第57話 大仕事の準備


 王子からハンターの仕事の依頼をされたシュウ。
 その依頼内容は『1日シュウの家に泊まりたい』というもの。
 何でも、シュウの妹たちに囲まれてハーレムを味わいたいらしい。

 そんな依頼を娘バカであるシュウの父親・リュウが許すわけがなく、リュウには内緒にしておくことに。
 よって、リュウを1日外泊させなければならない。
 王子がどうやら顔を合わせづらいらしい、シュウの母親・キラと共に。

「――というわけで、どうやって親父と母さんを外泊させりゃいいと思う、サラ」

 と、シュウは舞踏会から帰ったあと、自分の部屋で同じハンターである妹の次女・サラに相談した。

「んなの簡単だよ。アタシに任せて」

 と、サラ。
 リビングにいるだろうリュウのところへと向かっていく。

(簡単って…、どう説得すんだろ)

 気になったシュウもサラについてリビングへと向かった。
 リビングの入り口のところでリュウに見えないように立つ。

「親父、親父、最新耳寄り情報」

「ん? なんだ、サラ」

「葉月町4丁目にさ、新しいラブホできんじゃん?」

「ああ、今週の土曜にオープンだな」

 父娘の会話じゃねえし…。

 シュウは苦笑した。

 サラが続ける。

「そこ猫モンスターが喜ぶようにできてんだってよ?」

「おお、マジか」

「マジマジ。猫モンスター大喜びのあーんなものや、こーんなものも置いてるって」

「おおお…!」と、輝くリュウの瞳。「キラ連れて行きてえ……!」

「だから今週の土曜日にママと一緒に行って、丸1日楽しんで来れば?」

「おう、そうするぜ!」

 と、あっさり決定したリュウ。

(サ、サラすーげえぇぇ……!)

 とシュウが驚愕していると、リュウがこちらへとやってくる足音が聞こえた。
 たった今やってきたフリしてシュウがリビングに入ると、リュウが立ち止まった。

「おっ、シュウ、ちょうど良かったぜ。今おまえの部屋行こうと思ってたとこ」

「ふ、ふーん? どうし――」

 ゴスッ!!

 といきなりリュウの拳骨を食らい、シュウは頭を抱えてうずくまった。

「す、すげー不意打ちだなオイ…! い、今殴られるとはまったく予想できなかったぜっ…! オ、オレが何したってんだよ親父!?」

「うるせえ! おまえが舞踏会でカレンと踊ってばっかいやがったから、おまえに踊ってもらえねーおまえのファンが全部俺んとこに来てたんだよ!!」

「そ、そうだったのか…。ご、ごめん。んで、オレの部屋に来ようとしてたって?」

「おう。おまえに話がある」

「何?」

「今週の土曜の分の仕事、前日までに終わらせておけ。んで、今週の土曜は俺とキラ丸1日いねーから、しっかり家と弟妹を守ってろ」

「ふ、ふーん? オレたち置いて外泊か。めずらしいな。よっぽどの用事なんだ」

「おう! そりゃもう、すーげー大事な用事……!」とリュウが恍惚とした顔をしたあと、リビングから駆けて出て行った。「おい、キラぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 俺と次の土曜丸1日イイ場所でイイコトしねえええええええええええ!?」

 と、キラのいる寝室へと向かって叫びながら。
 サラが言う。

「ほらね、簡単でしょ」

「いや、うん…。さすが親父似なだけあって親父のことは丸分かりだね、おまえ……」

「まあね。てかさ、兄貴。王子が依頼主となったら、さすがにアタシたち妹も頑張らないわけにはいかないじゃん? 頑張るから報酬分けてね」

「おう、ちゃんと分けるから安心しろよ。…それよりさ」

「ん?」

「あの王子様…、おまえたちだけじゃなく、カレンにも何かさせる気かな」

「だろうね、女好きだし」

「う……」

 嫌な予感にシュウは顔を引きつらせた。
 
 
 
 そしてやってきた土曜日。
 AM9時。
 リュウとキラを1泊2日のプチ旅行へと見送ったあとのリビングの中。
 シュウは弟妹と居候のカレンの顔をリビングで見回していた。

「というわけで、親父と母さんには内緒で王子様を今日1日うちに泊めるわけだが……。はっきり言って、超・大仕事だ。分かってるとは思うけど、決して無礼のないようにな」

「任せてくださいなのだ、兄上っ!」と、リン・ランが声をあげた。「兄上のハンターとしての格が下がるようなことは決してしませんなのだ!」

「そうよ!」とミラが続く。「お兄ちゃんの格が下がるということは、同時にパパの格が下がるということ! そんなこと絶対にさせないわ!」

「加えて!」と、サラも続いた。「レオ兄の格も下がることになるよーな気がするし! アタシたち、絶対王子を満足させてみるっ!!」

 とヤル気満々の妹たち。
 ところで、とレナが口を開く。

「王子さまは、ハーレムを望んでるんだよねえ? 兄ちゃん居ていいの?」

「ああ、1匹だけ男のオレは召使いの役だから」

「ジュリも男の子だよ?」

 サラが言う。

「ジュリは女の子より可愛いからいいじゃん。王子に気に入られるよ、たぶん」

「そうそう」

 うんうんと同意して頷きながら、シュウは一枚のメモを取り出した。
 そこに書かれてある文を声に出して読む。

「えぇーと、よく聞いてくれよ、王子様の希望だから。まず1つ目は『レディの肌は露出多めが良い』だそうだ…」

 それを聞いたシュウの妹たちとカレンはすぐさま着替えに向かった。

 シュウは燕尾服に着替える。
 王子が相手だと思うと、普段着ではひどく無礼にあたってしまう気がして。
 ちなみにジュリには女の子の服を着させてみた。

「可愛いぞジュリィィィィィィィ!」

 とシュウが悶えながら一家のアイドル・ジュリを抱き締めていると、三つ子がリビングに戻ってきた。

「兄ちゃん、これでいいかなあ」

 と、ユナ。
 ユナ・マナ・レナは、おそろいのキャミソールとミニスカートに着替えてきた。
 いつもはスカートの下にレギンス愛用だが、露出度を高めるために穿かず。

「おう、いいんじゃね。可愛い可愛い。ていうか、おまえたちはまだ子供だし何でも良かったかもな」

 次にリビングに戻ってきたのはリンとラン。

「兄上ーっ、これでいい?」

 リン・ランもおそろいのブラトップとショートパンツに着替えてきた。

「……。頑張ったね、おまえたち…」

「今すぐ襲っても構わないですなのだ兄上ーっ」

「構え……」シュウ、苦笑。「それより、カレンとミラとサラはまだか?」

「姉上たちとカレンちゃんなら、一緒に着替えてるみたいだったぞー」

「ふーん?」

 少ししてカレンとミラ、サラもリビングにやってきた。
 姿を見せるなりシュウはぎょっとする。

「うちはキャバクラかっ!!」

 と思わず突っ込んでしまうドレスで登場のカレンとミラ、サラ。
 しっかりと化粧もして、髪型も派手に整えている。

「あの王子、絶対大喜びじゃん」

 と、サラ。
 ミラも続く。

「そうよ、お兄ちゃん。パパのためにこのくらいは当たり前よ」

「そりゃっ、オレが仕事成功させないと親父の名が汚れちまうから、頑張ってくれるのは有難いけど……」

 と、シュウはカレンを見た。
 膝丈のドレスとはいえ、丸出しの肩がどうしても納得いかない。

「…カ、カレンは頑張ってくれなくて良かったっていうか……」

「あら、あたくしだって頑張りますわ!」と、カレンが胸を張る。「あたくしだって、あなたの弟子で、そしてハンターですもの! いつもは足手まといになっているだけだけれど、今回は頑張りますわ!」

 あなたの名を汚さないためにも。

 と、カレンは心の中でだけ続けた。
 ミラが催促する。

「いいからお兄ちゃん、王子さまの次の希望は?」

「やべっ、もうこんな時間かっ……!」シュウはリビングの時計を見て焦りながら、メモに目を落とした。「えーと、王子様の希望2つ目は『私と一緒に入浴してくれると嬉しいな』だそうだ…。どうするよ、これ…」

「はいはいはい!」とサラが手を上げた。「アタシが王子と一緒に入るよ! んで何メダルか確認する!」

「ど、どんな大きさのモノがついてても金メダルを差し上げろ。いや、プラチナメダルをっ…! んで、王子様の希望3つ目! これで最後な」と、シュウは再びメモに目を落とし、「『私の腕枕を借りて甘い夢を見たいのはどのレディかな?』…って、つまり誰か夜伽をしてくれってことだよな」

「それはアタシ無理だわ」と、サラ。「レオ兄以外の男となんかエッチできないし」

「わ、私も無理よ!」と、ミラも続く。「私のバージンはパパにあげるって決めてるんだからっ!」

「ミラ姉上、それでは一生バージンだぞー」と、リン・ラン。「わたしたちは兄上にバージン奪われるけど」

「なっ、何でだよっ!! オレは――」

「ねえ、シュウ」と、カレンがシュウの言葉を遮った。「この問題はあとで考えることにした方がよろしいのではないかしら。時間ないのでしょう?」

 シュウははっとして再びリビングの時計に顔を向けた。

「うわ、やっべ! 王子様迎えに行かねえとっ……!」

 シュウは携帯電話を手に取った。
 瞬間移動を頼んであるミーナに電話を掛ける。

「もしもしミーナ姉っ!? 準備できた!」

 電話を切らないうちに、ミーナが瞬間移動でリビングに現れた。

「来たぞ、シュウ」

「ミーナ姉、もう一度言っておくけど、この仕事のこと親父には内緒ね……!?」

「わかってるぞ。ミーナ姉を信じるのだ、シュウ」

「う、うん、サンキュっ…! そ、それじゃあ」

 と、シュウはカレンと妹たちに振り返った。
 真剣な顔をして言う。

「いいか、おまえたち…! 玄関で待ってろよ…! そして王子様が入ってきた瞬間、満開の笑顔でお迎えしろ……!」

「ラジャっ!」

 と声をそろえた女たちを確認したあと、シュウがミーナの瞬間移動でリビングから姿を消して行った。

 女たちとジュリは急いで玄関へと向かう。
 その途中、カレンが疑問を口にする。

「何て言って王子さまをお迎えすればよろしいのかしら?」

 そういえば王子への第一声は何にしようかと、女たちは思案顔になって考える。
 マナが最初に口を開いた。

「あの王子さま、メイド喫茶風とか喜びそう…」
 
 
 
 シュウが王子を迎えに行くのはAM10時。
 ミーナの瞬間移動でやってきたシュウは、ぎりぎりのAM9時59分にヒマワリ城の門に着いた。

 が、王子はもうすでに門のところで待っていた。

「もっ、申し訳ございません王子様っ!」

 シュウが慌てて頭を下げる傍らで、ミーナの頬に王子の唇が重なった。

「久しぶりだな、ミーナ。元気にしていたか?」

「うむ、元気だぞ」

「そうか。ならば良い。……ん? シュウ、頭を上げて良いぞ」

「あっ、はいっ…!」シュウは頭を上げると、王子に両手を差し出した。「おっ、王子様っ! おっ、お荷物お持ちいたしまするっ…!」

 王子が荷物をシュウに渡しながら言う。

「そんなに緊張しなくても良いぞ、シュウ」

 と、言われても…。

 シュウはリュウとは違って、王子相手に緊張せずにはいられない。

(こ、この大仕事失敗しませんようにっ……!)

 あまり心地良くない動悸がする中、シュウは必死に笑顔を作った。

「で、では王子様、我が家へご案内致します」
 
 
 
 自宅玄関前。
 ミーナの瞬間移動で戻ってきたシュウは、立ち止まってごくりと唾を飲み込んだ。

(た、頼んだぞミラ、サラ、リン・ラン、ユナ・マナ・レナ…! あと一応カレンもっ…!)

 王子がわくわくとした様子で言う。

「どうしたのだ、シュウ。早く中に入れてくれ」

「はっ、はい! ただいまっ!」

 シュウは声を裏返して言い、玄関の大きなドアに手を掛けた。

(頼んだぞ…!)

 ともう一度心の中で妹たちとカレンに言い、シュウはドアを開いた。
 王子がすぐさま中に入ると、そこには予定通りの満開の笑顔たち。

「おかえりなさいませ、ご主人さま♪」

 王子の顔が輝くと同時に、シュウは心の中で突っ込んだ。

(――って、メイド服いねーだろっ!!)
 
 
 
 
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