第6話 初・葬儀
5月の半ば過ぎのこと。
リュウとリンク、レオン、(一応)グレルが務めているギルドのギルド長の実父が亡くなった。
それ故に、此度リュウ一行は喪服を身に纏い葬儀会場へとやって来た。
「うわあ、めっさ豪華やなーっ……」
と、たくさんの生花であしらわれた祭壇を見て、リンクが目を丸くする。
うんうんと同意して頷きながら、レオンが周りを見回す。
「会場も広いね」
「緊急の仕事がない葉月ギルドのハンターが全員集まるからなあ」
「そういや、ギルド長の仕事を代わりにやってたもんだから忙しくて教えるの忘れてたが……」と、リュウが家族に顔を向ける。「いいか、おまえたち。遺族に会ったら――」
「あ、リュウ」と、リンクがリュウの言葉を遮り、遠くを指差す。「ギルド長が呼んでるで。行って来いや」
リンクの指した方向を見つめ、手招きしているギルド長の姿を確認した後、承諾したリュウ。
トリプル抱っこしていた三つ子――ユナ・マナ・レナをリンクとレオンに渡し、そちらへと歩いていく。
その途端、
「にゃああぁあぁぁあぁああん!」
とユナが泣き出し、リンクとレオンが狼狽してあやす。
「おーっ、よしよし! 頼むからこんなところで泣かんといてーっ」
「お父さんすぐに戻って来るよ、ユナーっ」
その傍ら。
会場の中をきょろきょろと見回しているキラとシュウ、ミラ、サラ、リン・ラン、ミーナ、グレル。
ひそひそと小声になって話す。
「思ったより暗い雰囲気じゃないな、キラ」
「うむ、そうだなミーナ。だが、あまり笑ったりはしてはいけないのだろう? グレル師匠」
「おう。まったく知らねー爺ちゃんが死んだとはいえ、ここはやっぱり悲しんでるフリをしなきゃだぞーっと。おまえら、ハンカチを出せ」
うんと頷いて承諾し、グレルに続いてハンカチを取り出すキラたち――キラとシュウ、ミラ、サラ、リン・ラン、ミーナ。
「んで、泣くフリをするときはこれを瞼に当てろよ、おまえたち。多少大袈裟に泣いたフリするのもアリだぜ」
と言うグレルに、キラたちは再び頷いて承諾する。
「それじゃ、遺族に挨拶に行くぞーっと」
と言うグレルに、キラが再び周りを見回しながら訊いた。
「どれが遺族なのだ? グレル師匠」
「たぶんアレじゃねーか?」
とグレルが指したのは、棺の前で悲しんでいる模様の人々。
「おお、きっとそうだぞ」
「うーん、いざとなると不安になるもんだな。この間何度も練習したとはいえ、おまえたちはみんな初めてだから不安だぞオレは」
「う、うむ。ちょっと不安といえば不安だぞ……」
「ここは絶対遺族に失礼に当たっちゃならねえ。よし、ここはオレが最初に手本を見せるから、おまえらはそれに続け」
そういうことになり、グレルを先頭にしてキラたちが棺の前にいる遺族の元へと歩いていく。
遺族に頭を下げられる中、遺体の顔だけを見ることのできる小窓から棺の中を覗き込んだグレル。
「はっ……!」
と涙に声を詰まらせたフリをし、瞼にハンカチを当てた。
それに倣い、
「はっ……!」
とキラたちも瞼にハンカチを当てる。
次にグレル、キラたちの順に遺族の方を向き。
そして遺族に見つめられる中。
グレルが、いざ、
「ご臨終だぞーっと」
間違った挨拶を口からぶっ放した。
「――はっ?」
遺族が呆然とする中、キラたちがしゃくり上げる演技をしながら続く。
「ご臨終ですっ……! 嗚呼、ご臨終っ!」
「――!?」
遺族が驚愕すると同時に、キラたちの声が耳に入り、大慌てで駆けて来たリンクとレオン。
遺族に向かって必死に頭を下げる。
「ご愁傷様ですご愁傷様ですご愁傷様ですご愁傷様ですご愁傷様ですご愁傷様です!!」
それを見て、グレルが呆れたように溜め息を吐いた。
「おい、おまえたちも葬式のマナー知らねーのかよ。子供って年でもねーのに、オレは恥かしいぞーっと」
「こっちの台詞やっちゅーねんっ!」
と突っ込んだ後、リンクが遺族の前からグレルを引っ張って行く。
続いてキラたちもレオンに引っ張られて行く。
会場の隅へとやって来て、リンクは顔を真っ青にして声をあげる。
「なんっっっちゅーことをご遺族に言ってんねん、師匠っ!!」
「何がだよー?」
「ご遺族への挨拶は『ご愁傷様です』やろ!?」
「はあ? 死んだんだからご臨終じゃねーかよー。ったく、バカな弟子だぞーっと」
「まったくだぞ」と、キラが呆れたように溜め息を吐く。「リンク、おまえ私の可愛い弟のようなレオンにまで間違ったことを教えたのか? 何だ、『ご愁傷様です』って……」
「まぁーったく」とミーナも続いて溜め息を吐いた。「分かってはいたが、本当にバカだなわたしの主は。ペットとして恥かしいぞ、わたしは……」
天然バカトリオ――キラ・ミーナ・グレルに哀れみの目で見つめられ、顔を引きつらせたリンク。
次の瞬間、葬儀会場中に怒声を響き渡らせた。
「バカはおまえらやあぁぁああぁぁああぁぁあぁぁぁああぁぁああぁぁああぁあぁぁぁあっ!!」
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