第99話 コンテストはもうすぐです


 シュウ宅のリビング。
 バレンタイン前日の今日は、チョコレートの甘ったるい香りがキッチンから漂ってきていた。

 甘いものが苦手なリュウはあまり気分が良くなさそうだ。

「あ…青い顔して飯食ってっけど大丈夫か、親父……」

 と、リュウの向かいのソファーに座り、共に晩ご飯中のシュウ。

「お、お、おう…。毎年のことだ、気にすんなっ……」

「キッチンで飯食ってたら卒倒してそうだな、オイ」

 と、シュウは苦笑した。

 毎年バレンタインの前日になると、キラとシュウの妹たち、加えてミーナとリーナがやってきて一斉にチョコレート菓子を作る。
 リュウへのバレンタインは別のものが用意されるが、その他の男たち――シュウとジュリ、リンク、レオン、グレルへはチョコレート菓子を贈るが故に。

 今年のシュウはいつもよりワクワクとしていた。

(カレンから、どんなチョコもらえっかなー)

 今年からはカレンも一緒になって、キッチンでチョコレート菓子を作っている。

(より美味ーく感じるために、一番最初に食っちゃおーっと。んで甘ーいチョコを食ったあとは、甘ーいカレンをっ…! ぐふふふふ)

 リュウがシュウの顔を見て溜め息を吐いた。

「そのバカ面やめろっての。ま、明日のバカップルコンテストにはピッタリの面だがな」

「うっ、うるせーなっ…! 親父だって母さんを見るとき似たような面になってんだろっ…!」

「俺の場合はバカに見えねーの。おまえだからバカ面になんの」

「なっ、なん――」

「んで」とリュウがシュウの言葉を遮った。「おまえとカレン、大賞取る自信あんの?」

「そ、それなりに。ここんとこ、カレンと一緒に出されるクイズ予想してっからさ…」

「ふーん? んじゃ、俺が絶対出されるだろうクイズを出してやる」

「お、おう」

「彼女のブラのカップは?」

「B」

「はい、失格」と失笑したリュウ。「Aじゃねーか」

「い、いいんだよこれでっ! そう答え合わせることになってんだからっ…!」

「ほう。カレン乳に詰め物して行くのか」

「…う…うん……」と小さく答えたあと、今度はシュウが訊く。「じゃ、じゃあ、奥さんの今一番ほしいものは!?」

「俺の銀メダル」

「……。親父、オレあんたと母さん優勝候補だと思ったけど」

「俺はキラのことで分からねえことなんてねえ」

「あんたバカすぎて失格にな――」

 ドカッ!!

 と向かいの席からのリュウの蹴りを顔面に食らったシュウ。

「――ガハッ…!」

 顔に治癒魔法を掛けまくる。

 そこへ、キラが溜め息を吐きながら入ってきた。
 空になった皿を重ねながら言う。

「大丈夫だ、シュウ」

「い、いやオレ今、まじで気絶仕掛け――」

「コンテストでは」

「ああ、そっち…」

「私がリュウの回答を予想して答える」

「まあ、そうしねーと即失格になりそうだよな」と苦笑したシュウ。「頑張って、母さん…」

「う、うむ……」

 とキラも続いて苦笑したとき、カレンがパタパタと駆けて来た。

「キラさま、あたくしもお皿下げるの手伝いますわ」

「あっ、カレンっ」と、明るくなるシュウの顔。「チョコできたっ? チョコっ!」

「ええ、できたわ」

「まーじでぇー?」

 カレンの手を引っ張り、カレンを抱っこするシュウ。
 黒猫の尾っぽをぱたぱたと振りながら言う。

「早くちょーだい」

「バレンタインデーは明日よ? 明日の夜に渡すのですわ」

「エー」

 シュウとカレンの向かいでは。

「おい、俺の可愛い黒猫」

「何だ、私の愛する主」

「リボン巻いた?」と、キラの服の中を覗き込むリュウ。「ちっ、まだか……」

「バっ、バレンタインは明日ではないかっ…!」

「――って、アンタ母さんに何させてんの!?」

 シュウ、赤面。
 カレンも赤面。

「クリスマスと誕生日とバレンタインの恒例だぜ。いいぜー、裸リボン。燃えるぜー」

「えぇっ……!?」

 と膝の上のカレンに目を落とすシュウ。
 シュウの視線を頭に感じたカレンが慌てたように言う。

「ちょっ…! やっ、やりませんわよ、あたくしはっ……!」

「だ、だだだ、駄目っすか…!?」

「ダメっ…!」

「ちょ、ちょちょちょちょちょっとだけっ…!」

「ダっ、ダメっ! ダメったらダメなのですわっ!」

「ピ、ピピピ、ピンクのリボンがいいなオレっ…! なあ、カレ――」

 キラが咳払いをし、シュウの言葉を遮った。

「リュウの真似をするでない、シュウっ…!」

「は…、はい、ゴメンナサイ。ついっ…」

「鼻血を拭け」

「う、うん」

 とシュウがティッシュを取って垂れた鼻血を拭く一方。
 キラがリュウの顔を見た。

「リュウは、もう用意してくれたのか?」

「おう」

「え?」とカレンがリュウの顔を見た。「逆バレンタインですか? リュウさま」

「いや、バレンタインが俺たちの結婚記念日でよ」

「まあ!」とカレンが声を高くした。「そうでしたの! 素敵なのですわ! ええと…、今年で18年目くらいですか?」

「ああ、18周年。だから今年はガーネット」

「そうですわよね、結婚18周年にはガーネットを贈るのですものね!」

 シュウが感心したように言う。

「親父って、そういうとこすーげー意外とマメだよなあ。記念日とかイベントのときは、プレゼント用意して母さんを喜ばすこと忘れないっていうか……」

「当たり前だ」

「なあ、リュウ?」

 と、キラがリュウの顔を覗き込んだ。

「何だ、キラ」

「今年はガーネット、去年はアメシスト、一昨年はトパーズ。では、来年の宝石は何だ?」

「次に宝石送んのはたしか23周年目の――」

「サファイヤですわ♪」

 と、カレン。

「そう、サファイヤ」

「ほう、次はサファイヤか。では、リュウ?」

「何だ、キラ」

「ダイヤモンドはいつだ?」

「ダイヤはたしか60周年目。そのときは」と、リュウが笑った。「俺82で、おまえ81かよ」

「おおーっ。すっかり爺さんと婆さんだぞーっ」

「60周年はまだいいぜ。75周年目にもダイヤ送るんだが、そんときゃ俺97でおまえ96だぜ」

「は…はたして生きているのか……」

「とりあえず75のシュウは死んでっかもな」

「有り得るぞーっ」

「オイ…」シュウ、苦笑。「あんたたち息子――オレより長生きする気か。って、まじでしそーだなオイ……」

 カレンがおかしそうに笑った。
 そのあとリュウを見て言う。

「たくさん長生きして、75周年目のダイヤモンドもキラさまに送らないとですわね、リュウさま?」

「ああ…」

 そう短く答えて、リュウが微笑んだ。
 
 
 
「やっぱり素敵なのですわ、リュウさま……」

 シュウのベッドの中。
 シュウの隣に寝ているカレンが恍惚としている。

「結婚から75年経っても、キラさまを愛されるのね…! きっと結婚75周年目には、それまでで一番大きなダイヤモンドをキラさまに贈られるのですわっ…! そしてそれまでで一番お喜びになられるキラさまっ…! そしてそしてっ、『キラ、愛してる』、『私もだ、リュウ』、『逝く前にもう一度、愛の結晶を作ろうぜ』…! きゃああああああっ! リュウさまってばそんなお年でダメエェェェェェェェっ!!」

 頬を染めてはしゃぐカレン。
 それを見ながらシュウの顔が引きつる。

「オイ、オレ75になってから弟妹なんていらねーぞ。まるでヒ孫じゃねーか。おまえの脳内、本当乙女だな。っていうか、オレは親父が母さんに結婚75周年のダイヤを贈ってるとき、まじで墓ん中いそうでこえーよ……」

「あら、親不孝は良くないわよ、シュウ?」

「だってあの人たち、冗談抜きでオレより長生きしそう…」

「そうね」

「…フォロー頼むぜハニー」

 カレンが笑った。

「冗談よ、シュウ」

「嫌な冗談だぜ、まったく…」と溜め息を吐いたシュウ。「…でも、親父がきっと墓に入る寸前で母さんにダイヤ贈ってるとき、オレは何してんのかな」

 カレン、隣にいてくれてるのかな。

 と心の中で続けて、シュウはカレンの顔を見た。
 カレンも同じことを考えたのか、シュウの顔を見つめた。

 お互いの顔が赤く染まる。

 のち、カレンの顔が蒼白していった。

(シュウが75のとき、あたくし74!? シュウはハーフだからまだまだ若いでしょうけど、あたくしシワシワのおばーさんじゃなくって!? いっ、いやああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁあ!!)

 カレンの顔を見て、シュウが眉を寄せた。

「どうしたよ、いきなり青くなっ――」

「話を変えるのですわ! コンテストに備えて最後の最終チェックをしましょう、シュウ! ああもうっ、恐ろしいのですわあぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」

「? お、おうっ…」

「あたくしのブラのカップは!?」

「え、えとB…」

「やっぱりCにしてちょうだい」

「……。う、うん、分かった…」

「よって、スリーサイズを訊かれたときのバストもちゃんと増すの忘れないでちょうだいよ!? バストは80よ、80! はい、あたくしのスリーサイズは!?」

「え、えと上から80・58・83…」

「やっぱりウエスト57にしてちょうだい。あたくしより17cmも背が高いサラが58cmなのよ」

「……。う、うん、分かった…」

「あたくしの身長と体重は!?」

「え、えと152cm、43kg…」

「やっぱりせめて40kgにしてちょうだい。キラさまあたくしより3cm背が高いのに、40kgなのよ。それなのにFカップだなんて羨ましいわ。いい? 40kgよ、40kg! 間違えないでちょうだいよ!?」

「……。う、うん、分かった…。にしても変更多いね、ハニー。頭がこんがらがって来たヨ…」

 なんかオレ、大賞取れる気がなくなってきた…。

 とシュウはカレンの真剣な顔を見ながら苦笑した。
 
 
 
 翌日。
 毎年バレンタインデーに行われる、『ベストバカップルコンテストIN文月島文月町4丁目の文月公園』。
 去年までは『ベストカップル』だったのだが、今年は『ベストバカップル』になっていた。

 参加資格は全島のカップルまたは夫婦。
 年齢制限はなし。
 彼氏・彼女、または夫・妻に関するクイズが全100問出され、より多く答えたペアが大賞を掻っ攫うこととなる。

 そんなイベントに参加するため、文月公園にミーナの瞬間移動でやってきたシュウとその一同。

 シュウとカレン、リュウとキラ、サラとレオン、マナとグレル、レナとミヅキはコンテストに参加するために。
 その他の一同は、応援のために。

 そして何故コンテストに参加することになったのかというと、金欠のリンク一家のために。
 何らか賞を取り、賞金をもらって、それでリンク一家を助けようというわけだった。

 リュウが金を出せば丸く収まるだろうと突っ込みもあったが、リュウはトイチ(十日で一割の利子)という鬼以外の何でもない利子でしかリンクに金を貸さない。
 それを分かっているリンクはリュウから金を借りようとはしないし、リュウはトイチ以外でリンクに金を貸してやる気はない。

「よって、こんなイベントにリュウたちに参加してもらった、おれら一家です。……ていうか何やねん、これ」と、リンクが集まったカップルたちを見渡して苦笑した。「めっさ参加カップル多いやん。こりゃコンテストに入る前に審査やな。大丈夫やろか……」

「うーん、審査ありかぁ」とシュウも苦笑。「審査で通るのは『バカップル』と呼ぶにふさわしいカップルだろ? オレとカレン、審査で落ちっかも(親父の方は大丈夫だけど)」

「こりゃ難関だぜ。まずいな」と、腕組みをするリュウ。「俺とキラ、落ちる危険大有りだぜ(シュウは余裕だが)」

 シュウとリュウの顔を交互に見たサラ。
 レオンに耳打ちした。

「ねえ、レオ兄。この2人、何を心配してんだろ。審査余裕で突破じゃん。超バカなんだから」

「ああ、自覚ないんだよ」

「まったくだね。アタシたちの方が審査落ちそうで心配しちゃうよね」

「あー、ぼくとレナちゃんも」と、脇で会話を聞いていたミヅキが苦笑した。「つまり審査員からバカップルに認定されなきゃいけないってことでしょ? どうやったら認定されるんだろう。『おしゃれで賞』取るために衣装張り切ってきたし、コンテストに参加する前に審査で落ちたら嫌だなあ」

「そういえば、その衣装どうしたわけ?」

 と、サラはレナとミヅキの衣装に目を落とした。
 レナはサラの見たことのない白いロリータドレスを、ミヅキはそれに合わせた衣装を着ている。

「レナちゃんの服のサイズ聞いて、ぼくが作ってきたんだよ」

「手作りっ?」

 とサラとレオンが声を高くした。
 もう一度レナとミヅキの衣装を見て、目を丸くしてしまう。

「うっわ、すっごいじゃんミヅキ。素人とは思えないよ」

「だね」

 とサラに同意して頷くレオン。

「ありがとう」とミヅキが嬉しそうに笑った。「でも、インパクトならサラちゃんとレオンさんの衣装には負けるよ」

「あー、やっぱり?」とレオンが苦笑。「僕もサラに衣装見せられたときビックリしたんだけど……」

「レオンさん、口の端から垂れてるのって血糊(ちのり)?」

「うん」

「良かった、本物じゃなくて。なんていうか、サラちゃんてリュウさんと同じものを感じるよね」

 サラとレオンの衣装。
 女王様と奴隷。

 サラが笑った。

「いやあ、アタシいつもはこんなことしてないよ? でもコレ」と、レオンの首輪に繋いでいる鎖を掲げてサラがにやりと笑った。「ぞくぞくしちゃーうっ……!」

「……。そう、良かったね…」

 そんなことを会話しているうちに、コンテスト参加のための審査の時間がやってきた。

「みんな頑張ってやあああああっ!」

「キラ、大賞頼んだのだーっ!」

「うちとおとん・おかんの命はみんなに掛かってんでーっ!」

 とリンク一家の声援に送られながら、カップルたち――シュウとカレン、リュウとキラ、サラとレオン、マナとグレル、レナとミヅキは審査の行われる場所まで歩いて行く。

 シュウたちが参加するなんて、他の参加者たちは想像していなかったのだろう。
 シュウたちの姿を見て仰天した様子だ。

 その後、ファンからの声が飛んできた。

「きゃああああ! リュウさまあああ! キラさまあああああ! 素敵ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 完全シカトのリュウと、笑顔を返すキラ。

「レオンさまこっち向いてえええええええっ!」

 キラと同様に、笑顔を返すレオン。

「サラちゃん、マナちゃん・レナちゃん! はい、マヨネーズっ!」

 パシャっ!

 とポーズを取ったところを写真に撮られるサラとマナ、レナ。

「グレルさまぁ! 抱き締めてくださあああああい!」

「お? んじゃー、軽くなーっと♪」

 メキメキメキっ…!!

「いっ、逝っちゃううううううううううう!」

 一般人女性を殺しかけるグレル。
 そして、

「きゃああああ! シュウくん、その女ダレよおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「シュウくんから離れなさいよ赤毛女あああああああああっ!!」

「チビっ! ブスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥっ!!」

 罵声を浴びせられ、俯いて歩くカレン。
 カレンの肩を抱き、シュウはぐっと堪えながら言う。

「気にすんな、カレン」

「え、ええ、大丈夫よ。こ、これくらいのことは分かっていたもの…」

 罵声にかき消されそうなカレンの声。
 だが、

(――あれっ? 何事だっ? いきなりシーンとしたぞ、オイ?)

 シュウは辺りをきょろきょろと見回した。
 急に静まり返った原因を、後方に振り返ったときに知る。

(――さすがだぜ、親父)

 シュウ、顔面蒼白。

 カレンに罵声を浴びせる輩を、リュウがじろりと一睨み。
 それだけで辺り全体が凍りついたのだった。

 静まり返ったところでリュウが言う。

「バカは放っておけ、カレン。ちんたら歩いてねーでさっさと行くぞ、おまえら」

 承諾し、リュウを先頭にして早歩きになる一同。
 カレンの顔を覗き込んで、シュウは顔を引きつらせる。

「お、おい、カレン……!?」

「ああ…、やっぱりリュウさま素敵っ……!」

「なっ、何うっとりしてんだよ!? ステキって、んなわきゃねーだろっ! こんなバカ親父なん――」

 ゴスっ!!

 とリュウの拳により、シュウの言葉が途切れた。
 シュウが頭を抱えて蹲る。

「いでえぇ…!」

「聞こえてんだよ、バカ息子が」

「こっ、公衆の面前で殴らなくたって――」

「おい、審査員。早く始めろ」

「え?」

 と顔をあげたシュウ。
 どうやら審査の場所まで来ていたらしく、目の前には審査員と思われる男性が立っていた。

 リュウに見下ろされて、おどおどとしている。

「はっ、はいぃ、リュウさまあぁっ…! で、では――」

「あ、ちょっと待て」

 と、審査員の顔の前に手をかざしたリュウ。
 眉を寄せ、5つ作られたステージのうちの1つに目を向けた。

 そこには、夫婦または恋人同士だろう2人の後姿。
 いや、よく見ると女の方はレッドドッグ――文月島で最強を歌われる犬モンスターだ。

「おい、審査員。あいつらも参加すんのか? それなら何でもう偉そうにステージの上にいる」

「えっ? ああ、あのお二方なら、このコンテストが始まって以来ずっと優勝しているご夫婦でして。100問出されるクイズのうち、最後の20問はあのお二方がいるステージ――1番大きなステージで行われるのですが――」

「最後のそれまで出番はねえってことか、あの人間と赤犬」

「ですです。去年の優勝カップルは、最後の20問のときまであそこで待っているんです。…あっ、もしかしなくてもリュウさまたち、あのお二方をご存知なのでは?」

「え?」

 と、リュウに続き、審査員の指す二方――1番大きなステージの上にいる人間の男とレッドドッグの女の背に顔を向けた、シュウとその一同。

「……俺は今年から『ベストカップル』ではなく、『ベストバカップル』になった理由を全て理解した。あれが毎年優勝してたら、嫌でもそうなるだろうよ」

 と、リュウ。

「え?」

 と、一度リュウの顔を見。
 もう一度人間の男とレッドドッグの女に顔を向けた、シュウとその一同。

 こちらの視線を感じてか、人間の男がゆっくりと振り返った。

「――!?」

 リュウを除く一同、驚愕。
 そしてリュウに続いて理解した。

「た…、たしかにあの人が毎年優勝してたら『ベストバカップル』にしたくなるかも…」

 と、苦笑するレオン。
 ミヅキがシュウを見て訊く。

「ね、ねえ、あの人ってさ、雪合戦のときにもいた変な人だよねえ?」

「お、おう、いた。…途中から親父に締め出されたけど。っていうか……」

 一同、声をそろえ、

「結婚してたのかっ…!」

 あの、文月ギルド・ギルド長兼、超一流ハンター兼、超一流変態の、

「ゲール……!」
 
 
 
 
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