第89話 『8番バッター、いくわよっ♪』 その3


 ジュリ宅のリビングの中。
 午後3時のおやつの時間。
 今年は合計約70万個ほど届いたバレンタインチョコと、女たちが向き合っている。

 70万個のバレンタインチョコうち、20万個はリュウ宛。
 10万個はシュウ宛。
 8万個はジュリ宛。
 7万個はチビリュウ3匹宛。
 4万個はレオン宛。
 1万5千個はネオン宛。
 1万個はミヅキ宛。
 5千個はグレル宛。
 そして残りの18万個は、逆バレンタインで女たちへ。

  「リュウ宛のチョコは美味いものが多いぞーっ♪」

 と、純粋にチョコの味を楽しむキラの一方では。
 ミラが不気味な笑みを浮かべ。

「まあ、これもパパ宛の本命チョコね。うふふふふ」

「怖いってお姉ちゃん。普通に食べてよ。って、何これレオ兄とネオン宛の本命? あはは、マジでぇー? うけるー。……オラァ!!」

 ズガンッ!!

 とサラが拳でチョコを粉砕し、勢い余って床に穴を空け。

「わあぁぁあぁぁーーーっ!? サ、サラちゃんそんなことしたら駄目だべよぉぉおおぉおお――って……、うぷっ…オ、オラもう食えねえ…だ……!」

 と、リュウ宛のチョコを食べるのを手伝っていたハナが、青い顔をして床に横たわり。
 口の周りにチョコを付けたカノン・カリンが呆れたように溜め息を吐く。

「まあ、ハナちゃまったらもうダウンちたの? ダメね、まだ10こちかたべていないじゃない。もうちょっとがんばってちょうだい。今年もおじいちゃまへのチョコはたべつくさなければならないのだから。とくに本命チョコは」

「そんなこと言われたって、本命チョコだけでも10万個以上はありそう――って、たっ、食べ尽くすだか!? 20万個すべて!?」

「もちろんでちゅわ♪ さあ、ハナちゃまもがんばって♪」

「…………………」

 思わず涙目になってしまうハナを見、シュウ宛のチョコをちびちびと食べているカレンが口を開く。

「無理を言うものではないわ、カノン・カリン。あなたたちはお義母さまに似て底なしに甘いものを食べられるし、太らないし、ニキビも出来ないからいいでしょうけど……」

「まあ! お母ちゃまはちょっと甘いもの食べすぎると、ニキビぶつぶつのブタさんになってちまうのね! その上かんじんなバストにはお肉がつかないなんて、かわいそう……」

「…う…うるさいわよ、あなたたち。やめなさい、その哀れみの目……!」

 とカレンが顔を引きつらせると、その傍らで共にシュウ宛のチョコを食べながら笑ったリン・ラン。

「大丈夫ですなのだ、カレンちゃん♪ わたしたちが一週間以内に兄上宛のバレンタインチョコを食い尽くしてみせますなのだっ……!」

 と、牙をフル活用してチョコを次から次へと胃に送り込んでいく。
 そんな2人の姿を横目に、グレル宛のチョコをゆっくりと食べているマナが口を開いた。

「毎年毎年ガツガツと大変だね…」

「グレルおじさんにだって5千個もチョコきてるのに、マナはどうして落ち着いてるのだ?」

「オール義理だから…」

「……。…逆に哀れだぞ……」

「そう? あたしはそれくらいモテないでくれる方が嬉しいけどな」と、レナ。「だって、不安になっちゃうもん……」

 ついさっきミヅキからの特大チョコケーキを食べたばかりだというのに、ミヅキ宛のチョコをすでに200個以上も胃に収めている。
 ちなみにもちろん、ミヅキ宛のチョコを食べ終わり、自分宛の逆チョコも食べ終わったら、他の男たちに届いたチョコも食べる気満々だ。

「まあ、せやな。好きな人があんまりモテても嫌やな」

 と同意したのは、リビングの隅っこに座っているリーナである。
 ジュリ宛のバレンタインチョコを集め、毎年のごとく本命チョコから食べて行っている。

(今年もジュリちゃん宛のチョコは、うちが食ってウン○にしてやんで!)

 ミラがリーナを見、溜め息を吐いた。

「そんな隠れるように隅にいないで、こっちに来たら? そんなにジュリと顔を合わせたくないの?」

「せ、せやかて、うちジュリちゃんへのチョコ用意してへんからっ……! …な、なあ、サラちゃんがおるってことは、ジュリちゃん仕事ちゃうよなっ? ど、どこ行ったんっ? そ、そろそろ帰って来るかっ?」

 とリーナがそわそわとし始めたとき、玄関の扉がガチャッと開く音。
 どきっとして飛び跳ねたリーナだったが、

「今帰った」

 と聞こえて来たリュウの声に安堵の溜め息を吐いた。

「な、なんや、リュウ兄ちゃんか……」

 加えてシュウとレオン、ネオン、グレル。
 リーナが再びチョコを食べ始める一方、チョコを食べるのを止め、すっと立ち上がったキラとその娘、孫娘たち。

「な、なんやっ?」

 とリーナが驚いてしまう中、それぞれその場から散っていく。

 キラが頬を染めながらコホンと咳払いをし、

「で、では私は、そ、そろそろ、シャ、シャ、シャワーを浴びてくるぞっ……」

 と己とリュウの寝室へ。
 それに続いてミラ、サラ、カレンも己の部屋へと向かって行く。

「うふふ♪ 勝負下着もバッチリだし、今日こそパパとっ……♪」

「アタシもシャワー、シャワーっと! レオ兄と今日から一日十発イトナミーっ♪」

「来たっ…、来たわシュウがっ! ああんっ、シュウの好きな純白ヒモパンに穿き替えてロマンティックにカモォォォォンなのですわっ……♪」

 マナはキッチンへと向かい。

「茹でるためのお湯沸かさなくっちゃ…」

 リン・ランとレナ、カノン・カリンは、玄関の方へと駆けて行く。

「待ってましたなのだ、兄上ぇぇええぇぇえぇぇぇぇっっっ!!」

「パパ、パパ! あたしに美味しいの買ってきてくれたぁー!?」

「おかえりなちゃい、おじいちゃまあぁぁああぁああぁぁあぁぁあぁぁああっっっ!!」

 あっという間にリビングが静かになり、ぽかーんとしてしまうリーナ。
 共に残されたハナに顔を向ける。

「な、なあ、ハナちゃん。みんな、急にどうしたん? なんかいつものバレンタインより、めっちゃ張り切ってへん?」

 ハナが笑う。

「今年のバレンタインは、いつもと違うらしいべよ」

「えっ、なになになにっ? 違うって、何がっ?」

 と気になったリーナ。
 一同に続いてリビングから出て玄関の方へと駆けてくると、そこにはリュウとレナ、カノン・カリンの姿。

「ほら、レナ。これでいいか」

「うんっ! ありがとう、パパ! うーん、やっぱり美味しいーっ♪」

 とリュウからたくさんの白薔薇――猫モンスターがもっとも美味しいらしい花を口に入れ、レナがはしゃぎ。

「ほら、カノン・カリン。将来は俺と結婚しような」

 とリュウから赤い花を中心としたミニブーケを受け取り、カノン・カリンが黄色い声を上げる。

「きゃあぁぁああぁぁあぁあっ! はい、おじいちゃまぁああぁぁああぁあぁぁああっ! あたくちたちをおヨメちゃんにちてくだちゃあぁぁあぁぁあぁぁぁあいっ!」

 その傍らでは、2階へと上っていこうとするシュウの前に立ちふさがっているリン・ランの姿。
 やたらと鼻息が荒い2人の手にも、黄色い花を中心としたミニブーケが握られている。

「…こ、こらリン・ラン、そこを退け。兄ちゃん、カレンが待ってる部屋に行かねえとっ……」

「ハァハァハァ…! 花束はもらったけど、まだ聞いてませんなのだ、兄上っ……!」

「な、何をだよ?」

「ハァハァハァ…! 何って、わたしたちへの口説き文句ですなのだ、兄上っ……!」

「く、口説き文句? え、ええとぉ……、これからもよろしくな」

「ハァハァハァ…! そうじゃないでしょうですなのだっ…! わたしたちが望んでいる口説き文句を、ちゃんと言ってくださいなのだ、兄上っ……!」

「…え…ええと……」

「ハァハァハァ…! 早くっ…! 言ってくれないと退きませんなのだっ……!」

「わ、分かったよ。言うだけだからな、言うだけっ! …リ、リン・ラン。その……」

「ハァハァハァ…!」

「に、兄ちゃんと……」

「ハァハァハァハァ…!」

「ふ、ふ、ふ……」

「ハァハァハァハァハァ…!」

「ふ…不倫しよう……ぜ……?」

「ハァハァハァハァハァハァ…!」

「ほ、ほら言ってやんたんだからそこを――」

「はいですなのだっ、兄上えぇぇええぇぇええぇぇえぇぇぇぇぇええぇええぇぇぇぇえええーーーっっっ!!」

 と絶叫し、シュウを押し倒したリン・ラン。
 後頭部を強打し悶えるシュウの足を片方ずつ掴み。

「ハァハァハァ…! きっとカレンちゃんがシャワーを浴びている今が不倫のチャンスだぞ、ラン……!」

「ハァハァハァ…! 今のうちに兄上をわたしたちの部屋に引きずり込もうぞ、リン……!」

 と2階へと続く階段を駆け上がっていくものだから、シュウは後頭部強打しまくりである。

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

「アガガガガガガガガガガッ!!」

 顔を引きつらせたリーナ。

(シュウくん、助けに行くわ……あとで)

 とりあえず先に、マナが向かって行ったキッチンへと向かって行った。
 中を覗くと同時に、その臭いが鼻を突く。

(えっ、何…!? 菊と……酢か!? む、むせ返りそっ……!)

 それもそのはず。
 キッチンのコンロの上に乗っている巨大鍋の前、

「ほらよ、マーナ♪ おじちゃんがおまえのために、スーパーにあるだけ買ってきてやったぞーっと♪」

 その巨大な身体の両腕一杯に食用菊を抱えているグレルと、

「ありがとう…♪ おいしそう……♪」

 うっとりとしながらバケツ一杯の三杯酢を抱えているマナがいるのだから。
 再びリーナの顔が引きつってしまう中、グレルがうんうんと満足そうに頷いた。

「やっぱりマナには菊が似合うだぞーっと♪」

(仏壇かっちゅーねん!)

 とリーナが心の中で突っ込んでいる頃。

 一人リビングに残されたハナ。
 リュウ宛のチョコを食べ続けながら、黒猫の耳をぴくぴくと動かして皆の声を聞き取っていた。
 そしておかしそうに笑う。

「良かっただね、みんな。愛する人から花束もらって、嬉しそうだべよ」

「独り言か」

 と声がして振り返ると、そこにはキラや娘たちへ贈るだろう花束を左腕に抱えたリュウの姿があった。

「おかえりなさいですだ、リュウ様」

 一言「おう」と返し、リュウがリビングの中を見回す。

「キラは寝室か。ミラとサラ、カレンは2階に行って、マナはキッチンに行ったな。リン・ランはシュウを殺しかけてて、カノン・カリンは部屋に花を活けに行った。レナは玄関で花を食い続け……って、なあ、ハナ」

「はいですだ?」

「ユナはどうした」

 と訊かれ、ギクッとしたハナ。
 ユナはバレンタインチョコを持ってミカエルに会いに行っているのだが、そんなことは恐ろしくて言えない。
 よって誤魔化した。

「お、お買い物に行きましただっ…、コンビニにっ……!」

「そうか。なら花束は後ででいいか」

「よ、夜でもいいと思いますだ、夜でもっ……!」

 と言いながら、リュウが左腕に抱えている花束たちに目を向けたハナ。
 一つ一つの花束が違っているのを見て、ふと微笑んだ。

「ちゃんと贈る相手に合わせて花束買って来たですだね。お優しい旦那様で、お父様で、お祖父様だべ」

「まーな」

 と言いながら、花束の中から一つ取ったリュウ。
 それをハナに突き出した。

「ほら、やる」

「――えっ……?」

 他の花束と同様、ぐるりと一周ラッピングされているから気付かなかったが、それは花束ではなく鉢植えだった。
 鉢植えの、まだ花が咲いていない小さな桜の木。

「春になりゃ咲くだろ」

「…あっ…あのっ、リュウ様っ……! こ、これ、オラにっ……!?」

 とハナはどきまぎとしながら訊く。
 だって、己はリュウからもらえないものだとばかり思っていたから。

「キラや娘、孫娘たちには八重咲きだったり大輪の花がよく似合うが、おまえにはこういう方が似合う。……ほら、何してんだ。さっさと受け取れ」

「…はっ…はいですだっ……!」

 と狼狽しながら、リュウから鉢植えを受け取ったハナ。
 リビングの戸口へと向かって行くリュウの背を見つめながら、声を上ずらせる。

「リュウ様っ…、ありがとうございますだ! オラっ…、オラ、とってもとっても嬉しいですだっ……!」

「おう」

 と背を向けたまま片腕をあげ、リュウがリビングから去って行く。

 再び一人になったリビングの中、鉢植えをぎゅっと胸に抱き締めたハナ。
 頬を染めながら、うっすらと涙を浮かべて微笑んだ。

「ありがとうございますだ、リュウ様――ご主人様。オラ、幸せな黒猫だべよ……」
 
 
 
 
 キッチンにいたマナにもミニブーケを渡したあと、2階に上ってミラの部屋のドアをノックしたリュウ。
 すぐさま出てきたミラに、可憐な淡いピンク色を中心としたミニブーケを渡す。

「あぁん、可愛いお花っ! ありがとう、パパ! 私、嬉しいっ……♪」

「おう」

 と、首に巻きついてきたミラの頬にキスしたリュウ。
 そのあと去ろうとしたが、ミラに部屋の中に引っ張られ。
 ドアを閉められ。
 さらに鍵も閉められ。

「まだでしょ? パパ♪」

 と、ぎっちりと手を握ってきたミラに、リュウの胸がどくんどくんと嫌な動悸をあげ始めた。

(ま、まずい、これはやべえ雰囲気だ……!)

 と察し、逃れようと必死に言い訳をするリュウだが……。

「…ミ…ミラ、その……パ…パパ、サラにも花束を渡さないといけねえから、もう行――」

「サラはそろそろレオ兄とイトナミに入るから後でいいわよ、パパ♪」

 とさらに手を強く握られ、じわじわと冷や汗をかき始め。

「…そ…それは大変だぜっ…! 今すぐ行って止め――」

「そんな無粋なことしたら駄目よ、パパ♪」

 身体が硬直し始め。

「…あっ…キ、キキキ、キラが呼ん――」

「呼んでいないわ、パパ♪ ママ、シャワー中だもの♪」

 顔は真っ青になり。

「…そっ…、そのだな、ミラっ……! パ、パパ、急用を思い――」

「逃げないで、パパ♪」

 と、ついにベッドの方へと引っ張られていき。
 着ていたジャケットを脱がされ。
 シャツを脱がされ。

「あぁんっ、パパってばセクシィィィィィィィィンっ……♪」

 と胸にしがみ付いてきたミラを引き剥がし、リュウは声を震わせる。

「ま、ま、ま、待てミラ……!」

「ねぇパパ、早く口説き文句を言ってぇん♪」

「く、く、く、口説き文句っ?」

「私がお願いした口説き文句、忘れてないでしょ?」

「あ…、ああーっ、あ、あああ、アレなっ……! し、しかしだな、ミラ。アレはちょっとヤバ――」

「パパ、私のこと嫌いなの?」

 とミラに涙ぐまれ、「うっ」と思わず口をつぐんだリュウ。
 十数秒の沈黙の後、ミラに泣かれぬようにと、ミラの望んでいる口説き文句を言ってやった。

「……あ…愛してる、ミラ。お、俺の……き、金メダルを受け取ってく……れ……!」

「喜んで受け取るわ、パパァァァァァァァァァァァァァァんっ♪」

「はっはっはっはっは!」

 と、キラの目を気にし、恐怖故の笑い声を上げたリュウ。
 ズボンのベルトを押さえ、戸口の方へと後ずさりしていく。

(だ…、誰でもいい…! た、助けてくれっ…! 娘と一線を越えただなんてなったら、俺の可愛い黒猫に泣かれちまうっ…! 誰かっ……)

 誰か助けてくれ。

 と叫ぼうとしたリュウの心境を察したかのように、ドアの向こうからリーナの声。

「シュウ兄ちゃんをリンちゃんランちゃんから救ったあとは、リュウ兄ちゃんやっぱりアンタもかいな……」

「あんもうっ、リーナってばいいところで!」

 とミラが眉を吊り上げると、リーナが続けた。

「あんなあ、今日のところはもう止めた方がええで、ミラちゃん」

「どうしてよ?」

「キラ姉ちゃんもうシャワー浴び終わって、リュウ兄ちゃんのこと待ってたで」

「えっ、やだ、ママもうシャワー浴び終わったのっ?」

「せやで。んで、リュウ兄ちゃんが来ないのはミラちゃんの仕業やろうって察して、爪をギラギラ光らせてたで。ミラちゃん、はよリュウ兄ちゃんを解放せんと殺されるんちゃう?」

「や、やだ、ママってば怖ぁーいっ!」

 と顔面蒼白したミラ。
 鍵を開け、ドアを開け、リュウの唇に熱いキスをかましてからリュウを解放してやる。

「仕方ないから続きはまた今度ね、パパ♪」

「お、お、お、おう」

 と強張った笑顔を返し、リーナと共にミラの部屋を後にしたリュウ。
 階段を下りて一階へと向かいながら、リーナの頭をぐしゃぐしゃと撫でくり回す。

「おまえが天使に見えるぜ……!」

「あはは、お礼なんていらへんよリュウ兄ちゃ――」

「微乳の」

「う、うっさいわ! 一言余計やっちゅーねん!」

 と声を上げたあと、リーナは持って来ていたリュウへのバレンタインを渡した。
 リュウは甘いものがとことん苦手故に、チョコではなくウィスキーを。

「はい、リュウ兄ちゃん。これで良かったか? 瞬間移動で買って来たんやけど」

「卯月島限定ウィスキーか。サンキュ」

「うん」と笑ったあと、リーナは訊く。「リュウ兄ちゃんたち、今年は逆バレンタインなん?」

「ああ。ミラが最初に言い出してな、この通りだ」

「へえ。その、えぇと…、ジュリちゃんも……?」

 と、気にした様子のリーナを見。

(ジュリから突然逆バレンタインもらった方が、いい意味で意表を突かれるだろうな)

 と判断したリュウは、あえて嘘を吐く。

「いや、ジュリは逆バレンタインはしねえって言ってたぜ。ジュリ、今日一人で仕事行ったしな」

「…そ…そかっ……」

「ああ。んじゃ俺はキラんとこ行くから、おまえはリビングでハナとチョコでも食ってろ」

「あ、うん。って、さっきの嘘やから。キラ姉ちゃんまだシャワー中やと思うで」

「おう、分かってる。ふっふっふっ、今年も裸リボン燃えるぜ……!」

「はいはい、頑張ってな」

 と、寝室へと向かうリュウを赤面しながら見送ったリーナ。
 リビングへと歩いて行きながら、

(なーに期待してたんやろ、うち…。ジュリちゃんから、逆バレンタインもらえるかもなんて。みんな楽しそうやのに、うちだけちょっと寂しいわ……)

 と、小さく溜め息を吐いたとき、ポケットの中で携帯電話が鳴った。

(あっ、もしかしてジュリちゃんかっ? やっぱりうちに逆バレンタインくれるとかっ!)

 と再び期待しながらポケットから携帯電話を取り出すと、そこに出ていた名前はジュリではなく。

「あ……、ミカエルさまや」
 
 
 
 
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