第28話 城の中の王女 前編
6月末。
葉月島の季節はまだ梅雨だ。
(ああ……、やっぱりや)
ハンターの仕事で葉月島オリーブ山の中にいる凶悪モンスターを探しつつ、前方を歩くミカエルを見つめながらリーナは確信する。
(ミカエルさま、ここ半月くらい、うちとジュリちゃんが接触しないようにしとるわ)
ジュリが子供向けの性教育の本を読んだ次の日以来、ミカエルは何かとジュリとリーナの間に割り込んでくる。
それにどういうわけか、毎晩ジュリと長電話しているようだ。
仕事の後にリーナがジュリに電話しても、ずっと通話中になっている。
(ミカエルさまどういうつもりか知らへんけど、おかげでジュリちゃんに訊きたいことが訊けへんやないかい……)
リーナの傍らを歩いているローゼも同じことを思っているのか、ジュリの真横にべったりとくっ付いているミカエルをじと目で見つめている。
リーナとローゼ、2人の視線を背後から感じたミカエルが振り返って笑顔で訊く。
「なんだ、リーナ? ローゼ?」
「別に……」
と声をそろえた2人から、ミカエルが「そうか」と短く返して顔を戻す。
その背に、リーナのチョップがドスッと一撃。
「何が『別に……』やねん!」
「そうですにゃそうですにゃ!」
とローゼが続き、眉を吊り上げる。
ミカエルが再び振り返って苦笑する。
「言ったのはおまえたちじゃないか……」
そんなミカエルの突っ込みを聞いているのか聞いていないのか、リーナ、ローゼと交互に声をあげる。
「最近、どういうつもりやねんミカエルさま!」
「そうですにゃそうですにゃ! どういうおつもりですにゃ兄上!」
「ジュリちゃんとベタベタベタベタしよって! 男同士で毎晩寝るまで長電話なんて、普通せえへんで!」
「そうですにゃそうですにゃ! 一体何のお話してるんですにゃ!?」
リーナとローゼの顔を交互に見たミカエル。
「楽しい話だよなー、ジュリ♪」
と、ジュリに笑顔を向けた。
ミカエルの顔を見上げたジュリも、にこっと笑って言う。
「はい、楽しいお話です♪」
「――!?」
リーナとローゼ、衝撃。
後ずさって2人に背を向ける。
「ちょ、ちょお聞いたかいなローゼさま!?」
「き、聞きましたにゃリーナさん!」
「た、楽しい話って何やと思う……!?」
「ま、まさか、やっぱりジュリさんと兄上は……!?」
「こら、聞こえてるぞ」
と、再び苦笑してしまうミカエル。
リーナとローゼにまるで変態を見るような目で見られながら続ける。
「言っておくが、私はノーマルだ。勘違いしないでくれ……」
ちらりとリーナを見つめたあと、ローゼが頷いて認める。
「まあ……、そうですにゃ。ごめんなさいですにゃ、兄上」
一方のリーナは眉を寄せた。
「えー……?」
「な、何だリーナ? その目は? 私はノーマルだ、本当に」
「せやけど、ミカエルさまに女の影がないっていうか……」
「へ?」
「昼間はうちに着いて仕事やろ? 城に帰ったら帰ったで、剣稽古ばっかしとるのやろ? いや、最近はジュリちゃんと長電話やけど」
「ま、まあ、そうだな」
「ノーマル宣言する割には、おかしいやん。いつ彼女の相手してるん? ミカエルさまって王子さまやし、顔やってよう見ると整っとるし、楽しいし、彼女いない方がおかしいのに、その彼女の影がまるで感じられへん」
「え、えーとだな、リーナ……」
「ほら、やっぱりジュリちゃんに『ホの字』なんや! ジュリちゃんに近づくためにうちの弟子になったんやろミカエルさま!」
「…………」
ミカエル、絶句。
(わ、分かってはいたが、私の気持ちをまったく気付いていないな、リーナは……)
ローゼが深く溜め息を吐いて言う。
「兄上も苦労しますにゃ……」
「……。いいんだ、気にしないでくれ……」
ローゼとミカエルの顔を交互に見たリーナが首をかしげる。
「な、なんやねん? いきなり沈んで、けったいな兄妹やな」
「それより」
と話を切り替えたローゼ。
ジュリの両手を握って訊く。
「明日の舞踏会、ジュリさんも来てくれますかにゃ?」
「…ローゼさま……?」
ジュリは首をかしげた。
目の前にあるローゼのブルーの瞳が、何だかとても不安そうに揺れている。
ローゼが声を強くしてもう一度訊く。
「明日の舞踏会、ジュリさんも来てくれますかにゃ?」
「あ……、はい、ローゼさま」
とジュリが押され気味に承諾すると、ローゼが小さく安堵の溜め息を吐いた。
ジュリの片腕を抱き締め、スキップしながら凶悪モンスター探しを続行する。
その背を見ながら、リーナが肘でミカエルを軽く突いた。
「なあ、ミカエルさま。ローゼさま、一瞬様子がおかしくあらへんかったか? ジュリちゃんと踊りたいのは分かるけど、なんかそれだけが理由でジュリちゃんのこと誘ったんやない感じがするっていうか……」
「ああ……、ローゼは舞踏会が息苦しいんだ、きっと」
「息苦しい?」
「ああ。普段は夜までこうして外で遊んだあと、城に帰ったらすぐ自分の部屋に篭っているようだが……。舞踏会となると、私の母と顔を合わせなければならないからな」
そんなミカエルの言葉に、リーナははっとして思い出した。
普段の明るいローゼを見ているとつい忘れがちになってしまうが、ローゼは王の正室の妃――ミカエルの母から好かれていない。
シュウの元ペットであり、王の側室の妃であるホワイトキャットのマリア――ローゼの母が、ミカエルの母から好かれていないが故に。
「相変わらず正室のお妃さまは、何の罪もないローゼさまのこと疎ましく思ってるんっ? そ、そりゃ、夫が浮気して出来た子なわけやから、無理はあらへんけどっ……」
「ああ。私の母だけじゃなく、私の姉や妹もだ。兄はそうでもないんだが、ローゼのことはどうでも良いみたいだ。マリアさんもマリアさんで、相変わらず自分のことばかりでローゼを放っておいてる。……だからさ、ローゼにとって舞踏会は息苦しい場所なんだ。ジュリが来てくれるってだけで、きっと楽になるんだろうな」
「……」
「って、ああ、悪いっ……!」
と、ミカエルが狼狽しながら、機嫌を窺うようにリーナの顔を覗き込んだ。
「その……、リーナにとっては良くなかったな。明日の舞踏会、母になんて言われようと私がローゼに付き添っているから、ジュリは来なくてい――」
「さあーて!」と、リーナが笑いながらミカエルの言葉を遮った。「明日の舞踏会、どんなドレス着て行こうかな!」
「へ?」と、ミカエルがぱちぱちと瞬きをする。「明日の舞踏会、リーナも来る気か?」
「当然やで! ジュリちゃんとローゼさまが踊ってるとこ、監視せなあかんもん!」
「いや、だからな、ジュリは舞踏会に来なくてい――」
「ええから」と、リーナがもう一度ミカエルの言葉を遮った。「そんな息苦しいとこにおったらな、ストレスで胃に穴が空いてまうんやで。ジュリちゃんと躍らせてやることくらい、うちは平気や」
「リーナ……」
「でもま、心配やから監視しに行くんやけどな! ローゼさま、ガキのくせに痴女やから!」
ミカエルが笑った。
「そうだな。監視してないと、ジュリが部屋に連れ込まれるかもしれないからな」
「そ、それ笑い事ちゃうで!」
と眉を吊り上げたリーナ。
突然頬を染めて小声になる。
「な、なあ、ミカエルさま? うち、明日の舞踏会ではそんなにジュリちゃんと踊らないでやるつもりやけど……」
「ああ?」
「う、うち、どんな色のドレスが似合うかなっ……!?」
というリーナに、目を落としたミカエル。
真剣な顔で見上げてきているリーナの顔を見つめて微笑み、答える。
「そうだな……、明るいカラーのイメージだな」
「明るい色?」
「オレンジとかイエローとか、そういった真夏の太陽を思わせるような明るいカラーが似合うんじゃないか? リーナには」
「オレンジとか黄色な! 分かったで! ほな、今日の仕事はよ終わらせてドレス買いに行こ! といっても高いから、リュウ兄ちゃんにオネダリしてな!」
と、るんるんとした様子で凶悪モンスター探しを再開したリーナ。
いつもの倍以上のスピードで仕事をこなし、夕方で仕事を終わらせ、ジュリを自宅屋敷に、ローゼとミカエルをヒマワリ城に送ったあと、リュウに電話をして現在いる居場所を聞き出し、そこへと向かって瞬間移動。
「リュウ兄ちゃん!」
とリーナがリュウのところへと着くと、リュウがちょうど凶悪モンスターを目にも留まらぬ速さでみじん切りにしたところで。
リーナは顔面蒼白して顔を引きつらせる。
「うっわあ、さすが鬼や! あんさん、容赦ないなあ」
「用って何だ、リーナ」
と、腰に剣を戻したリュウの手を、引っ掴んだ掴んだリーナ。
「せや、リュウ兄ちゃん」
「あ?」
「ドレス買うてーな♪」
と、返事を聞く前に高級ドレスショップへと瞬間移動した。
突然店内にリュウが現れたものだから、女性店員たちが黄色い声をあげて驚く中、リュウはリーナにデコピンする。
「あイタ」
「いきなり何だ、おまえは。俺は仕事中だぞ」
「このあとの仕事の移動、瞬間移動で手伝うから許してや」
それならまあ良いかと、リーナに付き合ってやることにしたリュウ。
高級ドレスが並べられた店内を見回しながら訊く。
「んで、何でドレス。おまえ明日の舞踏会に来る気か?」
「せや! 連れてってーな、リュウ兄ちゃん!」と、リーナがドレスを見て回りながら言う。「うちと、それからジュリちゃんのこと」
リュウが溜め息を吐いて言う。
「遊びに行くんじゃねーぞ」
「分かってんで。明日、うちは警護の仕事中心にやるから安心してや」
「そうか、なら少しは助かるか。明日はシュウもレオンもいねーからよ」
毎月始めに行われるヒマワリ城の舞踏会へは、警護の仕事でリュウと、それからシュウまたはレオンが行くことになっている。
「シュウくんとレオ兄ちゃん、仕事外せなかったん?」
「ああ。だから俺一人じゃ面倒だし、誰連れて行こうか考えてたんだが……。おまえが来るならあとはシオン・シュン・セナで充分か」
リーナ、苦笑。
「なあ、ジュリちゃんもハンターやで? シオン・シュン・セナはいらないんちゃう?」
「何言ってんだバーカ。ジュリにそんな面倒な仕事与えたら可哀相だろうが!」
「はいはい……」
と呆れて溜め息を吐いたあと、リーナは黄色とオレンジ色の布で作られたドレスを取って試着室へと入っていった。
わくわくとしながらそれに着替え始める。
「安心しろ、リーナ」
「ん? 何がやねん、リュウ兄ちゃ――」
「おまえの着替えじゃ覗く気にもならねえ……」
「すっ、少しは覗く素振りでも見せんかい、このキラバカ! それめっちゃ失礼やで!!」
「分かったよ、うるせーな」
と、さも仕方無さそうに溜め息を吐いたリュウ。
試着室のカーテンを引っ掴み、堂々と全開にする。
「――って、ほんまに覗くな、どあほぉぉぉおおおおぉぉぉぉおおおぉぉぉぉおおうっ!!」
「もう着替え終わってんじゃねーか」
「せ、背中のファスナー上がりきってへんわっ」
「それしきのことで何恥じてんだ」
と言って眉を寄せ、リュウがリーナの背の上がり切っていなかったファスナーを上げる。
そのあと試着室の鏡と向き合っているリーナを見つめて、「へえ」と少し声を高くした。
「俺、基本的に世辞なんてもんは言わねーんだが」
「めっちゃ知っとるわ……」
「だから正直に言ってやるから有難く聞け」
「う、うん?」
「おまえ、亀になったじゃん」
「は?」
「月とスッポンのスッポンから、亀になった」
顔を引きつらせたリーナ。
ぼかぼかとリュウの胸に殴りかかる。
「もっ、もっとマシな褒め方せんかいっ! すぐキラ姉ちゃんと比べよって! キラ姉ちゃんと並んだら、どーせ世の中のほとんどの女はスッポンや!」
「今のおまえはスッポンじゃなくて亀だって言ってやってんじゃねーか、うるせーな」
「スッポンも亀も対して変わりないやんか!」
「何言ってんだ。ひでーぞ、スッポンの顔は」
「せやけど亀言われて喜ぶ女がおるかっちゅーねん! このバカ男!」
「んだと? ドレス買ってやんねーぞコラ。ああ?」
と頬を抓られ、リーナは涙目になって声をあげる。
「いっ、いたたたたたた! ご、ごめんリュウ兄ちゃぁぁああぁぁぁあぁぁああん! もう言わへんからドレス買うてえなあぁぁあああぁぁぁあああぁぁあ!」
「買ってください、だろ? 俺の娘のわけでもねーのに、おまえはよ。え?」
「うわあぁぁああぁぁあん! か、買ってくださいリュウ兄ちゃぁぁぁああぁぁああぁぁあああぁあぁぁあん!」
「よし」
とリーナから手を離したリュウ。
赤くなったリーナの頬に治癒魔法を掛けてやりながら、何となく訊いてみる。
「おまえ、数あるドレスの中から何でこのドレス選んだんだ」
「黄色とオレンジ色のドレスが、これだけやったから」
「おまえって淡いグリーンとかブルーが好きじゃなかったか」
「うん。せやけどな、うちには黄色とかオレンジが似合うって言われたから」
「ジュリに?」
「ううん、ミカエルさまに」
「ミカエルに?」
「うん。なあ、うちこのドレス似合うっ?」
「ああ……、淡いグリーンやブルーも悪くねーが、おまえにゃそっちのが合ってる」
「ほんまっ?」と、リーナの顔が輝いた。「お世辞言うてくれへんリュウ兄ちゃんが褒めてくれるってことは、うちほんまに似合ってるんやな! ミカエルさまに感謝せな! これなら明日、ジュリちゃんベタ褒めてしてくれるよな! 『ローゼさまよりずっと可愛い』なーんて言われたらどうしよう、うちーっ!!」
と、鏡の前でターンしまくるリーナ。
はっとしたように、突然リュウの顔を見上げて止まった。
「な、なあ、リュウ兄ちゃん」
「何だ」
「訊きたいことがあんねんけど」
「ああ、今のおまえなら見ててすげーバカだった」
「う、うっさいわっ!」と赤面し、リーナがリュウの胸をどつく。「誰がそんなこと訊いてんねん! うちが訊きたいのは、ローゼさまのことや!」
「ローゼのこと?」
「う、うん……」
と、頷いたリーナ。
恐る恐るというように、リュウに訊く。
「リュ、リュウ兄ちゃん、ずっと舞踏会の警護の仕事に行ってるから、もしかして舞踏会サボりがちだったミカエルさまより、色々知ってるんやないかと思て……。その…な? ローゼさまが正室のお妃さまにいじめられてるのとか、見たことあるっ……?」
「あるぜ」
ときっぱりと答えたリュウに、リーナの目が丸くなる。
「ええっ!? それほんま!? いじめってどんな!?」
「俺は全体の警護の仕事で舞踏会に行ってっから、ダンスホールに入ってきた者、出て行った者、全て見てるわけだが」
「うわ、凄いなリュウ兄ちゃん! それ全部覚えてるん!?」
「当然だ。んで、王族には特に目を光らせてねーといけねーだろ?」
「せやな」
「ある舞踏会の日、王の正室の妃やその娘の王女たち、それからローゼがダンスホールから出て行ってな。13分で妃やその娘の王女たちは戻ってきたんだが、ローゼがいつまで経っても戻ってこねーもんだから、メンドクセーと思いつつ探しに行ってやった俺ってマジ優しくね?」
「――って、オイ」
「キラが俺にベタ惚れするのも無理はねーよな。加えて俺には素晴らしい力と性的能力、それから――」
「自分の話に持っていくなっちゅーねん、どあほうっ!」と突っ込んだリーナ。「それで、ローゼさまを探しに行ったら!? どうしたん!?」
と、強引に話を戻した。
「おう、それでよ、探しに行ったら、あいつ人気のない廊下の隅に蹲っててよ。どうしたのか訊いたら、何でもないって返ってきたからよ」
「うんうん、それで?」
「放置した」
「あー、なるほどなー。――って、オイッ!」
ビシィッ!
とリュウの胸にチョップをかまし、リーナは半ば驚愕しながら声をあげる。
「そこあっさり放置すんなや! 警護の仕事に行ってるんやろ!?」
「ローゼの様子からして王族内の内輪揉めだと察したんだよ。俺たちハンターの首突っ込むところじゃねーだろ」
「せっ、せやけど! せやけどせやけどせやけど――」
「ああもう、うるせーな」と溜め息を吐き、リュウは続ける。「この話はまだ続きがあんだ。おとなしく聞け」
「う、うん?」
「俺が放置したあと、ローゼがやっぱり待ってとか言って追いかけてくるからよ」
「そりゃそうや……」
「何の用かと思ってたら、転んだから治癒魔法を掛けてほしいって言うんだよ。どこにって訊いたら、全身にって」
「は? 全身?」リーナは眉を寄せた。「どんなド派手なコケ方したんやろ」
「そうじゃねえ。腕とか肌が見えてる部分の傷を見たが、あれは暴行受けた痕だ」
「――えっ……!?」
「ローゼもハーフだから、ちょっとやそっとで人間の女ごときに傷付けられるもんじゃねえ。それなのにあれだけの傷を負ったってことは、相当ひどくやられた証拠だ。しかも、あれ以来ちょくちょくローゼが俺のところに治癒魔法掛けてもらいに来るから、その度に暴行されてるんだろうな。舞踏会サボりまくりのミカエルは知らねーだろうが、ミカエルの母親や姉、妹によ」
「そ、そんなっ……」
とリーナのグリーンの瞳が困惑して揺れ動く。
その頭の上に、リュウの大きな手が乗った。
「いいか、リーナ。おまえはリンクに似て、お人好しのところがあるな。俺はそういうとこバカだと思うが嫌いじゃねえ。だがな、相手は王族だ。余計な首突っ込むんじゃねーぞ」
「せ、せやけど――」
「いいから黙って俺の言うこと聞け。おまえは俺の娘じゃねーし、ジュリともまだ結婚してねーから、家族でもねーんだ」
ここ葉月島で、王族さえも恐縮してしまって頭が上がらないと言われるほどの男・リュウ。
リーナは、その力に守られている範囲にいない、ということだった。
だから危ないのだと、リュウは言う。
「俺の家族が首を突っ込もうと、王族は何も言えねえし、何も出来ねえだろう。でもな、おまえが相手の場合だったらそうもいかねえはずだ」
「う、うちのおとん、リュウ兄ちゃんの親友なんにっ?」
「昔あいつは俺と一緒に舞踏会の警護の仕事に来てたが、もう10年以上来てねえ。そのことを知ってたり覚えてる王族は少ねーだろうよ」
「う、うちのおかんは、リュウ兄ちゃんの嫁さんで、しかもこの世の英雄のキラ姉ちゃんの、大切な妹みたいな存在なんにっ?」
「そのことを知る王族も少ねえよ。キラもミーナも、滅多に舞踏会に行かねーんだから」
「…せ、せやな。うち、下手なことしたらヤバイんやな……」
「ああ。だから深入りすんじゃねーぞ、分かったな」
「が、合点承知之助……」
と承諾したリーナ。
試着したドレスをリュウに買ってもらうことにして、元着ていた私服に着替え始めながら、
(せやけどうち、ローゼさまのこと、このままにはしておけへんわ……)
と、思った。
(ローゼさまはうちのライバルやけど、仲間でもあるんやから……)
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