第92話 雪合戦大会とオークション
毎年元旦に行われるギルドイベント――雪合戦大会。
今年は『全島ギルド雪合戦大会IN長月島』。
去年まではギルド同士の交流を深めるため、賞金や商品はなしで行われてきた。
が、今年は優勝者には100万ゴールド。
準優勝者には50万ゴールド。
そして、ランキングトップ20全員にミヅキの作った『シュウの人形』をオークションで競り落とすための資格が与えられる。
午前8時。
長月島に着いたシュウとその家族、カレン、リンク一家、グレル、レオン、そしてミヅキ。
野外に作られた雪合戦会場を見渡した。
「おー、いい具合に積もっとるやん」と、リンク。「おれらは雪合戦に参加せえへん代わりに雪玉作りの係りやからな。はよう始めんで。ああ、でもミヅキくんはステージに商品飾っててや。言われた通り、UVカットのケース用意しておいたから」
承諾したミヅキ。
会場の一角に作られたステージに上り、腕に抱えて持ってきた箱の中からシュウの人形を取り出す。
それを用意されていたショーケースの中に飾ると、まだ見ていなかったシュウ以外の一同が声をあげた。
「おおーっ!」ともっとも声を高くあげたのはリンとラン。「す、すすすっ、すごいのだっ! 兄上そっくりなのだああああああああっ!!」
ステージにぴょーんと跳ねて上り、ショーケースにへばり付く。
シュウが狼狽しながら言う。
「こっ、こらリン・ラン! ショーケースに指紋付くだろっ…!」
「ごっ、ごめんなさいなのだっ!」
「いいよ、大丈夫」
とミヅキがリン・ランに笑顔を向け、ショーケースを専用の布でピカピカに磨き上げる。
続いてカレンとサラ、レナがステージに上ってきた。
「本当、すごいよミヅキくんっ!」と、レナ。「見れば見るほど兄ちゃんそっくりぃぃぃぃぃぃっ!」
「だねえ」うんうんと、サラが感心しながら頷いた。「ところでミヅキ、兄貴の下半身の一部はどうした?」
「縮めた」
「良かった」
「えげつないからね」
「本当にね」
「う、うるせーぞおまえらっ…!」
とステージの下で赤面するシュウの傍ら。
カレンがシュウの人形をじっと見つめている。
「ねえ、ミヅキくん」
「何? カレンちゃん」
「シュウの剣も付いているのね、すごいわ」
「うん、ハンターらしくしようと思って」
「そう。それで、剣を持てるオプションハンドは付いているのかしら? それから他にお洋服は? 一着だけでは楽しめないのですわ。それに今着せているお洋服は色が濃いから、長い間着せていては色移りの心配があるのですわ」
「さすがカレンちゃん。言うことが違うね」と、ミヅキがおかしそうに笑った。「大丈夫、ちゃーんとオプションハンドも他の服も、セットで付いてるよ。色移りさせないように、注意書きの紙も付けておいたし」
「まあ、さすがはミヅキくんなのですわ。それなら大丈夫ね」とミヅキを見て安堵したように笑うと、カレンは再びシュウの人形に目を移した。「それにしても、本当……シュウそっくり。あたくしも少しほしくなってしまったわ」
「え」と、にやけたシュウの顔。「何、カレンおまえ…、オレの人形抱いて寝たりすんの?」
「――バっ、バカなこと言わないでちょうだいっ!」と驚愕したカレンの顔。「そんなことをしたらウィッグが乱れてしまうのですわっ! それにメイクも崩れてしまうかもっ! そしてお洋服にはシワが……! あああっ、考えるだけで恐ろしいのですわあぁぁっ!」
「……。えと、うん…、ごめん」
シュウ、苦笑。
そのあとミヅキの顔を見た。
ミヅキもシュウの顔を見る。
「…いくらで売れると思う、シュウ」
「最低でも50万」
「まさか」と目を丸くしたミヅキ。「20万行けばいい方だよ」
「モデルがオレだから?」
「そうじゃなくてさ…、ぼくが作ったものだから……」
シュウが溜め息を吐いた。
「自身持てよ、ミヅキ。おまえの腕はやっぱすげえよ。オレが見ても、オレそっくりだって思うし」
「う…ん……」
ミヅキは俯いた。
まだ雪合戦すら始まる前だというのに動悸がする。
(オークションで付けられた値がぼくの才能の価値…。ぼくの才能は一体どれくらいなんだろう……)
雪合戦に出場する選手はAM9時までに集まる。
集まった選手を見渡し、司会者兼、審判を務めるゲールは瞳を輝かせた。
「…おお…おおおおお…! …す…素晴らしい…! …なんという数だ…!」
この毎年元旦恒例の雪合戦に集まった選手――ハンターの数は、見るからに今までで最多。
優勝商品のシュウ人形を確認しようと、ステージの前に群がっている。
ショーケース脇にいるミヅキはシュウ人形について質問攻めに合っているようだ。
ステージ脇でその様子を見ているシュウとその家族、カレン、リンク一家、グレル、レオン。
カレンが小声で言った。
「すごい数ですわね。全部シュウのファンかしら」
「せやろうなあ」と、リンクが頷いた。「この商品のために、緊急でハンターの資格取りに来た人もおんのやで」
「へえ、すごいね」と、サラが声を高くした。「親父ほどじゃないものの兄貴のファンってこんなに多いんだ。見てよ、女だけかと思ったのに男もいるよ」
「それに、みんな驚いてるね」と、レナが続いた。「そりゃそうだよね、兄ちゃんに本当そっくりだもん。これはきっと、高値で売れること間違いなしだよ。そうしたら…」
と、レナがミヅキを見つめる。
「ミヅキくん自信を取り戻せるよね…、きっと」
カレンとサラが微笑んで頷いた。
「ミヅキが自信取り戻したらー」と、にやりと笑ってレナを見るサラ。「ミヅキが『次は君のドールを作りたい』とか言って来るかもよ、レナ?」
「えぇっ!? ちょ、やっ、サラ姉ちゃんやめてよっ…!」
顔を真っ赤にするレナを見て、カレンとサラが笑う。
それから少しして、
「…では…雪合戦の開始を…!」
と辺りに響き渡ったゲールの声。
時刻はAM9時30分。
雪合戦大会開始。
ルールは単純に、雪玉に当てられた者はコートから退場して行き、残った20人にオークション参加資格が与えられる。
加えて、最後まで勝ち残った優勝者には100万ゴールド、その次に勝ち残った順優勝者には50万ゴールド。
予想以上にシュウのファンハンターが集まったため、1つしか用意されていなかったコートは急遽4つに。
それに合わせて、各コートの審判も急遽用意された。
コートAの審判は元々の予定通りゲール。
コートBの審判はリュウ。
コートCの審判はリンク。
コートDの審判はレオン。
まずは一斉に、各コート5人になるまで試合が行われる。
各コートに残った5人――合計すると20人が、オークション参加資格をもらえる。
それからさらに新たに試合を行い、優勝者と準優勝者を決める。
予定としては、雪合戦自体はAM11時までに終了。
そしてPM12時にオークション開始だ。
「うーわぁ……」
オークションの商品落札者に、商品を手渡すシュウ。
専用に用意されていたゴージャスな椅子に座りながら、雪合戦に参加している選手を見渡して苦笑した。
「本来はギルド同士の交流を図るイベントのはずが、すげーことになってんな…」
シュウの傍らに立っているカレンとキラ、シュウの弟妹、ミーナ、リーナ、グレルが同意して頷いた。
カレンが言う。
「ハンターの皆さま、物凄い気迫ですわ。なんというか殺気が…」
「せやなあ」と、うんうんと頷いたリーナ。「コートAは男ハンターやけど、コートBからDは全部女ハンターやな。同じギルドも他のギルドも関係なしに乱闘起きてんで」
シュウの後方で、シュウの人形を箱に詰めて包装していたミヅキ。
手を止めて振り返った。
雪合戦の様子を見る。
(ほ…、本当にすごいことになってるな)
ミヅキの耳に入ってくる女たちの甲高い声。
「シュウくんのお人形は私のものおおおおおおっ!」
「何言ってんのよアンタ! あたしのものよっ!」
「アンタすっこんでないさいよっ! 前々から気に入らなかったのよ、このブスっ!」
「何よ寸胴っ! アンタこそすっこんでなさいよっ!」
「きっ…、きゃあああああああ! 雪玉に当たってしまったわああああ! いやあああぁぁあああ、私のシュウくううううううううううううううんっ!!」
引きつるミヅキの顔。
(あ…阿鼻叫喚……)
リーナがコートAを指して言う。
「見てや。男ハンターもすごいことになってんで」
「おおーっ」と声をあげたリン・ラン。「男なだけあって物凄い豪速球だぞーっ。兄上は男にもモテモテだぞーっ」
ミヅキはリーナの指したところを見た。
男たちが熱く争っている。
「シュウドールは俺の物っ! YU☆KI☆DA☆MA☆スクランブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
「――ガハァっ! てめっ…、当てやがったな!」
「オラオラオラオラァ! ぶっ飛べオラアァァァァァァァァァァァァっ!! …あっ」
「――ゴフッ!」
「ごめん、審判…ゲールさん!」
「…ハァハァハァ…! …た、たまらん…! …な、何と気持ち良い雪玉だ…! …そこの君、もう一度私に当ててくれえぇぇ…!」
「――!? こっち来んなああああああああああああああああああっ!!」
ミヅキの眉が寄る。
(何してるんだろう…)
ミヅキは手元の箱に顔を戻した。
(とりあえず売れそうだから安心……かな。オークション…、どれくらいまで上がるんだろう)
綺麗に包装を済ませ、さらに落札者が持ち帰りやすいように袋に入れる。
オークションが近づくにつれ、増していくミヅキの動悸。
勝ち残った20人の試合をじっと見つめるミヅキの横顔を見ながら、シュウは顔を微笑ませた。
(自信持てって言ったのに、なーに不安そうな顔してんだか。大丈夫だっつーの。…なっ、じーちゃんっ?)
予定より10分ほど長引いて雪合戦は終了した。
オークションに入る前に、優勝者と準優勝者にシュウが賞金を手渡している。
「優勝者は男だったね、カレン」
「そうね、サラ。ゲールさんに追われながらも見事に勝ち抜きましたわね」
「オークションどうなるんだろうね。賞金もらった優勝者と準優勝者はかなり有利だよね」
「でも分からないのですわ。皆さまきっと大金を用意しているのですわ」
「だろうねえ」
と言いながら、サラは携帯電話を取り出した。
時刻を確認するとAM11時30分。
オークションまであと30分だ。
「覚悟はいい? ミヅキ」
「…う…うん……」
ぎこちなく頷いたミヅキ。
緊張した面持ちをしている。
その傍らでカレンがはしゃいだ。
「オークション、とぉーっても楽しみなのですわっ♪」
そして腹が減りだすPM12時。
オークションタイム。
結果が気になるのか、オークション参加資格をもらえなかったハンターたちも帰らず残っていた。
ステージの上にはシュウとミヅキ、綺麗に包装された優勝商品――ミヅキが作ったシュウの人形。
そして司会者にはリュウ。
「あら、リュウさま?」と、カレンがぱちぱちと瞬きをした。「ゲールさんが司会者ではなかったの?」
「ゲールは雪合戦荒らしたからな」と、リンクが苦笑しながら答える。「リュウに会場から締め出されたんや」
「そ、そうでしたのっ…」
とカレンが苦笑したとき。
リュウがマイクを握った。
「んじゃ始めろ」
といきなり始まったオークション。
開始価格は10万ゴールド。
1人が戸惑い気味に手を上げて言う。
「え、えと…、10万2千っ…!」
「他は?」とオークション参加者をステージの上から見下ろして言うリュウ。「腹減ってんだよ俺は。早くしろ。10万2千で決定すんぞ」
オークション参加者たちが、慌てて手と声をあげた。
「じゅ、10万5千っ!」
「10万6千っ!」
「10万6千5百っ!」
と、地味に始まったオークション。
シュウの傍らに立っているミヅキが俯いた。
(この調子だと20万も行かずに終わりそうだな。こんなもんだよね…、ぼくの才能なんか)
と、溜め息を吐いたとき。
「お、優勝者が手ぇあげた」
と、小さな声でシュウ。
ミヅキは顔を上げた。
それと同時に辺りに響き渡った声。
「100まあああああああああああんっ!!」
「――えっ…?」
耳を疑うミヅキ。
(100万っ…?)
呆然としてしまう。
その一方、白熱し出したオークション。
「ちょっ、シュウくんのお人形は譲らないんだからねっ! はいはいはい! 120万!」
「じゃあ俺150万っ!」
「170万っ!」
「190万っ!」
「ええいっ、250万っ!」
見る見るうちに上がっていく価格。
「すっげぇー! だーから言っただろ? ミヅキ!」
とミヅキの華奢な背を軽く叩いたシュウ。
ミヅキの横顔を見ながら、ぱちぱちと瞬きをした。
呆然としてオークションの様子を見ているミヅキ。
その唇は小刻みに揺れ、栗色の瞳からは涙が次から次へと零れていた。
「……良かったな」
そう言ってシュウが微笑むと、ミヅキが頷いてしゃくりあげた。
オークションの値が止まったところで、リュウが再びマイクを握る。
「520万でいいな? 他にいねーな? んじゃ決定。落札したおまえ、ステージに上がれ」
「うぃーっす!」
落札者は雪合戦の優勝者。
喜々とした様子でステージの階段を駆け上がり、シュウの前に立った。
「えと…、おめでとうございます」
とシュウが落札者に商品を渡すと同時に、ミヅキが深々と頭を下げた。
「ありがとう…ございます……!」
落札価格の520万を受け取るミヅキ。
(これが…ぼくの才能の価値……!)
その大きさは予想を遥かに越えていた。
止まらない涙。
じわじわと戻ってきた自信。
一方、ステージ下では。
「いやあああああああああっ!」
「あたしのシュウくん人形があああああああああああっ!」
「頑張ったのにいいいいいいいいいいいいっ!」
阿鼻叫喚の嵐。
ブチっときたリュウが再びマイクを握る。
「うるせえっ!! 静まれっ!!」
鶴の一声で静かになった。
と、思ったのだが、それはほんの一瞬で。
「だってリュウさまあああああああっ!」
「わたしたちもほしいいいいいいいいいっ!」
「何で1つしかないんですかああああああああっ!」
まるで止まない泣き声に、深く溜め息を吐くリュウ。
「ったく、分かったようるせーな…」とオークション参加者や、参加できなかった者たちを見渡し、「これから月に一度、シュウ人形のオークションを葉月島で行ってやる」
勝手に決めた。
「――へっ!?」驚きのあまり、引っ込んだミヅキの涙。「ちょっ、リュウさんっ……!?」
リュウの鋭い黒々とした瞳がミヅキの顔をじろりと見つめる。
「文句はねーな、ミヅキ。こいつらうるさくて仕方ねえ」
「あっ、えとっ……!」
あたふたとするミヅキに、リュウがマイクを投げ渡した。
ミヅキに痛いくらいに突き刺さる期待の視線たち。
ミヅキは会場に集まった者たちを見渡しながらマイクを握り、頭を下げながらその期待に応えた。
「らっ…、来月からもよろしくお願いしますっ……!」
歓声と共に沸き踊った会場。
ステージの上まで伝わってくる地響き。
シュウが笑いながらミヅキを肘で突付いた。
「こーの人気者っ!」
「それはあんたでしょ、シュウ」
「いやあ、それほどでも――」
「まーったく何がそんなにいいんだか!」と笑いながらシュウの言葉を遮ったミヅキ。「リュウさんなら分かるけど、コレの何がいいのかサッパリワカメだね、ぼくは」
「てめっ、ミヅキっ…! 自信取り戻した途端、可愛くなくなりやがってっ……!」
「自信? 最初からありまくってたに決まってんじゃん。ぼくの作ったドールが高く売れないわけがないよ」
「へっ! 何言ってんだ、さっきまでピーピー泣いてた奴がよっ!」
「はぁ? 何のことだか。知らないね」
「泣いてた。オレはしかと見た」
「眼科いってら」
「んだとゴルァっ!」
とやりとりをしているシュウとミヅキを見て、リュウは2人に近寄っていった。
「おい、シュウ。おまえもう義父上に願い叶えてもらったのか」
「何のことだよ、親父」
「『年の近い男友達ほしい』ってやつ」
「そっ、そんなんじゃねえっ…!」
「ふーん?」と、ミヅキが口を挟んだ。「シュウっていないんだ、友達。ぷっ、寂しいねー」
「うっ、うるせ――」
「ま、ぼくもいないけど」
「じゃっ、じゃあ言うなあああああああああああああっ!」
と叫んでいるシュウの尻に、
「おまえちょっと慰めにファンサービスしてこい」
ドカッ!
とリュウの蹴り。
「――うっわああああああああ!」とステージ下に落ちたシュウはファンにキャッチされ、「ぎっ、ぎゃあああああああっ! へっ、変なとこ触らねえでくださあああああああああああああああいっ!!」
ファンサービス開始。
それをおかしそうに見ているミヅキに、リュウが言った。
「シュウの奴、初詣行ったときに願ってたぞ」
「え?」
とリュウの顔を見上げたミヅキ。
リュウが続ける。
「おまえが作った人形が高値で売れるようにって、願ってたぞ」
「えっ……?」
と、ミヅキが再びシュウに顔を向ける。
「あいつ――シュウって、すげーバカなとこあっけど絶対に裏切ったりしねえから……、ダチになってやって」
「リュウさん…」ミヅキが呟くように言う。「ぼくなんかでいいんでしょうか……」
「ミヅキ、俺な」
「はい」
「さっきのシュウとおまえのやり取りを見ていて深く思ったんだぜ」
「何をですか?」
「シュウのダチは、おまえがいいってな」
「えっ?」と驚いてリュウの顔を見たミヅキ。「そ、それはどうしてですかっ?」
「だってよ」と、にやけたリュウの顔。「おまえにいじられてるときのシュウがすーげー面白いんだぜ」
「……。一瞬リュウさんて息子想いな優しいお父さんだなって思ったんですけど、もしかして間違ってましたか」
「何言ってんだ、ミヅキ。俺はすーげー優しいお父上様だぜ」
「……。そうですか」
「おうよ。んじゃ、腹減ったから帰るぞ。おーい、ミーナ瞬間移動頼むー」
とステージから飛び降り、家族や仲間のところへと向かっていくリュウ。
ミヅキもステージから階段を下って降りると、ファンに揉みくちゃにされているシュウのところへと向かった。
「ねえ、シュウ。帰るってよ」
「えっ!? ちょ、待ってくれっ!!」
何とかファンの間から抜け出したシュウ。
ミヅキの腕を引きながら慌ててリュウのところへと駆けて行く。
「おっ、置いていかないでくれ親父ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
「シュウ」
「何だよミヅキっ! おまえ早く走れよ、置いていかれるぞ!」
「なってあげてもいいよ」
「え!? 何に!?」
「…と……ち……」
「え、何!? はっきり言えよ聞こえねーなっ!」
「……友達、なってあげてもいいよ」
「おう、そうか! ――って…?」
シュウは立ち止まった。
(友達…?)
振り返ってミヅキの顔を見る。
ミヅキがシュウから顔を逸らし、もう一度言った。
「友達になってあげてもいいって言ってんの。これからしばらくはあんたのドール作らなきゃいけないし、その方が都合いいからね」
「……」
「い…、嫌なら別にいいけど」
「……」
シュウが何も言わないものだから、再びシュウに顔を戻したミヅキ。
「…ぷっ」と短く笑う。「何テレてんの」
「てっ…、テレてなんかねえっ!」
と顔を赤くしながら言い、ミヅキを引っ張って再び走り出したシュウ。
その黒猫の尾っぽは嬉しそうにぶんぶんと振られている。
(じーちゃん、ありがとっ…! ありがとっ…! オレっ……)
ミヅキの腕を引っ張ったまま、ぴょーんとジャンプしたシュウ。
「友達でっきたあああああああああああああああああああああっ!!」
高く舞い上がったその身体は、リュウたちがいるところを目掛けて落ちていき、
「イヤッホオォォォォォォォォォ――」
「よし、ミーナ瞬間移動」
「え」
地に足をつけようか寸前、置いて行かれたのだった。
「――こっ、このバカ親父ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!」
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