第98話 ただいまトリプルデート(?)中です 中編


 葉月町を騒然とさせている原因は、只今約時速500kmで走っている肉団子――リュウとそれに纏わり付いているキラとシュウ、サラ、リン・ラン、マナ、リンク、レオン、グレル、ハナの10人である。
 出来たてのそれはもっと大きな肉団子だったのだが、リュウに一人また一人と振り落とされて徐々に小さくなっていく。
 そして徐々に走行速度は増していく。

「避けて! 皆さん、避けてえぇぇええぇぇえぇぇええぇぇえぇぇええぇええええぇぇえええーーーっっっ!!」

 と顔面蒼白しているシュウの絶叫が止まない一方、

「パ、パパ…、止まって…危ない……!」

 マナが大地魔法で地面から高さ50mもの尖鋭な岩を、突き出して突き出して、突き出しまくってリュウの道を塞ごうとするが、リュウは呆気なくそれを突き抜けていく。
 しかもそれでダメージを受けているのは肉団子の一番外側で、尚且つリュウの前方に纏わり付いているグレルだが、バケモノ故に平気なようだ。

「お? なんか背中が蚊に刺された気がするぞーっと」

「グレルおじさん、もうちょっと我慢しててくださいなのだっ!」と、リン・ラン。「高さ50mの壁が駄目ならば、縦50m……いや、縦100mの壁で塞ぎますなのだっ!」

 2人で水魔法を操り、空から直径2mの氷の玉を降らせていく。
 それはリュウの進んでいる先の道に、縦にずらりと50個並び、肉団子の前に出来たのは100mもの分厚い氷の壁。

「これで父上は止まりますなのだ♪」

 と思った2人であったが、どうやらその考えは甘いらしい。
 若干リュウの走行速度は落ちたものの、やはりグレルの背を盾にしながら氷の壁を突き抜けていく。

 ズガガガガガガガガガッ!

「おおおおおおおおおおっ? 蚊が俺の背をマシンガン刺しにしてるぞーっと!」

 とグレルは相変わらず平気なようだが、マナがここで脱落。

「あ……」

 肉団子から落ち、崩れた氷の壁の中に埋もれていった。

 氷の壁を抜けたあと、リュウの走行速度は再び元に戻って約時速500km。
 いや、マナが落ちたものだからまた少し軽くなって、約時速505km。

「うーん流石は親父。まるで止まる気配がない。このまま地上を走ってたら怪我人は免れないな」

 と、サラ。
 ならば、とリュウの足元に魔法で風を起こし始めた。

「宙に浮かせばいーんじゃーん♪ さっすがサラちゃん、あったまいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 サラの笑い声が響くと同時に、ふわりと浮き上がった肉団子。
 それは竜巻に巻き上げられ、洗濯機のようにぐるんぐるんと回りながら天へと向かって昇って行く。

 溜まらず泣き叫ぶリン・ラン。

「や、ややや、止めて下さいなのだ、サラ姉上ぇぇぇえええぇぇえぇぇええぇぇえええーーーっっっ!!」

 必死に肉団子にしがみ付くものの、地上500m辺りまで来たときに、耐え切れず吹っ飛ばされてしまい。

「ふぎゃああぁぁああぁぁああぁぁああぁあああぁぁああぁぁあああーーーっっっ!!」

 幸いなことに地上ではなく、近くにあった高層ビルの屋上へと落下した。

「あれぇー? ごっめーん、リン・ランーっ」

 その後、地上1000mに到達した肉団子も、ぽーんと吹っ飛ばされ。
 葉月町に入ってから左に向かって進んできた道を逆戻りし。

 いや、通り越し。

 葉月町に入ってから右――ジュリたちが歩いて行った方向へと飛んでいく。

「よ、避けてっ! 避けてええぇぇえぇぇええぇぇえぇぇええーーーっっっ!!」

 とシュウが再び必死に叫んだお陰で、肉団子――リュウの足は人のいないところにアスファルトを凹ませながら着地。  その際の反動で、今度はサラが肉団子から吹っ飛ばされていった。

「あーれー! レオ兄、ママ、兄貴、リンクさん、グレルおじさん、ハナちゃん、あとはよろしくーっ!」

 そしてそれによって、ようやく前が見えるようになったリュウ。
 鬼の形相で食事処が立ち並んでいるその場所を見回し、一軒一軒中を見て回り始める。

 まずは一番近くにあった、人気ラーメン店の行列を無視して引き戸を開け。

「こぉぉぉこぉぉぉかぁぁぁぁぁ……! バカエル、殺す!! ……って、いねえのかよ。どこ行きやがった!!」

 次に隣の牛丼屋はガラス張りで出来ているが故に外から中の様子を見たのだが、それだけでガラスが粉砕してしまい。

「ここか! ……ちっ、いねえ。んじゃ次――って、あ? 何だよ? ガラスで怪我した? ほらよ、治癒魔法。あ? 何だよ、うるせーな。まだ何かあんのかよ? 牛丼にガラスが入って食えない? そこの店員、客全員に新しい牛丼を出してやれ。ガラス代の請求も牛丼代の請求も俺によこせばいい」

 さらにその隣の創業50年にもなる蕎麦屋の引き戸を開けたら、力が篭りすぎたらしく店が崩れかけ。

「……ちっ、ここにもいねえのかよ。ん? 何を喚いてんだよ店主、うるせーな。俺は忙しいんだ邪魔すんな。あ? 店が壊れそう? あとで金送ってやるからそれで直せ。じゃあな」

 そして次は、その隣にある回転寿司屋――ジュリたちが入っていった店の自動ドアを潜っていった。
 リュウのあまりの形相と殺気に、一斉に静まり返った店内。

「あ…あのっ…………!」

 出迎えてくれた女性店員が、現在食事中のジュリたちに何か用があるのかと訊こうとするが、恐怖のあまり声が出ず。
 かちんこちんになっている女性店員の脇に並び、リュウは広い店内の端から端を見渡していった。

 ミカエルの特徴であるブロンドの頭を、探す、探す、探す……。
 そして――

「……ちっ、いねえか」

 次の店へと向かって行った。

 その直後。
 カウンター席の一部からひょっこりと現れたブロンドの頭――ミカエルの頭。

「あったあった! あったぞー、ローゼ。おまえの落とした箸!」

 続いて、ジュリとリーナ、ユナ、シオン、ローゼの頭。

「ありがとうございますにゃ、兄上。そっちまで転がってましたかー」

「はい、ローゼさま。新しいお箸です」

 とローゼに割り箸を渡したジュリが、ふと視線を感じて回りを見渡した。
 いつの間にか周りの客や店員の視線を集めていて、困惑してしまう。

「あ、あの……?」

「な、何でうちらこんなに見られとるん? 割り箸落としただけなんにっ……」

 とジュリに続いてリーナが困惑すると、シオンが中断していた食事を再び始めながら溜め息を吐いた。

「あれだろ? 俺らって、師匠やばーちゃんの家族だったり仲間だったりするからよ。ちょっとした行動でも珍しいもののように見られるんだよ。ああ、うぜえ……」

「そっかぁ。皆さんお騒がせしました、どうぞお食事を続けてください」とジュリは周りの客や店員に頭を下げたあと、シオンに続いて再び食事をしながらリーナに顔を向けて訊いた。「食べ終わったら、どこに行きたい?」

「ネズミー通り♪」

 と答えたのはリーナではなく、またもやローゼだった。
 
 
 
 
 というわけで、回転寿司屋を出たあとバスに乗って猫モンスター大好き『ネズミー通り』にやってきたジュリたち。
 5kmに渡ってネズミネズミしている店が立ち並ぶこの通りを歩きながら、はっきり言ってシオンにより強引に連れられてきたリーナの顔が引きつっている。

「なあ、シオン…!? あんさん、ローゼさまの願いなら何でも叶えたるんか……!?」

「何だ、リーナ。不服なのか」

「うち別にネズミなんて好きやないし、こんなネズミネズミしてるとこに連れてこられても楽しくないっちゅーねん!」

「うるせーな。だったらおまえらは別のとこに行けよ。俺とローゼはここで遊んでから帰るから」

「う゛……」

 そうはいかないと、リーナは押し黙る。

(せ、せやかて、やっぱりうちとジュリちゃんとミカエルさまとユナちゃんの4人でのデートは、めっちゃ困るもんっ……!)

 よって、前方を歩くシオンとローゼから遅れないよう、必死に付いて行った。
 ネズミーゲームセンターで1時間遊んだあとは、ネズミー映画館に入ってただ単にネズミが走っているだけの映像を見、そのあと小腹が空いたというローゼのためにネズミーバーガーでネズミーシェイクを買い。
 そして現在、ローゼがもっとも好きだというジュエリーネズミへとやって来た。

「ふにゃああぁぁあぁぁあんっ♪ ネズミキラキラにゃあぁぁああぁぁあぁぁああんっ♪」

 とたくさんのネズミデザインのジュエリーを目の前に、ローゼが瞳を輝かせながら店内を物色し始める。
 その一方で、店内入り口付近で立ち止まっているリーナからは深い溜め息。

(あーもー、どこに行ってもネズミネズミネズミネズミ…。いい加減、飽きたっちゅーねん……。うちとジュリちゃんとミカエルさまとユナちゃんの4人で別のとこに行った方が、まだマシやったやろか)

 とリーナが思い始めたときのこと。
 店内を見て回っていたミカエルが、突然とあるショーケースの前で笑い出した。

 リーナがどうしたのかと首を傾げていると、ミカエルがユナを手招きして言う。

「なあ、ユナ。この子供が好みそうなネズミのネックレス、見覚えがあるな」

「え? どれどれ? ――って、これって……」

「ああ、これだな」とミカエルが手を持っていったのは、ユナの首から掛けられているネズミモチーフのネックレス。「私がおまえに買ってやったコレと、同じものだ」

 そんなミカエルの台詞を聞いたリーナの顔が強張った。

(――え…? ミカエルさまが、ユナちゃんに買ってやったって……?)

 ユナの声が店内に響く。

「って、さっき『子供が好みそうな』って言った!? もう、すぐあたしのこと子供扱いして! あ、あたし、子供じゃないんだからねっ!」

「とか言って頻繁に身につけてるじゃないか、そのネックレス」

「そ、それは……、そう……だけどぉっ……」

「ほら、子供じゃないか」と笑ったミカエルが、ユナの頭を撫でながら続ける。「同じネズミモチーフの猫耳用ピアスやブレスレットがあるから買ってやるぞ♪ 欲しくて仕方ないんだろう?」

「だっ、だからあたし、そんなに子供じゃ――って、えっ? いいのっ? 買ってくれるのっ? 本当にっ? えへへ、それじゃあ、ピアスホールは空いてないからブレスレット買ってー♪」

 笑いながら承諾したあと、くるりと出入り口の方に顔を向けたミカエル。

「リーナはどれが欲しいんだ?」

 と、そこにリーナがいるものと思って訊いたが。
 そこにリーナの姿と、その隣にいたはずのジュリの姿が忽然となくなっていた――。
 
 
 
 
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