第8話 合唱。いいえ、合掌です 中編
葬儀会場の中、キラとミラ、サラ、リン・ラン、それからミーナは、グレルの口元に耳を近づけた。
それから数分後、グレルの口元から離れ、キラ、ミーナと声を高くする。
「おおーっ、それが良いぞ!」
「うむ、さすがグレル師匠だぞーっ!」
その足元、サラがうんうんと同意して頷く。
「いいウタだね」
その傍らではミラが眉を寄せる。
「サラ、きにいったの? おねーちゃんは、ちょっとしぶいと思うわ……」
「しんだのがじーさんだからちょうどいいよ、おねーちゃん」
「えー、でもぉ……」
とミラが顔を顰めたとき、リュウやシュウ、リンク、レオンが戻ってきた。
リュウがキラたちを手招きしながら言う。
「葬儀が始まる。こっち来い」
承諾し、リュウの元へと歩いていったキラ。
リュウの顔を見上げて言う。
「良いか、リュウ。焼香では、『与○』だぞ、『与○』」
「は?」
一方、ミーナはリンクに、グレルはレオンに言う。
「良いか、リンク。『与○』だからな、『与○』」
「何の話やねん?」
「いいか、レオン。『与○』だぜ、『与○』!」
「何が?」
リュウとリンク、レオンが眉を寄せる中、葬儀は開始され。
僧侶による読経・引導と弔辞・弔電中、キラとミラ、サラ、リン・ラン、ミーナ、グレルは、リンクに教わった通りおとなしくし(すぎて爆睡し)。
そのあとの焼香の時間になると、気合を入れて立ち上がった。
「よし、頑張るぞ」
と声を高くしたキラとミーナ、グレルの顔を見回し、リュウとリンク、レオンは再び眉を寄せる。
一体何を考えているのかと。
「なあ、リンク」
「なんや、リュウ」
「おまえ、ちゃんとキラたちに焼香の仕方教えたよな」
「おう、しっかり教えたで」
「なら大丈夫だよな」
「おう、大丈夫なはずやで」
だが、3バカ――キラとミーナ、グレルの様子を見ていると、どうも大丈夫な気がしないリュウとリンク、レオン。
顔を見合わせたあと、リュウがリンクに続いてもう一度3バカに焼香の仕方を説明する。
「いいか。遺族のあとに、俺たちの焼香の番だ。自分の順番が回ってきたら、まず次の人に軽く会釈をしろ。その次は、焼香台の手前で親族に一礼。そして焼香台に進み、遺影を見つめてまた一礼だ。そして―― 」
「分かってるぞ、リュウ」と、キラがリュウの言葉を遮った。「そして、焼香をするのだろう? あの黄な粉を、3本の指でつまんで――」
ビシッ
とキラの言葉を遮った、リュウのデコピン。
キラが「にゃっ」と短く声を上げて額を押さえる傍ら、リュウが溜め息を吐いて続ける。
「黄な粉を焚いてどうすんだ、バカ。葬儀会場が香ばしいじゃねーか。抹香だ、抹香」
「おお、そうだったぞ」
「で、抹香を親指と人差し指、中指で摘んで、目の高さまで捧げ、真ん中に置いてある墨の上に乗せて焼香。いいか、3回だぞ 」
「うむ。で、そのあと数珠を手に、故人や親族に対する思いを込めて『合唱』するのだろう? 」
「そうだ、『合掌』するんだ。そして霊前を向いたまま2、3歩下がって一礼し、遺族・僧侶にも一礼後、自分の席に戻る。いいな? 」
うんうんと頷いて承諾する3バカ。
それを見て、良しと安堵したリュウとリンク、レオン。
でも念のため、リュウが最初に焼香を行って手本を見せることになった。
順番としては、遺族の焼香のあとに、リュウ一同の焼香。
遺族が焼香中、3バカは顔を寄せ合ってひそひそと会話する。
「おい、遺族は誰も『合唱』していないぞ。何故なのだ、グレル師匠?」
「ほ、本当だぞ、キラの言うとおりだぞ。何故誰も『合唱』しないのだ、グレル師匠?」
「遺族はひどく悲しんでっからなあ。『合唱』する気になれねーんじゃねーかぁ? ここはオレたちが、心を込めて精一杯『合唱』してやろうぜ♪」
そんな3バカの小さな話し声を、灰色の猫耳をぴくぴくとさせながら聞いていたレオン。
焼香している遺族を見ながら、眉を寄せた。
(ちゃんとしてるじゃない、『合掌』……)
やっぱり何だかおかしい。
とレオンが思ったとき、遺族の焼香が終わり、リュウの番がやって来た。
リュウが次に並んでいるキラに「ちゃんと見てろよ」と小声で言いながら軽く会釈し、焼香台の手前まで行って、親族に一礼。
そのあと焼香台へと進み、遺影を見つめて再び一礼。
そして、焼香タイム。
リュウが親指と人差し指、中指で抹香を摘み、焼香する様子を、3バカとミラ、サラ、リン・ランは後方から覗き込むように見つめる。
そんな姿に、ますますレオンは眉を寄せる。
おかしい。
やっぱり、何かがおかしいと。
(何考えてるのか、キラたちに訊いて見よう)
そう思い、レオンが小声で口を開こうとしたとき。
リュウの焼香が完了。
リュウが数珠を手に、目を閉じて『合掌』したその瞬間、
「せーのっ」
とのグレルの言葉のあとに、
「与○は木ぃぃぃぃを、切るうぅぅぅううぅぅううぅぅううぅぅうぅぅうう♪」
3バカの『合唱』が、葬儀会場中に響き渡った。
次の話へ
前の話へ
目次へ
感想掲示板へ
小説トップへ
HOMEへ