第54話 長男を元に戻す方法


 マナの薬により、ニューハーフになってしまったシュウを元に戻す方法。
 それを明日のPM8時までに考えなければいけない。

 就寝前の、ベッドの枕元の電気だけが点けられているカレンの部屋の中。
 ベッドにサラと一緒に寝ているカレン。
 天井を見つめながら、その方法をあれやこれやと考えていた。

 だが、これと言ったものが思いつかない。

「うーん…、どれもシュウが元に戻る気がしないのですわ……」

「アタシはもう考えてあるよ」

 と、サラ。

「もうっ?」とカレンは驚いてサラに顔を傾けた。「それは何ですのっ?」

「普段の兄貴の大好きなカレンの白ビキニ姿写真を見せまくる」

「え…」カレンの顔が少し熱くなる。「そ、そんな方法で戻るのかしら……」

「結構効果的だと思うよ。普段の兄貴が好きだったものだし。なんかこうさ、ニューハーフの兄貴を押しのけて、普段の兄貴が出て来そうな気がしない?」

「あー…、何となく分かるわ。で、でも、あたくし最近シュウと一緒にお風呂入っているのよ?」

「白ビキニの効果はでかいよ。普段の兄貴、本当好きだったし。カレンの白ビキニ姿」

「そ、そう……」

 それで、とサラがカレンの方を向いて横臥した。

「アタシさ、カレンが兄貴を戻す方法も考えてあるんだけど」

「えっ?」と、カレンもサラの方を向いて横臥する。「なになにっ? 教えてほしいのですわっ」

「さっきも言ったさ、ニューハーフの兄貴を押しのけて普段の兄貴が出て来そうなこと、なんだけど」

「う、うん?」

「アタシさ、普段の兄貴に戻すには絶対カレンが必要だと思うんだよね。普段の兄貴はカレンが好きで好きで仕方なかったわけだから、ここはカレンの愛の力で戻るんじゃないかと思って。こう、ニューハーフの兄貴をどーんと押しのけてね!」

 カレンは赤面した。 「あ、愛の力っ? って、な、何をしろと……?」

「兄貴とエッチしてくんない?」

「むっ……、むむむっ、無理無理無理無理なのですわああああああっ!!」

「やっぱか。初めてだしね。んじゃあ、キスでいいや」

「キ…、キスなら、まあ良いけれど…」

「んでも、キスはキスでも軽いキスじゃなくて、もっとこう濃厚なのをぶちゅーっとカマしてほしいんだけど」

「えっ…、えええ!?」

「兄貴、濃厚なキスしたがってる気配なかった?」

「えっ? ……あっ…た……」

 と、カレンはシュウがニューハーフになる数日前のことを思い出した。
 あのときは驚いて思わずシュウの舌を噛んでしまったが。

「ほぉーら、効果的! 今の兄貴がニューハーフのままでいたいってなると、やっぱり戻すのって難しいと思うけど……、普段の兄貴が大好きだったカレンの愛の力があれば大丈夫! キスって一番愛情を伝えやすいと思うし。だからまあ、カレンの愛がなきゃ意味ないんだけどさ」

「な、何だか責任重大って感じですわっ…」

「みんなもいろいろ戻す方法考えてくるから、それで戻らなかったらの場合でいいからさ。……ねえ、カレン。兄貴、今上空何メートルにいるの?」

「……」

「……ま、兄貴に愛のあるディープキスしてくれること期待しとく。おっやすみー」

 とサラが枕元の電気を消した。

「……サ、サラ」

「んー?」

「ディ、ディープキスってどういう風にすればよろしいのかしらっ?」

「どれ、レッスンするか。はい、次女・サラの上手なディープキス講座ー♪」

「サ、サラっ?」

「ああ…、女もいけるアタシってやっぱりオールマイティー…。いい? ディープキスっていうのは、こう……」

「えっ、ちょっ!? サ――」

 カレン、サラに唇を塞がれる。
 
 
 
 翌日PM8時。
 シュウ宅のリビングに、シュウの家族と居候のカレン、リンク一家、レオンとグレルが集まった。
 そのうちの2匹――ジュリとリーナは別の部屋で遊んでいる。

 鎖でソファーに縛り付けられているシュウは、一同の顔を見回して狼狽していた。

「なっ…、何!? あなたたち、あたしに何をする気なの……!?」

「何って、おまえを元に戻してやろうとしてんだ。ありがたく思え」

 と、リュウ。

「そんなの嫌よパパっ! あたし元に戻りたくない!」

「元のおまえはニューハーフじゃねえ。急に変貌したおまえに振り回されるこっちの身にもなってみろ」

「パパ、今のあたしを愛して!」

「無理」

「ちょっ、即答しな――」

「んじゃ、誰が考えてきた方法から試す?」

 真っ先に手を上げたのはマナだった。
 
 
 
 マナが薬の入った瓶を皆に見せて言う。

「あたし徹夜でいろいろ研究して、元に戻せるかもしれない薬作ってみた…」

「おお」

 一同は期待に胸を膨らませた。
 マナが薬の蓋を開け、シュウに差し出す。

「兄ちゃん飲んで…」

「嫌っ! 嫌よ、そんなもの飲まないわ!」

「飲んで…」

「嫌ったら嫌!」

「仕方ねーな」

 と言ったのはリュウ。
 グレルに言う。

「師匠、口移しで頼むわ」

「おうよっ!」

 と、マナの手から薬を取って口に含むグレルを見て、シュウが頬を染める。

「えっ…!? グレルおじさまの口移し…!? きゃああああっ、シュウ嬉しいいいいいいいいっ! グレルおじさま、早く飲ませてええええええええええっ!!」

 グレルが寄せた唇に噛み付くように唇を這わせたシュウ。
 しっかりと薬を飲み込む。

 その途端、ニューハーフになる薬を飲んだときのように気を失った。

「おおっ…!?」

 これはもしかして、とさらに期待に胸を膨らませる一同。

 シュウが少しして目を覚ます。

「グレルおじさま、もう1回っ(ハート)」

「……」

 マナの薬作戦、失敗。

「兄ちゃん…戻らない…」

 マナの瞳に涙が浮かび、ユナとレナが慌ててフォローを入れる。

「だっ、大丈夫だよう、マナ! 兄ちゃんきっと戻るよ!」

「そうよ、マナ」と、ミラも続いた。「今度は私とユナ・レナで考えた方法をやってみましょう! ユナ・レナ、持って来てくれる?」

「はい、ミラ姉ちゃん!」

 とユナとレナがリビングから出て行く。
 そしてキッチンから持ってきたらしいものたちがガラステーブルの上に並べられる。

「お兄ちゃんの好きな食べ物ベスト10!」と、ミラ。「1位.ハンバーグ、2位.醤油ラーメン、3位.カレーライス、4位.餃子、5位.チャーハン、6位.から揚げ、7位.スパゲッティ・ナポリタン、8位.焼きソバ、9位.お好み焼き、10位.牛丼! これだけ作るのって、3匹でも苦労したわ」

「ミラ姉上ー」と、リン・ラン。「9位と10位反対だぞー」

「そうだったかしら。まあ、そんなのいいじゃない? というわけでお兄ちゃん」

「な、何よミラ?」

「これ全部食べて」

「えっ、えええ!? こっ、こんなに!?」

「ここまで好きなものばっかり食べれば元に戻るかと思って。はい、食べて」

「いっ、嫌よ! こんなに高カロリーなものばかりたくさん食べたら太っちゃうじゃ――」

「よーし、皆シュウの口に詰め込めー」

 とのリュウの命令で、無理矢理口の中に10種類の料理を詰め込まれるシュウ。
 1時間後、食べすぎのシュウが吐き出すだけで失敗に終わった。

 シュウが口をゆすいでリビングに戻ってくると、シュウが座るところの両脇にレオンとグレルが腰掛けていた。
 シュウが座るところをレオンが手でぽんぽんと叩き、

「おいで、シュウ」

 シュウは飛び跳ねてそこに座った。

「なぁにっ、レオ兄、グレルおじさまっ?」

「僕たちが、シュウが産まれたときどれほどリュウとキラが喜んだか話してあげるからね」

「えっ…? あたしが産まれたとき、パパも喜んでくれたのっ?」

「当たり前じゃねーかよ、シュウ♪」と、グレルが笑う。「もうリュウってばな、泣いて喜んだんだぜ?」

「ちょ、師匠、やめ――」

「そうなんだよ、シュウ」と、レオンがリュウの言葉を遮って続ける。「リュウが一番喜んだんだから。シュウが産まれる前から、シュウが産まれたらシュウを超一流ハンターにするって夢を見ていてね…………」

 とレオンとグレルに昔のこと色々と語られ、恥ずかしくて仕方がないリュウがシュウに背を向けて話が終わるのを待つ。
 30分かかってレオンとグレルが語り終わった結果、

「パパ…! ありがとう、パパ…! あたし嬉しいっ…!」

 シュウは決して戻ろうとは思わず、感動して泣いて終わっただけだった。
 そして次に立ち上がったのはリンとラン。

「父上の兄上に対する愛情話でもダメならコレぞ!」

 どさどさどさっとガラステーブルの上に置かれたのは、家族の思い出写真アルバム。
 シュウそれらを見て懐かしそうに笑う。

「そうそう、こんなときもあったのよね、あたし。うふふ、パパやっぱり今と変わってなーいっ! いつまで経ってもス・テ・キ(ハート) あっ、これ家族旅行のときの写真っ! あんっ、もう、これ見てたらまた家族で写真撮りたくなっちゃった♪ リンクさん、リンクさん、撮って撮って!」

「お、おう。携帯でええか? あとで画像送るから。ほな、皆並んでやー。いくでー。……はい、マヨネーズっ」

 と携帯電話のカメラでシュウとその家族写真を撮ったリンク。
 苦笑する。

「思い出の一枚が増えただけやん……」

 つまり失敗に終わった。
 次に立ち上がったのはサラ。

「家族写真がダメでも、これならいけるってもんよ。ほーら、兄貴」

 とサラが、シュウにカレンの白ビキニ写真集を渡す。
 それに目を通したシュウが大笑いする。

「あーっはっはっは! あのときの写真ねーっ! あのときも密かに思ってたけど、カレンあんた胸にパッド何枚入れてたのよ? 3枚は入ってるわよね、これ! 女同士から見たらバレバレよぉーっ! もうバラしちゃいなさいよ! あーっはっはっは!」

「……。5枚よ…」

 カレンが傷付いて終わっただけだった。
 今度はキラとミーナが立ち上がる。

「さて…、私たちの出番ぞミーナ」

「うむ…、わたしたちの出番ぞキラ」

「みんな、見るのだコレを!」

 とキラが取り出したものは、穴の空いているコインに紐をつけたもの。

「もしかして…」と、リンクが眉を寄せた。「それで催眠術でもかける気か?」

「おおーっ、よく分かったな。リンク鋭いぞーっ」と、キラとミーナが感心したように声をそろえる。「意外と」

「うっさいわ! そんなん成功するわけないけど、一応やってみろや」

 とリンクが言うと、キラがシュウの前に立った。

「良いか、シュウ。揺れるこのコインに注目するのだぞ」

「え、ええ。分かったわ、ママ」

「では」と、キラが咳払いをし、紐で吊らしたコインを揺らしながら、「おまえはだんだん戻りたくなーる、戻りたくなーる、戻りたくなーる、戻りたくなーる……」

 と真剣な顔をしてシュウに催眠術をかけた結果。

「…おっ…おぎゃあああああっ! おぎゃああああああっ!」

「おおーっ! シュウが赤ん坊のときに戻ってしまったぞ!」

「なっ、何してんねんこのバカキラ! バカミーナ! はよ17のシュウに戻せや!」

「戻し方知らないぞリンク!」

「なっ、何やてえぇぇぇ!?」

 キラとミーナの催眠術作戦、失敗。
 1時間かかり、一同で何とかシュウの精神年齢を17歳に戻すが、相変わらずニューハーフのまま。

 リンクがげんなりとしながら、一枚の板を取り出した。

「次、おれの番な。単純にコレや」

「ああ、コレな」とリュウがリンクの手から板を取った。「昔ゲールがキラを記憶喪失から戻した方法な」

「シュウは記憶喪失やないけど、衝撃を与えることによって効果あるんちゃうかと思ってな」

「だな。やってみる価値はあるぜ」

「でもリュウ、優しく――」

「おい、シュウ」

 とリンクの言葉を遮り、シュウに振り返ったリュウ。

「何? パ――」

 バァンっ!!  板をシュウの頭に叩き付けた。
 板は真っ二つになり、シュウは失神してソファーに倒れる。

「――やっ、優しくしろやリュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」リンク、顔面蒼白して狼狽。「おいっ、大丈夫か!? 大丈夫かシュウ!?」

「慌てんな、リンク」

「慌てるわアホ!! おまえの息子とはいえ、シュウはおまえよりまだずっとか弱いんやで!? なんってことすんねん!!」

「キラはこれで一度気ぃ失って、目が覚めたときに戻っただろ。シュウもそうかもしれねーよ」

「ま…、まあ、せやな。可能性はあるわ」

「つーわけで、さっさと起きろシュウ」

 と、リュウが水魔法で水を起こし、シュウの顔面にぶちまけた。

 ばしゃーーんっ!

 そして目を覚ましたシュウ。

「しっ、信じられないっ、パパったらっ…! あんもうっ、水が鼻に入ったぁっ!」

 この口調からして、どうやらリンクの作戦も失敗に終わった。
 リュウが溜め息を吐く。

「まだ戻らねーか。んじゃあ、俺の番だな」と、ぼきぼきと指を鳴らすリュウ。「いいか、皆よく聞け。今のシュウはこの世に居たがっている。だから戻らねえんだわ、きっと」

「パ、パパ…!?」

 嫌な予感がし、ソファーから立って後ずさるシュウ。
 リュウがシュウを目で追いながら続ける。

「つまりここは単純に、この世に居たくないと思わせちまえばいいってもんだ。こんなひでえ世の中になんか居たくねえって思わせちまえばいいんだ。ああ、そういや、この方法で昔リンクの身体に憑依した霊を成仏させたっけか」

 じりじりとシュウに近寄っていくリュウ。
 シュウは冷や汗をだらだらと垂らしながらリュウの歩数に合わせて後ずさる。

「シュウ…、今俺がおまえを元に戻してやるからな」

「パっ、パパパパパパっ、やめてっ…!」

「待ってろー、シュウ。頑張るぜー、お父上様は」

「がっ、がががっ、頑張っちゃ嫌ぁっ…!」

「ああ…、それにしても大切な息子にこんなことをしなきゃいけねーとは…、お父上様は心が痛いぜ」

「じゃ、じゃあやめっ…やめてっ…!」

「シュウ、おまえそんなに…」

「な、ななななに、おパパ様っ…!?」

「イイ顔すんなよ」

「――!?」

 シュウが、リュウのダークな笑みに全身総毛立った次の瞬間。

「きっ…きゃあああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」

 シュウの断末魔のような声が、屋敷を通り越して外まで響き渡っていった。
 
 
 
 30分後。
 リュウにぼろぼろにされたシュウは、自分に何度も治癒魔法を掛けて怪我を治した。
 ソファーに這いつくばって泣き喚く。

「もう嫌っ!! もう嫌よこんなパパなんて!! ひどすぎるわ!! これが前作の主人公だなんて信じられないわっ!! もう嫌っ…! もう嫌よ!! ここまでひどいことされるなら、あたし前に戻りたい!!」

「よし、よく言ったなシュウ」と、リュウがぽんとシュウの肩を叩いた。「さあ、戻れ。遠慮しなくていいぜ、早く戻れ」

「ど…、どうやって……?」

 リュウの顔が引きつる。

「シュウ、てーめえ……!! もう一回死に掛けてえか!? あぁ!?」

「待って親父!」と、サラが割って入った。「これチャンス…! 超チャンス…! ヘイ、カレン!!」

 とサラがカレンに振り返ると、一同もカレンに振り返った。
 サラがシュウの手を引っ張って立たせ、カレンの手を握って言う。

「今が絶好のチャンスだよ、カレン! 兄貴は前に戻りたいって言ってるんだから、あとはカレンの力で戻るはず! 昨日レッスンしたあの作戦できっと戻る!!」

「……わ……」カレンの頬が染まった。「…分かったわっ…! あたくし、がんばってみるのですわっ……!」

 カレンはシュウの顔を見た。

「シュウ」

「な、何? カレン」

「前に戻るつもりで、あたくしのすることに応えてほしいのっ……」

「わ、わかったわっ…! それで――」

 それで何をするの?

 とシュウが訊く前に、シュウはカレンと共にサラに引っ張られて行った。
 リビングを出て、2階へと続く階段を上り、シュウの部屋の中に放り投げられる。

「それじゃ、がんばって!」

 とサラが真剣な顔で言ったあとドアを閉めて去っていく。

 2人きりになった空間で、カレンはどきどきとしながらシュウと向き合った。
 自分よりも30cmも背の高いシュウの顔を見上げて言う。

「キ…、キスしましょっ……?」
 
 
 
 
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