第26話 運動会〜その1〜
キラがテーマ『芸術の秋』で芸術的な(?)リュウを描き、ミーナ、レオンのを抑えて堂々大賞を取ったのは先週のこと。
次の遊びのテーマは何にしようかと、リュウ一行はいつものリュウ・キラ宅リビングで考える。
「うーん」リンクが唸る。「次は何がええかなぁ? 『読書の秋』とか? …いや、駄目や。開始1分で眠る奴出てくるで」
「うーむ」キラも唸る。「たしかにな。普段読書をしているのは、レオンしか見たことないぞ。私たちには向かないな」
「んじゃあ、アレだな♪」と、グレル。「次に来るのは『食欲の秋』だろ♪」
「食欲の秋…」リュウが鸚鵡返しに呟き、眉を寄せた。「師匠、あれっすよ。もう大食いなんか出たくねえ」
「あー、でたくないわ」リンクが苦笑して続いた。「あの第14話で一番辛い思いをしたのは、このおれやからな」
「何だよ、嫌なのかよ。せっかくまたテレビ局が来るっていうのに。まったくおまえらはワガママだな」と、溜め息を吐くグレル。「んじゃあ、どうするよ?」
「うーむ」キラが再び唸る。「残ったものとなると、『スポーツの秋』か?」
それしかないだろうか。
リュウ一行がそう思ったとき。
RRRRR……
リュウの携帯電話が鳴った。
知らないようで、見覚えのある番号。
リュウは眉を寄せて電話に出た。
「もしもし……?」
「…もしもしぃ…?」
電話の声を聞き取ったキラが、尻尾を逆立てる。
「なっ…、何故奴が!? 何故だ!? リュ、リュウ! な、なななな、何故だ!?」
「ど、どうしたの?」レオンがキラの様子を見て訊く。「どうしたの、キラ?」
「あ、あやつだぞ!」と、ミーナ。「キラがもしかしたら、この世で一番恐れる人間かもしれない、あやつだぞ!」
「お?」グレルがきょとんとして訊く。「誰だ?」
「ああ、あれやな……」リンクは苦笑した。「あれやろ? あいつやろ? リュウ。また秋に云々言ってたし」
「ああ……」リュウが溜め息を吐いた。「あいつだよ。ゲール」
文月島の超一流変態且つハンター・ゲール。
その名を聞いた途端、キラは尾をますます逆立て、牙を剥く。
必死にリュウにしがみ付き、リュウの電話の相手であるゲールに向かって威嚇をする。
一同はリュウの携帯電話に耳を寄せた。
ゲールが言う。
「…ふふふ…。…引き続き、調査の手伝いをお願いするよ…」
ゲールのいう調査とは、葉月島に生息するブラックキャットと文月島に生息するレッドドッグ、どちらがより最強かというもの。
梅雨に力を調査したときは互角という結果が出た。
ゲールが続ける。
「…ブラックキャットとレッドドッグの力は互角…。…しかし、運動能力の高さまでは計りきれなかった…」
「で?」
「…スポーツの秋…」
「――!?」キラがぎょっとして、きょろきょろと室内を見回す。「なっ、何故さっき私たちが話していたことを!? み、見てるのか!? み、みみみみ、見てるのか!?」
ゲールが言う。
「…ふふふ…。…見てないよ…?」
「変態は相変わらずだな」リュウは言い、溜め息を吐いて訊いた。「んで、スポーツの秋が何だってんだよ」
「…予定日は今日から一週間後、晴れまたは曇りだったら決行だからね…」
「? おい、何の話だ」
「…ふふふ…。…みんなで楽しもうねぇー…」
「だから何の話かって聞いてんだよ」
「…ふふふ…。…そろそろ葉月ギルド長から連絡あるんじゃなーい…?」
「は…?」
「…それじゃ、ばいばーい…」
電話が切れる。
リュウ一行が口を開く間もなく、次は葉月ギルド長から電話が掛かってきた。
「もしもし」
「もしもし、リュウー? あのねー、ちょっと一週間後に楽しいことやるよー」
「……。それってゲールの調査すか」
「あー、もうゲール君から聞いたー?」
「内容までは聞いてないっす。何やるんすか」
「葉月島猫モンスターVS文月島犬モンスター運動会IN葉月島葉月町葉月小学校校庭」
「はあ?」リュウは眉を寄せた。「猫モンスターと犬モンスターの運動会?」
「飼い主であるハンターも参加だから、リュウとリンク、それからグレルにもよろしく言っておいてねー」
「ちょっと待っ――」
「頼んだよ、リュウ」ギルド長がリュウの言葉を遮った。「ゲール君の調査はブラックキャットとレッドドッグの運動能力を調べることだけどー、同時に葉月島のハンターと文月島のハンターの運動能力も分かるんだからね。文月島ハンターに負けたら悔しいだろう? じゃ、リュウとキラちゃん、リンクとミーナちゃん、グレルとレオン君に出てもらいたい競技のファックス送るから。じゃ、よろしくー。じゃ、がんばってー」
電話が切れる。
「……」
リュウ一行は顔を見合わせた。
「私たち猫と、犬どもが勝負…とな?」キラの瞳が光る。「ほほう……?」
「俺たち葉月島ハンターと、文月島ハンターどもが勝負…だと?」リュウの瞳も光る。「ほほう……?」
リュウとキラが、同時に立ち上がった。
「ぜってー負けねーぞ文月島ハンターども!!」
「犬どもめ、覚悟するのだ!!」
「覚悟するのだーっ!!」ミーナも立ち上がった。「犬などに、絶対負けぬぞ!!」
「よっしゃあ!!」リンクも立ち上がる。「文月島ハンターどもに、おれらの強さを知らしめたるでー!!」
「おう!! これぞ『スポーツの秋』ってな♪」グレルも立ち上がった。「ワクワクするぜぃっ!!」
どうしてこう、この人たちって勝負ごとが大好きなんだろう。
ていうか、リュウとかキラ、さっきまで物凄く嫌がってたよね。
レオンは心の中で突っ込んだあと、皆に付き合って立ち上がった。
リュウが言う。
「よぉし……! 狙うは勝利だ!!」
「おーーーーーっ!!」
リュウ一行の雄叫びが部屋の中に響き渡った。
一週間後。
秋晴れの空の下。
リュウ一行は、葉月島葉月町葉月小学校の校庭にいた。
リュウ一行の前には、集まったハンターとペット――ブラックキャットやホワイトキャット、ミックスキャットが並んでいた。
普段は仲が悪い者たちも、今日だけは力を合わせる。
張り詰める緊張感の中、口を開いたのはキラだ。
「ついに…、ついに来たぞ、この日が!! 皆の者、準備は良いか!?」
「はい!!」
「絶対に勝つのだーーーーーーっ!!」
「おーーーーーーーーっ!!」
声を張り上げる『猫組』。
同時に文月島からやってきたハンターと犬モンスターの『犬組』も声を張り上げた。
猫たちが一斉に牙を剥き、
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
犬たちも一斉に牙を剥く。
「ガルルルルルルルルルルルルルルルルル!!」
葉月島ハンターたちと文月島ハンターたちはギラギラと睨み合い、開会式の前からピリピリとした空気が流れていた。
猫組の実況を熱くマイクで語るのは我らが葉月ギルド長、犬組は文月ギルド長。
ギルド長同士が開会式でそれぞれ挨拶を交わし、選手宣誓が終わったら運動会開始となる。
選手宣誓はリュウが出る予定だったのだが、犬組から犬モンスターが出てきたのを見てリュウは足を止めた。
「相手、犬モンスターか。んじゃ、キラが行って来い」
「わかったぞ!」
と、キラ。
リュウに変わって選手宣誓へ。
マイクの前に堂々と立ち、右手を挙げて言う。
「すべての猫モンスター及びハンターを代表し、我々の島の名誉のため、そして我々の誇りのため、文月島の犬とハンターを全力でぶっ潰すことをここに誓う!」
「ぶっ!」スポーツドリンクを飲んでいたリンクは思わず噴出した。「あっ、あのバカ猫、なんちゅー選手宣誓すんねんっ! いきなり喧嘩売りよったで!」
「良いじゃねーか、盛り上がるぜ」
と、リュウはにやりと笑う。
キラの選手宣誓でわなわなと怒りに震える犬組。
「すべての犬モンスター及びハンターを代表し、我々の島の名誉のため、そして我々の誇りのため、葉月島の猫とハンターを全力でぶっ潰すことをここに誓います!」
そして買われた喧嘩。
只ならぬ気迫と唸り声の中。
『葉月島ハンター&猫モンスターVS文月島ハンター&犬モンスター運動会IN葉月島葉月町葉月小学校校庭』が始まった――!
午前の部の最初を飾る競技は、校庭を一周する400m徒競走。
リュウ一行からは、1人または1匹が出ることになっている。
「400mってなんやねん」リンクは苦笑した。「人間からしたら、きついっちゅーねん」
「ハンターがだらしねーこと言ってんじゃねーよ」リュウは言い、徒競走の選手として出てくる犬たちに顔を向けた。「相手の犬は子供が多いな。よし、ミーナ行って来い」
「えっ?」ミーナの声が裏返った。「いっ、いきなりわたしかっ?」
キラがミーナの背を押す。
「よし、ミーナ行って来い! がんばるのだ!」
「よ、よし! がんばるぞ!」
皆の応援を受け、ミーナが400m徒競走に出ることに。
ミーナがどきどきとした様子で選手の集まる場所へと駆けていく。
「大丈夫かなぁ、ミーナ」レオンが心配そうに言った。「1位取れなかったら、泣き出す気がするよ」
「ふっふっふ」キラが笑った。「大丈夫だ、レオン。正々堂々たる勝負というもの、あまりこういうことはしたくないのだが…。可愛いミーナのため、私は策を使うぞ」
「おい、キラ」リンクは苦笑した。「またバカなこと言い出すんやないやろうな?」
「何を言っておるのだ、リンク。私がバカなことを言ったことがあったか?」
「いつもやん」
「冗談は顔だけにするのだ、リンク♪ 本当面白い奴だな、あはは」
「おま……」
「ほら見ろ、ミーナが一番始めに走るぞっ! では、私は策の実行へ向かう!」
と、キラ。
辺りをきょろきょろと見渡したかと思うと、30cmほどの木の枝を拾って駆けて行った。
スタートから4分の3走ったところにある、カーブのところだ。
「…何や?」リンクは眉を寄せた。「なあ、リュウ。キラの奴、何するんやと思う?」
「遠目でも可愛いな、俺の黒猫」
「聞いとんのか、おまえは! …ん? あれ? キラの近くにレッドドッグも駆け寄って行ったで?」
「……」リュウは眉を寄せて、キラの近くにいるレッドドッグを見た。「あの犬も、手になんか持ってねえ?」
「え……」リンクも眉を寄せる。「あれ、ほんまや。何持ってるんやろ、あの犬」
リュウとリンクが不審に思っていると、ピストルの音と共に歓声が響き渡った。
徒競走一組目は、ミーナを含めた猫が3匹と犬が3匹。
「がんばるのだああああああああああああああああ!!」
ミーナが走る!
がむしゃらに走る!
がんばれミーナ!
校庭の半分まできたぞ!
1位は犬モンスター!
2位も犬モンスター!
3位にミーナだ!
(よし、まかせろミーナ!)
キラがにやりと笑い、手に持っていた木の枝を走っている選手たちに見えるように高く掲げた。
選手たちがキラの近くまで来ると、キラが木の枝をぶんぶんと振って言った。
「ほぉーら、ワンワーーン♪ 取ってこーーーーーーいっ!!」
キラがポーンと木の枝を投げ、
「わぅーーん、わんわんっ♪」
犬モンスター選手たちはそれを追ってコース逆戻り。
「はっはっはー! 所詮は犬よーっ!」
と、高らかに笑ったキラだったが。
「にゃあああーーーんっ♪」
なんてミーナの楽しそうな声が近くで聞こえ、はっとして振り返る。
「――なっ!?」キラ、驚倒。「何をしておる、ミーナ!」
犬選手はコースを戻って行ったが、猫選手たちはキラの傍らにいたレッドドッグに駆け寄っていた。
その原因は。
「ね、ねこじゃらし…だとぅ!?」
キラが木の枝を投げる一方で、傍らにいたレッドドッグはねこじゃらしをパタパタと振っていた。
「お、おい、赤犬!! き、貴様、卑怯だぞ!!」
「そ、そういう貴様だって、卑怯だぞ!! 黒猫!!」
ぎゃあぎゃあと揉め出すキラとレッドドッグ。
慌てて駆けつけてきたリュウとリンクは叫んだ。
「ミーナ、早く走れ!!」
「――ハッ!」すっかりねこじゃらしに魅了されていたミーナは、我に返って駆け出した。「いっ、今のうちにゴールにゃあああああああああああ!!」
無事、ゴールの紐を1位で駆け抜けたミーナがちぎった。
2位、3位と猫が掻っ攫い、リュウ一行は拳を突き上げる。
「よっしゃあ!」
ミーナがぴょんぴょんと跳ねながら戻ってきて、キラの胸に飛びついた。
「やったぞーっ!! わたし、1位取ったぞーっ!!」
「おー、よしよし!」キラがミーナの頭を撫でる。「よくやったぞ、ミーナ! おまえはえらい!」
「キラのおかげだぞ?! 所詮は犬だな!」
「うむ! 所詮は犬よ!」
高らかに笑うキラとミーナ。
(でも、ミーナも所詮猫だったよね)
そんなことを心の中で突っ込んだあと、レオンは訊いた。
「次の競技はなんだっけ?」
「ええと、次はー」と、リンクが予定表を見て言う。「二人三脚、やな」
「よぉし……!!」
リュウに気合が入り、一行は表情を引き締めた。
リュウが言う。
「引き続き、1位を掻っ攫うぞ!!」
「おーーーーーっ!!」
リュウ一行の雄叫びが、秋晴れの空に響き渡った。
葉月島ハンター&猫モンスターVS文月島ハンター&犬モンスター運動会IN葉月島葉月町葉月小学校校庭は、まだまだ続く。
次の話へ
前の話へ
目次へ
感想掲示板へ
小説トップへ
HOMEへ