第60話 毎年恒例秋のギルドイベントは……


 シュウが王子からの依頼という、大仕事を無事に大成功で終えたのは今朝のこと。
 頑張ってくれたカレンや妹たちに報酬を分け与えても、シュウには多額の報酬が残った。

 本日の仕事終え、カレンと共に夜に帰宅し、晩ご飯を食べて自分の部屋でシャワーを浴び、電気を消してベッドに入ったシュウは考える。

(これだけ報酬があれば、今月のカレンの誕生日は約束通り盛大に祝えるな)

 その約束をしたのは半年前の4月――三つ子の誕生日パーティーのときのこと(第9話参照)。

(カレン、何がほしいのかな。王子と同じようにオレがルビーのネックレス贈ったら、オレがあげた方を愛用してくれちゃったりして。…いや、うん、王子の方だよな。桁外れに高そうだったし…。自惚れんなよ、オレ……)

 シュウは苦笑したあと、欠伸をした。

(それにしても眠いな。昨日カレンが一緒に寝てくれたんだけど、以前のオレとは違ってそりゃもう眠れねーのなんのって。今日の仕事中に欠伸連発してたら、危うくモンスターに切り裂かれるところだったぜ。ああ…、恋ってちょっと恐ろしい…。今夜はぐっすり寝よう……)

 と、目を閉じたシュウ。

(カレンの誕生日プレゼント、何がいいかな……)

 そんなことを考えながら、夢へと誘われて行った。

 のだが。

「…ぐ……」

 急にベッドが狭苦しくなり、シュウは眉を寄せながら目を開けた。
 リンとランに挟まれている。

「な、なんだ? おまえたち、どうかしたのか?」

「兄上」と、リン・ランが声をそろえる。「わたしたち、昨日見てたのだ」

「? 何を」

「兄上がカレンちゃんとキスしてたのを」

「――えっ!?」シュウの声が裏返った。「き、ききき、気のせいじゃねーかっ?」

「しかもディープキスだったぞ」

「――えっ!? そ、そそそ、そんなバカなっ……!」

 シュウは冷や汗をかきはじめた。

(き、昨日のキスがまさか見られているとはっ……! しかもよりによってリン・ランかよっ……!)

 極度のブラコンであるリン・ランに、他の女とキスしているところを見られるということは、いろいろと恐ろしいものがあった。
 リン、ランの順に言う。

「兄上、わたしたちうっすらと以前から思っていたのだが」

「兄上、わたしたち昨日で確信に近いものを得たのだが」

「…お、おう…!?」

「兄上」と、リン・ランがシュウの顔を見つめた。「カレンちゃんのこと、好きなのではないか?」

「えっ…!? い、いや、そのっ……!」

 や、やべえ、何て言えばいいのオレ……!?

 シュウは狼狽しながら必死に考える。
 リン・ランの痛い視線を感じながら。

 そこへ助けに現れたのは、シュウの部屋のドアの前で聞き耳を立てていたサラ。
 シュウの部屋へと入ってきて、部屋の電気をつける。

「こーら、あんたたち」

「サラ姉上」

 と、リン・ランがサラの顔を見た。

「兄貴疲れてんだから自分の部屋で寝なよ」

「わたしたち兄上に訊きたいことが――」

「早くしな」

「…は…はいですなのだ、サラ姉上」

 リン・ランがしぶしぶと承諾し、シュウの部屋から出て自分たちの部屋へと入っていく。
 それを確認したあと、サラはシュウの部屋に入って電気を消した。
 シュウのベッドに入る。

「――って、今度はおまえがオレと一緒に寝る気かよ」

「兄貴えらく眠そうだったから、寝ながら用件聞いてよ」

「寝たら用件分からねーよ」

「それもそうか」

 と、サラが笑った。
 そのあと呆れたように言う。

「っていうか、兄貴何してんのさ……。家にいるときにカレンといちゃつくのは気をつけなきゃダメじゃん。あーあ、リン・ランに見つかっちゃって……」

「…た…、助けてくれてサンキュ。だけどこれからどうすればいいものか……。カレンのこと好きじゃないって嘘吐いたところで、あいつらもう完全に疑ってるから信じないだろうし……」

「だろうね。まあ、いつかはバレることだったから、もう白状しちゃえば? ずばっと、兄ちゃんはカレンのことが好きなんだってさ」

「……。あいつら、荒れないかな」

「大丈夫、荒れないよ」

「おお、そうか。荒れな――」

「5%の確立で」

「……つまりほぼ荒れること決定なんだな?」

「うん」

「どこが大丈夫なんだよ。白状しづらいじゃねーかよ……」

 シュウは苦笑した。

「大丈夫だって。結婚するわけじゃないから、リン・ランも何とか落ち着くっしょ。それより」と、サラは話を切り替える。「用件言うよ」

「おう、どうした」

「今月カレンの誕生日だけどさ」

「そうだな」

「その前に毎年恒例この時期のギルドイベントあるの忘れてない?」

「うん、忘れてた」

 毎年秋になるとギルドイベント――ギルドで開催されるイベントがあるのだ。
 大抵は『スポーツの秋』をテーマにしたもので、全島のギルドが名誉と賞金のために戦う。

 サラが続ける。

「今年のスポーツ決まったって、さっき親父から聞いてさ」

「おう、何だって?」

「バスケだってさ」

「へえ、バスケか。んじゃあ、各島から代表で5人ずつ?」

「ううん。20歳未満のジュニアの部と、20歳以上のアダルトの部に分かれるんだって。ジュニアとアダルトから各5人と、あとベンチに12人まで。参加していいのはハンターとそのモンスターのペット、それから各ギルドのギルド長の許可をもらった者」

「オレたちジュニアの部の代表って決まってんだろ?」

「うん。今年はカレンが見てるし、兄貴かっこいいとこ見せないとねっ!」

「おうよっ!」

「んじゃ、おやすみっ」

「おやすみっ」

 と、目を閉じたシュウとサラ。
 数秒後、シュウは苦笑しながら呟いた。

「……でも、絶対通常のバスケのルールとは違うよな」
 
 
 
 それから3日後。
 シュウは家族と居候のカレン、リンク一家、レオンとグレルの集まったリビングで、そのギルドイベントで行われるバスケットボールのルール説目をリュウから話されていた。

「開催日は次の日曜、今年はバスケ大会。場所は楽なことに、ここ葉月島。各島20歳未満のジュニアの部と20歳以上のアダルトの部に分かれ、トーナメント形式で試合を行う。参加できるのはハンターの他に、ハンターの人間に近いモンスターのペット、各ギルドのギルド長に参加の許可を得た者だ。ってことで、うちの家族とおまけにリーナを参加OKとした。ここまでいいか?」

 一同が頷いた。
 リュウが続ける。

「んで、うち――葉月ギルドの代表は、ジュニアの部にシュウ、ミラ、サラ、リン・ラン、ユナ・マナ・レナ、ジュリ、カレン、リーナ。んでそのうちスタメンにシュウとサラを入れれば、あとは適当に決めりゃあいいだろ」

 ジュニアの部に参加する一同が頷いた。
 リュウが続ける。

「次、うちのギルドのアダルトの部の代表な。俺とキラ、リンク、ミーナ、レオン、グレル師匠。ベンチは1人または1匹だが充分だ。俺、ベンチはリンクでいいと思うんだけど、どうよ?」

「いや、強すぎるだろオイっ!」と突っ込んだのはシュウだ。「純猫モンスター3匹に加えてバケモノ2人かよっ!」

「張り合いなくてつまんねーか。んじゃあ、ベンチに師匠で」

「エー」とグレルが口を尖らせた。「オレ見てるだけかよー」

「あんたゴールぶっ壊すかもしれないし、その方がいいっす」

「アレ壊しちゃいけねーんだっけ?」

「壊したら試合できねーでしょ」

「ああ、そうか」

「んで次」と、リュウが話を戻す。「敵味方の判断はハチマキでするから、服装は何でもいいぜ。コートの広さは通常の倍の56m×30mな」

「めっさ広……」リンクが苦笑した。「どんだけ疲れんねん。あれは? 倍のコートの広さに合わせて、3ポイントラインとかも倍になってるん? そうやったら、おれゴールにボール届かへんで」

「いや、それは通常と同じ。だが、5ポイントラインというものがある。3ポイントラインよりもさらにゴールから遠いから、まあリンクにゃ無理だろな。おまえにそこからのシュートは期待しねえ、絶対外すし」

「おまえは外さへんのかい、リュウ」

「当然だバーカ」

「バカをつけんなやっ! んで!? あとのルールとかは!?」

 リンクが催促すると、リュウが続けた。

「ボールを持って3歩以上歩くとトラベリングとなるところは通常と一緒。だが、いくら相手の選手を殴ろうが蹴ろうが吹っ飛ばそうが反則にならねーから、気をつけると同時に思いっきり行けよー。でもあんまり醜いことはしねえように」

「うっわ」シュウの顔が引きつった。「ハンターとはいえ危ねえな、オイ。ファウルなしかよっ……!」

「安心しろ、シュウ。俺がコート脇から相手の選手に殺気を送って守ってやるぜ」

「そ、そうか。それなら安心――」

「女たちを」

「――って、オイ!! おっ、オレは!? 守ってくれねーのかよ!?」

「甘ったれんな。自分の身は自分で守れ」

「ひっ、ひでえええええっ!!」

「でもまあ、俺が殺気送らずとも、俺の娘たちを傷つける度胸のある奴は早々いねーだろうなあ」

「そうだね」と、レオンが同意して苦笑した。「リュウの娘を傷つける=自殺行為……だし」

「だな。だが、おまえにゃ荒々しく突っ込んでくる奴もいるから頑張れよー、シュウ」

 ぽんとシュウの肩を叩いたリュウ。

「ちょ、ちょっと待っ――」

「んで、あと言っておくことといえば」とシュウの言葉を遮って話を戻した。「試合時間のことか。1回戦から準決勝までは、前半20分、後半20分の計40分。決勝は前半30分、後半30分の計60分な。それからジュニアとアダルト交互に試合。昼飯タイムは準々決勝と準決勝の間。午後から準決勝と決勝。俺たちアダルトは優勝確実だから、ジュニアも頑張って優勝するように。以上」

 リュウが話を終えると、子供たち――シュウとミラ、サラ、リン・ラン、ユナ・マナ・レナ、ジュリ、カレン、リーナは試合の作戦を立てるためにシュウの部屋へと向かった。
 ベッドやソファー、床にそれぞれ座ってあれやこれやと思いついた作戦を口にする。

 シュウはそれらを聞きながら苦笑した。

(マトモな作戦ねーな、オイ。まあいいか、ルールもマトモじゃねーし……。それより)

 と、シュウはカレンに目を向けた。
 どうやらバスケ大会が楽しみなのか、うきうきとした様子だ。

(かっこいいとこカレンに見せて、一気に上空5000mだぜオレ!!)

 シュウのカレンの間に、リン・ランが割り込む。

(た……たぶんな)
 
 
 
 
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