第55話 長男が元に戻りました


 マナの薬によりニューハーフから戻らなくなってしまったシュウ。
 皆で色々な方法を試してみたが、なかなか戻らず。

 だが、リュウの取った方法により、シュウがニューハーフから元に戻りたいと願った。
 これはチャンスだと察したサラが、シュウと一緒にカレンをシュウの部屋の中に放り投げた。
 あとはカレンの力でシュウは元に戻ると信じて。

 そしてシュウの部屋の中。
 シュウと向き合い、シュウの顔を見上げたカレン。

「キ…、キスしましょっ……?」

 どきどきとしながら言った。

「キス…? それであたし、元に戻るの?」

「え、えと…、キ、キスはキスでも濃厚な……」

「えっ、ディープキス!?」

「だっ、だだだ、だってっ…!」と、カレンは顔の頬が染まる。「いっ、いつものあなたは、したがっていたのだものっ……!」

「え、ええ、思っていたわ。それどころかもう、あなたとエッチしたくてしたくてしたくて――」

「そ、それが無理だからディープキスまでなのですわっ!」

「あ、ああ、なるほどね。前のあたしがしたかったことをすれば戻るかもしれないっていう作戦?」

 カレンは頷いた。

「……あたくし、決して今のあなたが嫌いというわけじゃないの。一緒にいて楽しかったことだってたくさんあったのですわ。…でも、でも…、もうそろそろいつものシュウに会いたいのですわっ……!」

「…わかったわ、カレン。前のあたしに戻るよう努力して、あなたのキスに応えるわ。あたし皆に迷惑かけてしまったし、本当にもう戻らなければ……」

 シュウがベッドに腰掛ける。

「シュウっ…! あたくし、今のあなたのこと絶対に忘れないのですわっ…! ていうか、(強烈すぎて)忘れられないのですわっ……!」

「ありがとう、カレン」そう言ってシュウが微笑み、カレンに手を伸ばした。「さあ…、来て、カレン」

 カレンは頷き、シュウのところへと歩いて行った。
 シュウに顔を近づけていき、顔と顔の間10cmの距離で止まる。

「どうしたの、カレン?」

「そのっ…、いざとなるとやっぱりちょっと恥ずかしくてっ…」

「んもぅ、可愛いわねえ。ちゃんと応えるからしてよ、ホラ」

 と、シュウが口を開けて舌先を見せる。

「ちょっ…」カレンの顔が赤くなる。「そっ、そんなことされたら余計にしづらいのですわっ……!」

「だってディープキスでしょ?」

「そっ、そうだけれどっ……!」

「そんなに恥ずかしがらなくたっていいじゃない。前のあたしに会いたいんでしょ? 口閉じるから頑張ってよ、ホラ」

 そう言ってシュウは、目を閉じて待っている。

(がっ…、がんばるのよ…! がんばるのよ、あたくしっ…! シュウを戻せるのは、もうあたくししかいないのだからっ……!)

 カレンは一度深呼吸をし、思い切ってシュウの唇に唇を重ねた。

「――うっ…」とシュウが唇を離す。「やだっ、あたし女とキスしてるっ…!」

「ちょっ、ちょっと!? 今すっごくがんばったのよあたくし!?」

「ご、ごめんなさい、思わず…」

「もうっ…!」

 気を取り直し、カレンはもう一度シュウの唇に唇を重ねた。
 カレンの舌が唇に触れたのを合図に、シュウが口を開く。
 舌と舌が少し触れ、

「――うっ…」と、再びシュウが唇を離す。「やだっ、あたし女と――」

「ちょっと…!?」

「…ごっ、ごめんなさいっ、ついっ……!」

「まったくっ…!」

 もう一度気を取り直し、カレンはシュウの唇に唇を重ねた。

 が、シュウがまた唇を離した。
 今度はずいぶんと慌てた様子だ。

「あたしさっきゲロ吐いた!!」

「…く、口ゆすいだんでしょ?」

「50回くらい!」

「じゃあ大丈夫ですわ。臭わないし」

「そ、そう? 良かった…」

「っていうか、いい加減にしないと舌噛みますわよ…!?」

「ごっ、ごっ、ごめんなさいっ…! もうちゃんとキスに集中するわっ…!」

「約束ですわよ!?」

「すっ、するわっ! や、約束するっ…! もうちゃんと集中するわっ……、元に戻れるように」

「……」

 カレンはシュウの真剣な顔を見つめたあと、もう一度深呼吸した。

 再びシュウの唇に唇を重ねる。
 舌と舌が絡む。

 サラにレッスンしてもらったとはいえ、まだ上手くできないカレン。

 でも、

(シュウ…、元に戻って…。いつものあなたに会いたいわ。お願い、元に戻って…!)

 そんな必死なカレンの想いはシュウに伝わっている。
 ぎこちないキスでも、ちゃんと伝わっている。

(待ってて、カレン…)

 シュウはカレンの身体をぎゅっと抱き寄せ、カレンの想いに応える。
 ぎこちないカレンの舌をしっかりと捕らえる。
 そうやって以前の自分を呼び戻す。

(今、戻るからね……)

 どれくらいの間キスをしていたか。
 5分くらいだろうか。

 カレンの呼吸が熱い。
 自分の動悸がカレンの耳に響いてくる。

(シュウ、会いたいわ……!)

 カレンがもう一度そう強く願ったとき、シュウがそっと顔を離した。

「シュウ…?」

 シュウが微笑む。

「……元気でね、カレン」

「――えっ…!?」

 気を失い、後方へと倒れていったシュウ。

 カレンは慌てて支えようとし、シュウの首に腕を回した。
 だが、支えきれずにシュウの身体の上に寝そべる形で倒れた。

「シュ…、シュウっ…?」

 シュウの顔を見ながら、カレンは期待に胸を膨らませる。

(これでシュウが目を覚ましたら…、目を覚ましたら……!)

 カレンはシュウの上に寝そべったまま、シュウが目を覚ますのを待った。
 
 
 
 10分後。
 シュウがゆっくりと瞼を開ける。

「あっ…、シュウっ…!?」

「……あれ……? オレ…もしかして……」

 カレンの顔を見ながら、呟くように口を開いたシュウ。
 腹の上に乗っているカレンを抱き締め、

「さっ、誘われてるうぅ!? オイまーじかああああああああああああああああああっっ!!」

 ぐるんっと回ってカレンの上になり、カレンに口付けた。
 カレンの唇を奪って奪って奪いまくる。

 ちゅっ、ちゅっ、ちゅうっ、ちゅうううっ、ちゅうううううううううううっ!!

(…こっ…、この貪り食われる感じといい、嬉しそうに振られているシュウの尾っぽといい……!)

 カレンは確信する。

(普段のシュウに戻ったのですわ!)

 カレンは力いっぱいシュウの胸を押して唇を離した。

「シュウ!?」

「ごちそうさまっ……!」と、シュウがカレンの傍らに寝転がる。「ううーん…、デリシャスだぜベイベっ……☆」

「戻ったのよね!? 普段のシュウよね!? ねえ、そうよね!?」

「へっ?」シュウがぱちぱちと瞬きをしてカレンを見る。「戻ったって? …あれっ!?」

 と、シュウは自分の服を見て驚いた。

「オレ着てる服が変わってる…!? っていうかオレ、リビングでマナの薬飲んだら眩暈がして……。…あれっ!? 何かいきなり涼しくなってね!?」

 シュウの様子を見て、カレンはシュウに抱きついた。

「きゃあああああっ!! 戻ったのですわああああああああ!! 普段のシュウですわああああああああああああああっっっ!! あなた、マナちゃんの薬で一ヶ月もニューハーフになっていたのよ!?」

「は? 何だって? オレが一ヶ月もニューハ――」

「みなさまああああああああああああああああああ!!」

 とカレンがシュウの言葉を遮り、部屋の戸口へと駆けて行った。
 ドアを開けて叫ぶ。

「シュウが元に戻ったのですわああああああああああああああああああああっっっ!!」

 それを聞いた一同が、ばたばたとシュウの部屋まで駆けて来た。
 真っ先にやってきたリン・ランが泣きながらシュウに飛びつく。

「あっ、兄上ええええええええええええええええええええっっっ!!」

 次に駆けて来たサラが、カレンを抱き締めて飛び跳ねる。

「カレン、やったじゃあああああああああああああんっ!!」

 続いてミラとユナ・レナが入ってきて、リン・ランと一緒になってシュウに飛びついて喜び、大人たち――リュウとキラ、リンク、ミーナ、レオン、グレルがシュウを見てほっと安堵する。
 ジュリとリーナも駆けてきてシュウの足元で喜び、最後にマナが入ってきた。

 マナがじっとシュウを見上げて口を開く。

「兄ちゃん…」

「マナっ…、なあオレおまえの薬飲んでから――」

「ごめんなさいっ…」マナの瞳からぽろぽろと涙が零れる。「ごめんなさい兄ちゃんっ…。ごめんなさいっ…!」

「え…?」

 シュウは困惑しながらまとわりついている妹たちをはがした。
 マナのところへと行って、マナの頭を撫でながら訊く。

「お、おい、どうしたんだよマナ…? オレ、何が何だかさっぱり分かんなくて……」

「あのねー」と、サラが説明する。「兄貴、マナの薬で一ヶ月もニューハーフになってたんだわ」

「はぁ?」シュウは眉を寄せた。「カレンも言ってたけど、そんな話なんて信じらんねーよ。長い間、暗いところに閉じ込められてたような感じの夢は見たけど…」

「とりあえず、ほら」とリュウがシュウに見せたのは本日の新聞。「日付見てみろ」

 新聞を手に取って日付を確認したシュウ、驚愕。

「うわ…! まっ、まじで一ヶ月経ってる……!!」

「んで、本当にニューハーフになってたかどうかはコレで確認を」

 と、サラが出したのは、マナがビデオで撮影したシュウのニューハーフ初日のDVD。
 シュウの部屋のDVDレコーダーにそれをセットし、テレビをつけて再生開始。

 終わりまでの数時間、シュウの叫び声が屋敷中に響きっぱなしだったのは言うまでもない。

 全て見終わったあと、シュウがカレンに土下座する。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!! なっ、なんてことしたんだよオレェェェェェェェ!! まじ羨まし――じゃなくてっ……! まじごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!」

「怒ってないのですわ、別に」

 とカレンが言うと、シュウが驚愕した様子で頭を上げた。

「えっ!? 一緒に風呂入れられた挙句に乳触られたのに怒ってねーの!? おまけにオレおまえのお気に入りの寝巻き着て破きそうになってたのに!?」

「あなたの中身が変わってしまっていたのだもの、仕方ないのですわ」

「…そ、そかっ」とシュウの顔が安堵した。「サンキュっ……!」

 と言ったあとに、シュウははっとした。
 カレンの手を取り、自分の部屋を出て皆から離れ、カレンの部屋に入る。

 そしてごくりと唾を飲み込み、恐る恐る訊く。

「な、なあ、カレン?」

「何かしら?」

「オ、オオオ、オレっ…! オレ、今上空何メートル…!? もしかして、またスゲエェェェ落下した……!?」

 シュウはそんな不安に駆られてしまう。
 あんなビデオを見せられたあとでは。

 カレンが少しの間シュウの顔を見つめたあと口を開いた。

「あたくし、ずっとあなたに会いたかったわ。だから…、がんばってあなたのこと元に戻したし…。本当、会いたくて会いたくて……、会いたかったわ」

「…カ…、カレンっ…?」

 シュウの頬が染まった。
 期待に胸がどきどきとしてしまう。

「離れてみるとよく分かるものですわね。あなたは今、上空――」

 カレンの言葉を遮るように、ドアがどんどんと叩かれた。
 リンとランの声が聞こえてくる。

「兄上ーっ、早く遊んでくださいなのだーっ」

「兄上ーっ、早く構ってくださいなのだーっ」

「…お、おうっ…!」

 とシュウはドアの方に顔を向けて返事したあと、再びカレンに顔を向けた。
 カレンが言う。

「先にリンちゃんランちゃんの相手してあげて」

「きっ、気になるじゃねーかっ…! オレ今、上空何メートルにいるんだよっ…?」

 カレンがシュウに背を向けた。

「明日から10月ですわね」

「そ、そうみたいだなっ…」

「リュウさまにお願いして、また舞踏会に連れて行ってもらいたいのですわ」

「わ、わかった、親父に頼んどく。んで、オレって今――」

「そこで今度こそ」

 と、カレンがシュウの言葉を遮った。

「こ、今度こそ、何…?」

「今度こそっ…、あたくしと踊ってくださるかしら?」

 そう訊きながら、カレンが頬を染めて振り返った。

「――もっ、もももっ、もちろんっス!!」

 ていうか、なんかオレ…!

 シュウの顔が輝いていった。

 上空5000m近くねええええええええええええっ!?
 
 
 
 
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