第2話 ホワイトキャットキャット


「ホワイトキャットやブラックキャットは、自由奔放で自己中心的。特にその傾向の強いメスは馴らすまでに時間を要するけど、主と認めた相手にはとっても甘えん坊☆ そんなコケティッシュなNYANKOをあなたも飼ってみませんか?」

 と、今月号の『NYANKO』の特集記事を読みながら、悶えているのはリンクだ。
 リュウの部屋のリビングのソファーの上で、じたばたと大暴れ。

「飼いたいわあああああああ!!」

 リンクがキラを初めて見て、あまりの美しさに失神したのは1ヶ月前のこと。
 それから迷惑なくらい遊びに来るリンクに、リュウは溜め息を吐いて言う。

「うるせーな、静かにしろよ。諦めたんじゃなかったのかよ」

「やっぱり飼いたい飼いたい飼いたいぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「うるせーつってんだろ。……ああ、ほら、起こしちまった」

 リュウが言いながら、膝枕で眠りから覚めたキラの頭を撫でた。
 キラが手の甲で瞼を擦る姿に、リンクが再び悶える。

「もっ、萌えぇぇぇぇぇぇ……!」

 キラが伸びをして身体を起こし、リュウの膝の上に座って、寝ぼけ眼を向かいのソファーに座っているリンクに向けた。

「来てたのか、リンク」

「う、うん。起こしてごめんなっ」リンクが頬を染めながら、持ってきたビニール袋を掲げた。「土産持ってきたで、キラ。ほら、ビール」

 ガラステーブルの上にどーんと1リットルのビールの缶を置かれ、キラが笑顔になる。

「ありがとう」

「かっ、かっ、かっ、可愛い……!!」

 鼻から流血寸前のリンクに、リュウは再び溜め息を吐いて言った。

「アホ面してねーで、さっさと続きを読め」

「アホ面言うなっ」リンクは突っ込んだあと、再び『NYANKO』のホワイトキャット&ブラックキャット特集に目を落とした。「えーと、続きは――」

「特殊能力のとこだけでいい、ブラックキャットの」

 と、リュウがリンクの言葉を遮った。
 リンクは言われた通り、ブラックキャットの特殊能力について書かれているところを見つけて口を開いた。

「ブラックキャットは闇属性のモンスターなので、闇魔術を使います。ですが、ほとんどの場合は鋭い爪を利用して戦うことが多く、その魔法を目にしたことがある人は少ないでしょう。……やって。たしかに言われてみれば、ブラックキャットが魔法使うの見たことあらへんな」

「続きは」

 リュウに急かされ、リンクは続ける。

「ブラックキャットの魔法を見たことがある人が少ない理由の一つとしては、ブラックキャットの魔法を見た瞬間に死んでしまうからです。光魔法を多数持っているホワイトキャットとは裏腹に、ブラックキャットの魔法は1つしかないと言われており、その魔法は広範囲を滅ぼしてしまうほど強力なのです。普通の人々はおろか、ハンターさえ消滅してしまうでしょう。……って」リンクが青ざめた。「ほ、ほんまっ? ほんまの情報なんか、これっ?」

「過言ではない」キラが言った。「私たち…人間がいうブラックキャットは、いざというときにしか魔法を使わない。自分の身も危ないからだ。魔力があればあるほど、己の身も滅ぼすことになる。破滅の呪文だ」

「ふーん……。じゃあ、おまえは一生その魔法を使うことはないな」

 と、リュウ。

「せやろなあ」

 リンクは同意した。
 だって、リュウがキラをそんな危ない状況にさせるわけがないから。
 リンクの知っているリュウは、無愛想で無表情で、ハンターの中でもずば抜けて強くて、仕事以外のときはなるべく1人でいることを好む一匹狼のような男だった。
 それが、約一ヶ月前から変わった。
 キラを飼い始めてから、リュウが変わった。
 あれだけ無愛想で無表情だったのに、キラといるときは、柄にもなく時々優しく微笑む。
 優しい声で、キラに話しかける。
 キラを守るためか、力は以前に増して、まるでバケモノ並の強さになった。
 仕事にキラを連れて行ったときは、必ずキラを後方に下がらせて戦闘の流れ弾を食らわせないようにし、キラを留守番させているときは3時間かかりそうな仕事でも30分で終わらせて帰路へと着く。
 あれだけ一匹狼でいることを好んだのに、キラを飼ってからは専らキラと2人でいることを好むようになっていた。

(リュウ、幸せそうやな)そんなことを思って、微笑んだリンク。(……でも)

 瞬時に笑顔が消えた。

「真昼間から始めんなやっ!!」

 顔を真っ赤にして突っ込む。
 リュウが突然、キラをソファーに押し倒したものだから。
 リュウの鋭い瞳がリンクの顔を捉える。

「うるせーな、しばらくやってねーんだからやらせろよ。早く帰れ」

「しばらくって、いつからやねん」

「今朝」

「……どついてええか」

「やってみろ」

「ゴメンナサイ」

 リンクは冷や汗をかきそうになりながら立ち上がった。
 玄関へと向かっていくリンクに、リュウが振り返って言う。

「あ、おい、リンク。買い物してきて」

「? なんやねん」

「ゴム切れそう」

「ゴム?」リンクは一瞬眉を寄せた。「ああ…、コンドームな。まったくもう……、そこのコンビニで買ってくるから待っててや」

「いや、そこのコンビニじゃ売ってねーから3丁目のドラックストアまで行ってきて」

「ゴムにこだわりあんのかい」

「サイズがねーんだよ」

「サイズ……」鸚鵡返しに呟いたあと、リンクはにやりと笑った。「ははーん……、おまえ実は、Sサイズやな? かわええとこもあるやないかい。あっはっはっは――」

「いや、特大」

「……」

「早く行って来い。1ダースな」

「…イッテキマス」

 リュウから投げ渡された車の鍵を受け取り、リンクはリュウの部屋を後にした。
 
 
 
 葉月島葉月町3丁目のドラッグストアの駐車場にリュウの車を停めたリンクは、数分前から鳴っている携帯電話を手に取った。

「はいはい、リンクやけどー」

 相手は葉月町ギルドのギルド長だった。

「やっと通じたか、リンク」

「おー、ごめん、ギルド長。車運転しとったん。ほいで、どうしたん?」

「緊急の仕事だっていうのに、リュウの携帯に繋がらないんだよ」

「あー……」リンクは苦笑した。「今、たぶん真っ最中やから……」

「真っ最中って、何のだい」

「いや、何でも」リンクは咳払いをして、話を戻した。「緊急の仕事って、おれも? リュウだけなん?」

「いや、リンクも頼むよ。葉月島の一流ハンターと超一流ハンター総出の、大仕事だ」

「うわ、ほんま?」

「ああ。至急向かってくれ。場所はオリーブ山の麓だ。メスのホワイトキャットが、大暴れしているんだ」

「やっ……、やばいやないかああああああい!!」

 リンクはリュウから頼まれた物を買わずに、車のエンジンをかけなおした。
 警察に見つからないことを祈りながら、見るからにスピード違反でリュウのマンションへと戻る。
 車から飛び降りて、ゆっくり可動しているエレベーターに乗らずに階段を7階まで駆け上がり、廊下を端まで走ってリュウの部屋の前で急停止。
 玄関の扉を蹴り開け、鍵が閉まっている寝室の扉をどんどんと叩く。

「リュウ! 緊急の仕事や!」

「知ってる。ついさっき、ギルド長から電話が来た」寝室の中から、リュウの落ち着いた声が聞こえた。「準備できてんのか、リンク」

「あっ、剣ないわ」

「だと思った」リュウの呆れたような声が聞こえたあと、寝室のドアが開いた。「ほら、貸してやる」

 リュウに剣を渡されながら、リンクは目の前に仕事へ行く準備万端で並んでいるリュウとキラの顔を交互に見た。

「なんや、エッチしてたんちゃうんかい」

「これからってときに、ギルド長から家の留守電にメッセージが入ったんだよ」

「そらお気の毒に……」と苦笑したあと、リンクはキラの顔を見た。「てか、キラも行くん? ブラックキャットとホワイトキャットって、仲悪いんやろ?」

「ああ、虫唾が走るな」

 と、キラ。
 それならどうして、とリンクに疑問を投げかけられる前に、キラが玄関に向かいならがら言う。

「早く行こう、リュウ」

 一番真っ先に玄関を出て行くキラ。それを追うリュウに、リンクも続いた。
 
 
 
 リュウ一行がオリーブ山の麓に着くと、葉月島に住んでいるだろう全一流ハンターと全超一流ハンターたちが集まっていた。

「どんな様子すか」

 そうリュウが声を発した途端、群がっていたハンターたちがリュウの前に一本の道を作った。
 リュウよりも先にキラがその道を歩いていく中、ハンターたちが言葉を発する。

「リュウさん、それがもう、凶暴なホワイトキャットで」

「手に負えそうにありません」

「危険すぎるが故に、もう殺すしか……」

 ホワイトキャットを――モンスターを殺す。
 そんな言葉を、キラがあっさりと承諾するわけがなかった。

「おい、人間ども。下がっていろ」

 キラが群がっているハンターたちを睨んで言った。
 リュウとリンクを除いたハンターたちが後方へと下がると、キラは顔を戻した。
 目の前5メートル先にいる、ホワイトキャットに目をやる。

「……まだ、子供ではないか」

 キラは呟いた。
 ハンターたちが囲んでいたホワイトキャットは、外見年齢10歳から12歳の少女で。
 人間に追い詰められ牙を剥いていたその少女が、キラの姿を見て目を丸くした。

「黒いの…、純粋な……?」

 少女の言う『黒いの』とはブラックキャットのことで、『純粋』とは、野生で育ったことを意味していた。

「ああ、そうだ」

 キラが同意すると、彼女は数秒驚いたあとに声を張り上げた。

「お、おまえ、人間なんぞに心を許したのか! わたしたちと同様、誇り高きブラックキャットとあろうものが……!」

「人間に心を許したわけではない」冷静な様子で、キラが言う。「私は人間が嫌いだ。だが、リュウという人間を愛した。主に選んだ。それは事実に変わりはない。だから人間に心を許したと思われても、仕方がないのかもしれないが」

「この、恥さらしがぁ!!」

 少女が光魔法を放った。
 だが、それはキラへと到達する前にあっさりと消される。
 リュウの一振りの剣で。

「おいっ、キラ! 大丈夫か!?」

 狼狽して振り返ったリュウに、リンクは苦笑しながら言う。

「かすり傷1つあらへんて」

 その過保護っぷり何とかならないものかとリンクが呆れていると、キラがリュウの傍らに並んだ。

「大丈夫だ、リュウ。この白いのの魔法程度では、私は傷を負わない」

「そうか……」

「リュウも下がっていて」

 なんてキラに言われて、リュウはしぶしぶ後方へと下がった。
 それを横目に確認したあと、キラは少女に向かって再び口を開いた。

「おい、白いの。おまえは何故、人間を襲った」

「人間がわたしの住んでいる山へと押しかけ、わたしを捕まえようとしたからだ!」

「やはり……な」キラは、少女の身体に数箇所刺さっている麻酔銃の針を確認した。「私のときと同じだ」

「何……」と、少女が少し目を大きくした。「黒いのも、追われていたのか。それで捕まって売られたのか」

「まさか。人間に捕まって売られるのはごめんだ。あそこに立っているリュウという良い男に」と、キラが顔をリュウに向けた。「助けられてな」

 少女がキラの目線を追って訊く。

「黒い髪と黄色い髪の、どっちだ」

「良い男と言ってるではないか」

「じゃあ黒い髪の方か」

「当たり前だ。黄色い髪はリンクといって、リュウのシモベのような仕事仲間……いや、リュウの仕事仲間のようなシモベか?」

 そんな猫同士の会話を聞いて、リンクは涙目だ。

「どっ、どーせおれなんかっ…おれなんかっ……」

 キラと少女が会話を続ける。

「白いの、知っているか」

「何をだ、黒いの」

「人間によっては、飼われるのも悪くないぞ。私はリュウを主にして幸せだ」

「まあ…」少女が一瞬リュウに目を向けた。「それは少し納得だ。男は見目ではないと思うが、それでも少し納得だ」

「リュウは見目だけではない。人間とは思えないほど強く、私が欲するものは何だって与えてくれるのだぞ」

「ほお」少女が声を高くした。「何でもか」

「何でもだ。食い物も着物も玩具も、心も身体もだ」

「身体もって?」

 と、きょとんとした顔で訊く少女から顔を逸らし、キラは咳払いをして話を続ける。

「おまえにはまだ早かったな。……見よ、白いのよ」と、キラはベルトからぶら下げている袋の中から、ビールの缶を取り出した。「うまいのだぞ、これ。知っているか? ビールというものなのだが」

「知らない。なんだ、それ」少女が鼻をくんくんとさせた。「えらくうまいのか?」

「ああ、えらくうまいのだ」キラがビールの缶を開ける。「じゅるる……ああ、いかん、涎が……」

「……くっ、くれっ!」

 キラの様子を見た少女が、溜まらずといったようにキラに飛びついた。
 興奮してビールの缶を奪う。

「ごくごく……ん!? なっ、なっ、なんっ、なんだ、これはっ……!? う、うますぎるぞ! ごくごくごくごくごく……ぷはぁーっ。た、たまらん!」

 少女があっという間にビールを飲み干す。
 キラは少女の身体から麻酔銃の針を抜いてやりながら続けた。

「ビールはうまいだろう、白いの」

「ああ、うまいぞ、黒いの。もう一本くれっ」

「これは人間から与えてもらうものだ、白いの。……おまえ、名は何という?」

「ミーナだ。黒いの、おまえは何という?」

「私はキラだ。いいか、ミーナ。よく聞け」

 キラが真剣な顔になると、ミーナも頷いて真剣な顔になった。

「よく聞くぞ、キラ」

「ミーナ、おまえはもう、人間から逃れられない。何人か殺しただろう、人間を」

「当たり前だ」

「そうだ、私たちから言わせれば当たり前のことだ。正当防衛っていうやつだ。だが、人間共は勝手なことに、おまえをもう殺そうと考えている」

「何だと……!?」

 ミーナが、後方に下がってこちらの様子を窺っているハンターたちに向かって牙を剥いた。
 キラがミーナの頭を掴んでくるりと自分の方に向かせ、小声になって話を続ける。

「1つだけ、殺されない方法があるのだが」

 キラに合わせて、ミーナも小声になる。

「それは何だ、キラ」

「人間の主を作ることだ」

「な、何!?」ミーナが驚愕の顔をしてミラを見た。「わ、わたしに人間のペットになれというのか!?」

「そうだ。それしかない。ペットになり、その証となる首輪をつければ、奴ら人間共はおまえを殺せない」

「で、でも……」

 ミーナの瞳が困惑した。
 キラは小声のまま続ける。

「ミーナ、人間は誰もがゲスではない。リュウを主に持ち、野生の頃よりもずっと幸せな私がその証拠だ。うまいビールだって、リュウが与えてくれたものだ」

「そ、そうか……」

「そうだ。どうだ、人間を主に持つ気になったか」

「なったぞ、キラ」ミーナの瞳が輝いた。「わたしも、リュウを主に持つぞ!」

「おま……」

 ゴスッ☆

 突然キラに拳骨され、ミーナが頭を抱えて涙目になる。

「なっ、何をするのだ、キラっ」

「リュウは私だけの主だ」

「じゃあ、どの人間のペットになれというのだ!」

「アレだ」と、キラが向けた目線の先には、「リンク」

「は……?」

 ミーナがリンクの顔を見て眉を寄せる一方、キラが続ける。

「リンクはずっと私たちのような猫をほしがっていてな。……何、大丈夫だ。奴は絶対に大切にしてくれる。だからミーナはリンクのペットに――」

「まっ、待て待て待て!」ミーナが慌てたようにキラの言葉を遮った。「キラばっかりずるいではないか!」

「何がだ」

「何でキラはあれほどの良い男で、何でわたしはあの見るからにバカそうでガキっぽくて頼りなさそうな男なのだ!?」

「おまえも似たようなものだろうから、ちょうど良いではないか」

「なっ、何だと!? いっ、嫌だ! わたしはあんな男を主になんてしたくな――」

「ミーナ」キラがミーナの言葉を遮った。「おまえ、私のビール飲んだだろう? 私の言うことが聞けないと言うのか?」

「――!?」

 キラの鋭く光る爪に、ミーナは顔面蒼白した。
 出会ったときから気付いていたが、このキラという猫には、とてもじゃないが力なんて及ばない。
 成長して大人になっても、敵う日は来ないだろう。
 ここで抵抗した場合を考えると、ミーナは膝が震えそうだった。

「わ、わ、わ、分かった。あの男のペットで良い……」

「よし、良い子だな」

 キラがにっこりと笑ってミーナの頭を撫で、手を引いてリュウとリンクの元へと戻っていった。
 リュウとリンクの後ろに群がっているハンターたちを睨みつけ、キラは言う。

「この白いのは、リンクのペットとなった。失せろ」

 ハンターたちがどよめいた。
 キラの発言に一番驚いたのは、もちろんリンクである。

「へっ? 何っ? どゆことやっ?」

「良かったな、リンク」と、リュウは驚いた様子なくリンクの肩を叩く。「念願のホワイトキャットだぜ。まだ子供だし、おまえでも大丈夫だろ。でも手を出すのは大人になってからにしろよ」

「えっ、いやっ、ちょっ……?」

 困惑しているリンクの傍ら、キラはハンターたちを睨みつけてもう一度言う。

「失せろと言っているのが、聞こえないのか」

 時にはギルド長でさえ従い、泣く子も黙るリュウの愛猫であるキラに言われては、ハンターたちは抵抗することができず。
 群がっていたハンターたちが去っていくと、キラは安堵の溜め息を吐いた。
 これでミーナは、人間に狙われることはない。

「そ、それで……」と、リンクがキラの顔を見て訊く。「えと…、おれのペットになるん? そのホワイトキャットの可愛い子がっ……?」

「ああ、そうだ」と、キラが背に隠れているミーナを引っ張り出した。「名前はミーナ。大切にしてやってくれ。ほら、ミーナ。おまえの主のリンクだ」

 キラに背を押され、ミーナは目の前のリンクの顔を見上げた。

「……。わ、わたしやっぱりリュウの方が――」

 ゴスッ☆

 再びキラの拳骨を食らい、ミーナは頭を抱えてうずくまる。

「なっ、なんてことすんねんっ、キラっ! ミーナ、大丈夫かっ……?」

 リンクが慌ててミーナの頭を撫でる。
 ミーナはリンクの顔を見た。
 とても心配そうな顔をして、キラに殴られたところを必死に撫でている。
 ミーナはリンクから顔を逸らした。

「……。これくらい平気だ」

「そ、そうか」と、リンクが顔が安堵する。「…えと、おれが主でええかなっ……?」

「……。……うむ」

 ミーナが頷くと、リンクが笑顔になってミーナを抱きしめた。

「ありがとうっ……ありがとう、ミーナ。ごっつ大切にするからなっ」

「ふん……、特別だ」

 そう言って、ミーナが少し染まった顔をリンクの胸に埋めた。

 これにて今日の仕事は完了。
 リュウはキラの頭を撫でて言う。

「今日はおまえの手柄だな、キラ」

「もっと褒めてくれ、リュウ」

「ああ、良くやった」リュウはキラを抱きしめ、キラの耳に、額に、唇にキスしてやる。「……っと、この続きは帰ってからな。……おい、リンク」

「ん?」

 ミーナを抱きしめて幸せに浸っていたリンクは、リュウの顔を見上げた。
 リュウが手を出して言う。

「頼んだものは?」

「頼んだもの?」

「ゴム買って来いって言っただろ」

「……あ、忘れた」

「……」

 ゴスッ……!!

 リュウの強烈な拳骨を食らい、リンクは頭を抱えてうずくまる。

「役立たずが」

 キラを左腕に抱き、夕日を浴びながら不機嫌露わに帰っていくリュウ。
 その背を目を丸くして見送りながら、ミーナは言った。

「そ、そっくりだな、キラと」

「ああ…、そっくりやろ……」リンクは苦笑しながら言い、頭にできた大きなタンコブを擦りながら立ち上がった。「……さて、おれらも帰るか、ミーナ」

 リンクは地面にぺたんと座っているミーナを、子供を抱き上げるようにして立たせた。
 まだ子供のミーナは、小柄なキラよりもさらに小さかった。
 白猫の耳と尾に、ライトブラウンのおかっぱ頭。
 グリーンの愛らしい瞳が、リンクの顔を見上げている。

「帰る前に、買い物やな。何から買いに行こか」

「……首輪。桃色の」

 そう言って、ミーナが両腕をリンクの首に向かって伸ばす。

「よしっ」リンクはミーナを抱き上げた。「可愛いピンクの首輪買いに行こかっ!」

 リンクがはしゃいだ様子で歩き出す。
 リンクの幼さの残る笑顔を見ながら、ミーナは呟いた。

「悪くない……かな」

「え? 何やて?」

「ガキっぽいなって」

「あっ、こらっ、そういうこと言ったらあかんでーっ」

 リンクの頬が膨れた。
 が、それはほんの一瞬だけ。
 すぐに笑顔になった。

「……ま、ええかっ」

「認めるのか」

「認めたくあらへんけど、おれ今、ごっつご機嫌やからええねん。おれ今、ごっつ幸せやねん。ありがとうな、ミーナ」

「……」ミーナが、ぎゅっとリンクの首に抱きつく。「首輪買ったあとは、ビール買って。うまいものを食べて、ふかふかのベッドで眠りたい」

「おう、仰山ビール買いに行こな。キラも好きな高級レストランのフルコースをたらふく食べて、ふっかふかの羽毛布団を買って帰ろな」

 ミーナは頷いた。

(悪くない)

 リンクの頬にちゅっと音を立ててキスをする。

「おっ?」

 リンクがミーナの顔を見ると、ミーナが照れくさそうにリンクから顔を逸らした。

(か……、飼ってよかった)リンクのテンションは最高潮。(飼ってよかったあああああああああああああああ!!)

 嬉しさのあまり猛ダッシュでスキップするリンク。
 川の手前、つまずいてミーナもろとも川の中へダイビーング☆

「げほげほげほっ!」

「あわわわっ、ご、ごめん! だ、大丈夫かいなミーナっ……!」

「こっの……、バカ主ーーーーーーーーっっっ!!」

「――あっ、あんぎゃああああああああああああああああああああああ!!!」

 まるで断末魔のようなリンクの声が、夕暮れの葉月島に響き渡っていった。
 
 
 
 
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