー』、『桃なんジャー』な。センターのシュウくんがリーダーで」

 リーナの指示通りに並ぶ『超最強部隊・強いんジャー』の5匹。
 それを見たキラとミーナが声をあげる。

「おおーっ! すごいぞ、完璧だぞーっ!」

「おし、んじゃ――」

 行くぜ!

 と言おうとしたシュウの言葉をリーナが遮る。

「あかんわ。ファイブレンジャーと同じ見た目でユーモアがあらへん。それに、こういうのは赤がセンターのせいやろか。センターにいるにも関わらず、青のシュウくんがイマイチ目立たへん」

「おい、リーナ…」シュウは苦笑した。「この時間になって何を言い出すん――」

「それはいけないのだ!」と、リン・ラン。「兄上は誰よりも目立たせなければいけないのだ!」

「たしかにリーダー役の兄貴は目立たないとねえ」

 とサラが続き、

「そうだね…。兄ちゃんにはインパクトのある他の色を…」

 マナも続いた。

「はぁ? おまえたちまで何を言い出すんだよ。もういいじゃねーかよ、これで」

 げんなりとするシュウの傍らで、真剣な顔であれやこれやと考える妹たちとリーナ。

 それから30秒。
 マナが静かに手を上げて口を開いた。

「スケルトン…」

「……」

 スケルトン?

 と、首を傾げた一同。

「マナ、おまえな…」シュウ、苦笑。「それって色じゃねえだろ。っていうかそれじゃ透け透け衣装じゃねーかよ」

「それやっ!」と、リーナが顔を輝かせた。「ナイスやで、マナちゃん! シュウくんはスケルトンのスケルトンジャー…、いやっ! スケルトン、スケルトン…………、スケトルン。『超最強部隊・強いんジャー』のリーダー・シュウくんは……、ずばりっ!!」

 と、リーナがビシっとシュウを指差し、

「『透けとるんジャー』やっ!!」

「おおっ」

 と、シュウ以外の一同からあがった声。

「――はぁっ!?」シュウは声を裏返し、一同の顔を見回した。「おおって何だよ!? 嫌だぞオレはそんなのっ!」

「いやいや、兄貴」と、サラがシュウの肩を叩く。「これはいいよ。スケルトンの衣装なんてチョー目立つ」

「そっ、そのスケルトンの衣装はどうすんだよ!?」

「そういえばどうしようなあ」

 と、思案顔になるリーナ。
 シュウを除く一同も思案顔になる。

 それから5秒。
 キラが、ふふふ、と笑った。

「心配するな、おまえたち。私は思いついたぞ」

 その時点で心配です。

 と、苦笑するシュウ。
 この天然バカ黒猫がマトモな思いつきをするわけがないと思う。

「ちょっと待っていろ」

 とシュウの部屋から出て行ったキラ。
 ほんの1分ほどで戻ってきた。

 その手には、

「良いか、シュウは服を脱いで身体にコレを巻き」

 食品用ラップと、

「頭にコレを被れば完璧だぞ!」

 ストッキング。

 シュウの顔が強張った。

「か、かかか、母さん…!? あ、あんたの頭やっぱすげえや……!!」

「そうだろう、そうだろう」と、自慢げに胸を張るキラ。「顔までラップ巻いてしまったら呼吸出来ないと読んで、ちゃーんとストッキングにしたのだぞっ♪ 母上は賢いだろうっ?」

「で、ででで、でも、ほ、ほら。ストッキング被っても透けてるし、ジュリにオレだってバレちゃうんじゃねえかな…!?」

「案ずるな、シュウ。良いか? まずストッキングを首まで被るだろう?」と、手本に言葉通りのことを自らやってみせるキラ。「そうしたら、ストッキングを上に少しグイッと引っ張るのだ! するとホラ、見てみろ! まるで別人のような顔になっているだろうっ?」

 絶世の美女の顔が、お見せできないくらいヒドイことになっている。
 ミーナが声をあげる。

「おおーっ! すごいぞーっ! さすがキラだぞーっ! これなら完璧だぞーっ!」

「うんうん」とグレルが感心したように頷いた。「本当だぜ。おまえは昔っから賢いからな、キラ」

「母上すごいぞーっ!」と、瞳を輝かせるリン・ラン。「只ならぬ賢さだぞーっ! この世の英雄はやっぱり違うぞーっ!」

「ママ、かっこいい…」と恍惚とするマナ。「あたしもママみたいになりたい…」

 シュウの身体に冷や汗が滲み出した。

(や、やべえ…! い、今この空間に……!)

 ごくりと唾を飲み込んだシュウ。

(天然バカ集団勢揃いっ!!)

 天然バカ=キラとミーナ、グレル、それから(お忘れかもしれないが)リン・ランとマナ。
 内、その度合いをシュウが判定すると。

 最重度――キラとグレル(もう、本気で救いようがねえ…)。

 重度――ミーナ(長年母さんを手本にしたが故にだろうな…)。

 中度――リン・ラン(小さい頃から母さんよりもオレと過ごす時間が長かった分、まだマシに育ったのかも…)。

 軽度――マナ(最近は親父の血が色濃く出て来た気がするんだよな。オレに容赦ないとことか特に…。はっきり言って末恐ろしい妹ナンバー1だぜ)。

 重度だろうが軽度だろうが、どれも天然バカであることには変わりない。

 昔はキラとミーナ、グレルで3バカ。
 今はそれにリン・ラン、マナを加えて6バカ。

(ったく、『バカなんジャー』っていう、ある意味超最強な戦隊が作れそうだぜ。――っていうか、オレ……)

 6バカの視線を浴び、一歩後ずさるシュウ。

(は、早くこの場から…)

 さらに、ニヤニヤとニヤけたサラとリーナの視線を浴びて二歩後ずさり。

(逃げるんだっ!!)

 背を向けて逃げ出そうとした瞬間、一同に一斉に飛び掛られて絶叫した。

「――ぎっ…、ぎゃああああああああああああああああああああっっっ!!」

 異常な怪力の持ち主・グレルに押さえつけられ。
 その間に服を脱がされ。
 パンツ一丁にされ。
 食品用ラップで首から下をグルグル巻きにされ。
 首までストッキングを被せられ。

 仕上げにソレをグイッと少し上に引っ張り、父親似の凛々しく且つ整った顔を崩したら。 

「ジュリちゃんが風呂から上がるまであと約3分! ぎりぎり準備完了やっ! ほな、みんな…」

 と、気合の入った顔で一同を見回すリーナ。

 それを合図に、(シュウを除く)一同は声をそろえた。

「レッツゴオォォォォっ♪」
 
 
 
 
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