第61話 バスケットボール大会 前編
毎年恒例秋のギルドイベント。
今年は『全島ギルド・バスケットボール大会IN葉月島』ということで、シュウの暮らす葉月島へと各島のハンターたちが集まった。
選手から応援団、おまけに一般の観客。
試合はトーナメント方式。
選手として参加可能な者はハンターとそのモンスターのペット、各ギルドのギルド長から参加の許可をもらった者。
ここ葉月島ギルド・ジュニアの部の代表は、シュウとその7匹の妹と一匹の弟。
それからシュウの弟子で居候のカレンと、リンク・ミーナ夫妻の娘であるリーナ。
以上の1人と11匹。
葉月島ギルド・アダルトの部の代表は、シュウの父親で葉月ギルド・ギルド長のリュウと、シュウの母親であるブラックキャットのキラ。
リュウの親友で葉月ギルド・副ギルド長のリンクとその妻であるホワイトキャットのミーナ。
リュウとリンクの師である超一流ハンター兼、猫モンスターとそのハーフ専門雑誌編集長・グレルと、そのペットでミックスキャットの超一流ハンター・レオン。
以上の3人と3匹。
葉月島のジュニア・アダルトチーム共に優勝候補とされる。
特にアダルトチームは反則なくらい強すぎる。
只今AM7時30分。
30分後にジュニアの部の1回戦が行われる。
(本当広いな、コート……)
と、シュウは野外に作られた6つのコートを見渡した。
その広さは通常の倍の56m×30m。
通常にはない5ポイントラインあり。
見た限り、ゴールまで10mはありそうだ。
(そしてルールが荒々しすぎる……)
と、シュウは苦笑してしまう。
だって、いくら殴ろうが蹴ろうが吹っ飛ばそうが、ファウルはなしだというのだ。
(うちのチームの女たちを狙う相手の選手は、コート脇から親父に殺気送られて怯んじまうだろうが……、オレは親父に守られねえみたいだし。オレも親父の息子だからまだマシなんだろうけど、それでも殴られたりするだろうな)
あまり明るくないシュウの顔を、チアガール姿のカレンが笑顔で覗き込んだ。
敵味方はハチマキの色で判断するため、服装は自由。
サラが何かを企み、カレンとミラの服装をチアガールにした。
「がんばりましょうね、シュウ?」
「……」
カレンの顔を見たシュウ、頬がぽっと染まる。
(か、かーわいいんっ…! チアガールなのはオレの応援のためか!? オイ、まーじかああああああ!!)
そして張り切る。
「おう! 頑張るぜオレ!」
カレンにかっこいいとこ見せて、オレ一気に上空5000m!!
と気合を入れたシュウのところに、リンとランがやってきた。
シュウとカレンの間に割り込む。
「がんばってなのだ、兄上」と、リン・ランがシュウににっこりと笑顔を向ける。「かっこいいとこ見せてくださいなのだ、わたしたちのために」
「…う…うん……」
シュウは苦笑しながら頷いた。
最近カレンと話していると、リン・ランが必ず割り込んでくる。
そのたびにカレンはリン・ランに気を遣っているのか、離れていってしまう。
「あっ、カレンっ……!」
と、思わずカレンに伸ばしてしまったシュウの手を、リン・ランが掴んで下ろした。
顔は笑っていても、決して笑っていない2匹の瞳。
「今わたしたちと話しているのだ、兄上」
「…お…おう……」
ていうかその前にオレ、カレンと話してたんだけどなー……。
とは恐ろしくて言えないシュウだった。
試合10分前。
葉月島ジュニアチームのシュウとその弟妹、カレン、リーナはコート脇のベンチのところに集まった。
「1回戦のスタメンはオレとサラと……」と、シュウは皆の顔を見回しながら訊く。「あと、どうする?」
「うーん、そうだなあ…」
サラが、くじ引きで決められた1回戦の相手――文月島ジュニアチームに目を向けた。
皆も向ける。
「結構数はいるけど、男と女半々ってとこかあ。1回戦のスタメンはどうくるんだろ。まあ、見た限り純粋なモンスターはいないし、犬のハーフが2匹だけであとは人間だから苦戦しないっしょ。ハーフの2匹、女だしさ」
「かな。まあ、念のためにジュリとリーナはベンチで、あとは誰でもいいか」
とシュウが言うと、レナが張り切った様子で手をあげた。
「はいはいはい! 1回戦はあたしとユナとマナが出る!」
そういうことになった。
ジュニアの部1回戦の時間がやってきて、6つのコート――AからFコートに各島のジュニアチームの選手たちが並ぶ。
シュウたち葉月島ジュニアチームはAコートで文月島ジュニアチームと対戦。
相手のスタメンは女の犬モンスター・ハーフが2匹に、人間の男が3人だった。
比べて、猫モンスター・ハーフ5匹で結成されたシュウたち葉月島ジュニアチーム。
そのうち4匹が女であるとはいえ、その体内に流れている半分の血は、最強を謳われるブラックキャットの中でも、特に並外れた強さと身体能力を持ったキラを受け継いだもの。
相手からすれば、純猫モンスター5匹と対戦するようなものと言っても過言ではなかった。
おまけにコート脇からリュウの殺気を送られ、文月島ジュニアチームはかちんこちんになっている。
一応ポジションは、センターがシュウ、パワーフォワードがサラ、スモールフォワードがレナ、シューティングガードがマナ、ポイントガードがユナと決めておいた。
だが全員がどのポジションも可能ということで、結局はその場その場の己の判断でそれぞれ自由に動くことに。
ジャンプボールはシュウ。
相手は女の犬モンスター・ハーフ。
もともと犬よりもジャンプ力のある猫の上に、キラの血を受け継いでいるとなれば結果は当然。
シュウがボールを叩いて試合が始まった。
ベンチやファンからの歓声の中、シュウは張り切る。
(おっしゃあ! 行くぜオレ!! ここはまずオレがかっこよくシュートを決めるっ!!)
と、思ったのだが。
シュウからボールを受け取ったサラが見事なドリブルでゴール目掛けて駆けて行く。
「いっくぜーーーいっ♪」
3ポイント地点、サラがぴょーんと高くジャンプし、
「とりゃあっ!」
ドカンっ!
とダンクシュート。
当然のごとく沸き起こる驚きの歓声。
(サラおまえ…、かっこいいな……)
と呆然としながら思ってしまったシュウ。
はっとしてぶんぶんと首を横に振る。
(なーに感心してんだオレ! 男な分、オレの方がもっとすごいことできるじゃねーかっ! オレもいっくぜぃっ!!)
と、シュウは気合を入れなおして敵からボールを奪った。
が。
「兄ちゃん、兄ちゃん!」と、瞳を輝かせるレナ。「あたしもシュート決めたいからボールちょーだいっ!」
「お、おう」
と、結局レナにパスしてやった。
「ていやあっ!」
と、ゴール下から、サラに続いてレナもダンクシュート。
(つ、次こそオレが……)
再びボールを手にしたシュウ。
が。
「兄ちゃん…」と、マナがシュウの脇に寄ってきた。「ちょーだい…」
「い、いや今度は――」
マナに奪い取られたボールは、5ポイントラインから綺麗な弧を描いてゴールのネットを通過。
(こ…、今度こそオレがっ……!)
と再びシュウはボールを手にする。
が。
「うわああああん、兄ちゃあああああああん!」と、泣き虫のユナが泣きながらシュウに手を伸ばす。「あたしにもパスちょーだいよおおおおおおおお!」
「…わ、わ、わ、分かったよっ……」
と今度はユナにパスしてやるハメに。
「ありがと、兄ちゃん!」
泣きやんだユナが、マナに続いて5ポイントラインからシュート。
が、それは綺麗な弧を描かなかった。
(おっ、ここはナイスフォローと行けオレっ!!)
と飛び出したシュウ。
ゴールの淵に当たって跳ね返ったボールを手にしてそのままダーンク!
――したのはサラ。
ベンチのカレンが黄色い声をあげている。
「きゃああああああっ!! サラかっこいいのですわあああああああああああああっ!!」
「イエイっ♪」
とカレンに向かってウィンクをしながら親指を立てたあと、サラがシュウのところへと駆け寄ってきた。
「あーにきっ! もっと派手にがんがんシュート決めると思いきや、ガードに回ったんだ?」
「……」
「? なんか兄貴暗くない?」
「オレ、好きでパス回してたわけじゃ――」
「おおーっと!」とサラが走り出す。「行くよ兄貴っ! ガードよろしくねっ!」
「……」
もういいや。
次の準々決勝でシュート決めまくれば……。
シュウはボール運びとパスに専念した。
リュウの殺気を感じては思うように動けなかった文月島ジュニアチーム。
結果は、320対35で葉月島ジュニアチームが勝利した。
(でもオレ、結局シュートにいけなかったんだぜ……)
と、思わず暗くなってしまうシュウに、カレンが駆け寄ってきた。
「すごいのね、シュウ! あなたが上手くチームを動かしてるって、リンクさんが感心してたのですわっ!」
「…お…おうっ…?」
あれ?
オレ、なんだかんだでポイントアップ?
カレンの笑顔にシュウの頬が染まる。
「カ、カレンっ……」
「何かしら?」
「オレ、次の準々決勝ではシュート決めるからっ…!」
「ええ、たくさん決めてね。次の準々決勝を無事に勝利で終えたら、次は一気に決勝みたいだし、がんばってねシュウ!」
がんばってね。
そんなカレンの言葉でシュウの気合アップ再び。
(頑張るぜオレェェェェェェェ!!)
だが、その前に。
次はアダルトの部1回戦である。
葉月島アダルトチーム――リュウとキラ、リンク、ミーナ、レオンと対戦するのは、ジュニアと同じ対戦相手になるので文月島アダルトチーム。
ジャンプボールはリュウ。
リュウが叩いたボールはキラの手に渡ったのだが……。
「ふっ、ふにゃああああああああああん!!」
キラ、泣きながら走る。
いや、逃げる。
トラベリングにならぬよう、ドリブルしながら逃げる。
逃げまくる。
文月島アダルトチームの中の1人――文月島ギルド・ギルド長兼、超一流ハンター兼、超一流変態・ゲールから。
この世一、苦手な男から。
「こっちに来るなああああああああっ!!」
「…はぁっ…はぁっ…! …ま、待ってくれキラっ……!」
「待たぬのだああああああっ!!」
「…逃げないで私をその爪でっ…! …そう、その爪で私を切り裂いてくれっ……!」
「ふにゃあああああん! 怖いのだああああああああっ!」
「…怖くないっ…怖くなどないよキラっ…! …だからっ…さあっ…! …私を血まみれにしてくれえぇぇぇっ……!」
「たっ、助けてリュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥっ!!」
リュウの判断で選手交代。
キラがベンチに下がり、グレルがコートに出てきた。
「よっしゃあ! オレの出番だなーっと♪」
「師匠」
「ん? なんだ、リュウ」
「師匠はコートの端の方でゲールの相手お願いっす」
「おうっ、任せろいっ!」
とグレルがゲールを引っ張り、コートの端の方に行くと同時に試合再開。
「…お…おおお…! …超一流ハンター・グレル…! …今年の春の障害物マラソンのときのように、私に心地良いバックドロップを……!」
「またかあ? 仕方ねーな、おまえはよっと。そーれいっ♪」
ドカッ!!
「…ぐあぁ…! …はぁっ…はぁっ…たまらんっ…!」
グレルがゲールの相手をしているうちに、試合はリュウとレオンを中心に得点を稼いでいく。
純猫モンスターのレオンはともかく、リュウの身体能力はやっぱりバケモノだ。
結果、450対22で葉月島アダルトチームの勝ち。
450点のうち、300点はリュウが稼いだもの。
リュウのファンから歓声が鳴り止まず、ミラからは鼻血が噴射。
ミラだけではなく、カレンとシュウの妹たちも黄色い声を上げっぱなしだった。
(や…やっぱり親父って、オレよりずっとかっこいいんだな……。…なぁーんて、ヘコんでる場合じゃないぜ、オレ! バケモノとはいえ親父は人間、オレはハーフ! ジャンプ力はオレの方があるんだぜ! それを生かして派手に行くんだオレっ! そしてっ……)
シュウは傍らにいたカレンに目を落とした。
(カレンのハートを鷲掴みにして、一気に上空5000mだぜっ!!)
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