第28話 運動会〜その3〜


 引き続き。
 葉月島ハンター&猫モンスターVS文月島ハンター&犬モンスター運動会IN葉月島葉月町葉月小学校校庭。

 只今の得点は。
 猫組139点、犬組180点。

 次の競技は玉入れ。
 6人1組が、猫組・犬組共に3チームずつ。
 合計6チーム。

 猫組の3チームのうちの1チームは、リュウ一行が作っていた。

「ああ……」リュウの瞳が恍惚として愛猫を見つめる。「俺の黒猫、可愛すぎるぜ……」

「なあ、リュウ」

「なんだ、リンク。見ろよ、俺のキラ。すーげえはしゃいで、すーげえ可愛いぜ」

「いやー、うん、そうやな。でも、そうやなくてさ」リンクが苦笑する。「なんっっで、カゴの位置があんなに高いねん!」

「え? ああ、そういや高いな」

 と、リュウは玉入れのカゴを見上げた。
 通常、人間だけの運動会ならば、カゴの高さが4m強のはずなのだが。
 人間よりも遥かに運動能力の高いモンスターが混じっているということで、地面からカゴまで20mほどあった。
 しかも人間だけの運動会ならカゴの入り口の直径は約45cmに対し、このカゴは30cmしかなかった。

「めっさ入れにくいっちゅーねん!」

 苛々とするリンクの傍ら、キラとミーナ、レオンの猫3匹ははしゃいでいる。
 ぴょんぴょんと高く飛んで、お手玉をカゴの中に放り込んでいる。
 特にジャンプ力のあるキラなんて、腕にたくさんお手玉を抱え、カゴの真上までジャンプして一度にたくさん入れている。

 リュウは犬組の方を見て言った。

「あれだな。犬は猫よりジャンプ力ねーから、玉入れではウチの猫組が余裕で勝利だろうな。さらにこの調子だと、俺たちがダントツだろうな」

「せやな」リンクは周りと自分たちのカゴの中を見比べ、同意した。「さっき(二人三脚)の名誉挽回せんとな」

「……。おう…」

 と、リュウとリンクが話していたのに。
 ミーナが言う。

「うーむ…。キラとレオンは玉を入れるのが簡単そうだが、やっぱりわたしにとってはカゴの位置が少し高いぞ」

「ミーナはまだ小さいからな」うんうん、とグレルが頷いた。「よし、オレのまかせろぃっ♪」

 いや、待ってくれ!
 あんたにまかせると、ろくなことがない!

 と、リュウとリンクが口を挟もうと思ったときのこと。

「竿を短くねーっと♪ あーらよっと♪」

 バキィッ!!

 と、グレルがカゴを結び付けている竿を真っ二つに。
 当然のごとく、葉月ギルド長がスピーカーを通して怒鳴る。

「こっ、こらグレル!! 何をしているのだ!!」

「お?」グレルがきょとんとして、リュウたちの顔を見回した。「駄目なのかぁ?」

 当たり前である。

「それならそうと、ルールに書いとけってーの」

 いや、普通折らないし。

 そして再び、失格とされたリュウ一行。

 只今の得点は。
 猫組229点、犬組240点。
 ジャンプ力のある猫モンスターが1位と2位を掻っ攫って犬組に追いついてきたというものの、リュウ一行はまたしても役に立てなかった。

 やばい。
 これじゃあ、リュウ一行の評判がガタ落ちだ。
 半ば無理矢理に気を取り直し、予定表を見て次の競技をチェックする。

 レオンが言う。

「大玉転がし、だって。1人と1匹が1組となって、大玉転がすんだったよね?」

「ああ」リュウが頷いた。「転がしてスタート地点から200m先にあるコーンを回って、帰ってきてゴール。リレー式で、俺たちがまかせられたのはアンカー」

「大玉って……」リンクが苦笑した。「直径1.6mの鉄球らしいで。しばらく師匠には引っ込んでてもらおうと思ったけど、これ師匠向きやな。ほな、師匠とそのペットで行って来いや」

「おうっ、任せろぃっ♪」と、グレルがレオンを左肩に乗せ、「どんなに犬組より負けてても、オレが取り返しちゃうぞーっと♪ がっはっはー!」

 張り切った様子でスキップしながら選手の集まる場所へと駆けていった。
 その背を見つめながら、リンクは不安になって訊いてみる。

「なあ、リュウ。ほんまに大丈夫やんな、師匠で」

「大丈夫だろ……たぶん。どう思う、キラ」

「さすがに鉄球を破壊するとは思えぬし、大丈夫ではないか? ……おそらく。どう思う、ミーナ」

「大丈夫ではないか? ……きっと」

 誰一人『大丈夫』と言い切らない中。
 大玉転がしが始まった。
 犬組と抜かし抜かされ、接戦する。
 グレル・レオンペアに渡る頃には、猫組がリードしていた。

「よし!」

 行け!
 グレル!
 今こそ名誉挽回だ!

 リュウとキラ、リンク、ミーナは期待に胸を膨らませた。

 と、いうのに。
 スタート地点でグレルが直径1.6mの鉄球を持ち上げ、

「そーーーれいっ♪」

 と、コーンに向かってぶん投げた。

 グシャッ!

 とコーンが破壊し。  地に落ちた鉄球が、

 ズドオォーーーーーン……!!

 と辺りに地響きを響かせる。

「そーら、鉄球はもう先に行っちゃったぞ♪ さあっ、走るぞレオン♪」

「なっ、なっ、なっ…!! 何してんだよグレル!! こ、これじゃまた……!!」

 恐る恐る葉月ギルド長に顔を向けたレオンと、離れたところで見ていたリュウたち。

 ギルド長の声がスピーカーからキンキンと響き渡る。

「なっ、なんっっっってことをしてるんだグレルーーーー!!! 危ないだろうがーーーー!!! 失格っ、失格だぁーーーーーーーーっっっ!!!」

「…………」

 あぁ…、やっぱり任せるんじゃなかった……。

 リュウ一行(グレル除く)、深く、それはもう深く深く後悔。

 只今の得点。
 猫組279点、犬組340点。
 また犬組に大きくリードされてしまった。

   やばい。
 リュウ一行に猫組からの冷たい視線が突き刺さる。

「や、やばいぞ」キラの顔が強張る。「や、やばいぞこれはっ! もう、絶対に失格にはなれん!! 今度は、前とは別の意味で葉月島を歩けなくなるぞっ!!」

「ま、まったくだぜ!!」リュウが続いた。「名誉挽回しないとやべえ!! おい、リンク!! 次の競技は!?」

「午後からリレー・女子の部、そのあと男子の部や! おれたちに任せられてるのは、女子の部のアンカーと、男子の部の第一走者からアンカーまで全て!」

「今度は男と女に分かれているのだなっ! よ、よぉぉぉし!!」キラが気合を入れる。「まずは私が名誉挽回してくるのだあぁぁぁあぁぁぁあ!!」
 
 
 
 校庭の端っこで肩身狭く昼食の弁当を食べたあと、リュウ一行はキラと一緒になってリレーのスタート地点に集まった。

 リレー・女子の部は、第一走者が400m、第二走者が600m、第三走者が800m、そしてアンカーが1000m走ることになっている。
 第一走者から第三走者までは頭に鉢巻を巻き、アンカーのキラは鉢巻に加えて肩からタスキを掛けている。

「うーわぁ」リンクが苦笑する。「アンカー1kmて……。初っ端からダッシュすると後半ばてんで、キラ」

「何を言っている、リンク。それは人間の話だ。でもまあ、前半は力抜いて走るぞ」

 キラが言いながら、もう始まっているリレー・女子の部の様子に顔を向けた。
 猫組と犬組共に、2チームずつ。
 1位は犬組で、キラのチームは現在2位だった。

「今んところ、余裕だな。だが、」と、リュウ。「第三走者が人間の女だぜ」

「だね」レオンが苦笑する。「足に自信があるから出たんだろうけど、最下位になる可能性あるよ」

 そんなリュウ一行の心配は的中することに。

 第三走者にバトンが渡り、アンカーたちがスタート地点に並ぶ。
 前半は順調に見えたキラチームの第三走者だったが、やはり人間となっては後半でモンスターとの差が出てきた。
 2位から3位に、3位から最下位へ、最下位から半周遅れへ。

「………………」

 リュウ一行、絶句。

 キラの傍らに並んでいた犬組の犬2匹が、キラに向かって言う。

「ふん、開始前から大口叩いておいて、こんなものか?」

「大したことないな」

「じゃ、おっ先ー♪」

「おっ先ー♪」

 なんて鼻で笑い、キラに向かって尻をぺんぺんと叩き、バトンを受け取って走っていく犬たち。

「……」

 リュウたちは、スタート地点に1匹で立っているキラに顔を向けた。
 そして確信する。

(ああ……、勝ったな)

 主と同様、誇り高いキラを挑発した犬たちを尊敬してしまう。

 小刻みに震えるキラの身体。
 鋭い爪が光り、牙がむき出しになる。
 殺気が漂い、ガラスのような髪がゆらゆらと浮き出す。

「おのれ…! おのれ、犬共がぁっ……!!」

 キラが靴を脱ぎ捨て、靴下を脱ぎ捨てた。
 砂を足の爪でかき、突進の準備万端。

 3位から大分遅れて、よれよれとキラの元へとバトンを持ってきた第三走者。

「ごっ、ごめんなさ――」

「ええいっ!!」

 第三走者からバトンを奪い取り。

 いざ。

 キラ突進!!

「許さあぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁん!!!」

 シュタタタタタタタタタタタタタタタタタァーーーーー!!

 目にも留まらぬ足の回転率で、キラが今日ここに集まっている全て者の度肝を抜く。

 マッハで走って走って走りまくる。

 おのれ犬共め!
 強きブラックキャットとしてこの世に生まれ、
 偉大な父上の血を引き、
 葉月島最強の超一流ハンター・リュウを主に持つこの私を、
 よくも侮蔑してくれたな!

 おのれ!

 おのれおのれ!

 おのれおのれおのれ犬共がぁ!!

 後悔させてくれる!!

 平伏させてくれる!!

 切り裂いてくれるわあぁぁああぁぁぁぁぁ!!!

 キラを目で追いながら、リンクが青い顔をして口を開く。

「なあ、リュウ」

「なんだ」

「作者が絵ドヘタクソが故に、これ漫画にできへんで良かったな」

「なんで」

「今のヒロインの顔、読者様にお見せできるか?」

「……。…モザイクかける」

 葉月ギルド長が興奮した様子でマイクを握る。

「おおおおおお! 我らが超一流ハンター・リュウの愛猫キラちゃん!! すごい!! すごいです!! なっ、なんという速さでしょう!! 今、3位の猫組を抜かしました!! 1位と2位の犬組を追います!! 追いかけます!!」

 キラはあっという間にコースの後半へと行き。
 葉月ギルド長がさらに興奮して実況を続ける。

「キラちゃん、すごい!! すごすぎる!! 後半になってさらにスピードが上がりました!! あまりの速さに愛らしい黒猫の耳は風の抵抗で折れ、その美しく銀色でガラスのような髪の毛がカツラだったら吹っ飛ばされています!! 良かった!! 良かったねキラちゃん!! カツラじゃなくて良かったぁーーーーー!!」

 興奮のあまり、おかしな実況をする葉月ギルド長。
 1位、2位を走っている犬組にキラが追いついていき、立ち上がって実況を続ける。

「おおおおおおお!? キラちゃん、もう少しで2位の犬組に追いつきます!! やはりリュウの愛猫です!! 速すぎて最早人間の視力では見えない脚!! 只ならぬ気迫溢れるオーラ!! 何故だかムンムンと漂っている殺気!! 普段の美しさと可愛らしさはどこへやら、鬼のような形相!! どれを取ってもリュウのペットであることが納得できます!! すごいすごいすごい!! これはすごい!! 逃げろ!! 逃げろ逃げろ逃げろ犬組!! 追いつかれるぞ!! それどころか殺されそうだ!! あっ、抜かす!! 抜ーかーーさーーーれーーーーるぅーーーーーー!!!」

 キラが2位を走っていた犬を抜かし。
 ギルド長の興奮は最高地点へ。

「抜かしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!! 残りは1位だけです!! 追う!! キラちゃん追う!! さらに加速して追いまくるーーーーーーーっ!!! 怖いっ!!! これは怖い!!! 何という気迫と殺気だ!!! 1位のワンちゃん顔面蒼白、ちびりそう!!! 涙目です!!! 逃げろ逃げろ逃げろ!!! あぁぁーーっ、駄目だ追いつかれるぅーーーーー!!! キラちゃんに――いや、キラ様に追いつかれるぅーーーーーー!! 来た来た来た来たぁーーーーーーー!!! 来たぞ!!! 来た来た来た来た来た来たぁーーーーーーー!! ダークキラ様降臨だあぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!! 今、コースから1位のワンちゃんを吹っ飛ばし、キラ様ゴーーーーーーーーーーーーーール!! 猫組、大・大・大・大逆転だぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 大歓声を上げるリュウ一行と、猫組。

「キラ!! よくやったぜ!! さあっ!!」

 褒めてやるから俺の胸に飛び込んで来い!

 とゴールで待っていたリュウは両腕を広げたが。
 キラはアンカーの犬2匹の頭を引っつかんでどこかへと引っ張っていく。

「……」

 あぁ…、キラ。
 そうか、そうだよな。
 まずは先にそっちを楽しんできて良いぞ。
 でも、三途の川に送らない程度にな。

 リュウが片腕をあげ、キラの背を見送る。
 そこへリンクたちが駆けて来た。

「さっすがキラやったな!」と、リンク。「あれ? キラ、どこ行くん?」

「ワンコと大切な用に赴かれたぜ」

「…………」

 あぁ…、そうか。
 そうですよね、キラ様。
 どうぞお手柔らかに……。

 リュウに続き、リンクたちも片腕をあげてキラの背を見送った。

 そしてキラの活躍により、猫組に大きく得点が足される。
 よって、只今の得点は。
 猫組479点、犬組440点。
 猫組、逆転!

 リュウ一行、名誉挽回!

「よぉし……!」リュウが気合を入れる。「次は俺たち、男の番だぜ!」

「そうだなっ♪」

 と、グレル。

「いや、あんたは引っ込んでて」

 リュウとリンク、レオンは声を揃えて突っ込んだ。
 グレルがぶーぶーと口を尖らせる傍ら、リュウとリンク、レオンは顔を見合わせる。

「準備はいいか、リンク、レオン!」

「おう!」

「よっしゃ、行くぜヤロウ共!!」

「合点アニキ!!」

 リュウとリンク、レオンは雄叫びを上げた。

 只今猫組テンション最高潮☆
 葉月島ハンター&猫モンスターVS文月島ハンター&犬モンスター運動会IN葉月島葉月町葉月小学校校庭。
 さらに続く――。
 
 
 
 
次の話へ
前の話へ

目次へ
感想掲示板へ
小説トップへ
HOMEへ
inserted by FC2 system