第27話 入れ替わり 前編
――6月。
毎月葉月島ヒマワリ城で行われる舞踏会に、リュウとレオンは舞踏会全体の警護の仕事へ向かう。
招待客のフリをするが故に、燕尾服またはタキシード着用。
そこへ、今回は一緒に連れて行ってもらったシュウとカレン。
シュウもタキシードを着用し、カレンはドレスを身にまとった。
シュウと踊るため、リュウからダンスのステップを教えてもらい一生懸命覚えたカレン。
サラやキラ、ミラに協力してもらって精一杯ドレスアップもした。
ー―と、いうのに。
「頼む、親父。カレンと踊ってやってくれ」
とリュウに懇願したシュウにより、カレンはリュウと踊ることに。
「おい、カレン。おまえ何で俺と踊ってんの」
「これはこれで嬉しいのですが、あたくしも訊きたいのですわ、リュウさま」
「あのバカ息子、おまえが俺のためにめかし込んだと思ってるわけ?」
「そのようですわ、リュウさま」
「マジか」
「マジですわ、リュウさま」
「苦労かけるな、カレン」
「いいえ、リュウさま」
と、リュウとカレンがそろって溜め息を吐いたのは6月の頭のこと。
6月の半ば、サラの誕生日パーティーにて。
いつものように深夜まで飲んで騒いだあと、カレンはサラと共にサラの部屋へと向かった。
そこでサラがもらったプレゼントの包みを開けながら訊いた。
「ねえ、カレン。兄貴と何か進展あった?」
「ないわ。一つ屋根の下だというのに……」カレンが溜め息を吐く。「たまに一緒に寝るけれど、頬ずりされて終わりですのよ」
「何ソレ。兄貴って本当に男かね」
「あたくし、どうも妹さんと同じに見られているようですわ」
「うーわ、マジで? アタシが男だったら、カレンみたいな可愛い女には頬ずりで済まないね。あーんなことや、こーんなことしてー……」
「シュウの中身がサラだったら、あたくしこんなことで悩まないのでしょうね」
「まったくだよ」
そんなことを話していたときのこと。
次のプレゼントを手に取ったサラの顔が引きつった。
「う……、これ、マナからのプレゼントだ」
「マナちゃんからのプレゼントがどうかしたのかしら?」
「カレン、三つ子の部屋の中よーく見た?」
「ええ。薬のようなものの入った瓶がたくさん並べられた棚が、とても印象的なお部屋でしたわね」
「その薬、全部マナが作ったものだよ」
「まあ」と、カレンは声を高くした。「マナちゃん、すごいのねえ。どんなお薬を作っているのかしら?」
「マナの将来の夢は薬屋なんだけどさ……。それがただの薬じゃなくってさ。何入ってるか分からない薬に、魔法がかかっててさ。去年は脚長になれる薬もらったんだけど……」
「あら、ほしいわ」
「いやいやいや! 飲んでみたら、アタシ脚だけ50cm伸びてキモいの何のって! アタシ身長約220cmだったよ! しかも5日間も! 外出れなかったね、マジで」
「……す、すごいわね」
「すごい通り越して恐ろしいって……」サラが手に持っているプレゼントを見つめ、ごくりと唾を飲み込んだ。「さ、さて今年は一体何が……」
カレンもサラと一緒になってどきどきとしながら、プレゼントが開けられるのを待った。
丁寧に包装されている紙を取り、箱の蓋を開ける。
そこには、水色の液体とピンク色の液体が入った瓶。
水色の液体の方にはA液、ピンク色の液体の方にはB液と書かれていた。
中に一緒に入っていた手紙を取り、サラが声に出して読む。
「なになに? 『入れ替わり薬(ハーフ用)が完成しました。効果は24時間。使うときは入れ替わるハーフ2匹を連れて、マナのところまで』……だって」
「ハーフって、つまりサラたちみたいな人間とモンスターのハーフのことよねえ?」
「そうさね。……じゃ、じゃあ、何? もしかして、さっき話してたアタシと兄貴の中身入れ替わりができちゃうわけ!?」
「ええっ!?」カレンの頬が染まる。「じゃ、じゃあ、何かしら!? シュウの中身がサラになったら、あたくし念願の甘いキッスしてもらえるのでございますのこと!? 優しい口付けを!? 夢の接吻を!? 情熱のベーゼを!?」
「何言ってんだよ、カレン……」と、サラがシュウの口調になりつつカレンの肩を抱き寄せる。「キスだけじゃ済ませねえぜ☆」
「きゃっ、きゃあああああああっ! 好きにしてええええええええっ!」
カレンとサラが抱き合い、ごろんごろんとベッドの上を転がる。
「よおおおし、カレン! さっそく明日の朝試してみよおおおおおおおおうっ!!」
そういうことになった。
朝食作りはシュウとキラ、ミラに加えて、カレンも一緒にするようになっていた。
カレンが料理をできるなんて意外に感じたシュウだったが、実家ではいつも1人でいたというところを考えると何ら不思議ではなかった。
シュウが担当している魔法学校へと通う双子と三つ子の弁当作りも、カレンが手伝ってくれるようになったので大分楽になった。
弁当作りを終えたシュウとカレンのところへとやって来て、サラが言う。
「兄貴ー、ちょっとアタシの部屋に来てー」
「何で?」
「いいからー」
シュウは首をかしげながらも、サラの部屋へと向かった。
カレンもどきどきとしながら着いて行く。
サラの部屋に入ると、マナの姿が目に入った。
「はい、兄貴」
と、サラがシュウに水色の液体の入った瓶――入れ替わり薬A液を渡した。
シュウがそれを眉を寄せながら受け取る。
「何だ、これ……?」
「マナがさ、アタシと兄貴のために健康ドリンク作ってくれたんだって。ほら、アタシにはこっち」と、サラがピンク色の液体の入った瓶――入れ替わり薬B液をシュウに見せた。「ありがたく飲もうじゃん、兄貴! 普段ハードな仕事でお互い疲れてることだしさ」
「おおっ、マナ! おまえ、何て良い子なんだ……!」と、感動に瞳を潤ませたシュウ。「ありがとな、マナ。兄ちゃんは嬉しいぜ。んじゃ、いただきます!」
と、瓶の蓋を開けて、ごくごくと入れ替わり薬A液を飲み干す。
続いてサラも、入れ替わり薬B液を飲み干した。
サラがにやりと笑って言う。
「OKだよ、マナ」
「じゃあ行くよ…」
「へ?」
行くよって何が?
シュウがぱちぱちと瞬きをした次の瞬間。
「はい、チェンジ…」
という台詞と共に、マナが指をぱちんと鳴らした。
「――うっわ……!?」
シュウの視線ががくんと低くなり、
「おおっ!」
サラの視線がぐんと高くなる。
「お、おい、何だ!? 何が起きた!?」シュウは動揺しながら自分の手足を確認する。「…なっ……なっ、なっ、なっ、なななななな、何だコレエェェェェェェェェェェェェ!!」
何も知らなかったシュウは、それはもう仰天した。
身体がサラになっているものだから。
慌てて近くの鏡を取って自分の顔を見てみると、やっぱりサラになっている。
叫んだ声も、自分の声ではなくサラの声だった。
シュウの身体になったサラが、自分の姿を鏡で確認しながら満足そうに言う。
「よしよし、無事成功! さっすがマナ! えーと、今は……」と、サラがベッド脇に置いている置時計で只今の時刻を確認した。「AM7時20分ね、分かった。効果は24時間だから、明日のAM7時20分までこのままだからヨロシク兄貴」
「ハァ!? ちょ……!?」シュウは、マナに顔を向けた。「お、おい、マナ!? お、おまえ、オレとサラに何飲ませた!?」
「入れ替わり薬(ハーフ用)…」
「健康ドリンクってのは嘘だったのか!?」
「嘘吐いたのはサラ姉ちゃん…。飲ませたのもサラ姉ちゃん…。あたし悪くない…」
「そ、そうだなっ…」
と、シュウはサラに顔を向ける。
鏡や映像に映されているわけでもないのに、自分の姿を目の前にするのは大変な違和感である。
「お、おいコラ、てめーサラ! 何考えてんだよ!?」
「いーじゃん別に、1日くらい。兄貴が今日予定してた仕事は、親父に事情話して休ませてもらうし。あー、でもぉ、兄貴はちゃんと仕事行ってよね。レオ兄1匹じゃ大変だし」
と、言いながらサラが歩き出す。
「お、おい、待てよサラ! どこ行くんだよ!?」
「うるさいな。どこって、ちょっとトイレだよ」
「トイっ……!?」
待ってくれ!
シュウの願い虚しく、部屋に備え付けてあるトイレの中へと入っていったサラ。
少しして、トイレの中で大爆笑。
「あーーーっはっはっはっはっ!! やっぱり近くで見ても兄貴のえげつなーっ! これで銅メダルかよ!」
「や、やっぱり近くで見てもって…!? な、何でオレが銅メダルだって知って……!?」
困惑するシュウ。
見る見るうちに、顔が赤くなっていった。
「おっ、おっ、おまっ、おまえら女共、男風呂覗いてたなああああああああああああああああ!?」
サラの身体になったシュウの声と、シュウの身体になったサラの声が屋敷中に響き渡る。
入れ替わり効果は24時間。
サラがベッド脇の置時計で時刻を確認したときは、AM7時20分。
だが、そのときサラの部屋の掛け時計はAM7時30分であったことに誰も気付いていなかった。
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