第82話 『7番バッター、いきますにゃん♪』 前編


 元日のジュリ宅の裏庭。
 修行の休憩中であるチビリュウ3匹は、リュウ・キラの部屋にいるローゼが父親――王との電話を切るなり声を揃えた。

「おい、待てローゼ!」

「にゃ?」

 とローゼが首を傾げると、チビリュウ3匹が顔を引きつらせながら続ける。

「ソレやめとけって、マジで……!」

「ソレってどれにゃ?」

「ジュリ兄からリーナへの誕生日プレゼントに決まってんだろっ……!」

 7番バッターとして、リーナにどうしてもジュリからのプレゼントを受け取って欲しいローゼ。
 リーナがジュリから物は受け取らないと言い張るものだから、どうしようかと悩んでいたところ、王から電話が掛かって来。
 こういうとき王ならばどうするのか気になって訊いてみたところ、その返答は『手作りラブソングを贈る』というもの。

 チビリュウ3匹は大反対なのだが、どうやらローゼは大層気に入ったらしく……。

「手作りラブソングを贈られるなんて、とぉーっても素敵なのですにゃあーっ……」

 なんて、恍惚とした瞳をして頬を染めている。
 それを見、シュンがすかさず突っ込んだ。

「バッカじゃねーの、おまえ。プロのアーティストとからならともかく、ジュリ兄はドシロウトなんだぜ? おまえは王女だから知らねーかもしれねーけどな、世間一般の女はそんなものおくられた日にゃドン引きだぜ」

「それかシッショウされるのがオチだ」

 と、セナが続き。
 ローゼの頬が膨れる。

「そんなことないのですにゃ! ジュリさんみたいな絶世の美少年にラブソングを贈られたら、レディはみんなイチコロなのですにゃ! にゃー、シオン!?」

 と、同意を求められたシオン。

「にゃー」とローゼに合わせて返事をしてやった後、ピシッと軽くローゼにデコピンした。「ねーよ。おまえ、ジュリ兄をバカの上に寒い男にしてーの?」

「さ、寒くなんかないのにゃっ!」

「さみーよ」

「寒くにゃいっ!」

「極寒だ」

「極熱にゃっ!」

「凍え死ぬわ」

「そんなわけにゃいっ!」

「ダジャレ・ギャグ・死語が好きなカレンの兄と会話するときのシュウ並だ」

「いっ……、一緒にするにゃああぁぁああぁぁぁああぁぁあぁぁあぁぁああっっっ!!」

 と叫んだ後、ローゼがにゃーにゃーと声を上げて泣き出し。

 それを見たシオン。
 くるりとシュン・セナに顔を向け。

 さらりと前言撤回。

「手作りラブソングって超良くね?」

「………………」
 
 
 
 
 それから2日後の朝。
 シオンと共に、リビングへと下りてきたローゼ。
 そこにいる一同を見渡した。

 昨日と一昨日に引き続き、今日も宴会ということで、キラやミラ、リン・ラン、ユナ・マナ・レナ、ミーナ、グレルはもう酒を飲み始めている。
 その傍らではリンクが二日酔いでダウンしており、どうやらレオンとミヅキが看病しているようだ。
 マナの薬が切れて元の姿に戻ったリュウは、膝の上のキラの肩にうな垂れて、それはもう深い溜め息を吐いて酷く落ち込んでいる様子。
 今日も仕事に行くというジュリとサラ、付き添いのハナ、それからまだアルコールの飲めないシュンやセナ、ネオン、カノン・カリンは、シュウとカレンがせっせとキッチンから運んでくる朝食を食べているようだった。

(どうやら、リーナさんとミカエル兄上は昨日に続いて今日も来ないみたいだにゃ)

 と、その2人の姿がないことを確認したローゼは、声を大きくして話を切り出した。

「おはようございますにゃ、みなさん。食っちゃ飲みしながらで良いのでローゼのお話に耳を傾けてくださいにゃ。特に、ジュリさん!」

「はい、ローゼさま?」

 と、ジュリが朝食を食べ続けながらローゼに顔を向け、他の一同もローゼに注目すると、ローゼは話を続けた。

「まず、7番バッターはローゼですにゃ」

「ふーん。どんな作戦考えたの?」

 と、サラ。
 ローゼが答えるよりも先に、シュン、セナと口を開いた。

「すげー作戦……」

「あるイミ……」

「ある意味すごい作戦?」と、ジュリは首を傾げたあと、サラに続いてもう一度ローゼに訊いた。「それって、どんな作戦ですか?」

「そ・れ・はぁー……」と、腰に両手を当てて、胸を反らしたローゼ。「『手作りラブソング大作戦』ですにゃっ♪」

 とそれはもう、誇らしげに言い放った。

「て、手作りラブソングぅ?」と、声を裏返したシュウが訊く。「そ、それって、ジュリがリーナにラブソングを作って贈るってことすか王女さま!?」

「はいですにゃ! リーナさんのお誕生日に、ジュリさんが手作りラブソングを贈るのですにゃ♪ もっちろん、当日までリーナさんには秘密で!」

「いや、ちょ、それは……」

 とシュウが顔を引きつらせる一方、「おおーっ」とキラとミーナ、ハナが声を揃えた。

「凄いぞーっ! 私もリュウから贈られてみたいぞーっ!」

「凄いぞーっ! わたしもリンクから贈られてみたいぞーっ!」

「ろろろ、ろまんてっくだべぇぇぇぇぇぇぇーーーっ……!」

 さらにカレン、ミラ、リン・ラン、カノン・カリンと頬を染めて続く。

「きゃああああ、素敵ぃっ! あたくしもダーリンから贈られてみたいわぁ♪」

「あぁん、私もパパから贈られてみたあぁぁぁぁいんっ……♪」

「わ、わわわ、わたしたちも兄上から熱唱されてみたいですなのだぁぁああぁぁあぁぁあーーーっ!!」

「きゃあああああああっ! おじーちゃま、あたくちたちにもラブソングおくってくだちゃあぁああぁぁぁぁあいっ♪」

 その傍ら、サラが呆れたように溜め息を吐いた。

「まったく…、世間知らずな王女も、人里から離れたところで育ってきた元野生のモンスターも、夢見がちな乙女も……。あのね、手作りラブソングなんて贈られたら普通の女は――」

「お袋」

 と、サラの言葉を遮ったシオン。
 一瞬ちらりとローゼの方を見てから、小声で続ける。

「頼む、反対しないでやって……」

「……」

 ローゼに顔を向けたサラ。
 涙ぐんでいるその顔を見、

「分かった……、やってみれば?」

 と、再び溜め息を吐いた。
 ぱっと明るくなったローゼの顔を見ながら、「でも」と続ける。

「楽器をいじったことないジュリが曲を作るのは難しいだろうし、アタシの弟子になった以上歌詞すら作る暇ないかもよ?」

「うーん…、たしかに……」

 そうかも、とジュリは思う。
 昨日も一昨日も、夜遅くにヘトヘトになって帰ってきて、シャワーを浴びたあとはすぐにベッドに倒れて眠ってしまった故に。

 ではどうしようかとローゼが考えていると、セナが口を開いた。

「とりあえず、おれのオヤジなら曲作れるぞ。きっと」

「ええっ?」と、ミヅキが声を上げる。「お父さんだって楽器とかやったことないよ、セナ」

「ドール作りも曲作りも、同じゲイジュツじゃねーか。オヤジならできるだろ?」

 芸術といえば、とシオンがレオンに顔を向けて言う。

「親父の絵も芸術だよな。なあ、親父も曲とか作れんじゃねーの?」

「ええっ?」と、今度はレオンが声を上げた。「僕より、何でも出来るリュウに頼んだ方がいいよ」

「あー、ダメダメ」と、声を揃えたのはサラとチビリュウ3匹である。「エロい曲になる」

「……それってどんな曲?」と苦笑したあと、溜め息を吐いたレオン。「仕方ない…、僕がピアノなりギターなりで曲を作ってみるよ……」

 と承諾したあと、「でも」とミヅキを見て続けた。

「僕一匹じゃ大変だから、ミヅキ君も手伝ってくれる?」

「はい…、お義兄さん。ぼくじゃお役に立てるか分かりませんけど……」

 と、ミヅキも仕方ないと承諾し、

「お父さん、ぼくも手伝うね!」

 とネオンも続いた後。
 ローゼがジュリを見て「それで」と続けた。

「ジュリさん、リーナさんの前でどういう風に歌いたいですかにゃ?」

「どういう風に……とは?」

「あらかじめ録音しておいた曲を流して歌うとか、ジュリさんお一人でギター持って歌うとか、誰かに周りで演奏してもらって歌うとか」

「はいはいはい!」と、レナが手を上げて言う。「どうせなら、バンド組んじゃえば? カッコイイし! 当然、ジュリはボーカルで! ギターやベース、ドラムとかは、あたしたちの中から出来そうな人にやらせてさ」

「出来そうな人?」と鸚鵡返しに訊いたあと、ユナはリュウに顔を向けた。「とりあえず、一人は基本的に何でも出来るパパだよね。――って、ああ…、パパ死にかけてるし駄目かも……」

 とユナが苦笑すると、マナが「じゃあ」と続いた。

「パパそっくりな、シオン・シュン・セナなら出来るよね…」と言いながらジュリとチビリュウ3匹の顔を見、「うーん…、バンド名は『JYURI with MINI☆DRAGONS(ジュリ ウィズ ミニドラゴンズ)』とか…?」

「ああ、リュウ――龍だしね、ドラゴンだよね、チビだしミニドラゴン」と、サラ。「けどジュリ以外エロエロだから『JYURI with MAJI☆EROS(ジュリ ウィズ まじエロス)』とかもいーかも。あと、シオン・シュン・セナも将来絶対メダルでかくなるし、『JYURI with BIG☆MEDALS(ジュリ ウィズ ビッグメダルズ)』とかぁー。あはは」

 うんうんと頷いたリン・ランが「それか」と続く。

「『JYURI with SEXY☆BOYS(ジュリ ウィズ セクシーボーイズ)』とかも合ってると思いますなのだ♪ シオン・シュン・セナは、父上に似て色っぽいからなーなのだ♪」

 それに同意したあと、キラも「しかし」と言いながら続く。

「もう少し短くても良いのではないか? ここはジュリのこよなく愛するカブトムシ――『BEETLE(ビートル)』とかな。いやしかし、某有名ロックバンドと被るか、綴りが違うとはいえ…。ならば召還・カブトムシのテツオから、『TETSUO』…、いや『TESTU男』が良いか…? いや待て、『鉄男』……、『鉄OH』…………、『鉄? OH!』」

「ママ何それ……」と突っ込んだ後、ミラがジュリに顔を向けた。「そうね…、うーん……。あ、ねえ、ジュリ? 何か夢ってあるかしら? カブトムシになること以外で」

「リーナちゃんをお嫁さんにもらうことです」

「う、うーん、それだと難しいわね。他に夢はない?」

「他に夢ですか?」

 と、鸚鵡返しに訊いたジュリ。
 うーん、と唸って考えて数秒後。

「タラコ唇になることかなあ」

 と答えた、その直後。
 グレルがぱちんと指を鳴らした。

「よし、決まったぞーっと♪ ここは『TARAKO☆LIPS(タラコリップス)』に決定だぞーっと♪」

「俺たちタラコ唇じゃねーし、なりたくねえ!」

 と騒ぎ出したチビリュウ3匹の傍ら、シュウが苦笑しながら口を挟んだ。

「まあ、落ち着け。とりあえずバンド名を決めるのは後回しにして、歌詞の担当を決めようぜ」

 ということで、話題は変わり。

 ローゼが一枚の紙を取り出して言う。

「昨日ローゼ、シオンと一緒にお城に戻ってお父上に新年の挨拶をしてきたんですけどにゃ? 例として、お父上が一つ愛の詩を書いてくれましたにゃ。ちなみにキラさまを想いながら書いたそうですにゃ。んーと……」

 と、王が書いた詩を読もうとしたローゼ。
 最初の一文字が喉から出ようか寸前、飛んできた風の刃に持っている紙をみじん切りにされ、「にゃっ!?」と声を上げて仰天した。
 シオンの腕に抱きつき、一体何事かと怯えながら辺りを見回してみると、どうやらそれはリュウの仕業らしく。

 ローゼを睨むように見ているリュウにシオンが顔を向け、安堵したように小さく溜め息を吐いた。

「なんだ……、元気じゃねーか師匠。死に掛けてると思いきや」

「んなもん読むんじゃねえ、ローゼ」

 とドスの利いたリュウの声が響き、ローゼは声を震わせる。

「ご、ご、ご、ごめんなさいにゃあぁぁぁぁ……!」

 サラがシオンに続く。

「本当、思ったより元気じゃん親父。その調子なら、レオ兄たちが曲を作り終える頃にはそこそこ復活してるよね。ってわけで、親父が作詞してくれない? 兄貴やリンクさんと一緒にさ」

「ええっ!? ラブソングの作詞ぃっ!?」

 と、シュウと、ダウンしていたリンクが思わず起き上がって赤面すると同時に、シオンが眉を寄せて突っ込んだ。

「おい、お袋。作曲だってエロい曲になるからって師匠にはやらせなかったのに、作詞なんてもっとダメじゃねーの。ぜってー下ネタ連発だぞ」

「まあ、そうかもしれないけどさ、仕方ないじゃん?」とサラが続ける。「だって手が空いてるのが、あと親父と兄貴、リンクさんくらいっていうか。レオ兄とネオン、ミヅキは作曲で一杯一杯だろうし、あんたたちチビ親父は楽器の練習で忙しいだろうし、超天然バカの熊さん(グレル)は問答無用で却下だし」

「けど、他にもいっぱい手ぇ空いてんじゃねーか」

「それってアタシたち女のこと? いやー、ここは男が作詞するべきっしょ。だって、歌うジュリが男だし」

「それもそうか」と、うんうんと頷いて納得し、シオンがリュウに顔を向ける。「ってわけで師匠、親父たちが曲を作り終えるまでにそこそこ復活して作詞頑張れよー。ジュリ兄のために」

 と言われ、恐る恐るといったようにジュリに顔を向けたリュウ。

 髪の短いその姿は、まだ見慣れない。
 目を覚ましてその姿を見たときに驚いたことは驚いたが、ショックではなかった。
 むしろ、キラの姿から少しでも遠のいてくれて嬉しかったりする。

(――が、しかし。やっぱりどう見ても顔はキラだ。俺の可愛い黒猫そっくりだ。それなのに、何故だ……!)

 と、ジュリの股間に目を落とし、涙が込み上げてきそうになったリュウ。
 目元を手で押さえ、ジュリから顔を逸らす。

「嫌だっ……!」

「ち、父上っ……」

 とジュリは困惑してしまう。
 今まで出来ることならば何でもしてくれたリュウに、そんなことを言われるのは初めてで。

「あ、あの、父上――」

「頼む、止めてくれジュリ」

「僕も作詞頑張ってみますけど、僕だけじゃ間に合いそうもなくて――」

「止めてくれっ……!」

「僕、リーナちゃんのお誕生日パーティーまでに、どうしても完成させたいんです――」

「頼むから、止めてくれっ……!」

「だからお願いします、父上――」

「頼むから、それ以上俺に股間を近づけないでくれ!!」

 とリュウに絶叫され、慌ててリュウに背を向けたジュリ。
 しぃーんと静まり返ったリビングの中、小さく「ごめんなさい」と呟いて戸口へと向かって行った。
 それを慌ててハナが追って行った後、

「あ、もう仕事行かなきゃか。んじゃー、あとは頼んだよー」

 と、サラも続いてリビングから出て行くと、リュウの膝の上のキラが深く溜め息を吐いた。

「おいリュウ。ジュリが落ち込んでいたぞ……」

「一体どういうことだ!」

「何がだ……」

「いつからジュリにメダルが生えたんだ!」

「いつからって、最初からだぞ……」

「俺は今までヤロウといちゃついていたと言うのか!?」

「ジュリのことを次男、次男とは口ばかりで、心の中では八女だと思い込んでいたのか、リュウ……」

「もういい、俺にはおまえだけだキラっ……!」

「あら、おじいちゃま! おばーちゃまにそっくりなあたくちたちのこと、わすれないでくだちゃーいっ!」

 と駆け寄ってきたカノン・カリンを抱き締め、リュウが声を詰まらせる。

「ああ、そうだなカノン・カリン…! おまえらはメダルなんか生えてねえもんな…! 何て可愛いんだ……!」

 苦笑したキラ。
 再び深く溜め息を吐いた。

「なあ、リュウ。男だろうと女だろうと、ジュリは大切な私たちの子供ではないのか?」

「……」

「今までのように何でもかんでもしてやって過保護にしろとは言わないが、ジュリは今己の幸せのために必死に頑張っているのだぞ? 手助けしてやったらどうなのだ」

 キラに同意した一同の視線が集まる中、少しして立ち上がったリュウ。
 リビングを後にした。

「……俺も仕事行ってくる」

 と言い残して。
 ローゼがおろおろとしながら口を開く。

「リュ、リュウさま、ジュリさんのこと嫌いになってしまったのですかにゃあぁぁっ……!」

「……いや、それはない」と微笑んだキラ。「リュウはな、私以上に子供たちのことを大切に想っているのだ。といっても、子供たちはあくまでも、あーくーまーでーも、私の次に大切に想われているのだがな♪」

 あはは、と笑った。
 それを見て、

「もー、ママってばノロケ?」

 と、口を尖らせたミラが「でも」と話を戻す。

「パパきっと、ジュリのために作詞してくれるわよね」

「ああ、きっとリュウは大切な子供のためにやってくれるぞ。い、いやまあ、その詞の内容が心配ではあるのだが、その辺のことはシュウとリンクに任せれば大丈夫だろう……た、たぶん……」

 それを聞き、どうやら歌詞も何とかなるようだと安堵したローゼ。
 作曲担当のレオンとネオン、ミヅキに笑顔を向け、「それじゃ」と笑った。

「7番バッター・ローゼの『手作りラブソング大作戦』、まずは作曲からお願いしますにゃん♪」
 
 
 
 
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