第11話 交換日記 中編
生後2ヶ月のマナが交換日記にどんなことを書くのかと、わくわくとしながらノートを開いたリュウとキラ。
「えーと、なになに……?」
と1ページ目に目を落とした。
そこには、よく見ないと何て書いてあるのか分からないものの、ちゃんと日付と一行の日記が書いてあった。
○○ねん6がつ△△にち
ドライバーで梨をさした。
「……………………」
十数秒に渡る無言の後、リュウの方から口を開いた。
手で目頭を押さえ、声を詰まらせる。
「見ろよ、キラ……! マナがもう漢字で『梨』と書いている……!」
「そこか、リュウ……」
「『一』とか『二』ならまだしも、『梨』だぜ!? こんな凄まじい画数を生後2ヶ月の娘が……!」
「いや、たしかに凄いとは思うんだがな……?」
「うちの娘は何て天才なんだ!」
「そうかもしれないけどな……?」
「マナ、超俺似!」
「……。日記の内容については何も思わないのか、リュウ」
「何だよ、キラ。ドライバーで梨を刺しちゃいけねえっていうのか!?」
「いや、そうではなくてだな……? その……、私は返事に何て書けば良いのか困るぞ……」
「なら、俺が書く」
と、いそいそと交換日記のノートのページをめくったリュウ。
目を丸くして「おおっ」と声を上げた。
「な、なんていうことだ! マナの日記はまだ続いていた……だと……!?」
「……。…そんなに驚くことか?」
「当たり前じゃねーか、キラ! マナはまだ生後2ヶ月で――」
「はいはい」と呆れながらリュウの言葉を遮ったキラ。「で、続きはなんて書いてあるのだ?」
と、再びノートを覗き込んだ。
引き続きよく見ないと分からない文字で、そこには一行こう書かれてある。
しょうらいパパは、ミラねえちゃんと浮気をすると思われる。
それに思わずギクッとしたリュウの一方、キラの顔が引きつった。
「なんだ、この日記は……? おいリュウ、どういうことだ?」
「……あ……あれだな、マナはもう『浮気』だなんて書けちまうんだな! すげーぜっ……!」
「誤魔化すな! ミラとの交換日記を見せてみろ、リュウ!」
と、リュウとミラの交換日記のノートを奪い取ったキラ。
『将来はママに秘密で、私と結婚してね』なんて書いているミラに対して、リュウが送っている返事を見てさらに顔を引きつらせた。
「『そうだな、将来はパパとこっそり結婚しような』……だと!? おいリュウ! どういうつもりだ!」
「な、何本気にしてんだよ、おまえ。まだ4歳と幼い娘を振るなんて残酷なことできるわけねえだろ……」
「そうかもしれないが――」
「おっと、見ろよキラ! 次のページにもマナの日記が続いてるぜ!」
と、話を逸らし、次のページに目を落としたリュウ。
そこに書かれている文字を見て、眉を寄せた。
リンねえちゃんとランねえちゃんがママをみならって、にいちゃん相手に人口呼吸のレンシュウをしていた。
「……。おい、キラ。これはどういうことだ。まさかおまえ、リン・ランにおまえ流の人口呼吸の仕方を教えたっていうんじゃ……!?」
と、リュウは思わず冷や汗を掻きそうになりながら、キラとリン・ランの交換日記を取った。
ノートを開き、『尊敬するキラを見習って昼寝をしているシュウに2秒間に10回の心臓マッサージをし、肺がパンパンになるまで空気を送り込んだ』だなんて内容を書いているリン・ランの日記を見て、顔面蒼白してしまう。
「ばっ……! キラおまえ、自分の蘇生法が間違ってること、まだ分かってねえのかよ!? 下手したら、シュウ死んでたぞこれ!?」
「な、何、そうなのか!?」
「おまえが救いようのないバカだとは重々承知していたが、それでもマジ信じらんねえ……! 改めておまえは桁外れのバカだぜ……!」
そんなリュウの言葉に、ムッとしたキラ。
「ふ、ふん、おまえこそ信じられないぞリュウ! おまえが三度の飯よりイトナミ大好き男ってことは知っていたが、よりよって娘相手に浮気とは!!」
と言い返してしまい、
「しっ、してねーじゃねーか浮気!! しかも娘相手って、俺が変態みてーだろうが! 変なこと言ってんじゃねーよ、バカ!!」
リュウが逆上。
夫婦喧嘩が勃発。
屋敷中にお互い怒声を響かせながら3分後、夫婦の寝室にぴりぴりとした空気が溜まり、
ガシャァァァァァァァンッ!!
と、窓ガラスが粉砕した。
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