第80話 サンタクロースのクリスマス 後編


 シュウ宅のリビング。

 ソファーやテーブルなどが廊下に出され、ステージが作られている。
 何のためのステージかというと、これから始まろう芝居――『超最強部隊VS超最強モンスター』のため。

 全ては末っ子で次男のジュリ(4歳)の願いのため。

『最強部隊・ファイブレンジャーよりも強い部隊の人たちに会いたい』

 と願う、可愛い可愛いアイドル的な存在のジュリのため。

 サンタクロースであるシュウが、ファイブレンジャーを超える超最強部隊の一員として芝居をすることに。
 加えて、シュウの妹のサラにリン・ラン、マナ。
 敵のモンスター役にグレル。

 ジュリはシュウたちが芝居をしているとは知らずに、シュウたちの芝居を見ることになる。

 ミラと入浴を終えてリビングに戻ってきたジュリが、リビングの中をきょろきょろと見渡して言った。

「サンタさん、まだファイブレンジャーよりつよいぶたいのひとたちをつれてきてくれてないのですか?」

「今呼びに行ってくれてるぜ」

 と、リュウ。
 ソファーがないので床に座ってウィスキーを飲んでいる。

 同様に床の上に座った観客一同――カレンとキラ、ミラ、ユナ、レナ、リンク一家、レオン。

 ステージ近くに座ったリーナが、隣をぽんぽんと手で叩いて言う。

「ジュリちゃん、ここ座りや」

「はい」

 と、まだ立っていたジュリが従ってリーナの隣に座った。
 観客が全員、ステージの方を向いて座ったところで。

「ジュリちゃん、もうそろそろサンタさんが超強力部隊を連れて来てくれるからな」

 と、リーナ。
 ちらりとリビングの窓に目をやって、左眉を上げる。

 それは芝居開始の合図だった。

 次の瞬間、

 ズガシャァァァァン!!

 と迫力いっぱいに窓を突き破り、

「泣ぐ子はいねがあああああっ!?」

 明らかに間違った台詞で敵の熊モンスター役のグレルが、ステージ上に登場。
 芝居開始早々、リンクが苦笑して呟いた。

「何してんねん、師匠は…。ナ○ハゲやあるまいし…」

「しかもあんなバケモノ現れたら余計に泣いちゃうよね」

 とレオンも苦笑しながら呟いたあと。
 その通り、ジュリが泣き出した。

「みゃあああああああん! こわいぃぃぃぃぃぃっ!」

「大丈夫やで、ジュリちゃん!」と、リーナ。「超最強部隊――その名を『強いんジャー』が、もうすぐ近くまで来てるハズや! 助けを呼んでみるんや、ジュリちゃん!」

 リュウが眉を寄せた。
 小声でリンクに話しかける。

「おい、もしかして『強いんジャー』っておまえんとこの娘のセンスか」

「お、おう。たぶんリーナで間違いないわ…」

「おまえよりセンスあんな」

「……」

 ジュリが呼ぶ。

「たすけて、つよいんジャーーーっ!!」

 そして1人1人現れる『超最強部隊・強いんジャー』の5人。

 まずはサラ。
 リビングの入り口から宙返りしてステージ上に立ち、グレルを指差しながら言う。

「そこまでだっ! 熊モンスターっ!」

「おっ? 赤い全身タイツのおまえは誰だぞーっと♪」

「ふふふ。よくぞ訊いた! アタシの名は『赤いんジャー』!」

 続いてマナ、リン、ラン。
 サラ同様、自分のポジション目掛けて宙返りで登場。

「『緑なんジャー』…」

「『桃なんジャー』っ」

「『黄色いんジャー』っ」

 残りはセンターのシュウだ。

 が、なかなか出てこないシュウに一同は首をかしげる。
 レオンが小声で訊く。

「ねえ、キラ?」

「何だ、レオン」

「あとはシュウの『青いんジャー』? だよね?」

「違うぞ」

「違う色にしたの?」

「うむ。シュウはスケルトンだぞ」

 スケルトン?

 と、首をかしげるシュウたち役者の準備に携わっていない、ジュリを除く一同――カレンとリュウ、ミラ、ユナ、レナ、リンク、レオン。
 サラがリビングの戸口の方を見て、溜め息を吐いた。

「ったく、もう…」

 と呟き、歩いて行ってリビングのドアの外に手を伸ばす。
 そして引きずられるようにして、シュウ登場につき。

「――」

 しぃーん…

 と、起こった嵐の前の静けさ。
 シュウを見つめる役者たちの準備に携わっていない一同の目が丸くなる。

 パンツ一丁姿の上に、ミイラ男のようにグルグルと巻かれたラップ。
 ストッキングを被されたことにより、別人のように崩れた顔。

 サラに半ば無理矢理ポジションに立たされたシュウが、口を開いた。

「す、す、す、『透けとるんジャー』っ…」

 そしてサラとリン・ラン、マナと共にポーズを取りながら、

「5人そろって『強いんジャー』っ!!」

 嵐まで。

 3、

 2、

 1…。

「――ぶはっ!」と、吹き出すユナとレナ。「あーーっはっはっはっはっはっ!! にっ、兄ちゃっ……!!」

 シュウを指差して大爆笑。
 ストッキングを被っているシュウの顔が真っ赤に染まる。

(指差して笑ってんなおまえらっ!!)

 レオンが驚倒した様子で口を開く。

「ちょっ、あのシュウの衣装考えたのってキラ!?」

「うむ、私だぞーっ♪ 見事にスケルトンだろうっ?」

「誇らしげに胸張ってないでよキラっ! なんってことさせてんの!?」

 シュウの瞳に涙が込み上げてくる。

(助けてくれ、レオ兄っ…!!)

 同様に驚倒したリンクが、慌てたようにリーナを引っ掴んだ。

「おっ、おまえも何てことさせてんねんっ…! バカキラのアイデアなんか聞き入れんなやっ!!」

「スケルトンの『透けとるんジャー』にぴったりの衣装やで」

「いくらなんでも可哀相やないかいっ!!」

「めっちゃおいしいやん」

 ストッキングの一箇所に滲むシュウの涙。

(リンクさん、あとでリーナをしばき倒してくれっ…!!)

 突き刺さるミラの痛々しい視線。

「お兄ちゃ……?」

 ストッキングに広がったシュウの涙。

(兄ちゃんを変態を見るような目で見てんなミラっ…!!)

 さらに突き刺さるカレンの哀れみの視線。

「シュ…シュウ……」

 ストッキングにさらに広がるシュウの涙。

(見ないでくれっ…! 見ないでくれカレンっ…! こんなオレを見ないでくれえええええええええええええっっっ!! ――っていうか…)

 シュウの顔が引きつる。

(プルプルしてんな親父っ!!)

 床に突っ伏し、小刻みに震えているリュウ。
 床をばんばんと叩き、必死に爆笑しそうなのを堪えている。

「こ…、これでリュウが爆笑したら、おれの人生で4度目の体験や」

 と、リンク。
 他の大人たちは3度目、シュウも3度目。
 シュウの弟妹とリーナは、物心がついてなかったり、生まれてなかったりで、初めて味わうかもしれない。
 今年から居候中のカレンも。

 普段からは何とも想像しがたい『リュウの大爆笑』を見るという貴重な体験を。

 グレルが演技を続ける。

「食らえぃ、透けとるんジャー! クマクマキーック♪」

 ドカッ!!

 と、身長195cm体重120kg筋肉隆々超怪力バケモノ・グレルの、全体重を掛けたドロップキックを食らったシュウ。

「――ガハァっ!!」

 見事な演技……ではなく、本気で吹っ飛んだ。

(よ、予想はしていたが……!)

 シュウ、今度は顔面蒼白。

(こっ、この天然バカおっさん、演技じゃなくてマジで当ててきやがるっ!!)

 さらに蹴り技を食らい。
 投げ技を食らい。
 寝技を掛けられ。

 シュウは悶える。

「グエェェェェェ! しっ、死ぬうううううううっ!」

「…こ、こりゃさすがにあかんわ」

 と、呟いたリーナ。
 慌ててグレルのところへと向かって耳打ちした。

「おっちゃん、おっちゃん。そろそろ透けとるんジャーにやられ始めてやっ! やられる演技頼んだで!?」

「了解だぜーっと♪」

 と、グレルがシュウから離れたところで。

「がんばって、すけとるんジャー! まけないで、すけとるんジャー!」

 ジュリの必死な応援が耳に入り、シュウの瞳が感動に潤んだ。

(ジュリ、応援してくれるのか兄ちゃんを…!)

 身体に治癒魔法を掛け、起き上がるシュウ。

(そうだ…! サンタクロースのオレは、ジュリの願いのために頑張らなきゃだぜ…!)

 だが、

(わ…技の名を口にしたくねえっ……!)

 赤面するシュウ。
 でも、それを口に出しながら演技しなければならない。

「こ、今度はこっちの番だ熊モンスター! 食らえっ!」と、拳でグレルを殴るフリをしながら、「す…、透けとるパーンチっ……!」

「――ぶはっ!」と、ここでついにリュウが耐えられず吹き出した。「あーーーっはっはっはっはっはっはっ!! シュ、シュウっ、おま――」

「す、透けとるキーックっ……!」

「ぶあーーーっはっはっはっはっはっはっ!! やっ、やめろっ、やめてくれええええええええっ!!」

 床に転がって大爆笑するリュウ。
 その姿を始めて見たシュウの弟妹とリーナは激しく驚愕。

 シュウとグレルの芝居が続く中、リーナが訊く。

「そ、そんなにツボったんかいな、リュウ兄ちゃん」

「リっ、リーナ! おまえ、ナイスセンスだっ!!」

「う、うん、ありがとう」

「そっ、それからキラ!」

「な、何だリュウ。おまえのバカ笑いはやっぱり慣れないぞ」

「ラップとストッキングというおまえの発想は天才だっ!!」

「そうだろう、そうだろう。えっへん♪」

「そっ、そしてシュウ、おまえっ…!」

 と、シュウを見るリュウ。
 シュウが演技を続ける。

「透けとるチョーップ!」

 ぶはっ!

 と、再び吹きだすリュウ。

「すっ、透けてたら当たんねええええええええええええええっ!!」

「うっ、うる――」

 うるせー親父っ!
 オレに突っ込むなっ!

 と、怒鳴りたかったところを堪え。
 シュウはジュリのために演技を続けた。

「す…、透けとるエルボーっ!」

「あーーーっはっはっはっはっ!!」

 床をばんばんと叩き。
 目に涙を溜め。
 顔を真っ赤にして、リュウが笑い転げる。

「てっ、てめえ、いい加減にしろシュウっ! あとで覚えてとけよコラ! 娘たちの前で俺にこんなことさせやがってタダじゃ済まさ――」

「透けとる旋風脚っ!」

「あーーーっはっはっはっ! やっ、やめろっ! やめてくれっ! なっ、何て俺の息子は面白れぇ奴なんだよオイ!? おっ、おまえ最高だシュウっ! お父上様は今、おまえを心から誇りに思ってるぜっ!!」

 もはや言ってることが滅茶苦茶なリュウ。

(褒めるにしても、もっと他のことで褒めてくれよこのバカ親父っ!!)

 と、シュウが顔を引きつらせてしまう傍らでは。
 ジュリが相変わらず必死に『透けとるんジャー』を応援していた。

「がんばって! まけないで! すけとるんジャーっ! がんばってっ…!」

「ありがとう、ジュリくん! 世のため君のため、透けとるんジャーは頑張るんジャーっ!」

 ぶっちゃけてきたシュウ。

(そうだ、親父なんか気にすんなオレ! ジュリのために頑張るんだオレっ…! ジュリ、兄ちゃんは可愛い可愛いおまえのために頑張るからなっ……!!)

 グレルに耳打ちする。

「グレルおじさんっ、そろそろジュリを人質にっ…!」

「おうよっ♪」と承諾したグレル。「ええいっ、透けとるんジャーめっ! 強いじゃねーかおまえはよーっと♪ こうなったら、こうだぜーっ!」

 と、ステージ付近にいたジュリを抱っこする。

「がっはっはー! どうだ透けとるんジャーっ! これなら手出しできねーだろっと♪」

「ハッ! しまった! ジュリくんっ!」

 ジュリに手を伸ばすシュウ。

「にっ…にゃあああああああん! こわいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 と泣き出すジュリの一方。

「ぶあーーーっはっはっはっ――ゴッホ! ゴホゲハゴブファーッ……! …あー、笑った笑った」

 リュウの爆笑がようやく止まり。
 そのあまりの光景に呆然としていたリーナが、はっとして言った。

「ジュリちゃんっ! 早く助けを呼ぶんや! そのクマモンスターからジュリちゃんを救い出してくれる、ごっつ強い者の名を叫ぶんやっ!」

「たすけてっ! たすけてぇっ…!」

 よし、ジュリ!
 透けとるんジャーを呼ぶんジャーっ!
 そしてオレはカッコ良くそこのクマ倒すんジャーっ!

 と、呼ばれる気満々で構えるシュウ。

 そして、ジュリが必死な声で叫んだ。

「たすけてっ、ちちうえーーーっっっ!!」

「――ちょっ」

 エェェェエェェエェ!?
 そんなのアリかよっ!!

 とシュウが驚愕すると同時に、リュウがステージ上に飛び出した。

「今お父上が助けてやるぜ、ジュリ! 食らえっ、熊モンスター! 透けとらんパーンチ!」

 グレルの顔面目掛け、飛んでいったリュウの拳。

 当たったフリをするグレル。
 ジュリを宙にぽーんと投げ、

「アデューーーーーーっ♪」  ズガシャァァァァン!

 と、割れてない窓をわざわざ頭から突き破って飛んでいった。
 リュウの腕に受け止められたジュリが興奮したように声をあげた。

「ちちうえ、つよーい!」

「おうよ。『ファイブレンジャー』より『強いんジャー』が強く、そして『強いんジャー』より父上が強いんだぜ、ジュリ」

「わあ、ちちうえすごいーっ!」

「まーな。透けとるんジャーとか、あーんなバカなのには負けないぜ、あんなブワァーカなのには」

 と、にやにやと笑いながらシュウに振り返ったリュウ。
 愕然として立っているシュウの全身を改めて見、「ぷっ」と短く嘲笑した。

 ジュリがリビングの中をきょろきょろと見渡す。

「ちちうえ、サンタさんは?」

「ああ、『強いんジャー』をうちに届けてから、次の家に向かったな」

「ぼく、サンタさんにおれいがいいたいです」

「そうか。窓に向かって叫んでみろ。ちゃんとサンタクロースに聞こえるハズだ」

「はいっ!」

 と、窓の方を向いたジュリ。
 大きな声でサンタクロースにお礼を言った。

「ぼくのおねがいきいてくれてありがとう、サンタさああああああん!」

 そして謝罪もした。

「つよいんジャーにあいたいなんて、たいへんなこといってごめんなさあああああああい!」

 おまけに本音ぶちまけた。

「ちちうえはかっこよかったけど、すけとるんジャーはビミョーーーーーーっ!」

 グサァっ!!

 と、シュウの胸に突き刺さったジュリの言葉。

(そっ、そんなっ…! ビミョーってジュリ、そんなっ…! オレ頑張ったのにっ…! スゲエェェェ恥ずかしかったけど、頑張ったのにっ……!)

 あまりの衝撃に立っていられず、四つんばいになったシュウ。
 そんなシュウに、ジュリが100万ゴールドの笑顔で振り返った。

「すけとるんジャーさん、おつかれさまでした。おうちにかえって、ステキなクリスマスをおすごしください♪」

「あっ、あの、ジュリく――」

「バイバイ♪」

 とシュウに手を振り、きゃっきゃとリュウに甘えるジュリ。

「……。…うっ」

 うわあああああんっ!!

 と、シュウは泣きながらリビングから飛び出して行った。
 そのあと、レオンがぽんとカレンの肩を叩いて苦笑する。

「な…、慰めてあげて……」

「はい……」

 レオンと共に苦笑したあと、カレンもシュウを追ってリビングから出て行った。
 
 
 
 カレンがシュウの部屋に入ると、床にラップやストッキングが散乱していた。
 ラップを目で追っていくと、そこにはバスルーム。

 シュウはその中にいるようだった。

「シュウ?」

 とカレンがドアの外から声をかけると、シュウの泣き声が返ってきた。

「オレを見ないでくれカレン! オレを見ないでくれええええええええええっ!」

 カレンは苦笑した。
 シュウの泣き声が続く。

「なんでオレばっかりこんなひでえ目に合うんだよおおおおおっ! こんなダセーヤロウなんか中々いねーよおおおおおおおっ! オレカッコわりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

「か、格好悪くなどないわ、シュウ」

「どう見てもカッコ悪かったじゃねーかよおおおおおっ!!」

「本当よ、シュウ。大切なジュリちゃんのために頑張るあなたは、とても格好良かったのですわ」

「ウーソーだあああああっ!! どーせオレなんかビミョーなんだあああああっ!!」

「嘘じゃないわ」

「嘘だ嘘だ! なんちゃってウッソピョォォォォォン♪ とか言うんだろおまえっ!!」

「間違いなく言わないわね、そんな台詞」

「……」

「ドアの向こうで赤面してないで」と、カレンは溜め息を吐いた。「早く出てきてちょうだい」

「いっ、嫌だ! 絶対に嫌だっ!!」

 と、断固としてバスルームから出てこようとしないシュウ。
 カレンはもう一度溜め息を吐き、シュウのベッドへと向かって行った。

「まったく、どこの子供かしら…」

「うっ、うるせーなっ! 嫌なもんは嫌だっ! こんなオレ、おまえに見られたくねえっ! おまえが部屋から出て行くまで、オレは絶対にここから出ないんだからなあああああああああっ!!」

「そうかしら?」

 と、ベッドに寝転がるカレン。

「出ないったら出ないっ! 絶対に出な――」

「ヘイ、カモオォォォォン♪」

 とのカレンの誘惑で、

「フィーバァァァァァァァァァァァァァっっ!!」

 呆気なく飛び出て来たパンツ一丁のシュウ。
 黒猫の尾っぽをぶんぶんと振り、わずか1秒後にはカレンに追い被さっていた。

「なあ、今誘った!? オレ誘った!? オレ誘惑されちゃった!? マーーージかハニィィィィィィィィィィっっっ!!」

 ぶっちゅうううううううううううっ(ハート×3)

 と、カレンの唇に吸い付いたあとに、ようやくシュウははっとした。

「――しっ、しまった!」

「ふふ、ちょろいのですわ」

「ひっ、卑怯者おおおおおおおおおっ!!」

 と再びバスルームへ逃げようとしたシュウ。
 カレンに尾っぽを引っ張られて飛び上がった。

「フギャアァァっ!!」

「卑怯者って何かしら。意味不明なこと言わないでほしいのですわ」

「おっ、尾っぽを離せっ!」

「逃げないのなら離してあげるのですわ」

「逃げるっ!」

「じゃあ離さないのですわ」

「離せったら離せっ! 見られたくねえんだよ、おまえにっ…!! カッコわりぃオレなんかっ……!!」

 とカレンに背を向け、必死にカレンの視界から逃げようとするシュウ。

「……分かったのですわ、そこまで言うなら」

 と、シュウの尾っぽから手を離し、カレンは寝返りを打ってシュウに背を向けた。
 シュウが小走りでバスルームに向かう中、カレンは続ける。

「昨日のクリスマスプレゼントのお礼に、今夜は少しサービスしてあげようと思ったのに」

「――えぇっ…!?」

 と、思わず振り返ったシュウ。
 頬を紅潮させながら訊く。

「サ…、サササ、サービスって…!?」

「サラからあーんなことや、こーんなこと教えてもらったのに」

「あ、あああ、あーんなことや、こここ、こーんなことっ…!?」

「今夜実践しようと思ってたけれど、あなたがそういうつもりなら別にあたくしは構わな――」

「実践っ!」

 ぴょーーん…

 とカレン目掛けて飛んだシュウの身体は、

「プリィィィィィズっ!!」

 再びカレンに負い被さったのだった。

「カっ、カカカ、カレンとドキドキわくわくクリスマススペシャルフィーバー、キタァァァァァァァァァァァァァァっっっ!!」
 
 
 
 その頃。

 さっきまでリビングで大いに楽しんでいたリュウ。
 しかめっ面をしながら、書斎に入っていった。

 鳴っている携帯電話に目を落とす。

(ったく、せっかく楽しい気分だったのによ。名前見るだけで害されるぜ)

 リュウは深く溜め息を吐き、電話に出た。

「大した用じゃなかったら恐ろしいくらい優しく撫で回してやっかんな、この超一流変態」
 
 
 
 
次の話へ
前の話へ

目次へ
感想掲示板へ
小説トップへ
HOMEへ
inserted by FC2 system