第3話 初・ゲテモノ 前編


 ユナ・マナ・レナの三つ子がキラの腹の中から発射されたのは約一ヶ月前のこと。
 息子で長男のシュウを一流ハンター以上でデビューさせようと考えているリュウは、それ以来シュウの剣術の修行を厳しくした。

 それ故に、

「うわぁぁああぁぁあぁぁあん!」

 修行場――自宅屋敷の裏庭に、たびたび泣き声が響く。
 リュウから強くしてもらえると聞いて張り切っていたシュウだが、ここまで鬼だとは思わなかった。

 朝起きたらまず、体力作りとウォーミングアップを兼ね、リュウに着いて葉月町をジョギング10km。
 そのあと自宅屋敷に戻ってきて裏庭へと向かい、腕立て・腹筋・背筋・スクワット等の筋肉トレーニングを各200回ずつ。

 そしてその後、竹刀を素振りするのだが。

「もう、うでが上がらねーよオヤジィィィィィィィィィィィ!」

「泣き言ほざいてんじゃねえ、シュウ。たかが素振り300回程度で」

「オレまだ4つなのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

「明日から5歳じゃねーか。言っておくが、明日からはもっときつくなんぞ」

 とのリュウの言葉に、シュウははっとして振るっている竹刀を止めた。
 その瞬間リュウのゲンコツを食らったが、どきどきとしながらリュウの顔を見上げて訊く。

「それってそれって、竹刀から木刀になるからっ?」

「ああ。明日のおまえの誕生日プレゼントは木刀だ。木刀になったらますます腕の力がいるんだぜ」

 それを聞いて瞳を輝かせたシュウ。

「ていっ! ていっ!」

 と、元気良く素振りを再開した。
 リュウから聞かされていた。

 4歳までは竹刀で修行、5歳からは木刀、9歳からは真剣だと。

 憧れの武器はリュウと同じ真剣。
 まだ持てるわけではないが、竹刀を卒業したことは嬉しかった。

(オレ、あしたから一歩オヤジにちかづくんだっ!)

 と、思って。
 
 
 
 翌日、シュウ5歳の誕生日。
 リュウの親友であるリンクとそのペットのミーナ、リュウの師匠であるグレルとそのペットであるレオンが、リュウ宅のリビングへとやって来た。

 人間と猫モンスターのハーフの子は、約一ヶ月で立ち上がる。
 よって先月生まれた三つ子――ユナ・マナ・レナが歩き回っていた。

 大人たちから誕生日プレゼントをもらい、それを1つずつワクワクとしながら開けていくシュウ。
 1番嬉しいプレゼントはリュウからの木刀だと分かっているが、それでもワクワクした。

「あれ?」と、1つの箱を取り耳を近づけるシュウ。「この箱、ガサガサ音がする……。これダレからのプレゼント?」

「それはオレだぞーっと♪」

 と、グレル(34歳)。

 身長195cm筋肉隆々120kg。
 全身を黒く艶めいた体毛が覆っており、その外見はまさに熊だが、一応人間である。
 中身はキラと同レベルという極度の天然バカ。
 超一流ハンターでもあるが、現在は主に猫モンスターの専門雑誌『月刊・NYANKO』とそのハーフ専門雑誌『月刊・HALF☆NYANKO』の編集長として働いている。

「ちょっとグレル、その箱の中身何?」

 と眉を寄せながら訊いたのは、グレルのペットであるレオン(19歳)だ。

 普通は仲が悪いブラックキャットとホワイトキャットの間に出来た猫モンスター――ミックスキャットの彼は、現在リュウの弟子ハンターだ。

 青い髪の毛に赤い瞳、灰色の猫耳に尾っぽ。
 リュウやキラと出会った当初はツンデレだったものの、今ではすっかり真面目で心優しい青年だ。

「ん? 中身か? 子供が喜ぶものだぞーっと♪」

「子供が喜ぶもので、箱の中でガサガサ音を立てとる……? うーん……、カブトムシとかクワガタかいな?」

 と続いて訊いたのは、リンク(26歳)だ。
 リュウと共にグレルの弟子であり、基本的に人付き合いに疎いリュウの貴重な親友。
 16歳のときに他島からここ葉月島へとハンターになりにやって来たが、その地方訛りの口調は一生抜けそうにない。

 明るい金髪に、童顔。
 リュウと同い年であるが、並ぶとずっと幼く見えた。

「わあ、カブトムシにクワガタっ?」

 と嬉しそうに声をあげたシュウ。
 包装紙をびりびりと破いて剥がし、箱の蓋を開ける。
 すると中には、また2つの箱が入っていた。

「カブトムシとクワガタ……?」とリュウが不審そうに眉を寄せる。「それなら喜ぶ子供は結構いるだろうが……、俺とリンクの(根っからの純粋な救いようのない天然バカな)師匠が買ってくるか?」

「鋭いな、リューウっ♪ 中身はカブトムシとクワガタなんて詰まらないものじゃないぞーっと♪」

 というグレルの言葉にシュウは、じゃあ何だろうと首をかしげる。

「もっと美味いものだぞーっと♪」

 なんてグレルが続けるとほぼ同時に、2つある箱のうち1つの箱を開けたシュウ。
 次の瞬間、中から緑色のものが大量に飛び出してきて、仰天して声を上げながらリュウにしがみ付いた。

「――うっわぁぁああぁぁああぁぁぁあっ!!」

「げ」

 とリュウが引きつらせる傍ら、リンクも声を上げる。

「ぎっ、ぎゃあぁぁああぁぁああぁぁあぁぁああ!! しっ、師匠なんやねんコレェェェェェェェェェェェェェ!!」

「何って、昨日他島に『NYANKO』の撮影に行ったときに沢山いたイナゴだぞーっと♪ な? 嬉しいだろ、シューウっ♪」

「おおーっ!」と声を高くしたのはキラとミーナである。「すごいぞーっ、さすがグレル師匠だぞーっ! 尻がムズムズするぞーっ!」

 とリビングの中を飛んでいるイナゴ目掛け、尾っぽを振るキラとミーナ。
 いざ狙いを定め、

「ふにゃあぁぁああぁぁぁあぁぁぁんっ♪」

 と飛び跳ね、イナゴに猫パンチしてじゃれる。

 そしてその猫パンチを食らった哀れなイナゴ君。

「ふあぁ……」

 と、ちょうど大きな欠伸したマナの口の中へと吹っ飛ばされて行った。
 
 
 
 
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