第96話 トリプルデート?


 3月の半ば。
 本日はジュリ16歳と、ハナ71歳の誕生日パーティーである。

 去年の今頃と比べると、ジュリは身体つきや骨格が少し男っぽくなり、顔も少し幼さが抜けただろうか。

 ハナは純モンスター故に、外見に何ら変わりはない。
 変わらず童顔で、外見年齢は15歳から17歳だ。
 変わったところといえば、また1つ年を取って力を増したところだろうか。

 いつもの誰かの誕生日パーティー同様、最初に一同からのプレゼントをもらったジュリとハナ。
 その後に始まる食っちゃ飲みに少し参加したあと、顔を見合わせた。

「そろそろ行ってきたらどうだべ、ジュリちゃん」

「うん、じゃあ、そうするねハナちゃん。いい? リーナちゃん」

 と、ジュリがハナとは反対側の隣に座っていたリーナに顔を向けると、

「う、うんっ…、ほな、行こかジュリちゃんっ……!」

 と、立ち上がり、手櫛で髪の毛をぱぱっと整えたリーナ。
 特に乱れていなかったのだが、今日は身だしなみに偉く敏感になってしまう。

(せやかて、ジュリちゃんとデートなんやもんっ……!)

 いつもはしないメイクも少しして、服は新しいものを買って来た。
 仕事中はショートパンツのことが多く、久しぶりに穿いたミニスカートが少し照れくさい。

「どこへ行くんだ、2人とも?」

 と、ミカエル。
 ジュリが適当なこと言って逃れようと口を開きかけたとき、リーナの頭の先から爪先まで見つめて続けた。

「今日はずいぶんと可愛いな、リーナ。そうか、ジュリとデートへ行くのか」

「え、えーとぉ……」

 とリーナが何て答えようかと躊躇していると、ミカエルがすっと立ち上がり、にっこりと笑った。

「よし、私も行くぞ♪」

 と言って。

「は?」

 とジュリが眉を寄せる一方、ユナも続いて立ち上がる。

「じゃ、じゃあ、あたしも付いて行っちゃおーっとっ……」

「へ?」

 と、リーナの声が裏返る。

(ちょ、ちょお、待ちや。うちとジュリちゃんとミカエルさまとユナちゃんの4人……!?)

 リーナにとって、物凄く困るメンバーである。
 実際4月からこのメンバーで働くことになるが、それは仕事だからまだマシで。

(デートでこのメンバーはますます困るっちゅーねん!)

 狼狽したリーナ。
 背にあるソファーの上で唐揚げを頬張っていたシオンとローゼの手を、ぐわしっと握り。

「せ、せや、シオンとローゼさまも一緒に行こやーっ……」

「は?」

 と、きょとんとする2人を、瞬間移動で玄関まで連れて行った。
 そしてその2人の足に半ば無理矢理靴を履かせながら、必死に懇願する。

「お、お願いや、シオン、ローゼさまっ…! うち、あのメンバーだけでデートはめっちゃ困んねん…! だから、な!? 今度お詫びするから、な!? お願いやっ……!」

「ええっ!? デートなら、ローゼだってオシャレしたかったのに!」

 と、喚くローゼの手を左手に握り。

「ローゼ、ミニスカじゃねーじゃねーか」

 と、さも不機嫌そうに舌打ちをするシオンの手を右手に握り。
 リビングの方からジュリたちの足音がバタバタと聞こえてくる中、リーナはジュリ宅の玄関から飛び出した。

「ほ、ほほほ、ほな、いってきまぁぁぁぁぁぁぁぁす!」

 葉月町へと続く一本道を、リーナは駆けて行く。
 無理矢理笑顔を作り、笑い声をあげ、猛ダッシュで駆けて行く。

「あ、あはははははーっ! み、みんなでお出掛け楽しいなーっ! な、なあ、ローゼさま!? シオン!?」

 なんて訊いたが、リーナに強引に引っ張られていく2人はまったく楽しそうではない。

「どうして近所のスーパーに行くような服でデートに行かなきゃいけないのにゃ!」

「いやいや、ローゼさまは何着たって可愛いでーっ♪」

 と、リーナはローゼを宥め。

「ローゼがミニスカじゃねーって言ってんだろうが!」

「ソコかいな、このエロガキ!」

 と、リーナはシオンに突っ込み。

 一本道を猛ダッシュのまま止まることなく、駆けて行く。
 白猫の耳が風で折れようが、整えた髪の毛が乱れようが、脱兎のごとく逃げていく。

 後ろから慌てて追ってくる3人――ジュリとミカエル、ユナから。

「待ってよ、リーナちゃん! 今日、僕とのデートでしょ!?」

(あかん。来んといて、ジュリちゃん!)

「そんなに走ってどうしたんだ、リーナ!」

(あかんあかんあかん。来んといて、ミカエルさま!)

「もうーっ、止まってよリーナ!」

(あかんあかんあかんあかんあかん。来んといて、ユナちゃん!)

 あかん。

(あかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんあかんっ……!)

 あかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!

 と、必死に逃げたリーナだったが、リュウとキラの子であるジュリの足に追いつかれないわけがなく。
 葉月町に入る一歩手前、あっさり前方に回ってきたジュリに道をふさがれた。

「はい、ストップ。そんなに走ったら疲れちゃうよ、リーナちゃん?」

 さらに後方を、後からやって来たミカエルとユナにふさがれ。

「ふぅ、やっと追いついたか。張り切ってるな、リーナ」

「ああもう、リーナってば髪すっかり乱れちゃってるじゃない。待って、今櫛で梳かしてあげるから」

 リーナ、顔色なし。
 必死に逃げようとしたが、やっぱり無理なようだ。

(今日一日、絶対平穏無事に過ごせへん……!)
 
 
 
 
 一方、その頃のジュリ宅。
 本日の誕生日パーティーの主役であるジュリがいなくなったものの、もう1人の主役であるハナが残っているため、パーティーは続けられていた。
 ハナを囲んで食っちゃ飲みする一同の中、リュウがウィスキーの入ったグラスをガラステーブルの上に置いて呟く。

「どうもおかしいな……」

「ん? 何がですだ、リュウ様?」

 と黒猫の耳でリュウの声を聞き取ったハナが振り返ると、リュウが声を大きくしてもう一度言った。

「おかしい」

 それまで食っちゃ飲みをしていたのを止め、リュウに顔を向けた一同。
 何がおかしいのかと首をかしげていると、リュウが続けた。

「何故ユナまで、ジュリたちのデートにくっ付いて行ったんだ」

 その理由を知る者たちの肩がビクッと一瞬震える。
 やばい、と思った。

「ミカエルが付いて行ったのは分かる。あいつはリーナのことが好きだからな、デートの邪魔をしにいったんだろう。だが、そこで何故ユナまで立ち上がったんだ」

「そ、それはだな、リュウ? その――」

 と適当に何か言おうとしたキラの言葉を遮り、リュウが眉を寄せて続ける。

「先日、リーナはユナのことで何か隠していたし……どうも最近ユナの様子がおかしい」

「そっ、そんなことねーよ!?」

 と焦ったシュウが声を裏返しながら言ったが、リュウはもう完全に察してしまっている。
 ユナは最近、このリュウに何かを隠していると。

 そして、一同を睨むようにぐるりと見回して命令を下した。

「おまえらも何かユナのことで知ってんだろう。言え、今すぐ言え」

 やばい。
 ああ、やばい。

 と冷や汗をかき始める、命令を下された一同。
 そんな中、サラがジョッキをガラステーブルの上に置いて溜め息を吐いた。

「もういいんじゃない? 言ってもさ。もうこうなったら隠し切れないって、親父に」

 うーんと、キラが唸る。

「し、しかしだな、サラ。リュウにバレて可哀相なのは、何の罪もないミカエルだぞ」

「そ、そうだぞ、サラ!」とシュウが続く。「オレは言わない方がいいと思う、絶対に…! うちの親父、相手が王子だろうと何だろうと関係ねーし……!」

「そうだけど、でもさー……」

 と、なかなか返答のない一同に苛立ちを覚えたリュウは、ハナに顔を向けた。

「言え、ハナ」

 と、分かっていて言った。
 忠実なハナはこのリュウの命令に逆らえないと、分かっていて言った。

(う…、ご主人様からの命令だべ……)

 苦笑したハナ。
 ユナやミカエルに心の中で謝りつつ、しぶしぶ口を開いた。

「その……、ユナちゃん、ミカエル様に恋してるみたいなんですだ」

「あっ」

 言っちゃった!

 と一同が焦る一方、リュウに降り注いだ落雷のような衝撃。

「――なん…だと……!?」

「で、でもリュウ様、大丈夫ですだ! ユ、ユナちゃん、ファザコンには変わりないですだ!」

 と慌ててフォローを入れるハナに、キラがソファーに座っているリュウを押さえつけながら言う。

「そんなことを言っても無駄だ、ハナ。それより力を貸してくれ。みんなもだ。カレンやミヅキ、孫たちは危ないから廊下に出ていろ。や、やばいぞ……!!」

 何が危ないのか察し、キラに続いて慌ててリュウを押さえつけるハナ。
 それからシュウ、ミラ、サラ、リン・ラン、マナ、レナ、リンク、ミーナ、レオン、グレルの合計13人がリュウに群がり、出来上がったそれはまるで肉団子のよう。
 屋敷中がガタガタと揺れだし、慌てて子供たち――シュン、セナ、カノン・カリン、ネオンを連れてカレンとミヅキが廊下に出。

 リビングに出来た肉団子の中央、リュウの声が聞こえる。

「ああ、何故だユナ。この世で一番格好良い男はパパだと言っていただろう。何故なんだ、ユナ。何故パパから離れていく。何故だ、何故だ、何故だ。え? 『あたし、ミカエルに誑かされたの』? そうか、ユナ。可哀相にな、ユナ。パパが今助けに行ってやるからな、ユナ。今、パパがバカエルを…………!」

 と13人で押さえつけているにも関わらずリュウが立ち上がった瞬間、屋敷の全窓ガラスが大きな音と共に一斉に粉砕し。

「ブッ殺ス!!」

 窓がなくなったリビングから、リュウが外へと向かって飛び出した。

 スリッパなのも気にせず。
 肉団子状態なのも気にせず。
 お陰で前がまるで見えないのも気にせず。

 バケモノは、葉月町へと続く一本道を約時速480kmで駆けて行く。

「ふぎゃあぁぁああぁあぁぁああ!! おっ、落ち着くのだリュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥっ!!」

 とキラが必死に止めようとするも、リュウの足は止まらない。
 それどころか一人剥がれ落ち、また一人剥がれ落ち、徐々に肉団子が小さくなっていって軽くなり、リュウのスピードは増して行く。

「バカエル、殺ス!!」

 葉月島の第二王子、命危うし。
 
 
 
 
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