第5話 偏食胃袋・巨大胃袋
リュウ宅のリビング。
長男・シュウ5歳の誕生日パーティーで、六女・マナ(0歳1ヶ月)がムシャラムシャラとゲテモノを堪能する傍ら。
マナと共に産まれてきた五女・ユナと七女・レナの泣き声が響いた。
今度は何だとリュウが訊くと、長女・ミラ(4歳)が涙目になって言う。
「ユナがっ……、ユナがごはん食べてくれないのよ、パパァ!」
「ああ、またか…。ユナの偏食は困ったもんだな……」
続いて三女リン・四女ランも涙目になって言う。
「レ、レナのハラがソコなしですなのだ、ちちうえ! ごはんあっというまに5杯目でこわいですなのだあぁぁぁ!」
「ご、5杯目…? す、すげーな……」
しかもレナの腹が、
ごーーーぎゅるるるるるる…
なんてでかい音を鳴らしている。
「うんうん♪ 健康な証拠だな♪ どれ、母上が離乳食の追加を持って来てやるぞ♪」
と、キラが一度リビングから出てキッチンへと向かっていき、丼に離乳食のシチューをなみなみ注いで持って来てレナに食べさせる一方。
シュウがユナを抱きかかえてシチューをスプーンですくい、ユナの口元に近づける。
「こら、ユナ! スキキライなくメシ食べねーと、大きくなれねーんだぞ! ほら口あけろ!」
「いにゃあぁぁああぁぁあぁぁああぁぁあ!」
と泣き叫んだユナ。
指先に炎をおこし、シュウの顔面に吹き付ける。
「――うっわぁぁああぁぁあぁぁあ!」と後方に飛び退って尻を着き、シュウは顔面蒼白して声をあげる。「なっ、なんっっってことするんだユナ! 兄ちゃん丸こげになるじゃねーかっ!!」
「にゃあぁぁああぁぁああぁぁあん! パパァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
なんて呼ばれ、リュウがユナを抱っこする。
普段から泣き虫のユナは、一番甘やかしがちなリュウに抱っこされると泣き止む子だった。
「よしよし、ユナ。おっかねー兄ちゃんで可哀相になあ」
「おっかねーってアンタに言われたくねーよ、オヤジ!!」
と突っ込んだシュウに、
ゴスッ!!
とゲンコツを食らわし、リュウは泣き止んだユナにシチューをスプーンですくって近づける。
鶏肉、ニンジン、じゃがいも、玉ねぎ、ブロッコリーなどの具は全て避けて。
「ほら、口を開けろユナー」
とリュウが言うと、素直に口を開けるユナ。
具無しシチューを口に入れて飲み込み、嬉しそうにはしゃぐ。
「にゃあぁぁあんっ♪」
「おー、そーかそーか。美味いか、良かったなー」
と笑んでいるリュウの顔を見て、シュウは頬を膨らませる。
(オレにはそんな顔しないクセにっ……!)
なんて、ちょっとだけ妹に嫉妬してしまう。
「ちゃんとスキキライさせずに食わせろよ、オヤジ! そんなんじゃ、ユナでかくなれねーぞ!」
「あ? ハーフだから心配いらねーよ」
「そ、そうかもしれないけどっ…! でもっ……!」
「何むくれてんだよ」と眉を寄せたリュウ。「おまえも食わせてほしいなら素直に言えよ」
なんて冗談で言ったが、シュウが頬を照れくさそうに染めて言う。
「そっ、そんなんじゃねーけどっ…! じゃ、じゃあ、ちょっとだけっ……」
「ったく、まだまだ甘ったれだな」
と、溜め息を吐いたリュウ。
ユナの嫌いな肉や野菜をシチューの中からスプーンですくい、あーんと口を開けて待っているシュウの口の中に入れてやる。
そして黒猫の尾っぽを嬉しそうに振っているシュウを見て、リュウの傍らにいたリンクが笑った。
「可愛いなあ、おまえの息子。おまえのこと大好きやん」
「ふん……」
と少しだけ照れくさそうに鼻を鳴らしたリュウを見てまた笑ったあと、リンクはレナにシチューを食べさせているキラに顔を向けた。
「それにしても、レナは好き嫌いなくて偉いなあ」
「うむ。ま…、またおかわりだぞ……」
「――って、まだ食うんかいな! どんな0歳1ヶ月やねん!」
とリンクが仰天して突っ込んだとき。
ガラステーブルの上に置いておいたリュウの携帯電話が鳴った。
「シュウ」
とリュウが言うと、シュウがガラステーブルの上から携帯電話を取ってリュウに手渡す。
「だれから? オヤジ」
「ギルド長だな……」
それを聞いたリュウの助手であるリンクと、弟子であるレオンが立ち上がった。
きっと緊急の仕事だろうと思って。
リュウが電話に出る。
「もしもし…、はい…、はい…、は……? …分かりました、すぐに行きます」
と電話を切り、ユナをシュウに預けて立ち上がったリュウに、レオンが訊く。
「緊急の仕事?」
「仕事と言っちゃ仕事だが、少しの間ギルド長の仕事を頼まれた」
「え? ギルド長どうかしたの?」
「これから病院に行かなきゃならねーそうだ……、親父さんが危篤で」
「――えっ!?」
と声をそろえたリンクとレオン。
リュウが続ける。
「つーわけで、ギルドに行くぞおまえら。ミーナ、ギルドまで瞬間移動頼む」
「わ、分かったぞ!」
と承諾したミーナが、リュウとリンク、レオンを連れてその場から瞬間移動で消え去った。
一方、リビングに残ったキラとその子供たち、グレル。
ミラが首をかしげながらキラに訊く。
「ママぁ、きとくって何?」
「死に掛けのことだぞ」
「ええっ!? ギルドちょうのおとうさんが!?」
「う、うむ…。寿命ならばリュウの治癒魔法は駄目だし、もしかしたら私は人生初の……いや、猫生初の人間の葬式とやらを経験か……?」
「かもしれんなあ」と、うんうんと頷くグレル。「キラおまえ、喪服買わなきゃだぞ」
「もふく?」
「黒いやつだ」
「む? ……ああ、何度か真っ黒な服を着た人間たちを見たことあるぞ! そうか、葬式にはあの真っ黒な服を着ていかなければならないのか! すごいぞーっ、さすがグレル師匠だぞーっ! 物知りだぞーっ!」
「がっはっはっは! そーかあー?」
「うむ! ここは遺族に無礼にあたってはならぬ! グレル師匠、私と子供たちに葬式でのことを教えてくれ!」
「よし、分かったぞーっと♪ おまえら、そこに座れ」
との命令に、グレルの前に並んで座るキラとシュウ、ミラ、サラ、リン・ラン。
三つ子はシュウとミラ、サラの膝の上。
そしてキラが真剣な顔をして待つ中、グレルが再び口を開いた。
「いいか、おまえたち。葬式に行ったらな…………」
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