第26話 居候記念


 無事にシュウ宅に居候することになったカレン。
 カレンの部屋は、シュウの向かい側の部屋になった。

 家族がもう1人増えた気分なのか、はしゃいだ女たちによってカレンの居候初日の夜にパーティーが開かれた。
 シュウの家族とカレンに加え、キラが呼んだだろうリンク一家、サラが呼んだだろうレオンと、それに着いて来たグレル。
 つまり、ほぼ毎月行われる誰かの誕生日パーティーメンバー一同が集結した。

 誕生日パーティーのときのように乾杯したあとは、キラがこんなことを言った。

「カレンの居候を記念して、みんなでどこかへ行きたいのだが」

「よし、行くぞ」

 即決定をしたのはリュウである。
 キラを膝に抱っこして訊く。

「どこに行きたいんだ、キラ?」

「うーん……、ミーナの瞬間移動で届くところが良いだろうな」

「おかんの瞬間移動で届くところ? ほな、ここ葉月島かとなりの文月島か長月島やな」と、リーナ。「うち、この間テレビCMで新しくできた温泉旅館見たんやけどな、露天風呂がめっちゃでかかったで! 泳いでみたいわあ」

「ああ、あの長月島の温泉かリーナ。わたしも行ってみたいぞーっ」

 と、ミーナが望んだとなれば決定されたも同然。
 キラがリュウの顔を見て言った。

「その長月島の温泉に行きたいぞ」

「よし、次の日曜に皆で長月島の温泉に行くぞ」

 そういうことになった。
 
 
 
 そして次の日曜日。
 一同はミーナの瞬間移動で、長月島にある温泉旅館の前へとやってきた。

「いや、うん、あのさあ親父……」

「何だ、シュウ」

「いや、うん、あのさあリュウ……」

「何だ、リンク」

「旅館丸ごと貸切にする理由は!?」

 シュウとリンクが声をそろえた。

「貸切のがキラたち喜ぶだろ」と、リュウがキラを見る。「なあ、キラ?」

「すごいぞーっ」と、キラの瞳がきらきらと輝いている。「温泉貸切だぞーっ。さっすがリュウだぞーっ」

「すごいぞーっ」と、ミーナも続く。「さっすがリュウだぞーっ。リンクとは違うぞーっ」

「せやな! さっすがリュウ兄ちゃんや! おとんとは大違いで、やることがめっさ男らしいで! ほな、行っくでーーーっ!!」

 と、浮き輪を肩からぶら下げ、ジュリの手を取って旅館へと入っていくリーナ。

「居候記念レッツゴオォォォォォ♪」

 カレンとサラが腕を組んで続き、

「ゴオォォォォォ♪」

 キラとミラ、双子、三つ子、ミーナ、グレルも続いて旅館へと入って行った。

「みんな大はしゃぎだね」そうレオンがおかしそうに笑ったあと、リュウに顔を向けた。「ところで、リュウ? 言われた通り20万ゴールド持ってきたけど、何するの?」

「おれも聞きたいわ」

 と、眉を寄せながらリンク。

 シュウも気になっていた。
 ジュリを除く男たちは、リュウから20万ゴールドずつ持ってくるよう言われていたのだ。

 リュウがにやりと笑う。

「何って? 勝負だよ。俺とシュウ、リンク、レオン、師匠で。ジュリはまだ子供だから早い。金に50万、銀に25万、銅に15万、鉄に10万、アルミは無し」

「金・銀・銅までは分かるけど、鉄とアルミてなんやねん。っていうか、アルミの奴大損やん」

「その大損の奴なんだが、俺はおまえの気がしてるぜ、リンク」

「おれかいなっ!? しょ、勝負って一体何すんねん、リュウ!?」

「あとで教えてやる」

 と、旅館へと入っていくリュウと、それを追っていくリンク。
 残されたシュウとレオンは、顔を見合わせた。

「なあ、レオ兄」

「何、シュウ」

「オレ、親父の考えてる勝負って何か分かった気するんだけど」

「うん、僕もだよ」

「くだんねーよな」

「本当にね」

 シュウとレオンは、呆れて溜め息を吐いた。
 
 
 
 案内された部屋に荷物を放り投げ、一同は早速露天風呂へ駆けつける。
 女湯に入る手前、キラはリュウに手を引かれて振り返った。

「なんだ、リュウ?」

「キラ、俺……、金メダル取ってくるぜ」

 きらーんと瞳を輝かせ、自信満々な様子で言ったリュウ。
 にやにやと笑いながら男湯へと入っていった。

(金メダルって……?)

 キラは眉を寄せながら女湯へと入った。
 他の女たちと服を脱ぎながら言う。

「男たちが何やら勝負するらしいぞ。まあ、リュウの考えていることは大体想像がつくがな」

「うち、いっちばーーーん!」

 まったく話を聞いていないリーナがさっさと服を脱ぎ捨て、女湯側に連れて来たジュリと共に露天風呂へと駆けて行った。
 それを見送ったあと、ミラがぱちぱちと瞬きをして訊く。

「勝負って、何の?」

「決まってんじゃん、お姉ちゃん」と、サラがにやにやと笑いながら言う。「男同士裸の勝負といえばー。まったく、楽しいこと始めんじゃん。これは男風呂覗かなきゃだね」

「えっ!?」ミラの頬が染まる。「だっ、ダメよサラ! 覗いちゃダメっ! ……あぁん、でもパパ見たぁい!」

「わ、わ、わ、わたしたちも!」と、リン・ランが挙手した。「あっ、兄上の一糸もまとわぬ裸体を拝ませていただきたいですなのだ!」

「えっ!? みっ、皆さん覗くんですの!? そんなレディがはしたないのですわっ!」

 と顔を真っ赤にして声を裏返すカレンの肩に、サラがぽんと手を乗せて言い放つ。

「皆で覗けばエレガント(謎)」

「……あ、あら、そうっ?」

「まったく、私の娘たちは……」と、キラが溜め息を吐いた。「仕方ない、そんなに覗きたいのなら母上が手本を見せてやるから倣うと良い。どうせなら勝負が始まる前から覗く。男たちにバレぬよう、大声を出すのではないぞ」

「ラジャッ!」

 女たちが了解したあとは、キラを先頭に露天風呂へと向かう。
 男風呂と女風呂を遮っている木で出来た塀に沿って、そろりと歩いていく。

「抜き足……」

 そろり……

「差し足……」

 そろりそろり……

「千鳥足……」

 そろ――

「ママ違っ」

「ま、間違ったのだミラ。え、えーと、忍び足……」

 そろりそろりそろり……。

 露天風呂では、ジュリとリーナが浮き輪に乗ってはしゃいでいた。
 風呂と木の塀の間――約1mの隙間を指し、キラが小声で言う。

「マナ、塀の天辺まで頭が届くよう、ここに岩を召喚してくれ」

「ラジャー…」

 と、マナが木の塀に沿って大きな岩をごろごろと召喚して並べていった。
 キラが岩に上り身体を屈めながら言う。

「良いか、一応言っておくぞ。母上は手本のためにやっているが、良い子はマネをするんじゃないぞ? 分かったな? ――って、こ、こら。よ、良い子はジュリとリーナだけだったのかっ……!?」

 つまり、ジュリとリーナを除く女湯にいる者全員が岩の上に上った。
 サラがわくわくとしながら言う。

「まあまあ、ママ。続き続き!」

「わ、分かったぞ。みんな、岩の上に乗ったな? そうしたら屈めた身体をゆっくりと伸ばし、塀の天辺からそーーっと頭を出し、目を出し、はいストップ! 良いか、目までだぞ。あんまり出すとバレるからな」

「ラジャッ!」

 塀の上に女たちの頭が1、2、3、4、5、6、7、8、9、10。
 内、猫耳付きは6つ。

 少しすると女たちの目に、シュウとリンクが露天風呂へとやってくる姿が映った。

「にゃああああっ! 兄上ーーーっ!」

 リン・ラン、早速大興奮。

「コラっ、静かにしなっ!」

 サラが叱ると、リンとランが慌てて口を塞いだ。
 うんうんと承諾して頷き、口を塞いだまま男風呂へと目を向ける。

 湯に浸かる前、リンクがシュウの肩や腕を触りながら言う。

「へえ、大分筋肉付いてきたやん、シュウ」

「ああ、うん。そうかも」

「さすがはリュウの子やな。恵まれた身体しとる。すぐに超一流ハンターになって、すぐにおれなんか抜かすんやろうなあ」

「それは言えるな」

 と言ったのはリュウの声。
 シュウとリンクの後方から、リュウが姿を見せた。
 いきなり素っ裸で現れたリュウに、カレンは真っ赤になった顔を手で覆う。

「や、やだリュウさまったらっ……!」

 一方その傍らにいたミラ、鼻から鮮血噴射。

「ちょ、パパってばセクシーダイナマイッ……!」

「お姉ちゃん、早く鼻血止めないとバカキャラにされるよ」

「わっ、分かってるわよサラっ……!」

「お? そろそろ勝負始めるのではないか?」

 とのキラの声で、女たちの視線は男風呂へ。

「おわあっ!」リュウに腰のタオルを取られ、リンクが声をあげた。「な、何すんねん、リュウ!」

「男同士で恥ずかしがってんじゃねーよ。勝負始めんぞ」

「――って、まさか勝負って……!? おっ、おまえが金メダル前提の勝負やないかいっ!!」

 喚いているリンク。
 その股間をキラが凝視して言う。

「なあ、ミーナ」

「なんだ、キラ?」

「おまえの主、こうしてリュウと比べると羨ましいサイズだな」

「うむー。こうしてリュウと比べると、リンクのは可愛いぞ」

「ママ、ミーナ姉」

「なんだ、サラ?」

「褒め言葉になってないってソレ」

「ほお」

「ハモってないで、ほら。親父が兄貴のタオル狙ってるよ」

 女たちの視線は再び男風呂へ。

「おい、シュウ」

「な、なんだよ、親父」

「早くタオル取れよ」

「い、嫌だ、こんなくだんねー勝負――って、取るんじゃねえええええっ!」

 シュウの腰に巻いていたタオルをリュウが取り、それはポイッと投げ捨てられ湯の中へ。

「ぎっ、銀メダルっ……!?」

 とリンクが目を見開くと同時に、リン・ランが頭を引っ込めた。

「み、見たか、ラン」

「み、見たぞ、リン」

「あ、兄上、あんなところまで父上似だったぞっ……!」

「あ、兄上、あんなところまですごかったぞっ……!」

「いっ、いけないのですわあああ!」と、顔を手で覆いながらカレンが小声で喚く。「ダメよっ、見ちゃダメよおおおおおおっ!」

「カレンカレン」

「な、何かしらサラ?」

「指の間からバッチリ見てんじゃん」

「ギクッ」

「あっ、レオ兄来たあああああっ」

 女たちの視線はまたまた男風呂へ。

「まーったくもう、こんなことだろうと思ったよ、リュウ」と、呆れ顔でレオンが登場した。「くだらない勝負やってないで――って、ちょっとタオル取らないでよ!」

「うわ、レオンおまえ、思ったよりえげつねえ……! そんなんで俺の娘を!?」

「えげつないって、自分の見てから言ってよね、リュウ。そんなんで僕の姉を!? しかも毎日毎日何時間も!?」

「俺の可愛い黒猫は喜んでいる」

 サラがキラを見た。

「喜んでんの、ママ?」

「いや、きついぞ」

「だよね」

「それにしてもレオンは思ったよりすごいな」

「でしょでしょっ?」

「こうして見ると、順位は……?」

 女たちの視線は、またまたまた男風呂へ。
 リュウが言う。

「俺が金メダル、シュウが銀メダル、レオンが銅メダル、リンクが鉄メダルか」

「おれの鉄メダルってなんやねんっ……!」

「ていうかよ、親父」

「何だ、シュウ」

「グレルおじさんまだ来てねーじゃん」

「ああ、師匠忘れてた。師匠とは何度か一緒に温泉入ったことあっけど、見たことねーなあ。なあ、レオン。師匠ってどうなの」

「金メダルとれると思ったら大間違いだよ、リュウ」

「何……」

 リュウが眉を寄せた。
 シュウとリンクが眉を寄せ、覗いていた女たちの眉も寄る。

(それってつまり……?)

 気配を感じた男たちが、後方に振り返った。

「おおーい、レオン。オレ、タオル持ってくるの忘れたみてえ」

 とグレルの声。
 数秒後、男たちの視界にグレルが入ってきて。

「――きっ…、金メダル奪取されたぜっ……!」

「おっ、親父が銀メダルってことは、オレ銅メダルかっ……!」

「じゃあ僕は鉄メダル?」

「ほ、ほな、おれは……アルミ!? アルミメダル!? なんやねんソレっ!」

 女たちがさらに眉を寄せて、目を凝らしたとき。
 もやもやとした湯気の中からグレルが全裸で登場につき、

「――ぎっ……、ぎゃああああああああああああああああああっっっ!!」

 あまりの光景に絶叫。

「――!?」

 驚倒した男たちが声のした方に顔を向けると、女湯から大きな水しぶきが上がった。
 
 
 
 葉月島へと帰る前の、旅館での夕食の席にて。

(あー、驚いたのですわ)

 カレンの顔が引きつる。

(本当にもう、忘れられない記念になりましたわ……)

 シュウの隣はリン・ランに取られてしまったが、シュウの向かいの席をキープしたカレン。
 シュウが心配そうにカレンの顔を覗き込んだ。

「おい、カレン? どうした? 女みんなで仲良く岩の上から湯にダイブしたときに、どっか怪我でもしたのか?」

「……」

 シュウの顔を見るカレンの頬が染まり、耳まで染まる。

(本当にもう、忘れられない居候記念でしたわ)

 カレンはこほんと咳払いをし、箸を静かに置いて呟いた。

「ご…、ごちそうさま……」
 
 
 
 
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