第27話 運動会〜その2〜


 引き続き。
 葉月島ハンター&猫モンスターVS文月島ハンター&犬モンスター運動会IN葉月島葉月町葉月小学校校庭。

 午前の部、最初の徒競走が終わった。
 この時点で猫組89点、犬組80点。
 わずかに猫組――葉月島が上回っていた。

 午前の部、次の競技は二人三脚。
 リレー方式で行い、リュウ一行からは一組がアンカーとして出るように言われていた。
 距離は徒競走に続き、校庭一周――400mだ。

「二人三脚かぁ。誰と誰がええかなぁ」

 と、リンク。

「愚問だぜ、リンク」と、リュウがにやりと笑う。「こういうのは阿吽の呼吸が大切だ。つまり、この俺と!」

 リュウがキラの肩を組んだ。

「この私に!」

 と、キラがリュウの腰に腕を回した。
 2人声を揃えて言う。

「決まっている!!」

「おおーっ」ミーナが声を高くした。「リュウとキラとなると、ものすごく速そうだぞーっ」

「だなぁ」うんうんと、グレルが頷いた。「どっちも俊足だし、ダントツなんじゃねーかっ♪」

「まあ、そうだね」レオンも同意した。「これはいけるかも」

「せやなぁ」リンクも同意した。「よっしゃ! ミーナに続いて、次も1位頼むで、リュウ、キラ!!」

「おうっ!!」

 と、気合たっぷりで声をそろえたリュウとキラ。
 リュウがキラを左腕に抱っこし、二人三脚の選手が集まる場所へと歩いていく。
 その自信満々の背を見送りながら、リンクは笑った。

「あいつら、えらい仲良いし、息はぴったりやし、おまけに似た者同士やし、見事な二人三脚見せ付けてくれるんやろうなぁ」

「そうだね」レオンも笑いながら同意した。「ものすごく注目浴びるんだろうな、リュウとキラのペア」

 と、リュウ一行は誰もがリュウとキラが1位を掻っ攫ってきてくれると信じていた。

 二人三脚が始まり、2組の猫チームは見事1位と2位を独占。
 しかもリュウ・キラのいる猫チームは1位だ。
 これで1位は確実だろう。

「おおーっと!」実況を語る我らが葉月ギルド長が、熱く声をあげる。「1位の猫チームが、もう少しでアンカーにタスキを渡そうとしています! アンカーは葉月島ハンターの代表の中の代表と言っても良いほどの男と、その美しき愛猫ちゃんです! 超一流ハンター・リュウと、ブラックキャットのキラちゃんです!」

 猫組の歓声がわっと大きくなった。

 葉月ギルド長がますます声を熱くあげる。

「もう少しだ! もう少しでリュウとキラちゃんにタスキが……!?」

 リンクとミーナ、グレル、レオンも声を張り上げる。

「行っけえええええええええええええええええ!!」

「今、タスキが渡ったああああああああああああああああ!!」

 張り裂けんばかりの声援の中。

「行くぞ、キラ!」

 リュウが気合を入れた。

「行くぞ、リュウ!」

 同時にキラも気合を入れた。
 声を揃え、

「せーのっ!!」

 今、走り出した――!

 のだが。

「――!?」

 し、しまった……!

 リュウ一行は一斉に思った。

 コンパス(脚)の長さが違いすぎる!
 30cmの身長差はありすぎた!
 よく見れば、リュウの腰がキラの胸の下まで来ているじゃないか!
 まるで歩幅が違いすぎる!
 何で誰も気付かなかったんだ!

「なっ…!? お、おい、リュウっ!」キラの頬がぼっと熱くなる。「なっ、何だその小股歩きは!? わ、私の脚が短いみたいではないか!」

「し、身長差があるんだから仕方ねーだろっ! 俺の歩幅に合わせたら、おまえの股が裂けんぞっ…!」

「た、たしかにそうだがっ…! で、でもこれは恥ずかしいぞっ……!」

「俺のが恥ずかしいっ!」

 リュウは突っ込んだ。

 だって、キラ。
 俺、おまえの歩幅に合わせてんだぞ?

 おまえは軽やかに、

 タッ、タッ、タッ、タッ。

 と走るが。

 俺なんて、

 テケテケテケテケ。

 って歩いてんだぞ!?

 キラ、おまえ。
 もうちょっと歩幅広げてくれ!
 何で俺の通常の半分の歩幅なんだ!?

 見ろ!

 俺、すげー小股!

 しかも俺、すげー早歩き!

 そして何より俺、傍から見たらすげー面白い!

「あーーっはっはっはっは!」葉月ギルド長の笑い声がスピーカーから響く。「リュウ、笑いはバッチリ取れたぞ!」

「うっ、うるせえオッサン! マイク通して爆笑すんなっ!!」

「ほら、余所見してないで走ってくれ! 最下位じゃないか!」

「――なっ」恥ずかしさに俯いていたキラが、はっとして顔をあげた。「何ィ!? し、しまった! つい走る速度が落ちてしまったぞ! おい、リュウ!」

 キラが気合の入った顔で、リュウを見上げた。

「な、なんだキラ」

「速度あげるぞ!」

「――!?」

 待ってくれ!

 リュウは心の中で叫んだ。

 これ以上俺に超小股早歩きしろっていうのか、おまえは!?
 おい、キラ――

「うおぉりゃああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁ!!」

 キラが大声を上げた。

 次の瞬間。
 キラが脚の回転速度を上げていく――!

 タッタッタッ…!

「ちょ――」

 待ってくれ、キラ!!

 なんてリュウの願い虚しく。

 テケテケテケ…!

 キラに合わせて、リュウの超小股歩きも加速していく。

 タッタッタッ!

 テケテケテケ!

 タッタッタッタッタッ!!

 テケテケテケテケテケ!!

 タタタタタタタタタタタタタタタタタタ!!!

 テケケケケケケケケケケケケケケ!!!

 リュウの超小股早歩き、加速度MAX!

「あーーーっはっはっはっはっ!!」葉月ギルド長、抱腹絶倒。「すごい! すごいです! リュウ・キラちゃんペア、再び最下位から這い上がって行きます!! これは速い!! さすがは葉月島代表の超一流ハンター・リュウです!! 笑いを取るのも忘れません!!」

「取りたくて取ってんじゃねえ!!」リュウはギルド長に突っ込んだあと、キラを見下ろした。「おい、キラ!」

「なんだ、リュウ!」

「俺が歩きじゃ、2位までは行けても1位は無理だ!」

「や、やっぱりそうかっ?」

「それに、これ以上」と、リュウがキラの腰に手を当てる。「この俺に……!」

「ふにゃあっ!?」突然リュウの脇に抱えられ、キラは驚いてリュウの顔を見上げた。「なっ…!? リュウ……!?」

「恥かかせんじゃねぇーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 リュウがそう叫んだ直後。

「うおぉりゃああぁぁぁぁぁぁあああぁあぁぁぁぁぁあああぁぁ!!!」

 雄叫びと共に全力疾走。

 走れ!
 走るんだ俺!
 走って走って走りまくれ俺!
 キラを脇に抱えて走るんだ俺!
 いつもの大股で猛ダッシュだ俺!
 今ならまだ1位に追いつけるぜ俺!!

 え? 何?
 キラの足が浮いてて二人三脚になってない?
 気にすんな!
 俺とキラは一心同体だぜ!(意味不)

「おおおおおお!?」葉月ギルド長が目を丸くして実況する。「これはすごい!! すごいです、超一流ハンター・リュウ!! あっという間に二組をゴボウ抜き!! 速い!! 速いぞリュウ!! 只今1位の犬組、その迫力に真っ青になりながら逃げます!! 逃げろ逃げろ逃げろ!! 来る! 来るぞ!! 奴がやって来る!! 鬼の形相でやってくる!! 来た…、来た来た来た来たあぁぁ!! リュウが来たあぁーーーーーっ!! 今、犬組を半ば吹っ飛ばす勢いで、リュウ・キラちゃんペアが1位でゴーーーーーーーーーールっ!!!」

 呆気に取られていた猫組から、張り裂けんばかりの歓声が上がった。

 のも、束の間で。

 葉月ギルド長の声が続けてスピーカーから聞こえてきた。

「はい、失格ねー」

「――なっ、何ィ!?」リュウ、衝撃。「な、何故だ!!」

「当たり前だ!!」

 ゴールで待っていたリンクたちが声を揃えて突っ込んだ。

「リュウ……」リンクが呆れたように溜め息を吐いた。「なんっで、おまえってそう、たまに正しい判断ができなくなんねん。キラの飼い主って感じやなぁ、もう。1位取ってきてくれるんやなかったんかい……」

「う、うるせぇっ……」

 葉月ギルド長がスピーカーを通して怒鳴る。

「なぁぁぁにをしているんだ、リュウ!! あんなことをしたら失格に決まっているだろう!! 猫組に50点、犬組に100点だ!!」

 猫組から漏れる落胆の声と、犬組から沸き上がる歓喜の声。
 リュウが四つん這いになって愕然とする中、得点が足される。

 よって、只今の得点は。
 猫組139点、犬組180点。
 今度は犬組が大きくリードとなった。

 レオンが仕方ないと溜め息を吐いて苦笑し、運動会の予定表に目を落とした。

「次の競技で頑張ろう」

「う、うむ。そうだなっ」リュウと一緒に愕然としていたキラが気を取り直し、レオンの見ている予定表を覗き込んだ。「ええと次は……? ほお、私たち全員で玉入れか」

「玉入れ?」リンクが鸚鵡返しに訊いた。「意外なのきたな。おれたちに任せられるのって、こう、いかにも体育会系向きのものだけかと思ってたで」

「ああ、それな」グレルが言う。「ギルド長がよ、オレたちの猫がはしゃぐ姿が見たいんだってよ。こう、玉入れできゃっきゃとな♪」

「きゃっきゃ…?」リュウが呟いた。「俺のキラがきゃっきゃとはしゃぐ……? かっ…、可愛いじゃねーか、こんちくしょうっ!」

 リュウ、復活。
 立ち上がり、気合を入れなおす。

「よぉし……! 次こそ勝ぁぁぁぁぁぁぁつ!!」

「おーーーーっ!!」

 リュウ一行の雄叫びが、秋空に響き渡った。

 盛り上がる葉月島ハンター&猫モンスターVS文月島ハンター&犬モンスター運動会IN葉月島葉月町葉月小学校校庭。
 まだまだ続く――。
 
 
 
 
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