第2話 三つ子発射
キラのお産のため、葉月島葉月町にある葉月病院へと瞬間移動してきたリュウとキラ、ミーナ。
いつものことではあるが、もう産まれる直前だったが故に、キラはすぐさま分娩室へと運ばれた。
助産をしてくれる院長に続き、リュウとミーナも分娩室の中へ。
「いいですか、リュウさんにミーナさん」
と、キラが乗っている分娩台から3m離れたところにいる院長。
足を踏ん張らせ、腕まくりして両手を構え、緊張した面持ちで続ける。
「今回は三つ子です。3人のお子さんがキラさんにより飛ばされてきます。1人目は私が受け止めますので、あとの2人を頼みましたよ……!?」
「おう、任せろ院長。俺は前回に続いて2度目だから大丈夫だ」と、院長に続いて両手を構えるリュウ。「俺は2人目を受け止めるから、ミーナは3人目を受け止めろ。いいな? 絶対受け止めろよ…!? まるでロケットのように飛んで来るからな……!?」
「そ、そうかっ…! 子供というのは腹の中から外へと向かってロケットのように飛び出て産まれるものなのかっ……!」
「いや、普通は有りえねーんだが、キラの場合は特別でな……」
「おおーっ! すごいぞーっ、さすがキラだぞーっ!」
と、ときどき極度の天然バカのキラを慕うが故に、同様にバカになってしまったミーナも2人に続いて両手を構える。
それを見ながら、キラが深い溜め息を吐いた。
「済まないな、ミーナまで。どうも私の子供たちは普通に産まれてくれなくてな。元気なことは良いことだが、まったくここまで来ると呆れてしまう……。赤ん坊のクセに、一体どうやったら腹の中からロケットのように飛び出せるのか不思議で仕方な――」
「キラ」とキラの言葉を遮ったリュウ。「院長から色々突っ込まれる前に頼む」
「? うむ」
と、首を傾げながら承諾したキラ。
それを確認し、目を閉じた院長。
「すぅぅぅぅぅぅぅぅ……!」
と大きく息を吸い込み、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー……!」
と吐き出して深呼吸をしたら。
いざ、目を見開き、
「はい、キラさん! 一ヶ月分のウン○を出す勢いでいきんで!」
と声をあげた。
それを聞いたキラ。
「ふぬぁーーーっ!!」
と力一杯いきんだ。
次の瞬間、
スポポポォォォォォォォォン!!
とキラの腹の中から発射された、黒猫の耳の付いた3匹の子供。
それはヘソの緒を、
ブチブチブチィッ!!
とぶっ千切り。
1匹は院長の腹へ、
ズゴォッ!!
と突っ込んでしまったが、2匹目はリュウの手へ、3匹目はミーナの手の中へ。
「ふみゃああぁぁあぁぁっ!」とあまりの勢いに、ぎりぎりのところで子供を受け止めたミーナ。「あ…危なかったぞーっ……!」
バクバクと激しい動悸を感じたあと、産声をあげている子供に目を落として笑顔になった。
「やっぱり女の子供は可愛いぞーっ、羨ましいぞーっ! なあ、リュウ? この子たちの名前は何だ?」
「上からユナ・マナ・レナだ」
「ユナ・マナ・レナ……」
と、ミーナが3度繰り返し呟いている傍ら、院長は咽こんでいる。
「ゴホゴホッ…! …キ…、キラさんお子さんを産むたびに吹っ飛ばす威力が増してますねっ……!」
「……。…わり、院長」
「は、ははは…。だ、大丈夫ですよリュウさ……ゴホゴホッ…ガハァッ!」
と涙目になって蹲る院長。
「だ、大丈夫すか……」
と顔を引きつらせながら院長に治癒魔法を掛けたあと、リュウは産まれたての娘たちを院長や看護師に任せてキラに歩み寄った。
「お疲れ、キラ」と、はっきり言ってキラはほとんど苦労していないのだが、それでも治癒魔法を掛ける。「産んでくれてありがとな」
「うむ」
と主――リュウの笑顔を見つめて、キラは微笑む。
産んで良かったと思える瞬間だ。
「ユナ・マナ・レナか。良い名前だな、リュウ」
「おう。絶対嫁にやらねーぜ」
「……(うちの娘は皆哀れだぞ……)」
「さて、無事に産み終わったし、家に帰ったら早速……」
「ああ、早速シュウの修行かリュ――」
「イトナミタイムだな」
「――!?」キラ、驚愕。「お、おまえという奴はあぁぁあぁぁあ!」
「しばらく生で出来ねーのが残念だが、子供出来るとシュウの奴がうるせーからよ。何でモンスターにはピル効いてくれねーかな」
「か、帰ったらおまえはすぐにシュウの修行だ、リュウ! シュウはおまえが帰って来るのを今か今かと待っているぞ!」
「はぁ? あいつが?」
と、リュウは眉を寄せる。
何かとリュウに突っ込んだり文句をいうシュウが、自分の帰りをそんな風に待っているとは考えにくくて。
キラが続ける。
「シュウはな、口に出しては言わないが、誰よりも強いおまえに憧れているのだ! 超一流ハンターとして人々を守っているおまえを尊敬しているのだ! おまえに言われずとも、おまえのように強くなりたいと思っているのだ!」
「ふーん……」
と、キラから目を逸らしたリュウ。
キラの言っていることが間違ってなかったとしたら、何だか少し照れくさい。
「だから帰ったらシュウの修行に付き合ってやるのだ、リュウ!」
ふん、と鼻を鳴らしたリュウ。
「仕方ねーな、帰ったら真っ先に構ってやっか……」
と呟いて微笑んだ。
リュウたちが葉月病院へ行っている頃、留守番中のシュウとミラ、サラ、リン・ランはリビングに集まっていた。
ミラやリン・ランは女の子の玩具を出して、サラは男の子の玩具を出して遊んでいる。
そしてシュウは、竹刀を手にうろうろとしていた。
シュウの落ち着かない足音に長女・ミラ(4歳)が黒猫の耳をぴくぴくと動かし、気になってシュウに顔を向ける。
「お兄ちゃん、さっきからどうしたの? ドロボーさん来ないかみはってるの?」
「オレはおまえたちイモウトを守らなきゃいけないから、それもあるんだけど……」
「じゃあ、あたらしいイモウトができるのが楽しみなのね♪」
「ま、まあ、なんだかんだでイモウトはかわいいから、それもあるんだけど……」
「じゃあ、なんなのだ兄うえ?」
と、声をそろえて訊いた双子の三女・リンと四女・ラン(2歳)。
妹たちに見つめられながら、シュウは照れくさそうに言う。
「オ…オヤジを待ってるんだっ……」
「ファザコンなんだ、アニキ」
と短く笑ったのは、次女・サラ(3歳)だ。
「ちっ、ちげーよサラっ!」と、シュウは赤面する。「そんなんじゃねえっ! オヤジ、びょーいんに行くまえにオレに言ったんだ。帰ってきたら、オレのことビシビシきたえて強くしてくれるって……!」
「なんだ、Mか」
「? エム?」
「知らないの? ガキだね」
「う、うるせえ! サラおまえそれ、ぜってー変な言葉だろ! まだ3つのクセに、なんてマセガキなんだ!」
「ふん」
とサラがシュウから顔を逸らし、再び男の子用の玩具で遊び始める。
「か・わ・い・く・ね・えっ! …と、ともかく、オレのしょーらいのユメは『オヤジをこえること』なんだ! グレルおじさんもバケモノ並につよいけど、あの人を師しょうにしたら何か死にそうだし……。だ、だから仕方なくオヤジにきたえてもらうんだ! ファ、ファザコンなんかじゃな――」
「おい、帰ったぞ」
と、シュウの声を遮るように玄関の方から聞こえてきたリュウの声。
それを聞くなり、ぱっと笑顔になったシュウ。
嬉々として黒猫の尾っぽをパタパタと振りながら、他の妹たちよりも真っ先に玄関の方へと駆けて行った。
「おかえり! オ・ヤ・ジィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」
次の話へ
前の話へ
目次へ
感想掲示板へ
小説トップへ
HOMEへ