第105話 身体測定 男編


 4月の頭。
 家事手伝いのミラは本日の午前中は一人留守番で、レナ・ミヅキ夫婦はいつも通り葉月ギルドの右隣にあるドールショップへと向かい。

 魔法薬専門の大学を卒業したマナは、本日から葉月ギルドの左隣に建てられた『魔法薬屋』の店長に。
 といっても、まだ本日と明日は明後日の開店日に向けて準備中だ。
 ちなみに店の建設費を出したのはもちろんリュウで、それはもうマナご自慢の幾多もある魔法薬が全て並べられるほど広い店に仕上がった。

 マナが嬉々としながら魔法薬を商品棚に並べているだろうその頃、葉月ギルドに勤めるハンターたちは身体測定および健康診断を受けていた。

 全12島にあるギルドの中でも葉月ギルドは特にハンターの数が多く、普通のギルドのようにギルドの中でそれを行うことは難しく。
 葉月ギルドでは、裏にある普段はハンター昇格試験用として使われる会場で行われる。
 早朝から正午までに女ハンターたちがそれを終え、午後から日付が変わるまでに男ハンターたちがそれを終えることになっている。

 だが毎年、リュウとその家族や仲間のハンターたちだけは、ギルド長室でそれを行なっていた。
 といっても、健康診断で行われる採血等は葉月病院の院長――カレンの祖父に事前にやってもらっているので、身体測定だけである。
 ギルド長室の中、まずはハンターの男たちと、成長期故にやって来た子供たち(男の子)がパンツ一丁になっていた。

「んじゃー、身体測定始めんぞー。はかるのはいつも通り身長・体重・体脂肪率。それから、今年から座高だ」

 とのリュウの声で始まった身体測定。
 これが余計なことをする者がいるわ、喚く者がいるわ、驚愕な測定結果が出る者がいるわで、静かに落ち着いてすんなりと進まない。

 まずは、身長をキラがはかり。

「では、一番年長のグレル師匠からいくか。えーと……、195cm。うむ、去年と変わらず巨人だぞー」

 次に、体重と体脂肪率をミーナがはかり。

「体重120kg・体脂肪率2%――って、モンスターはともかく、そんな体脂肪率で人間も生きられるものなのか……!?」

「うんうん♪ さっすがオーレっ♪ スレンダーでカッコイイぞーっと♪」

 最後に、座高をハナがはかるようになっている。

「んーと、グレル師匠の座高はー……130cmっ!? え、ちょ、胴と脚の比率がおかしっ……!? す、すみませんだ! オラ、はかり方間違えたみたいでっ!」

「いや、合ってんだソレで」

 と、突っ込んだリュウが、次の番。
 身長計に乗った途端、キラの胸元に手が伸びる。

「えーと私の愛する主は――って、こ、こら痴漢をするなリュウっ…! はかれないではないかっ……!」

「こら、キラ。俺はおまえのスリーサイズをはかりたくてウズウズしてんだから早くしろ」

「わ、私はハンターではないのだから、はかる必要はないではないかっ!? て、ていうか、痴漢をするなと言っているっ……! …え、えーと……身長185cm。リュウも去年と変わりないぞ。体重・体脂肪の方はどうだミーナ?」

「んーと、体重82kg・体脂肪率4%で、こっちも変わってないぞ。座高はグレル師匠にも驚いたが、きっとリュウにも驚くぞ……グレル師匠とは反対の意味で。どうだ、ハナ?」

「そうでしょなぁーっ。どれどれ、リュウ様の座高はっと……、92cm! ほあぁぁぁーっ、さっすがリュウ様! 脚なっがいべえぇぇーっ! ――って、え!? んだば、グレル師匠はリュウ様より10cm身長が高くて、脚が27cmも短いだか!? エェエエェェエエ!? い、いくら何でもそんなことが――」

「そんなことがあんねんで、ハナちゃん……」

 と苦笑したリンクが、次の番。

「身長175cm。ふむ、やはりリンクも変わりないな」

「せやろな、おれもう50歳なんやし」

 と言いながらリンクが体重計へと移ると、ミーナが「ん?」と眉を寄せた。

「な、なんやミーナ? おれの体重と体脂肪率が、なんやっ……!?」

「なあ、リンク。身長・体重は去年と変わってないのに、体脂肪率が2%増えて15%になってるぞ」

「え!?」

「まったくもう、わたしの主は! リュウのようにいつまでも変わらず引き締まった身体でいられぬのか!? カッコ悪いぞーっ!」

「せ、せやかて、今はデスクワークと電話番ばっかなんやから仕方ないやないかぁぁあああぁぁああぁあ――」

「ま、まあまあ。体脂肪率15%は人間の男性では平均的ですだよ」と、叫ぶリンクをハナが宥め。「次はオラが座高はかりますべ。えーと……94cm。…えっ? リュウ様より胴長っ…!? ……い、いや、平均的な座高ですだね、リンクさん!」

「もうええねん、どうせおれなんかっ……!」

 リンクが涙目になりながら終わったら、次はレオンの番だ。

「えーと、私の可愛い弟のようなレオンはー……、身長180p。変わりなしだぞ♪」

「そう、キラ。まあ、僕も流石にもう伸びないよね。純モンスターで見た目は老けなくても、僕43歳だし」

「体重65kg・体脂肪率5%。うむ、こっちも変わりなしで、相変わらずモデルのようだなレオン♪」

「はは、ありがとうミーナ」

「そして座高は90cmですだ。うーん、脚長いですだねー♪」

「リュウほどじゃないよ、ハナちゃん。さあ、次はシュウの番だよ」

 と、レオンがシュウの方に顔を向けると、何やら顔の前で手を組み、真剣な様子で呟いている。
 毎年身体測定(男編)で一番騒がしいのはコイツであることが多い。

「親父の身長抜かしてますように親父の身長抜かしてますように親父の身長抜かしてますように……!」

「うるさいぞ、シュウ。ほら、早くコッチに来るのだ」

「う、うん、母さんっ……!」

「えーと、シュウの身長は……184.5pで変わりないな」

「あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ーーーっっっ!!」

 と早速シュウの絶叫がギルド長室に響き渡り、猫耳を持つ者は一斉に耳を塞ぐ。

「なぁぁぁぁぁんで、あと5mm伸びないんだよオレェェェェェェェ!!」

「うるさいぞ、シュウ」とキラに続いてミーナが突っ込み、手招きをする。「ほら、さっさとコッチに来るのだ。体重と体脂肪率はかるぞ」

「う、うん、ミーナ姉っ……!」と体重計に乗ったシュウは、再び顔の前で手を組んで真剣な様子で呟く。「親父以上の筋肉量になってますように親父以上の筋肉量になってますように親父以上の筋肉量になってますように……!」

「体重78kg・体脂肪率5%だな、シュウ」

「あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ーーーっっっ!! まだオレの方が親父より体重少ないのにデブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

「み、耳痛いだよ、シュウ君……」

 と苦笑したハナが手招きをし、シュウの座高をはかる。

「あー、これはいいや。親父抜かさな――」

 親父を抜かさなくて。

 と言おうとしたシュウであるが、聞こえて来たハナの言葉は。

「93cm! 良かっただねー、リュウ様の座高抜かしてるだよシュウ君♪」

「――!!? なっ、何故だあぁあああぁぁああぁぁああああーーーっっっ!!」

 と喚くシュウを「チビ」だの「デブ」だの「胴長短足」だのリュウがからかって遊ぶ一方。

   身体測定は、ジュリの番に。
 わくわくとした様子で身長計に乗る。
 普段から父(リュウ)や兄(シュウ)のように大きくなりたいと願っている小柄なジュリにとって、どれだけ成長することが出来たか分かる身体測定は大きな楽しみである。

「僕、何cm伸びましたか、母上っ?」

「えーと、162cmだから、2cm伸びたぞジュリ!」

 なんてキラの言葉を聞き、ジュリに笑顔が咲く。
 3年前にカレンの身長を抜かし、2年前にリーナやキラ、ミーナの身長を抜かし、去年ミラと並び、そして今年ミラを抜かすことが出来た。

「やったぁ! 僕、来年にはユナ姉上とマナ姉上とレナ姉上も抜かせそうだ!」と嬉々としながら、ジュリは体重計に移った。「身長が伸びたし、体重も増えましたよねミーナ姉さま?」

「うむ。去年は42kgだったのが、45kgになっているぞ。一方で体脂肪率は8%だったのが6%になっているから、筋肉が増えたみたいだぞジュリ。キラ似でも、やっぱり男だな」

「わあぁ、嬉しいや! いつか父上や兄上みたいになれるかなぁ?」と未来に期待を抱きながら、ジュリは座高計へと移る。「僕、座高は平均的だと思うんだけど……父上似じゃないし。どう? ハナちゃん」

「でも座高83cmで、やっぱり平均よりは低いだよジュリちゃん。リュウ様とキラ様のお子さん・お孫さんたちは、みぃーんな脚長だべね♪」

「そ…、そんなこと言われたあとでは、はかり辛いじゃないか……。し、しかも皆どんな体脂肪率をしているんだ……」

 と苦笑しながら、次の番であるミカエルが身長計に乗った。

「別に恥じることはないぞ、ミカエル。おまえは顔もそこそこだし、身長も179cmとリンクよりは高い。充分格好良いではないか」

「そ、そうかキラさん……」

「それから、えーと体重は69kgで、体脂肪率は10%だぞ。まあ、リュウたちよりは脂肪が多いようだが、リンクよりは少ないし良いと思うぞ。人間の場合、体脂肪率が低すぎるとスタミナがなくなるらしいし、それではハンターとしてやっていけないからな」

「そ、そうかミーナさん……」

「座高は94cmですだ、ミカエル様。身長が4cm低いリンクさんと一緒だし、気にすることないべ」

「そ、そうかハナ……。ああ、安心するな」

「――っていうか、さっきからおれと比べるなっちゅーねん!!」

 とリンクが顔を引きつらせながら突っ込んだら。
 今度はハンターではないものの成長期故にはかりに来た子供たち(男の子)の番。

 まずは同い年の子よりも一回りも二回りも大きな身体をしているチビリュウ3匹のうち、年長のシオンから。
 今年はジュリが衝撃を受ける結果となる。

「ほう、身長162.5p! さすがはリュウ似だな、シオン。同じ10歳の子供の平均よりも23.5pも大きいぞ。そしてジュリを抜かしたぞ」

「ちょ…、去年は僕より2cm小さかったのに……」

 と、ジュリが苦笑する一方、シオンは体重計に乗る。

「体重は54kg、体脂肪率は6%か。うーむ…、子供の可愛らしさがまるでないぞ……」

「ちょ…、何で僕より10kg近く筋肉があるの……」

 と、さらにジュリが苦笑する一方、シオンは座高計へと移る。

「座高は81cmですだ。ほあぁーっ、さっすがリュウ様似だべねシオン君ーっ! 脚長いべえぇーっ!」

「ちょ…、しかも僕の方が胴長……」

 というわけで、ジュリ撃沈。

 ジュリの肩をぽんと叩き、シュンが身長計に乗りながら言う。

「別にいーだろ、ジュリ兄は。顔はばーちゃん似で絶世の美女……いや、絶世の美少年なんだからよ。んで、ばーちゃん、オレの身長は?」

「148cmだぞ、シュン。同じ8歳の子供の平均よりも、20cm大きいな。来年にはカレンのこと抜かすのではないか?」

「まあ、オフクロのことはすぐに抜かすだろうな」

「体重の方は40kgで、体脂肪率は7%だぞシュン。うーむ…、シオンよりは可愛いが、やはりあんまり可愛くないぞ……」

「そうか。40kgか、オレ。んじゃー、ばーちゃんの体重と並んだな」

「そして座高は73pだべ、シュン君」

「そうか。ってことは、オレのアシの長さは75cm――って……?」

 と、ギルド長室の端の方で待っている女たちに顔を向けたシュン。
 その中からカレンを探し、その脚を見て「あれ?」と首を傾げた。

「オフクロ、オレよりアシが短い気がす…る……?」

「…………」

 ビシッ!

 とシュンがカレンに頭を叩かれたあとは、はかる前から不機嫌な顔をしているセナの番。
 何で不機嫌かって、毎年キラたちがセナにとって気に食わない言葉を言ってくれるからだ。

「身長120cmだな、セナ。同じ4歳――いや、おまえは来月誕生日だから約5歳か。5歳の子供の平均より、15cm近く大きいぞ。でもやっぱりまだ可愛いな、セナ♪」

 そう、『可愛い』と。

「かわいい言うな、ばーちゃん!」

「体重は26kgで、体脂肪率は9%だぞ。ふむ、やはりまだちょっと可愛いな、セナ♪」

 『可愛い』と。

「か、かわいい言うなって、言ってんだろっ……!」

「座高は59cmだべよ、セナちゃん。うんうん、可愛いだねぇ♪」

 『可愛い』と。

「っだーーーっ、もう! だから、かわいい言うなって言ってんだろがあぁぁぁぁっ!!」

 暴れ出すセナを「まあまあ」と宥め、男たちの中では最後のネオンが身長計へと乗った。

「えーとネオンの身長は……128cmだぞ。8歳の平均だな、ネオン」

「ヘイキンかあ…。兄さんは大きいのになぁ……」

 と少し落ち込んだ様子のネオンを見て、レオンが笑った。

「大丈夫だよ、ネオン。お父さんも15、6歳までは平均か、それより小さいくらいだったから。ほら、女性陣が待ってるから早く体重計に乗って」

 安堵したように「はい」と承諾し、ネオンが体重計へと移る。

「体重26kgで、体脂肪率は12%だぞ、ネオン。体脂肪率は少し低いが、体重はやはり平均だなネオン」

「それから座高の方は64cmだべ、ネオンちゃん。お父さん似で脚長だべね♪」

 こうして、男たちの身体測定が終わり。
 キラが男たちを見回しながら口を開いた。

「では、これから――」

「俺の金メダルのサイズをはかるのか、キラ」

「ちょ、リュウ、おま、何を言っ……!?」

「照れるな、俺の可愛い黒猫。おまえが俺の金メダルの通常時とイトナミ時のデカさの差を、一度はメジャーではかってみたいと日々熱願していることなど分かっている」

「わ、私は変態かっ!! 私は、これから女たちの身体測定をするから、男共は外に出ていろと言おうとしたのだっ!!」

「おお、そうか、そうだな。よし、ヤロウ共は外へ出ろ」

 とギルド長室の外へと出て行ったのはリュウを除く男たちだけで。

 残ったリュウのその早業により。
 身体測定・女編は、まずはあっという間に下着姿にされたキラから始まった。

 一話で終わらせるつもりが長くなってしまったので、次回へと続く……。
 
 
 
 
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