第4話 ミーナの結婚とその後
――7年前、キラが立っていた場所。
キラが着ていたウェディングドレスと同じデザインのものを身にまとい、ミーナはブーケを持って頬を紅潮させて微笑んでいる。
ミーナ20歳の誕生日である本日、ミーナはリンクのお嫁さんとなった。
主役は変わったものの、7年前と同じメンバーが顔をそろえている。
主役のリンクとミーナに、リュウとキラ、グレルとレオン、葉月ギルド長と王子。
加えて、リュウとキラの子供たち一男七女。
「ああ……」リンクの瞳が恍惚とする。「かわええで、ミーナ。この世1かわええ……」
「ああ……」王子の瞳が恍惚とする。「何と愛らしい花嫁だ。私のものにしてしまいたい……。リンクには勿体ないな」
「ほ、放っておいてくださいっ。だ、大体っ、今日お妃様がいないからって、そういうこと言ってると怒られますよ!?」
「言ったら無人島へ流罪にするからな、リンク」
「んな殺生なっ……!」
リンクと王子の傍ら、レオンが言う。
「本当、とっても綺麗だよミーナ。あのときのキラみたいだ」
「うんうん」と、グレルが続く。「すっかり大人になってなあ、おじちゃんは嬉しいぜ……!」
「ああ……、たしかにあのときのキラを思い出すぜ」と、リュウ。「あのときのキラは、本当まじ超半端ねー綺麗さだったぜ……!」
そう言ってリュウが瞳を輝かせて見るのは、本日の主役ミーナではなく、脇役のキラである。
そのキラが、涙ぐみながら微笑んで言う。
「大人になったな、ミーナ。とても綺麗だぞ」
「ほ、本当かっ?」ミーナが声を高くした。「本当にっ、本当に綺麗かっ? わたし、綺麗かっ? キラっ?」
「ああ。本当に、とても綺麗だぞ」
ミーナの顔に満面の笑みがこぼれる。
リンクに褒められるのはもちろん嬉しい。
でも、本当の姉のように慕っているキラに褒められるのも、とてつもなく嬉しくて。
「ミーナ姉、きれいー」
リュウとキラの子供たちに囲まれるミーナ。
リュウと並び、キラが言う。
「なあ、リュウ? ミーナ、本当に綺麗になったな」
「ああ、綺麗だな(あのときのおまえが)」
相変わらずリュウの視線はキラから離れない。
(あ……、なんかあのときのキラを思い出したら急に……)
キラのときに続き、今回も牧師役の葉月ギルド長が祭壇にあがる。
「さて、そろそろ挙式しようか」
皆が指定位置に着いた。
子供たちを前の方に並ばせたリュウ。
キラと共に、その後ろに並ぶ。
葉月ギルド長が挙式を始める。
「汝リンクは…(中略)…誓いますか?」
「誓うで!」
「汝ミーナは…(中略)…誓いますか?」
「誓うのだ!」
葉月ギルド長が咳払いをし、
「では、誓いのキスを」
リンクがミーナのベールをめくり、瞳を閉じて待つミーナにそっと口付けた。
微笑ましく拍手が漏れる。
「見てたかっ、キラっ?」と、くるりとキラの立っていた位置に顔を向けたミーナ。「――って、あれ?」
ぱちぱちと瞬きをする。
「い、いないぞ! リュウもいないぞ!」
「あ、あれぇ!?」リンクは教会の中をきょろきょろと見渡した。「挙式の途中にどこ行ったんや、あいつらっ……!?」
「探そうぞ、リンク!」
急遽、そういうことになった。
王子とリュウ・キラの子供たちを残し、リンクとミーナ、グレル、レオン、葉月ギルド長は手分けしてリュウとキラを探し回る。
ドレスの裾を持ち上げ、教会の裏へと回って行ったミーナ。
キラの声が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっと、リュウ! こ、こんなところで何を考えているのだっ……!」
続いて、リュウの声が聞こえてくる。
「ミーナ見てたら7年前のおまえ思い出して、つい興奮しちまった俺がいる」
「だ、だからってこんな神聖な場所でっ……!」
「神聖な場所で神聖に子作りしようぜ(謎)」
そんなリュウとキラの会話を聞いて、ミーナの白猫の耳がぴくんと反応した。
(おおっ、子作り! リュウとキラは、これから子作りをするのか! コウノトリを呼ぶのか!)
そろりそろりと足音を立てないように壁際を歩いていく。
(もしかしたら、呼び方の手本になるかもしれぬっ…!)
と、角までやってきて顔を半分出して覗いたミーナ。
「……?」
首を傾げた。
なんだ?
何をしている?
コウノトリを呼ぶのではないのかっ?
リュウは何故キラの服を剥ぎ取って……?
おおーっ、やっぱりキラは乳でかいぞー。
羨ましいぞー。
っていうか……、何?
なんだ?
何をしているのだ?
コウノトリを呼ぶのにそんなことをするのか……!?
な……、何だ!?
ちょ、リュウ、何して……!?
み、見ていて何だか物すごーく恥ずかしいぞ!?
……え!?
ちょ、ちょっと待ってくれ!
何アレ!?
リュウ、何ソレ!?
ソレを一体どうす――
え!?
ちょ、ちょちょちょちょちょ!?
ええ!?
えええぇぇぇーーーー!?
なっ、何をしているのだアレはあああああああああああっ!!
パニック寸前のミーナ。
そこへリンクがやってきて、首をかしげた。
「どうしたん、ミーナ? リュウとキラは――」
まで言って、リンクは教会の裏にいるリュウとキラに気付いた。
瞬時にミーナの目を塞ぎ、顔を真っ赤にして声をあげる。
「なっ、なにしてんねん、おまえらああああああああああ!!」
「――!?」
驚倒して振り返ったキラ。
ミーナの姿を見て、見る見るうちに顔が赤くなっていく。
「ミ、ミーナ!? ちょ、ちょ、待っ……! み……、見てたのか!?」
恥ずかしさと動揺でキラの声が裏返る。
リンクに目を塞がれているミーナが、困惑したように口を開いた。
「キ、キラっ? さっきのは一体なんだっ……!?」
「何って、子作りだよ」
と、答えたのは何ら慌てた様子のないリュウである。
ミーナがさらに困惑して声をあげる。
「こ、子作りっ? さ、さっきのがかっ? 子作りは男女が一緒にコウノトリを呼ぶのではないのかっ!?」
「まだ教えてなかったのかよ、リンク……」そう言って溜め息を吐いたあと、リュウは続けた。「あのなあ、ミーナ。コウノトリなんてのは存在しねーの。これが正しい子作りなの」
「えっ……!?」
「分かったらあっち行ってくんねえ? 途中なんだけど」
「ミ、ミーナ来いっ……!」
リンクはミーナを抱きかかえ、慌ててその場を後にした。
まさかこんな形でミーナが現実を知ろうとは……。
教会の出入り口のところ、ミーナが口を開く。
「リ、リンク。降ろしてくれっ……」
「お、おう」
リンクの腕から降ろされると、ミーナはリンクの顔を見上げた。
相変わらず困惑した様子で、ミーナが訊く。
「ど、どういうことなのだ? コ、コウノトリはいないのかっ?」
「…あ…ああ。おらん……」
「……わ、わたしを騙していたのかっ?」
「ちゃ、ちゃうで! それはちゃう! 騙すつもりで言ったんやないっ……!!」
必死に否定するリンクの顔を見て、ミーナは安堵した。
「そ、そうか。リンクがそういうのならば、そうなのだな。だ……だけど」と、ミーナの顔が赤く染まっていく。「子作りって、ほ、本当の子作りって、あ、あんなっ……ああああんなことをするのかっ!? リュ、リュウとキラは、ま、毎晩、あ、あんなことをしているのかっ……!?」
「お、お、おう……」リンクの顔まで赤くなってしまう。「せっ、せやけどっ、おれリュウよりずっと優しいで!? あいつは激しすぎんねんっ……!」
「そ、そうか。で、でででも、あれなのだなっ? あ、あああれが大人の行為なのだなっ……? こ、今夜リンクはっ、あ、あれをわたしに教えるつもりだったのだなっ……!?」
「お、おおおおう」
「…っ……!!」
ミーナが首まで赤く染め、リンクに背を向けた。
リンクは狼狽する。
(ああもうっ! どうしてくれんねんっ、リュウの奴! おれが優しく教える前に、怯えてしまったやないかいっ……!!)
大変だ。
ミーナを宥めなければ。
リンクがミーナの肩に触れると、ミーナが小さく飛び跳ねた。
「みゃっ!」
「ご、ごめんっ……」リンクは慌ててミーナから手を離す。「その…、ミーナ? そんなに怯えないでやっ……」
「……」
「お、おれ…、おまえが嫌やっちゅーなら、まだ何もせえへんからっ……」
「えっ……?」
ミーナが慌てたように振り返った。
ミーナのグリーンの瞳が、じっとリンクの顔を見つめて潤む。
ミーナのこの反応。
リンクの胸が動悸をあげる。
「ミ、ミーナっ……?」
「…リ、リンクっ…、わ…、わたし……」
「う、うん…?」
「…こ…、子供がほしいのだっ…リンクとの子供がっ……。それにっ…さっきは驚いたけどっ…、でもっ…でもっ……」
「…ミ、ミーナ……?」
「お願いリンクっ、今夜は男らしくわたしを抱いてっ(ハート)」
と言ったのは、戻ってきたグレルである。
「気色悪いわっ!!」
その晩。
結婚初夜。
リンク・ミーナ夫妻は、リュウ一家の屋敷にいた。
新婚旅行に行かず何故ここなのかというと、ミーナの希望だった。
今日の昼に知った本当の子作り。
リュウとキラのを見たとき、面食らってしまった。
まさかああいうことをするのが、子作りだったとは知らなくて。
あれが自分とリンクだったらって考えると恥ずかしかった。
でも、嫌ではなかった。
これで待ち望んだ子供がやっと出来るのだし、むしろとても嬉しい。
だけど、やっぱり少し怖い。
よって、深く信頼する姉のようなキラがいるここへとやってきた。
キラが傍にいるだけで、ミーナは安心できるから。
電気を消した客間の中、シャワーを浴び終わって緊張した様子のミーナがベッドに腰掛けている。
リンクが交代してシャワーに向かうと、キラがミーナのところへとやってきた。
「キラっ……」
「大丈夫か、ミーナ」
ミーナはキラにしがみ付き、狼狽した様子で訊く。
「こ、子作りって、ど、どんな感じがするのだっ? い、痛くないのかっ? 怖くないかっ?」
「大丈夫だ、ミーナ。きっとリンクはとても優しくしてくれるぞ。たしかに初めてのとき、女の方は苦痛を伴うが……。そりゃもう、私がリュウに初めて抱かれたときは痛くて痛くて、いっっっったくて――」
「そ、そんなに痛いのか!?」
「いや、でも、私の場合はリュウが相手だからであってな。ミーナは私のときほど痛みを伴わないと思うぞ」
「そ、そうかっ……」
「それに、愛する男が相手ならば痛みなど堪えられるというものだ。ミーナよ、愛するものと結ばれたとき、とても嬉しいものだぞ?」
「結ばれ…る……?」
「ああ。今夜ミーナは、リンクと結ばれるのだ。そしてきっと、近いうちに可愛い子供を授かるぞ。……なあに、大丈夫だ」そう言って、キラがミーナを抱き締める。「大丈夫だ、ミーナ。私はすぐ近くにいる。いざとなったら私を呼べ」
ミーナがキラの腕の中で頷くと、キラがミーナの額にキスして客間から出て行った。
それから少しして、客間に備え付けのバスルームからリンクが出てきた。
(ついさっきまで、キラの声が聞こえたような……?)
と、リンクは客間のドアを開け、顔を出して廊下をきょろきょろと見渡す。
(よし、覗いてないな)
リンクはドアを閉め、念のために鍵もかけた。
ベッドに腰掛けて、俯いているミーナのところへと歩いていく。
「ミーナ……?」ミーナの前、リンクは膝を付いてミーナの顔を覗き込んだ。「どうした……? 怖いか?」
ミーナが首を横に振り、リンクの首にしがみ付いた。
リンクが訊く。
「……ええんやな?」
少し間を置いたあと、ミーナが頷いた。
「あ…ありがと……」
そう言ったリンク。
ミーナがリンクの顔を見ると、リンクの唇が重なってきた。
抱き締められてベッドの上に倒されて、恥じらいと動揺でグリーンの瞳が揺れ動く。
ミーナの身体に巻かれていたタオルを取ったリンク。
「う……」
鼻血を吹きそうなる。
一方のミーナは戸惑った。
「えっ? な、なんだリンクっ……? Cカップじゃダメかっ……!?」
「ち、ちが……。い、いつの間にかずいぶんと成長してたもんやから……」
「そ、そうかっ……。乳はこれくらいでも良いのかっ……」
「お、おう。じゅ、充分ですっ……! ほ、ほな、え、えと……」
「う、うむ?」
「こ、こここ、子作り開始してもええですかっ……!?」
「ど、どどど、どうぞだぞっ……!」
「い、いいい、いただきます……!!」
「た、たたた、たーんとお食べ……!?」
――10分後。
「えっ…あっ……!」
ミーナが苦痛に顔を歪めた。
溜まらずといったように声を上げる。
「いたっ……痛いっ! 痛い痛い痛い――」
「え!? わ、わかった! ほな――」
「ふみゃあああああん!! 痛いのだあああああ!!」
リンクの声を遮って泣き出したミーナ。
呼んじゃいまーーす☆
「キラァァァァァァァァァァァァァ!!」
次の瞬間。
ガシャーーーーーン!!
「ミーナァァァァァァァァァァァァ!!」
窓ガラス突き破ってキラ登場。
「どわああああああああああっ!!」
仰天して飛び上がり、ベッドに尻を付いたリンク。
キラがミーナに駆け寄る。
「大丈夫かミーナ!?」
「いっ、痛いのだあああっ」
「きっ、貴様! リンク!!」キラがリンクの顔を見て牙を向いた。「ミーナが泣くほど痛がらせるとはどういう――……ん?」
と、キラが目を落としたのはリンクの股間。
ぱちぱちと瞬きをしたあと、笑って言う。
「なーんだ、ミーナ。その程度、我慢してやらなければダメだぞ♪」
「――グハァッ!!」
リンク、キラの言葉に大衝撃。
ベッドの上にうずくまる。
キラが笑いながらドアへと向かっていく。
「それじゃ、がんばるのだぞ、ミーナ♪ リンクもな♪」
と、客間から出て行ったキラ。
ミーナが声を高くして言う。
「よ、よし! がんばるぞ、わたし!」
「……」
「さあ、リンク、続けて良いぞ!」
「……」
「ん? どうしたリンク? ピクピクしてないで、早く続けてくれ」
「……」
「なあ、リンク? わたし女の子供がほしいのだが?」
「……」
「おい、リンク? 聞いているのか?」
「……」
「なあなあ、リンクってばあ。こーづーくーりーはーーっ?」
リンクが待ちに待った結婚初夜。
そう、一体何年待ったか。
この日をどれだけ待ったか。
キラのさりげない一撃により、大ダメージを食らい重傷を負ったリンク。
ミーナと初めてのドキドキ子作りは、中途半端なところで虚しく終了した。
――ミーナは日記帳を開いた。
××年1月○○日
結婚してから約半年。
初夜はどうなるかと思った子作りだったけど、あれから一週間してようやく復活したリンクがしてくれた。
感想としては、やっぱり痛かった。
でもリンクと結ばれたと思うと、とてつもなく嬉しかった。
そしてわたしは無事に子供を授かり、そして今日その子を産んだ。
わたしにそっくりな、白猫の耳が生えた女の子だ。
リンクが、リーナと名づけた。
コウノトリはいないって言われたけど、リンクというコウノトリがわたしにやって来てくれた。
わたしは今、とっても幸せだ。
リンクのペットになれた。
お嫁さんになれた。
リンクに出会えて良かった。
わたしはこの世一の、幸せな白猫だ。
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