第57話 トーナメントバトル・超一流ハンター級 前編
本日は『全島ハンター・各階級別トーナメントバトル』の最終日。
もっとも観客が集まる、超一流ハンター級のバトルが行われる。
葉月島からはリュウとシュウ、サラ、レオン、グレルの他に2人が参加することになっている。
合計7人が参加する葉月島は、他の島に比べて多い方だった。
他の島に超一流ハンターが少ないというわけではないのだが、葉月島からの参加者に桁外れの強さを持つバケモノが数人含まれている故に、恐れをなしてしまうとか何とか。
「そのバケモノってのが、親父とグレルおじさんだよね」
と、リュウとグレルを見ながらサラ。
特に、とグレルを見て続ける。
「加減出来ないグレルおじさんと当たっちゃったら、死ぬ可能性大っていうか」
「本当にね」と、グレルのペットであるレオンは苦笑する。「見てる方がハラハラするよ、まったく……」
「なんか今年も初戦からゲール(キャロルの父)さんと当たったっぽいよ。ド(×1000)Mのゲールさん、今年も大喜びじゃん」
「ま…、まあね……」
と、さらに苦笑したあと、レオンは少し離れたところにいるシュウに顔を向けた。
超一流ハンター級の最初のバトルを飾るということで、剣を素振りして準備運動している。
その途中、何度もちらちらと近くにいるリュウを見ていた。
ここ近年、トーナメントバトルでリュウと戦っているシュウ。
優勝なんてものには興味なく、己の目標である『親父を超えること!』を叶えようとリュウに挑んでいた
リュウも年々強くなるものだからそれはそう簡単に叶う夢ではないが、毎年少しずつリュウに近づいて行っている。
「今年もまた少し、親父に近づくんだろうね兄貴」と言い、サラが微笑む。「そして今年も親父に『強くなった』って言われて、大喜びするんだ」
「うん、そうだね」
「超ファザコン」
とサラが短く失笑すると、シュウが赤面しながら振り返った。
「こ、こら、聞こえてんぞサラ……」
「聞こえるように言ったからね」
「てめ……」
「ま、とりあえず初戦頑張ってきてよ。余裕でしょ?」
「まあ……、油断はしねえが」と、遠くにいる対戦相手を見たあと、シュウはサラに顔を戻した。「おまえも初戦余裕で突破するだろうし、そしたら第二戦はオレと戦わなきゃだな」
「シュウ、加減お願いね……!?」
と、真剣な顔で言うレオンを見、承諾したシュウ。
でも、と続けた。
「悪い……、サラ。妹のおまえに勝たせてやりてーんだけど、オレ今年も親父と戦いたいから……」
サラが笑って言う。
「分かってるよ、兄貴。アタシも本気で行くから、兄貴も遠慮なんかしなくていいよ」
「そうか。ありがとな、サラ」
と微笑み、サラの頭を撫でたシュウ。
(本気で行くからって……)
あっという間にやって来たサラとの第二戦、顔を引きつらせた。
「本当に本気だなオイ!?」
バトルが開始の笛が鳴った途端、まるで瞬間移動でもしたかのようにシュウの目の前に移動してきたサラ。
普通の人間の男が両手で持つのがやっとであろう長戟を右腕一本で振り回し、シュウ目掛けて振り下ろした。
重量のあるそれは力を要れずに振り下ろしてもかなりの衝撃だというのに、サラときたら遠慮せず目一杯力を込めた。
それを驚愕しながら剣で防御したシュウに、サラはそれはもう楽しそうに笑んで言う。
「ああ、いつ味わってもゾクゾクしちゃう、この感覚……!」
「おっ、おまえ親父に似すぎだ! オレたち家族や仲間以外の超一流ハンターだったら、絶対真っ二つになってたぞ!?」
シュウの言葉を聞いているのか聞いていないのか、サラが息子2人に顔を向けて訊く。
「どう? ママのこの勇敢な姿は!」
「お母さん、かっこいいーっ!」
と素直に褒める次男・ネオンの一方、長男・シオンがぼそっと呟く。
「どう見ても容姿端麗なキン○コング……」
「シオンあんた、あとで覚悟しときな」
「――!?(な、何故聞こえた……!)」
とシオンが驚愕する中、サラのシュウへの攻撃は続く。
狂った笑い声と共に。
「はーーーっはっはっはっはっはっ! オラオラオラオラァッ!」
辺りに響く金属音は、これまでのトーナメントバトルとは桁外れに激しいもの。
見てる方が、思わずその音に身を震わせてしまう。
サラの刃を剣で受け止めるシュウの手には、その衝撃が強く伝わっていた。
それは手の平を通り、腕の骨を通り、肩の骨にまでジンジンと響いている。
だが、その場から一歩たりとも押されることはない。
「悪い、サラ。オレ、ここで体力使っちまうわけには行かねーから……」
と、バトル開始から10分ほど経ったときに、シュウが口を開いた。
それまでおとなしく防御に専念していたのをふと止め、鍔迫り合いになったサラを剣を振り切って後方に押しやる。
「わっ」
と、空中で宙返りし、タンッと身軽な音を立てて地に足を着けたサラ。
片腕をかざして来たシュウを見、再び長戟を構えた。
刃の周りに、魔法でぐるぐると風を起こし始める。
「来る気?」
「ああ。ちょっとだけ我慢してくれ」
「アタシの属性が風だから、弱点の大地魔法で来るの?」
「いや、それは気が引けるから、なるべくおまえが怪我しないようにオレも風で……」
「ふーん……。分かってはいるけどさ、アタシなんかまるで相手にならないって言われてるみたいで、なんだか……!」
と、俯き、肩を震わせるサラを見て、ぎょっとしたシュウ。
「お、おい、泣くなっ……!」
魔法を放とうとサラにかざしていた片手を下げてしまった。
歩み寄ろうと一歩前に出た瞬間、
「すげームカつくんだよ、このバカ兄貴がぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁあぁぁああぁぁあぁああぁあっっっ!!」
サラが勢い良く振り下ろした長戟の刃から、螺旋を描きながら突進してきた風をもろに食らい、空中を後方に猛スピードで飛ばされて行く。
「ウゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ! ちょ、おま、強っ……!?」
「アタシを舐めやがってぇぇぇえぇぇええぇぇえぇぇええっ!!」
「ち、ちが――」
「死になあぁぁああぁぁぁあぁぁああぁぁあぁぁああぁぁあっ!!」
「に、ににに、兄ちゃんが悪かったよぉぉおおぉぉぉおおおう!! ごめぇぇぇぇええぇぇえぇぇえぇぇぇえんっ!!」と、シュウは必死に謝ったあと、「と、とりあえず構えろ、サラ!!」
と、続けて叫んだ。
はっとしたサラ。
防御の態勢を取った瞬間、シュウが押し戻してきた風魔法に包まれた。
足を踏ん張らせるが、耐え切れずに後方へと吹っ飛んで行く。
「――うわぁっ!」
「サ、サラァァァァァァァッ!」
と、シュウが慌ててサラの元へと駆けて行くと同時に、リュウが風魔法を掻き消し、高くジャンプしたレオンがサラの身体を受け止めた。
よってサラは重傷を免れたが、心配したリュウとレオンの判断によりバトルは終了。
シュウの勝利となった。
そのシュウは、
「シュウ、てーめぇ……! 可愛い妹に向かってなんてことしやがる!!」
まだバトルの時間じゃないにも関わらず、リュウに半殺しにされたが。
「――ぎっ、ぎぃやぁぁああぁぁああぁぁぁあぁぁあぁあぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああっっっ!!」
続いてグレルの初戦。
相手はいつもと同じようにキャロルの父親で、文月ギルドのギルド長兼、超一流ハンター兼、超一流変態のゲールである。
毎年毎年、バケモノ・グレルに三途の川に送られそうになっているゲール。
それがとてつもない快楽らしい彼は、自らグレルとバトルで当たるよう仕組んでいるのだろうと、誰もが察していた。
そして今年も、彼の快楽に悶える声が響き渡ることになる。
「それじゃ、いっくぞーい♪」
ビシィッ!!
と、グレルのチョップを食らって、早速左腕の骨を折られ。
「…ふ…、ふふふ…! …これだ、これなんだ……! 今年もこの快楽を待っていた……!」
「がっはっは! 相変わらずだな、おまえはよーっと♪ そーれいっ♪」
ドガァッ!!
と、続いてラリアットを顔面に食らって、その長い前髪を上げれば実は整った顔を潰され。
「…あぁっ…あぁぁっ……! ああ、もっと…、もっとだ、グレルゥっ……!」
「分かってるぞーっと♪ とーりゃあっ♪」
ズゴォッ!!
と、さらにローキックを食らい、両足を折られて大地に倒れこみ。
「…ハァハァハァ……! まだだ…、まだだグレル……! もっと…、もっと強烈なのを私にっ……!」
「もっとかぁ? ったく、仕方ねーなーっと♪」
と、コブラツイストを食らって肋骨を多数折られ。
さらにバックドロップを食らって後頭部を強打し。
加えて、ぴょーんと宙に舞ったその筋肉隆々120キログラムの体重にボディプレスされ。
グレルの身体の下、ゲールはその極上の快楽に絶叫する。
「…ぐああぁぁああぁぁああぁぁあああっ……!! イイィィィィィィィィィィィィィィィィッッッ……!!」
「うんうん、良かったな♪」
「…ハァハァハァ……! …お願いだ、グレル……!」
「何だ?」
「…や…止めないでくれっ……! このままっ…、このまま、私を逝かせてくれええぇぇえぇぇええぇぇぇえぇぇえぇぇええぇぇええっ……!!」
「本当仕方ねーな、おまえはよ♪ それじゃ、トドメの――」
ピピピピピーーーッ!!
と、試合終了の笛をリンクが吹いた。
ケリーと共に、慌ててグレルとゲールのところへと駆け寄って行く。
「トドメさしたらあかんやろ、このバカ師匠ーーーっ!! だ、大丈夫かいなゲール!?」
とリンクがゲールに目を落とすと、何やら泣きじゃくっている。
「…ひどい…ひどいじゃないか、リンク……! …何故止めたし……!」
「な、何故って……(何やねん、めっちゃ悪いことしたようなこの気分……)」
「…ああケリー…、お願いだ……! 私に治癒魔法を掛けな――」
「はいはい、うるさいうるさい」
と、問答無用でケリーに治癒魔法を掛けられ、身体から快楽が消えてしまったゲール。
この世の終わりかと思うような声で泣き叫んだ。
それを聞いて顔を引きつらせながら、リンクがバトルの結果を口にした。
見ての通り、勝者はグレル。
だが、
「師匠あんた、危険すぎるから失格な。絶対死人出るっちゅーねん……」
ということで、葉月島超一流ハンターで順調に勝ち進んで行ったのはリュウとシュウ、レオン。
準決勝にてリュウとレオンが当たったが、それはバトルではなく。
「僕じゃ、これくらいしか役に立てないけど……」
「おう、サンキュ、レオン。おまえがあんまり怪我しねーうちに止める」
次のシュウとの決勝に備えての、リュウのウォーミングアップの時間だった。
一方、その頃の葉月島ジュリ宅。
裏庭でジュリに膝枕をしてやっていたハナは、ポケットの中から携帯電話を取り出した。
サラからメールが来ている。
「ジュリちゃん、もうすぐトーナメントバトル・超一流ハンター級の決勝戦だそうだべよ」
ジュリが閉じていた瞼をゆっくりと開け、小さく口を開いた。
「超一流ハンターの決勝戦……? 父上と兄上?」
そうだと頷き、ハナは続ける。
「オラたちも応援しに行かねべか? リーナちゃんとミカエル様はいないみてえだけんども」
「え?」と、ジュリは下からハナの顔を見つめた。「リーナちゃんとミカエル様、いないの? 仕事?」
「そうじゃないんだけども、何だか昨日の一流ハンター級のときもいなかったみたいだね」
「……」
デートでもしているのだろうかとジュリの顔が沈んだとき、ハナがジュリの顔を手で包み込んで笑った。
「さあ、リュウ様とシュウくんの応援に行くべよ、ジュリちゃん! お家にこもって、溜め息ばかり吐いてねえで!」
「…うん……、そうだねハナちゃん」
と、ハナの笑顔を見つめて微笑み、起き上がったジュリ。
ミーナに電話して迎えに来てもらい、ハナと共にその瞬間移動でトーナメントバトル会場に向かって行った。
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