第10話 交換日記 前編
そろそろ梅雨に入ろうか6月。
次女・サラが4歳の誕生日を迎えたのは、つい3日前のこと。
サラの誕生日パーティー中、リュウはミラとリン・ラン、ユナ・マナ・レナに囲まれながら、とあることに気がついた。
「サラおまえ……、今レオンに何を渡した?」
離れたところからそう訊いたリュウの顔を、一瞬見たサラ。
「べつに」
と短く答え、レオンの膝の上に乗っかった。
むっとしたリュウは、レオンを睨むように見て訊いた。
「おい、答えろレオン」
「え、えーとぉ……、その、大したものじゃないよ……?」
と、返答に困って苦笑したレオン。
「だったら早く言え」
とリュウに再び命令され、仕方ないと答えた。
「こ…交換日記……?」
「交換日記……だと?」と、眉を寄せて鸚鵡返しに訊いたリュウ。「何が、大したものじゃねえだ!」
と怒声を上げた。
「てーめえ、レオン! 俺の可愛い娘と何勝手に――」
「ねぇ、パパぁ」と、リュウの言葉を遮ったのは、リュウに抱っこしてもらっていたミラだ。「こーかんにっきって、なぁに?」
リュウは打って変わって、ミラに優しい笑みを向けて答えた。
「以前にキラとミーナもやっていたんだけどな、1つのノートに一日ずつ交互に日記を書いて、交換するんだぞ」
「うむ」と、頷いてキラが続ける。「やってみると楽しいものだぞ、交換日記。日記以外の秘密の話も書き合ったりしてな」
「ええっ? わたしもパパとこーかんにっきしたぁい!」
「おお、そうかミラ。それじゃあ、パパと交換日記するか」
とリュウがミラとそうすることになった一方、キラもリン・ランとそうすることに。
「わたしたちも母上とこーかんにっきしたいですなのだぁー」
「おお、そうかリン・ラン。では母上と交換日記しようぞ♪ では、ちょっくらリュウとミラの分、私とリン・ランの分のノートを買ってくるぞ」
とキラがソファーから立ち上がったとき、マナがキラのミニスカートの裾を引っ張った。
キラが何かと目を落としてマナを見ると、マナが口を開いた。
「こーかんにっち…」
「ん? なんだ、マナ? おまえも交換日記したいのか?」
うんと頷き、マナは続ける。
「パパとママとすう…」
「おお、リュウと私の2人としたいのか! 分かったぞ、マナ! 父上と母上、マナの3人でする交換日記のノートも買ってくるぞ!」
「ええっ、なんやあっ?」と驚いたように声を上げたのはリンクである。「マナ、生後2ヶ月でもう字が書けるんっ?」
「うちのマナは天才だからな」と、リュウ。「身近にあるものからどんどん覚えて行くんだぜ。大地魔法も優れてるし、将来は大物だな」
そしてサラの誕生日から三日が経った現在。
夫婦の寝室の中、リュウはミラとの交換日記を、キラはリン・ランとの交換日記を開いていた。
ミラとの交換日記を読み、リュウがにやける。
○○年6月△△日
きいて、パパ。
今日わたしね、パパとけっこんするユメを見たのよ!
しょうらいはママにヒミツで、わたしとけっこんしてね。
大スキよ、パパ(はぁと)
キラがリュウの顔を見て眉を寄せた。
「ずいぶんとにやけているな、リュウ。ミラの日記は何て書いてあったのだ?」
「ふっふっふ、秘密だ」
「む……、では私もリン・ランとの交換日記を見せてやらないのだからなっ!」
と頬を膨らませたあと、キラはリン・ランとの交換日記に目を落として微笑んだ。
○○ねん6がつ△△にち
きょうは、そんけいする母上をみならって、おひるねをしている兄上あいてに、人口コキュウのれんしゅうをしましたなのだ。
2びょうかんに10回のしんぞうマッサージをして、兄上のムネがぱんぱんにふくれるまで空気をおくりこみましたなのだ。
兄上がなみだ目になりながらおこっていたのですが、ナゼですかなのだ母上?
「ふふふ、それはだな、リン・ラン。シュウはツンデレなのだ♪ 本当は心の中でおまえたちに感謝をしているに決まっているぞ♪」
「おい、キラ。リン・ランの日記には何て書いてあったんだ」
「おまえがミラとの交換日記を秘密にするというなら、私もリン・ランとの交換日記を秘密にするぞ、リュウ」
「ふん、そうかよ……」
リュウはミラとの、キラはリン・ランとの交換日記を書き終えたあと。
ほぼ同時に、マナとの交換日記に目をやった。
「さて……、次はマナからの交換日記か、キラ」
「うむ。生後2ヶ月のマナがどんな日記を書くのか楽しみだな、リュウ」
と、2人でマナとの交換日記を手に取ったリュウとキラ。
わくわくとしながら、ページを開いた。
「えーと、なになに……?」
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