第76話 『6番バッター、いきます…』 前編
本日、大晦日。
ジュリ宅のリビングでは、夕方からリュウとキラの誕生日パーティーが行われている。
リュウは50歳に、キラは49歳に。
モンスターのキラが二十歳の頃から外見年齢が変わらないのは当然だが、何故か人間のリュウも相変わらず老けない上に、何一つ衰えない。
それどころか年を重ねるたびに強くなるし、性的能力も上がって行く。
もうここまで来るとバケモノを超えたバケモノにしか見えなく、シュウがリュウから遠巻きになって顔を青くする。
「おい、親父……」
「何だ、シュウ」
「頼むからいい加減、老けてくんね? 冗談抜きで怖ぇーんだけど……。これじゃ、オレと兄弟じゃねーか」
「俺、おまえと同じ女抱いた記憶はな――」
「そっ、そういう意味じゃねえっ!!」
とシュウが突っ込んだ後、リュウの元へと歩いて行ったジュリ。
「お誕生日おめでとうございます、父上。これ、僕からのプレゼントです」
と、手に持っていた箱をリュウに渡した。
「ありがとな、ジュリ。もしかして、おまえが働いて稼いだ金で買ってきてくれたのか?」
「はい、もちろんです父上」
と、笑ったジュリの顔を見つめ、リュウが目頭を押さえる。
「……っ……! …何てことだっ……! ジュリが汗水垂らして稼いだ金で、俺にプレゼントをっ……!」
「……。…親父、オレがハンターになってから初めてプレゼントしたとき、そんなに喜んだっけ?」
とシュウが顔を引きつらせる傍ら、リーナが一同からリュウ宛のプレゼントを見て口を開いた。
「あれ、まだ誰かリュウ兄ちゃんにプレゼント渡してへんの? 数が1個足りへんで」
「それは、あたしが皆よりも先にパパにプレゼント渡したから…」と、マナ。「ね…、パパ……?」
と、リュウに顔を向けた。
リュウが「おう」と頷き、にやにやと笑いながらジュリを膝の上に抱っこした。
そしてにやける。
「ふっふっふ……」
「うわ、きんもー」
と横から口を挟んだリンクにはゴスッと拳骨をお見舞いし、リュウはジュリの頭を撫で繰り回しながら続ける。
「明日の長月島での雪合戦大会、楽しもうなージュリ!」
「はい、父上!」
「といっても、父上はちょうど長月島で外せない仕事が入って、雪合戦大会には参加出来ないんだが」
「え?」
と、明日の雪合戦大会で起きることを何も知らされていないジュリとリーナ、ミカエルがぱちぱちと瞬きをしてリュウに顔を向けた。
「そうなんですか? 父上」
「ああ、ジュリ。その代わりと言っちゃ何だが、父上の顔とよく似た遠い親戚が来ることになってるからよろしくな」
「へ?」
遠い親戚?
「――って、どこやろうなあ?」
と、翌日の朝――元旦に『全島ハンター・雪合戦大会IN長月島』へと、いつもの一同と共に瞬間移動でやってきたリーナ。
山の麓に作られた広い野外会場を、きょろきょろと見渡している。
「うち、ジュリちゃんたち家族に親戚おったなんて知らへんかった! まだ来てへんのかな、どこにおるんやろうその人! 会うのがめっちゃ楽しみやで!」
リーナと一緒になって、会場を見渡していたジュリが続く。
「うん、僕も楽しみなんだ! 初詣で神様に『仲良くなれますように』ってお願いしたから、仲良くなれるかなあ」
ジュリの言う神様=ポチ。
キラの亡くなった父である。
毎年ジュリ一同は、初詣に文月島タナバタ山にあるポチの墓へと行き、願い事をする。
それは普通、心の中で言いそうなものだが、リュウの都合で必ず声に出して言わなければならない。
噂ではリュウが皆の願い事を聞き、そして心の中で、自分の都合が良くなるようにポチと会話しているとか何とか。
「きっと仲良くなれんで、ジュリちゃん! ジュリちゃんが『仲良くなれますように』って神様に願い事したとき、リュウ兄ちゃんも『必ず仲良くなれるから大丈夫だ』って言っとったし!」
「うん、そうだよね! 父上が言うんだから、きっと仲良くなれるよね!」
とジュリがわくわくとした様子で声を上げたとき、ジュリ一家の親戚はどこだろうと付近を歩いて探し回っていたミカエルが戻ってきた。
「駄目だ。参加者が多すぎて、それっぽいのがさっぱり見つからないぞ。リュウに似てるというから、すぐ見つかると思ったんだがな」
「僕もそう思ったんですけど……って、あれ? 皆は?」
と、ジュリは再び会場を見渡した。
ついさっきまで近くにいたはずの家族や仲間一同がいなくなっている。
「あっれ、皆どこ行ったんやろ!? リュウ兄ちゃんは、ここ長月島での外せない仕事っちゅーのに向かったのかもしれへんけど……」
今度は家族や仲間一同を探す、ジュリとリーナ、ミカエル。
そんな3人から300mほど離れた地点にある、山の木々の影に隠れているジュリの家族や仲間一同。
遠くにいるジュリたちの姿を見つめたと、キラが苦笑しながらマナに顔を向けた。
「6番バッター・マナよ…。本気でリュウに『性転換薬』を飲ませ、そしてジュリといちゃつかせる気か……」
マナがうんと頷き、女物の衣類を荷物の中から取り出しながら口を開く。
「最初は、ジュリのことが好きだっていう女性が現れたときの、リーナの反応を見たいだけだったんだけど…。これがキッカケでリーナと何か進展あったら、作戦成功ってことで…」
「おおーっ」と、声を上げたのはミーナだ。「将来はキラと一緒に暮らすという、わたしの夢にまた近づくぞーっ!」
リンクが苦笑する。
「それジュリの恋が進展したらの話やで、ミーナ」
「大丈夫だぞ、リンク! リーナは、きっと性転換したリュウに嫉妬するぞ! そして、ジュリを取られまいと、ジュリを取り合うに違いないぞ!」
「何でそう言い切れんねん……」
「だってリーナ最近家で、ジュリからもらったしゃもじのこと嬉しそうに話すではないか! あれはきっと、またジュリに惹かれ始めている証拠だぞ!」
「まあ、そうやったらええけど…。一人娘のリーナのこと、ほんまは嫁になんかやりたくあらへんけど、親友――リュウの子やったらええかなって昔から思っとったし……」と、リュウに顔を向けたリンク。「――って……!?」
驚愕した。
いつの間にかリュウがマナからもらった『性転換薬』を飲んだらしく、女の姿になっている。
身長が縮んで身体が華奢になり、着ていた服はぶかぶかに。
艶のある黒髪は背まで伸びていた。
リュウの顔を見つめ、リンクの頬がぼっと染まる。
「ちょ、リュ、おまっ……!? めっちゃ美女やんっ!!」
「おう、そうか」
恍惚とした様子のミラ、ユナ、カノン・カリン、ハナと続く。
「本当、パパってば女の人になってもセクシィィィィィィィィんっ……!」
「すごぉーいっ…! さすがパパ…! 超綺麗っ……!」
「おじいちゃま、お美しいのでちゅわぁーっ……!」
「ほあぁぁぁぁーっ…! 眩しすぎて目ん玉潰れそうだべよーっ……!」
カレンの顔が引きつる。
「お義父さま、あたくしよりバスト大きいんじゃなくって……!?」
「今朝ママが行ってた通り、アタシと同じEカップだね。アタシのブラ持って来て良かった」と、すっかり膨らんだリュウの胸を触りながらサラ。「身長はアタシよりちょっと高くて、170cmくらいか」
シュウがリュウの顔をまじまじと見つめながら続く。
「首も細くなったし輪郭も女性っぽくなったけど、目も鼻も口も親父のまんまだなー。親戚っていう設定とはいえ、似すぎじゃねーの?」
「ご祖母上にそっくりらしいぞ」
と、キラ。
周りの一同が「へえ」と声を高くする中、マナの手から女物の衣類を取ってリュウに渡した。
「さあ、着替えろリュウ」
「おう」
とリュウがぶかぶかの服を脱ぐと、シュウとレオン、ミヅキが慌てた様子で背を向けた。
さらにシュウがシュンに、レオンがシオンとネオン、グレルに、ミヅキがセナに背を向けさせる。
一方、リュウは女たちにいじくられ始めた模様。
「おい、サラ。締め付けられて窮屈なんだが……」
「ダメダメ、親父! ブラ外しちゃ! ノーブラじゃエロ過ぎるっしょ」
「なあ、リン・ラン。下半身がスースーするんだが……」
「ここはやっぱりミニスカでしょーですなのだ、父上♪」
「こら、ミラ。そこまでしなくていい」
「駄目よう、パパ! せっかく美女になったんだから、ちょっとくらいお化粧しなくっちゃ♪」
「おい、キラ。この長い髪、顔に掛かって邪魔だから何とかしてくれ」
「分かったぞ、リュウ。うーん、ポニーテールが良いか」
「ますます死んだばーさんみてーだな、ポニテだと」
「む? 被りすぎて嫌か? では、可愛らしくツインテールにするぞ♪」
「……。…ポニテでいい」
約15分後。
出来上がったとの声を聞いて、振り返った男たち。
リュウを見るなり、
「おお」
と、声をそろえた。
シオン、シュン、セナとリュウの身体をあちこち触りながら感嘆する。
「すげー。乳でけえな、師匠」
「すげー。色っぺー脚してんな、師しょー」
「すげー。いいケツだな、ししょー」
「ベタベタ触んじゃねえ、気持ちわりぃ!!」
と、いつもより高い声で怒鳴られたチビリュウ3匹。
ゴスゴスゴスッ!!
と、いつもより細い腕で拳骨を食らい、感動する。
「すげー…! いつもより痛くねえ……!」
「とは言っても、やっぱり怪力だろうな……」
と、シュウが苦笑した。
ところで、と続ける。
「名前どうするんだよ、親父?」
「そういや、ジュリたちに何て名乗るかな」
「お義父さまのお名前が『リュウ』だから、『リ』が付く名前でいいんじゃないかしら」
と、カレン。
少しの間考えたあとに続けた。
「そうね……、『リサ』とか。あと、もし年齢を訊かれたら……うーん、やっぱり女性になっても若いわねお義父さま。24とか答えればよろしいのではないかしら」
「そうだね」と同意したレオンが続く。「名前は『リサ』で年齢は24ね、リュウ。そろそろ雪合戦大会始まるし、もうそれに決めよう」
「おう!」
と、張り切った様子で承諾したリュウ。
「では…、6番バッター、いきます…」
とマナが言い終わるか終わらないかのうちに、ジュリ目掛けて猛ダッシュで駆けて行った。
「っしゃあ! ヤりまくろうぜ俺の可愛いジュリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっっっ!!」
「――って、お義父さまぁぁぁぁぁぁあ!? その『俺』っていうの直した方が良くってよぉぉおぉぉおぉぉぉぉおぉおおおーーーっ!?」
と慌てて叫んだカレンだったが、どうやらまったく聞こえていないらしい。
止まることなく、男らしく大股でジュリまっしぐら。
思わずといったように、カレンの顔が赤くなる。
「ヤダもうっ、お義父さまったら恥ずかしいのですわ! ミニスカなのにそんな走り方して!」
あはは、とサラが笑った。
「アタシみたいだねー」
「まったくよ!」
「否定おね」とカレンを見て頬を膨らませたあと、サラはリュウに顔を戻した。「でもま、大丈夫じゃない? あんな走り方しても、一人称が『俺』でも。実際そういう女ってたまにいるしさ」
「そ、そうね、大丈夫よね、きっと……」
「うん、大丈夫だよきっと。それより、アタシが心配なのはー…」
と、キラに目をやったサラ。
機嫌を窺うように、顔を覗き込む。
「いいの? ママ」
「何がだ、サラ?」
「親父女になったし、ママそっくりで溺愛してる次男・ジュリと一線を越えちゃうかもよ?」
キラが短く笑った。
「それはないぞ、サラ」
「何で?」
「あの通り、リュウの中身は男のままだからな。まあ、中身も女に変わったというなら、その恐れはあるが。中身が普段のリュウのままでは、ジュリと一線を越えようとしたときにショックで失神するのがオチだ」
「え?」
と、ぱちぱちと瞬きをしたサラ。
数秒の間どういうことかと考えたあと、納得した。
「あー、そうか。親父、ジュリにメダルは生えてないって思い込んでるんだもんね。メダル見るか触るかしたときに失神さね。中身も女に変わってたら、逆に喜んだかもしれないけど。こりゃ、いつだったか公衆浴場に行ったときみたいになるわー、親父」
「ああ。私たちは、失神したリュウの回収の準備をしておこう……」
と、キラが呆れたように溜め息を吐いた一方。
ジュリのところへと辿り着いたリュウは。
「――わあっ!?」
「さあ、ヤりまくろうぜ俺の可愛いジュリ」
勢い余って、周りにいたリーナとミカエルもろともジュリを押し倒していた。
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