第13話 初めての公衆浴場にて 中編


 ジュリの希望により葉月町にある公衆浴場へと来ているジュリとその家族、リンク一家。
 公衆浴場と言ってもリュウが貸し切ったものだから、目に入る他人といえば店員ばかりだが。

 女風呂に突然全裸のジュリが現れ、悲鳴が上がる。

「きゃあああぁぁああぁぁあああぁああぁぁあぁぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁあっ!!」

 とミラとユナ、レナ、カレン、カノン・カリンが顔を手で覆い、

「ジュ、ジュリちゃんそんな、あかんてぇぇえええぇぇええぇえええぇぇええぇぇえぇええっ!!」

 リーナが顔を真っ赤にして慌てて背を向け、

「う…、嘘っ……! 嘘でしょっ……!?」

 とサラが衝撃で倒れかける傍ら。
 ジュリの股間を凝視する女たちもいる。

「でも兄上よりないぞー♪」

 とリン・ランが安堵し、

「うん、物凄く可愛いよ…。グレルおじさんに比べると…」

 とうんうんと頷いたマナに、キラも同意する。

「ああ、可愛いな。リュウと比べると」

「でもリンクと比べるとえげつないぞ。さすがリュウの子だぞ」と、ミーナ。「ジュリはあれか。銅メダルのシュウの次にでかい鉄メダルだな。よって現在紙メダルのリンクはさらに降格し……って、リンクは何メダルになるのだキラ?」

「うーむ、困ったな。…あ、金メダルの上にプラチナメダルを作れば良いのではないか? よってグレル師匠がプラチナメダル、リュウが金メダル、シュウが銀メダル、ジュリが銅メダル、レオンが鉄メダル、ミヅキがアルミメダル、そしてリンクは今まで通り紙メダルだぞーっ♪」

「おおーっ、さすがキラだぞーっ!」

 なんて、浴槽の中で行われる女たちの会話を理解していないジュリ。
 にこにこと笑いながら近づいて行く。

「僕、いつも母上や姉上たちに背中流してもらってるから、今日は僕が母上や姉上たちのお背中流します」

「ほお、いつもの礼かジュリ」と、声を高くしたキラ。「では頼むぞ♪」

 と湯から上がり、ジュリに手を引かれながら洗い場へと向かって行った。
 風呂椅子に座って自分で髪の毛を洗いつつ、ジュリにスポンジで背を流してもらっている。

 そんなキラに、リーナが狼狽したように訊く。

「ちょ、ちょ、ちょお、キラ姉ちゃん! は、恥ずかしくないん!?」

「む? 別に恥かしくないぞ。ジュリは私が産んだ息子だしな」

「せ、せやけどぉ……!」

 と赤面するリーナの傍ら、ミーナも湯から上がる。

「ジュリ、次はわたしも頼むぞーっ♪」

「ええ!? おかんも!? いくらキラ姉ちゃんの信者やからって、そんなことまで無理して真似せえへんでも……!」

「別におかんは無理などしていないぞリーナ? 野生の猫モンスターなんて、素っ裸でうろうろしている者も多いしな♪」

「せ、せやけど、今のおかんは野生ちゃうんやからあぁっ……!」

 リーナの言葉を聞いているのか聞いていないのか、キラの隣の風呂椅子に座ったミーナ。
 その背を流しながら、ジュリがリーナに笑顔を向けた。

「あとでリーナちゃんの背中も流してあげるね」

「――えっ!?」と衝撃のあまり声が裏返ったリーナ。「い、いや、う、うちは、そ、そんなっ……!!」

 あたふたとして辺りを見回し、身体を隠そうと持ってきたタオルを探した。

 だが、それはジュリがいる洗い場のところにあった。
 しかもリーナの分だけではなく、皆の分もまとめて。

「ちょ、ちょお、何でみんなあんなところにタオル置いてんねんっ……!」

「だ、だって、お湯に入るときはタオル入れちゃいけないって書いてあるんだものっ……!」

 と、胸を両腕で必死に隠しているミラ。
 リン・ランもユナもレナもカレンも必死に隠している。

「あ、兄上以外の男の前で裸体を晒してはいけないのだっ!」

 とリン・ラン。
 洗い場に置いてあるタオルを指差して続ける。

「お、おい、リーナ。瞬間移動で取って来てくれなのだっ……!」

「なっ、何でうちやねん!?」

「瞬間移動で行って瞬間移動で戻って来れば一瞬だから大丈夫だぞ」

「いっ、嫌やっ! 絶対見られるっちゅーねんっ!」

「リーナはジュリの婚約者なんだからいいだろうなのだっ!」

「う、うちやて心の準備ってものがあるんやっ!」

 とリーナとリン・ランが言い争う傍らで、マナが溜め息を吐いた。
 湯から上がり、洗い場の方へと歩いていく。

「はいはい…、タオル持ってくればいいのね…」

「え、マナちゃん!? そんな堂々と素っ裸で……!」

「別に減るもんじゃないし…」

「…お…おおお…! 昔から思っとったけど、大物や……!」

 と感心すると同時に、これで身体を隠せると安堵したリーナ。
 周りと共にほっと溜め息を吐いたのだが。

「あ、マナ姉上! お背中流します♪」

 なんてジュリに手を引かれ、ミーナの隣の風呂椅子に座らせられたマナ。
 ジュリに背を洗われながら、浴槽にいる一同にゆっくりと顔を向けた。

「ごめーん…」

 つまり、自分で取りに来い、である。

「――!?」

 浴槽にいる一同の顔が驚愕したのを見たあと、マナが頭を洗い始める。

「マナ姉上、気持ちいいですか?」

「うん…。ありがとう、ジュリ…。あとでタラコあげるからね…」

「わぁいっ♪」

 とはしゃぐジュリを見つめたあと、顔を引きつらせながら周りの一同に顔を戻したリーナ。

「ちょ、ちょお、どうしよ!? マナちゃんあっさり裏切りよっ――」と、言葉を切り、目を丸くした。「って、サラちゃん!?」

 浴槽の淵にサラがだらんと凭れ掛かっている。

「ど、どうしたん!? サラちゃん!? のぼせたん!? あかん、治癒魔法やミラちゃん!」

「のぼせたんじゃなくて、たぶん精神的ショックよ」

 精神的ショック?

 とリーナが眉を寄せたとき、サラが呻き声をあげた。

「う…ううぅ……」

「サ、サラちゃん?」

「レオ兄のっ……」

「レオ兄ちゃんの?」

「レオ兄のアレが、ジュリに抜かされるなんてぇぇえええぇぇええぇぇええぇぇえぇぇええぇぇえっ!!」

「……。ショックてそれかいな……」

 リーナ、苦笑。
 その傍らで、

「まったくサラは……」

 と呆れて溜め息を吐いたミラ。
 突然湯から身体が浮き、何が起こったのかときょとんとして2秒後。

「――きっ、きゃああぁぁああぁぁああぁぁあぁあ!?」

 ジュリの腕に抱き上げられていることに気付き、絶叫した。

「ごめんなさい、ミラ姉上。母上の次は、姉上たちの中で一番上のミラ姉上からでしたね!」

 と、ジュリが慌てたようにミラを洗い場へと連れて行き、風呂椅子に座らせる。

「ジュ、ジュリ!? お姉ちゃんのことはいいからっ…! いいか――」

「失礼します、ミラ姉上♪」

 そして容赦なくジュリに背を流されるミラ。

「きゃっ!? あっ、やっ、ちょっ……!?」

「気持ちいいですか? ミラ姉上♪」

「ダ、ダメよジュリっ…! そ、そんな、大きくなってからお姉ちゃんとお風呂なんてっ…! ああっ、ダメっ…、ダメェェェェェェェっ!!」

 女風呂の中に響くミラの悲鳴。
 リーナが赤面して見つめる中、次にジュリに捕まったのは浴槽の淵に凭れ掛かって倒れているサラ。

「サラ姉上、お背中流します♪」

「う…ううぅ…、もうダメだアタシは……。動けない……」

「大丈夫ですサラ姉上! 僕が全部洗って差し上げます!」

 とサラを抱き上げて洗い場へと向かったジュリが、にこにことしながらサラの身体を洗う。

「気持ちいいですか? サラ姉上♪」

「…アタシのレオ兄があぁ……」

「前の方失礼します、サラ姉上♪」

「…ジュリに抜かされるなんてえぇ……」

「やっぱり女の人って柔らかくて気持ちいいですね、サラ姉上♪」

「――って、なんかアタシ結構すごいとこ洗われてね?」

 ジュリに身体の隅々まで洗われているサラを見、リーナはますます赤面してしまう。
 サラの次はリン・ランが、その次はユナが、さらにその次はレナが捕まり、女風呂から悲鳴が止まない。

 そのあと捕まったカレンに至ってはパニックに陥り。
 旦那であるシュウに助けを求めて絶叫したものの、それはイトナミのときに使う誘惑の台詞で。

「ヘイ、カモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!!」

 次の瞬間、男風呂のシュウが、

「フィーバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!」

 ドガァッッッ!!

 とライダーキックで壁を突き破り、浴槽に登場。
 よって、ますます悲鳴が響く女風呂。

 まだ浴槽に浸かっていたリーナとカノン・カリンが、仰天して近くに積んであった桶をシュウに投げまくる。

「なっ、なにしてんねんっ! シュウくんのスケベ! 最低やっ!!」

「おとうちゃまのエッチ! はやくあっちいってっ!」

「いでっ! いででででっ! ちがっ、違うんだっ! ワザとじゃねーんだあぁああぁぁああっぁああぁぁあっ!!」

 と必死に弁解しながら、男風呂へと戻ろうとするシュウ。
 が、それに逃がすまいと飛び掛った2つの影は、

 バシャァァァァァァンッ!

 と大きな水しぶきをあげながらシュウにしがみ付き。

「げほげほげほっ! お、おい、リン・ラン!? おまえら、何考えてんだ!?」

 気管に湯が入り咽込みながら仰天するシュウを、

「ハァハァハァ…! 女風呂にやってきてどうしたのですか兄上っ……!?」

「ハァハァハァ…! わたしたちに身体洗ってほしいですかなのだ兄上っ……!?」

「ハァハァハァ…! ああ、いつの間にか手元についさっき昇格した兄上のメダルがあぁーっ……!」

「ハァハァハァ…! ああ、いつの間にか手元に兄上のピカピカ銀メダルがあぁーっ……!」

 と、鼻息荒く湯の中に押し倒した。
 よって溺れそうなシュウが大暴れし、飛んだ湯がリーナやカノン・カリンに降りかかる。

「ああもうっ、何すんねんシュウくんっ!」

 顔に、頭に、白猫の耳に大量の湯が飛び散ってきて、逃げるように湯から上がったリーナ。
 浴槽から小走りで離れて俯き、手で白猫の耳を拭い、頬を拭い、目元を拭う。

「大丈夫? リーナちゃん」

「うん、大丈夫やジュリちゃ――」

 と、はっとして言葉を切ったリーナは、目元から手を離した。
 視界に入ったのは淡いブルーのペディキュアを塗った、自分の小さな足。

 それからその向かいにある、一回り大きいけれど白くて華奢な足。

(――えっ……!?)

 だんだんと顔を上げていくリーナの視界に映る。

 その白い足の上の、細い足首。
 すらりと伸びた、つるつるの脚。
 見え隠れする黒猫の尾っぽの先端。

(股間に輝く銅メダル……!)

 うっすらと腹筋が割れた、しなやかな胴体。
 綺麗に浮き出た鎖骨。
 折れそうだが、それでもリーナよりは太いだろう首。

 そして、絶世の美女――キラと瓜二つの顔。

「――ジュ、ジュ、ジュ、ジュリちゃっ…! ジュリちゃっ……!!」

 首まで真っ赤になっていくリーナから5cmほど目線が上にあるそれは、破顔一笑して口を開いた。

「次、リーナちゃんの番だよ♪」

「へっ……!?」

「僕、リーナちゃんには凄くお世話になってるから、今日はお礼に全身洗ってあげるね! まずは髪の毛からかなあ」

「――!!?」

 驚愕したリーナ。
 ジュリに背まであるライトブラウンの髪の毛をまとめていたヘアクリップを外され、抱き上げられ、洗い場へと運ばれて行きながら絶叫した。

「あかっ…、あかんてぇぇえええぇぇええぇぇええぇぇぇええぇぇええぇぇええぇぇええぇぇえぇぇえぇぇえっ!!」

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