第78話 サンタクロースのクリスマス 前編
今日はクリスマス。
派手な飾りつけがされたシュウ宅のリビング。
角には大きなクリスマスツリー。
ガラステーブルの上には、シュウやカレン、キラ、ミラが作ったアイスケーキとご馳走。
それから、ほぼ毎月行われる誰かの誕生日パーティーメンバー一同が集結していた。
PM6時からクリスマスパーティー開始。
何故かやたらとハイテンションになるクリスマスパーティーでは、誰かの誕生日パーティーのときよりも早く酔っ払いが出てくる。
「真っ赤なおっはなのぉー、トナカイはんはーっ♪」
と、パーティー開始から30分後にはすっかり出来上がり気持ちよくなっているリンク。
ソファーの上、リュウの肩を組んで楽しそうに歌っている。
「いっつもみっんなのぉー、わーらーいーもーのぉぉぉぉぉぉ♪」
「愉快だな、その歌」
「ん?」
「おまえみたいで」
「どっ、どういう意味やね――」
「ヤーイ、笑い者」
「ヤーイやないわっ! 子供かおまえは!?」
「おまえのレベルに合わせてやったんだろ」
「なっ、何やて!?」
「優しいな、俺」
とやり取りをしているリュウとリンクを見て、シュウは思う。
(仲良いよなあ…。リンクさんみたいにいじられたくはねえけど、やっぱりちょっと羨ましかったりして……、男友達)
足元に座っていたシュウから視線を感じて、リュウはシュウに目を落とした。
小さく溜め息を吐いて言う。
「羨んでねーで、そろそろ」
準備してこい。
と、リュウは親指でリビングの戸口を指した。
シュウが頷いて立ち上がり、トイレへと行くフリをして自分の部屋へと向かう。
シュウがリビングから出て行ったあと、リンクは首をかしげてリュウの顔を見た。
「羨むって何やねん」
「羨ましがること」
「わかっとるわいっ! そうやなくて、シュウが何を羨んだって?」
「俺とおまえの仲」
「へ?」と、ぱちぱちと瞬きをしたあと、リンクが笑った。「なんやねん、シュウの奴。おれに嫉妬かいな。可愛い息子やな、リュウ?」
「それじゃ俺とおまえがいちゃついてたみてーだろ。そうじゃねーんだよ、あいつが羨ましがってんのは」
「ほな、なんやねん」
「あいつ、年の近い男友達がほしいんだと」
「男友達…」と鸚鵡返しに言ったリンクが、納得したようにうんうんと頷く。「あー、なるほどな。シュウ、年の近い男友達おらへんもんな。そろそろほしくなるわな」
「まあ、1人くらいいても悪いもんじゃねーけどよ」
「お? なんや?」と、リンクがにやりと笑ってリュウの顔を覗き込んだ。「おまえ、おれという親友がおって嬉しいんか?」
「有難く思えよ」
「おうっ、サンキュ♪ ――って、ゴルァ! 何でそういっつも上から目線やねんっ! おまえ、おれのこと見下してるやろ!」
「俺は心の底から肯定する」
「ひっ、否定せんかあああああああああっ!!」
リンクがぎゃあぎゃあと騒ぎ始めてから数分。
コンコン…
と、リビングの窓をノックする音。
(来た)
何がって、サンタクロースを信じている幼いジュリのため、サンタクロースに変装したシュウが。
昔はリュウがしぶしぶサンタクロースに変装していたものだが、ここ近年はシュウにサンタクロースの変装をさせている。
その理由としては、
「この俺がサンタクロースのコスプレなんてダセェこといつまでもやってられるかよ」
byリュウ。
ノックの音を合図に、ジュリ以外の一同は演技モードへ。
「なんやっ? ダレか来たみたいやでジュリちゃんっ!」と、リーナ。「こっ、これはもしかしてサンタクロースかもしれへんでっ!?」
「えっ、サンタさんっ?」瞳を輝かせるジュリ。「サンタさんがきてくれたのっ?」
「きっとそうだよ、ジュリ! 今年もジュリがいい子にしてたから来てくれたに違いないよ!」と、ジュリの頭を撫でながらサラ。「さあ、親父っ! 窓オープン!」
「どれ、父上が訪問客を確認してやろう。サンタクロースだといいな、ジュリ」
リビングの窓へと向かうリュウ。
わくわくとするジュリ。
リュウがカーテンを開け、窓を開ける。
「訪ねて来た者、顔を見せよ」
「メリークリス――」
「何だ変質者か。おい、警察に電話」
おいコラ親父っ!?
と、シュウが狼狽した顔を見て楽しんだリュウ。
ジュリの方を見て言い直した。
「ジュリ、サンタクロースが来たぞ」
「ほんとうっ? ちちうえっ?」
「ああ。呼んでみろ」
「はいっ!」
と、立ち上がったジュリ。
どきどきとしながら窓に向かって叫ぶ。
「サンタさあああああああんっ!」
次の瞬間、
「メリークリスマーーースっ!!」
ピョーンと窓枠を飛び越え、リビングの中にサンタクロースに変装したシュウ登場。
「サンタさあああああああんっ!」
とはしゃいでシュウに飛びつくジュリ。
シュウは肩に担いでいた袋を降ろした。
その中には、皆からジュリへのクリスマスプレゼントが詰まっている。
「よしよし、今年も良い子にしてたジュリに、サンタさんからクリスマスプレゼントだよー」
と言いながら、ジュリに皆からのプレゼントを渡すシュウ。
たくさんのプレゼントに囲まれ、ジュリに満開の笑顔が咲く。
「ありがとうございます、サンタさんっ!」
その笑顔、100万ゴールドの愛らしさ。
(ああ、オレの弟は可愛いぜっ……!)
ジュリの笑顔に満足したシュウは、ジュリの頭を撫でて言った。
「来年も良い子にしてるんだよ、ジュリ。そうしたらまた来年もサンタさんは来るからね」
「はいっ、サンタさんっ!」
「それじゃ、また来年。アデューっ!」
と、入ってきたリビングの窓へと向かうシュウだったが。
「あれえ? サンタさん、ひとつだけほしいものくれなかった」
そんなジュリの声が聞こえてきて、思わず足が止まった。
ジュリに振り返る。
「な…、なんのことかな、ジュリ?」
「マドをあけておねがいしたのに、きこえてなかったのですか?」
「え、えーと…?」
「きのう、ねんねするまえに『さいきょうぶたい・ファイブレンジャーにあいたいです』っていったのに、きこえてなかったのですか?」
最強部隊・ファイブレンジャー。
ジュリが好きな戦隊ものテレビである。
「サンタさんは、ジュリにファイブレンジャーをあわせてはくれないのですか?」
とジュリの瞳に涙が溜まったのを見て、一同は狼狽する。
(あかんっ、あかん…! このままやったらジュリちゃんの夢がっ…! うちの大切な将来のダンナさまの夢がっ…! どうすればええんや、どうすれば…! あああああっ、リュウ兄ちゃん何とやしてやっ!)
と、リーナがリュウを見ると、同様にリュウも考え中。
(や、やべえ…! 俺としたことが、ジュリの願いに気付いてやれなかったなんて…! 今からじゃいくら何でもファイブレンジャーに来てもらえねえしっ…! や、やべえ…! 可愛いジュリの夢がっ……! だっ、大体何でファイブレンジャーが好きなんだよジュリ…!? 最強部隊とかいってっけど、絶対俺のが強いだろっ…! っていうか、シュウの1発でもお陀仏だろ…! ああそうか、まだ小さいからそのへんのことが分からねえんだなジュリは。よし、ここはファイブレンジャーなんぞ弱いということを教えてやろう! そうすりゃあ、会いたい気持ちなんて消え失せるだろ)
リュウがジュリに歩み寄り、ジュリを抱っこして言う。
「なあ、ジュリ」
「はい、ちちうえ」
「おまえはどうしてファイブレンジャーが好きなんだ?」
「つよいからです」
「そうか。でもな、この世にはファイブレンジャーより強い部隊がいるんだぜ?」
「えっ!? ファイブレンジャーよりもっ!?」
「ああ、ファイブレンジャーよりもだ」
「わあ、すごいです!」ジュリがシュウに振り返り、「サンタさん、ファイブレンジャーよりもつよいぶたいのひとたちにあわせてくださいっ!」
「――!?」
なっ、なぬぁーーーっ!?
何してんだよ親父っ!?
どこにそんな部隊があんだよ!?
驚愕したシュウ。
一方、笑んだリュウ。
ジュリに言う。
「良かったな、ジュリ。サンタクロースはおまえの願いを叶えてくれるぞ」
「ちょっ」
ちょっと待てえええええっ!!
どうやってだよバカ親父っ!?
そんな存在しねえ奴ら、どっから連れて来いっていうんだよっ!?
シュウ、さらに驚愕。
「おい、サンタクロース」
と、リュウがリビングの窓を親指で指した。
その意味の命令に従い、とりあえずリビングの窓から外へと出たシュウ。
物音を立てないよう玄関に入ると、そこにはもうリュウが立って待っていた。
「おっ、おい親父っ!!」と、シュウは小声でリュウに食って掛かる。「どおおおすんだよ!? ジュ、ジュリは!? リビングで期待して待ってんのか!?」
「ジュリならミラと風呂に行かせた」と、シュウとは裏腹に落ち着いた様子のリュウ。「その間に超最強部隊を用意するから安心しろ」
「ちょ、超最強部隊っ?」
「そうだ。超最強部隊だ。実際はまあ、超最強とは言えねーんだが、ファイブレンジャーよりは明らかに強いからいいだろ」
「お、おおお…! そんな戦隊ものテレビの役者の知り合いがいるなんて、さすが親父だぜっ!」
「最強の敵も用意するぜ」
「すげえっ、敵までいるのか!」
「ああ。ファイブレンジャーではどう考えても勝てねえ、マジすーげー強い敵だ。バケモノだ。超最強部隊がそれに勝つことによって、ジュリはファイブレンジャーなんぞ大したことねえんだと知る」
「おおっ! そうすりゃあ、もうファイブレンジャーに会いたいなんて言わなくなるよなっ!」
「ああ。んで、そのすーげー強いバケモノみてーな敵の名をグレル」
「へえ、中の人はグレルっていうのか、グレル――……って?」
眉を寄せ、リュウの顔を見るシュウ。
リュウが続ける。
「そして超最強部隊5人の名を、サラ、リン、ラン、マナ、そしてシュウ」
「ちょっ――」
「今リンクとレオンがリビングを片付けてステージを作っている」
「待っ――」
「じゃ、あとは頼んだぜ、サンタクロース」
ぽん、とシュウの肩に手を置いたリュウ。
その顔からは、気持ち悪いくらいの満面の笑み=「俺の命令に背いたらどうなるか分かってんなコラ」。
冷や汗を掻きそうになりながら、シュウはごくりと唾を飲み込んだ。
(こ…、こうなったらやるしかねえっ…!)
ジュリがバスタイムを終えるまで、きっとあと30分ほどしかない。
「サっ…、サラ、リン・ラン、マナァァァァァァァァァァっ!! 急げえええええええええええええええっっっ!!」
シュウはサンタクロースの衣装を脱ぎ捨てながら、大慌てでリビングへと駆けて行った。
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