第98話 参加します
ほぼ毎月誰かの誕生日パーティーを行うシュウたち。
今月からはいつものメンバーに加えてミヅキもいる。
今月――1月に誕生日を迎えるのはリーナだ。
いつものようにシュウ宅のリビングの中、リンクがリーナの頭を撫でる。
「おめでとう、リーナ。おまえももう10歳かあ。早いなあ」
「せやで、おとん! うち、もうすっかり大人の女やで!」
「うんうん、そうだよなリーナ♪」と、にこにこと笑いながらシュウ。「すっかり大人の女性だよなっ♪ はっはっはー!」
「…う…、うん、ありがとう」とシュウに言ったあと、リーナはリュウに耳打ちした。「なあ、リュウ兄ちゃん」
「何だ、リーナ。乳とケツが出てから大人の女を名乗れ」
「うっさいわ。それより、シュウくん正月辺りからめっさ機嫌ええなあ。ちょっとキモいんやけど」
「心から同意するぜ」
「やっぱアレなん? 超一流ハンターになったからなん?」
「加えて、カレンの家族から合格もらったからだろ。あいつここ最近、ずっとにやけてやんの」
「にやけっぱなしなん?」
「おう」
「どつきたくなるんやけど」
「思いっきり行け」
と、リュウの許可(命令)をもらい、シュウのところへと歩いていくリーナ。
「なあ、シュウくん」
「何だ、リーナっ?」
「キモいっちゅーねん」
ドスっ!
とシュウの腹に拳を食らわせた。
「――ぐおっ…!」
とシュウが腹を抱えながらリーナを見下ろす。
びしっとデコピンをされるのかと思いきや、
「んもーーう、いたずらっ子だな、お・ま・え・はっ♪」
と頭を撫でくり回された。
「キモっ…!」
思わず顔が引きつってしまうリーナ。
はっとした。
(もしかして、こんなに機嫌がええなら……)
ポケットの中から折りたたんでいる紙を取り出す。
そしてリンクを見た。
「…ん? なんや、リーナ」と、リンクはリーナが手に持っている紙に目を落とした。「……いや、無理やろ」
と、苦笑する。
「今ならOKくれるかもしれへんやん。家の家計は火の車なんやで。なあ、おかん?」
「まったくだぞーっ」
「せやけどぉ……」とシュウを見るリンク。「嫌がるやろ、シュウ。カレンちゃんも……」
シュウとカレンが首をかしげた。
「相変わらず金ねえなあ、おまえん家。つか、何の話だ」
とリュウがリンクに訊くと、一同もリンク一家に注目した。
リンクが言う。
「いや…その…、まずリュウは嫌がること確実やから言わへんかったんやけど……」
「んじゃ言うな」
「聞けやっ!」
「言ってくれ、リンクさん…!」
と、シュウ。
リンクに駆け寄り、リンクの手を両手で握る。
「オレ、あなたのゲ○のおかげでカレンのオトーサンに気に入られたんだ…!」
「か、変わったオトーサンやな…」
「さあ、言ってくれっ…! オレ、リンクさんにお礼がしたいんだっ……!」
「そ、そうか? ほな……」
リンクがリーナの手から折り畳まれている紙を取った。
それを広げながら言う。
「これ、昨日の新聞に入っとった広告なんやけど…、見てや。おれとミーナやったら、すぐ失格になって終わりそうやから……」
「うちもジュリちゃんと考えたけど、ちょっと無理やわ」
と、リーナ。
一同、リンクの持っている広告に注目。
シュウが眉を寄せながら読む。
「は…? 『ベストバカップルコンテストIN文月島文月町4丁目の文月公園』……?」
「毎年バレンタインが近くなると、文月島から広告きてんの知らん?」と、リーナ。「バレンタインの日に、毎年イベント行われてんのやで。恋人同士、または夫婦で参加すんねん。去年までは単なるベストカップルコンテストやったんやけど、今年は『バ』がついとるな」
「バカップル……」
と呟いたシュウとリュウ。
お互いの顔を見、
「頑張れよ。――って…!?」そろって声をそろえ、そろって驚愕した。「なっ、何でだよ!? バカップルだろ!?」
「どっちもバカップルだから安心しなよ」
と、サラ。
広告を手に取り、詳細を見る。
「なになに? 参加資格は全島のバカップルまたはバカ夫婦。年齢不問。参加カップルが既定の数を越えている場合は審査あり。彼氏・彼女、または旦那様・奥様に関する全100問のクイズを出すので、1番多くのクイズに正解したカップルが優勝……だって」
「ふーん? 割と普通そうだね」と、レオンがサラから広告を取った。「…あ、大賞は500万ももらえるんだ」
「すごい大金だね」
と、ミヅキが声を高くした。
シュウの方を見て訊く。
「ハンターのギルドイベントじゃないんでしょ?」
「おう、違う」と、シュウがレオンから広告を取る。「大賞は500万かあ。でもバカップルって…。いや、でも、うーん…。これだけあれば、リンクさんとりあえず助かるよな……、ミーナ姉が無駄遣いしなければ」
「おう……」リンクが苦笑した。「おれやてでっかい葉月ギルドの副ギルド長なんやから、本当は金持ちでええはずなんやけど…。ミーナがな……」
「だって」とミーナがむくれて俯く。「キラと同じものがほしいのだっ…。これに出て大賞取れれば――」
リュウがミーナの口をふさいだ。
「い…、言うなミーナ。言うなっ…」
と言いながら、恐る恐るキラを見るリュウ。
キラがシュウの手から広告を取り、それに目を通す。
「そうか…。これに出て大賞を取れば、私の可愛いミーナはほしいものが買えるのか」と、リュウに向けられるキラの視線。「なあ、私の愛する旦那よ」
ギクっ…
としたリュウの身体。
「な…、何だ俺の可愛い黒猫」
「私、このコンテストに出た――」
「あー、今日はいい天気だぜ」
「雪降ってるぞ。私、このコンテストに――」
「さてウィスキーでも飲むか」
「もう飲んでるではないか。私、このコンテス――」
「キラ、つまみ」
「目の前にいくらでもあるではないか。私、このコン――」
「おー、やべ。眠くなってきたぜ」
「よし、今夜は営み無しか」
「!? ふっ、ふざけん――」
「私、このコンテストに出たいぞ」
「うっ……!」
と、顔を引きつらせたリュウ。
キラから広告をぶん取り、キラの目の前にかざす。
「何言ってんだよおまえ!? よく見てみろ! ベストカップルならまだしも、ベストバカップルだぞ!? タダでさえこんなくだんねえ一般人のイベントに出るなんてダリーのに…! こんなん、単なる恥さらしじゃねーか! 絶対出ねーからな、俺は!」
「ああ、やっぱり……」と苦笑するリンク。「ああ…、ほんまにおれん家、一家そろって餓死しそ……」
と、肩を落とす。
そんなリンクを見て、シュウは意を決して言う。
「オレ、出る」
「えっ? ほんまっ? シュウっ…!」
「うん。いい? カレン。…って、マズイかっ…! おまえオレの彼女だってこと、まだ知られてないんだよなっ?」
「ええ、そうですわね。あたくしがシュウの弟子だってことは、ハンターの皆さまには知れ渡っているようだけれど…。彼女だってことはハンターの皆さまも一般人の皆さまも知らないわね」
「……まっ、マズイかっ…、やっぱっ…!」
「大丈夫じゃないの」サラが口を挟んだ。「仕事で外出てるときは兄貴といるし、そうでなくてもうちの家族の誰かしらと一緒だし。兄貴のファンにカレンが彼女だってバレたところで、何か悪さできる隙なんてないよ。っていうかさー」
と、溜め息を吐いたサラ。
「もうさ、堂々としない? カレンは列記とした兄貴の弟子で彼女なんだからさ。それに、いつまでも黙ってられるわけじゃないじゃん。ファンは兄貴にのことに関して特に鋭いんだし、もうとっくに感付いてるのもいると思うよ」
「ああ、カレンの身は安全だ。居候期間が過ぎても安全だ。俺がもうカレンを危険な目に合わせねえからな」と、リュウ。「ってわけでカレン。おまえシュウとバカップルコンテスト参加してこい。そして俺とキラはその滑稽な姿をステージ下から嘲笑しながら見物している」
「はい、リュウさま……」
と苦笑しながら承諾したカレン。
シュウに明るい笑顔を向けた。
「いいわ、出ましょ? シュウ」
「おお、サンキュ! カレンっ」
「アタシもレオ兄と出るー」
と、サラ。
再び広告を手にした。
「何かいろいろ賞あるけど、アタシこの賞狙いたい。『おしゃれで賞』! クイズとは別に、オシャレなカップル3組に送られるんだってさ。賞金は10万だから、あんまりリンクさんたちの助けにならないかもしれないけど…」
「そんなことないで、サラ!」とリンクが声をあげた。「おれ、めっさ嬉しいわ! ありがとう、シュウにサラ、カレンちゃんっ……! ほんまリュウの子とは思えへんわっ!」
「へー。『おしゃれで賞』かぁ……」
と呟くように言ったレナ。
レナの顔を覗き込んで、ミヅキが言った。
「ぼくと一緒に参加してくれる? レナちゃん。そういう賞ならぼくも取りたいよ」
「えっ? 本当っ? ミヅキくんっ…!」
「うん、レナちゃんが良ければだけど」
そう言ったミヅキの笑顔を見て、レナの頬が染まった。
「わぁい! あたしミヅキくんとコンテストに参加する!」
顔が引きつるリュウ。
がしっとミヅキの頭を掴む。
「くおおぉぉぉぉら、ミヅキぃ…!? てめー、レナに何する気だ…!? アァ…!?」
「なっ、何もしませんよリュウさんっ…! ただコンテストに出て賞取ったら、リンクさんご一家に賞金あげようと……!」
「おぉぉお…!」と声をあげ、リンクが瞳を潤ませる。「ミヅキくんまで、なんってええ子なんやっ……!」
「うーん。よし、オレも出るぞーっと♪」と、膝の上にマナを抱っこしたグレル。「可愛い弟子のリンクのため、マナと出ちゃうんだぞ、オーレっ♪」
「何で!?」リュウが慌ててマナを奪い返した。「なんっっっっで、アンタと俺の可愛い娘をカップルで参加のコンテストに出さなきゃならねえっ!!」
「何でって、マナは将来オレの嫁だからだぞーっと♪」
「いつまでもバカなこと言ってんじゃ――」
「パパ…」とリュウの声を遮り、マナがリュウの膝の上から顔を見上げた。「あたしグレルおじさんと出る…」
「――なっ…!?」リュウ、驚愕。「何故だマナっ! パパはこんなバケモノで天然バカで熊でオッサンで金メダルなんか絶対に認めねーぞ!?」
「リンクさんたちのためだよ…。お金がなくて可哀相だもん…」
「マっ、マナっ…!」と、さらに潤んだリンクの瞳。「あっかんわ…! おれもう…、もうっ……!」
「うんうん、私の子供はみんな良い子だな」
と、誇らしげに頷くキラ。
そのあとリュウを見た。
「さて…、あとは私とリュウだけ……か」
「なっ、何だよキラ…!?」と、キラから目を逸らすリュウ。「俺は絶対にでねーからな、絶対に!」
「そう…か……」
と俯くキラ。
ミーナから目薬を受け取り、目に差した。
「リュウは私の願いを聞いてくれぬのだなっ…!」
「……。キラおまえ、ピンクの涙流すのか」
「――ハッ! しっ、しまった!」と、愕然とするキラ。「ロー○・リ○ではないかっ…!」
「女子高生かおまえは」
「先日、ここぞというとき涙を流せぬ場合は目薬を差すのだと教えたのは私だが、リ○は駄目だぞミーナ、リ○は……!」
「おお、そうかリ○は駄目だったのか! 次からはサン○・F○・ネ○にするぞーっ」
「うーん、F○・ネ○か…。その場合は差したら『キターーーッ!』って叫ばないとだからな…。ちょっと恥ずかしいぞ…」
「でも今はもう違う人間がCMやってるぞ」
「何、いつの間にっ! 知らなかっ――」
「んで」と口を挟むリュウ。「俺は出ねーからな、キラ」
「おとなしく出ろよ、優勝候補」
と、シュウが溜め息を吐いた。
「優勝候補はおまえだろーが、シュウ。おまえのバカっぷりは見てて痛々しいぜ」
「あっ、あんたに言われたくねえっ!」
「ねえ、パパー」
とリュウのところへとやってきて、リュウの隣に座ったユナ。
リュウの腕を取り、にっこりと笑ってリュウの顔を見る。
「あたし、大賞かっ攫うかっこいいパパが見たいなっ♪」
「な、何……」
ちょっと揺れ動くリュウ。
レナが続く。
「あたしもあたしもー! 大賞をダントツでかっ攫うパパ見たーい♪」
「う……」
さらに揺れ動くリュウ。
マナが続く。
「パパ…、コンテストに参加してくれたらイイ薬作ってあげるよ…」
「イっ、イイ薬……!?」
またさらに揺れ動くリュウ。
サラが続く。
「コンテストに参加したらママが大喜びして、バレンタインの夜は『ねえ、もっとぉ(ハート)』の連発だね」
「マっ、マジかオイ……!?」
またまたさらに揺れ動くリュウ。
キラが赤面しながら咳払いをした。
「こ、子供たちよ、ちょっと耳をふさいでいろ…」
言う通りにする子供たち――シュウとその弟妹、カレン、リーナ、ミヅキ。
「リュウ」
「な、なんだキラ」
「トドメだ!」
「ふ、ふん、俺は絶対に――」
「コンテストに参加してくれたら、その夜○○○を□□□□で、△△△△△の、☆☆☆☆☆☆☆っ!」
「…お…、おおおおお…!?」
輝いていくリュウの瞳。
真っ赤なキラの顔。
「さっ、さらに、○☆▼□●△★☆◇■▲○★◆ーーーっっ!!」
「おっ、おおぉぉぉおおおぉぉぉぉぉおおっ!!」
そのキラの甘い誘惑に、歓喜の雄叫びを上げたリュウ。
そして、
「よっしゃあ! 俺はキラとコンテストに参加するぜ!!」
そういうことになった。
リンクが舞い上がる。
「ありがとうっ、リュウ! それからキラっ! おまえ、めっさ頑張ったな…。っていうか、バレンタインの夜、が、頑張ってやーっ……」
「う、うむ。ミーナのため、私はがんばるぞっ…」
熱くなった顔をパタパタと手を扇いで冷ましながら、キラは己の水着姿写真ばかりが印刷されている壁のカレンダー(リュウ作)に目を向けた。
(コンテストはバレンタインデーか……)
それまで、あと約2週間だ。
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