第89話 父親の能力 後編


 自宅リビングの中。
 シュウは顔面蒼白してごくりと唾を飲み込んだ。

「カ…、カレンピンチ…!? ってか、下手すりゃ嫌われるオレ!?」

「かもしれん」とシュウに続いて顔面蒼白したのはキラである。「マナの説明だと、見目は変わらぬものの、ほぼリュウと入れ替わったと言っていた。オスの子孫を残そうとする本能なのか何なのかよく分からぬが、リュウは私を抱き始めると本気で止まらぬぞ。よって、カレンに泣かれること間違いなしだ」

「ちょ、待っ――」

「飯食い終わったら8時くらいか」と、リュウ。「11時には初詣行く準備すっから、3時間しかできねーな。大丈夫だ、シュウ。3時間くらいおまえの好き勝手してもカレンにゃ嫌われねーよ」

「な、何を根拠に…!?」と引きつるシュウの顔。「それより、あんた3時間できちゃうんだ…!? いや、うん、知ってたけど!? ってか、1回と1回の間の休憩はどれくらいで……!?」

「5分」

「あっ、あんた5分で回復すんの!?」

「おう」

「本当に39の人間のオッサンかオイ!?」

「おまえにゃ負けねーぜ」

「かっ、勝てねーよ…!」

「さあ、シュウ」と、ぽんとシュウの肩を叩いたリュウ。「薬はちゃんと11時ごろに効果が切れるようにしてもらってある。それまで俺の素晴らしい性的能力を味わって来い」

「……」

 リュウとキラの誕生日パーティーのご馳走で晩ご飯を終えたあと、シュウは自分の部屋へと向かって歩き出した。

(味わって来いったって…。カレンにとっちゃきついだろうよ……)

 と苦笑しながら2回へと続く螺旋階段を上る。

(今日は我慢してカレン抱かないことにしよ……)

 そう決めたシュウだったのだが。
 自分の部屋のドアを開けてぎょっとする。

「カっ…、カレンっ……!?」

「おかえりなさい、シュウ。リュウさまの能力はどうだったのかしら?」

 と、どうやらバスタイム後らしいカレン。
 お気に入りのパイル地で出来たキャミソールワンピース型のバスローブを身にまとい、シュウのベッドの上に寝転がっている。

「おっ…、おう。バケモノだったっ……」

 カレンの露出している肩を見、腕を見、脚を見。
 シュウは動揺しながらカレンから顔を逸らした。

(すっ…、すげームラムラするっ!!)

 そのムラムラ度。
 いつもの5倍。

(そんなに子孫を残したいのか親父っ…!! あんたサルじゃねーのっ!?)

 シュウはカレンから顔を背けたまま備え付けのバスルームに向かい、

「オっ…、オレがシャワー浴び終わるまでに、オレの部屋から出て行くことっ!」

 とカレンに命令して、その中に逃げ込んだ。

「えぇっ? ちょ、シュウっ…!? …な…、何よっ……」

 と、むくれるカレンの顔。

(絶対に出て行ってあげないのですわっ!)
 
 
 
 シャワーを止め、脱衣所に出たシュウ。

(さて…、薬が切れるまで一匹おとなしく部屋にこもってるしかねーな)

 小さく溜め息を吐いた。

「早く自分に戻りてえ……」

 思わずそんなことを呟いてしまいながら、パンツ一丁で脱衣所から部屋へと出、

「――なっ」

 そして戻る。
 脱衣所のドアを閉め、カギを閉め。
 シュウは狼狽しながら言った。

「なっんでいるんだよカレン!? オレの部屋から出てろって言っただろ!?」

 カレンの不機嫌そうな声が返ってくる。

「あたくしがいたら悪いのかしら」

「悪いから言ってんだっ!」

「なっ、なんですって!?」

「悪いったら悪いっ! 今日はすーげー悪いっ! 早く出てけっ!!」

 シュウのベッドの上。
 頬を膨らますカレン。

「出て行かないのですわっ!」

「出てけった出てけっ! 恋人以前に師匠であるオレの命令が聞けないのかっ!」

「聞かないのですわっ!」

「なっ、何だと!? お尻ペンペンするぞおまえっ!!」

「じゃー、そこから出てきてすればよろしいのですわっ!」

「バっ、バカ言うなっ! おまえの尻見るだけでムラムラするわっ!!」

「は…」カレン、赤面。「はぁ……?」

「ああもうっ!」と、脱衣所の中、しゃがみ込んで頭を抱えるシュウ。「オレ今、ほぼ親父と入れ替わってんだよっ!!」

「そ、そうね」

「いつも以上に欲情してんのっ!! すーげームラムラしてんのっ!! おまえ見たらやべーのっ!! それくらい分かれよっ!!」

「……」

 さ…、さすがリュウさまなのですわ。

 と苦笑しながら尊敬したあと。
 カレンは続ける。

「な…、何で出てこないのかしら」

「だからっ!」と、脱衣所の中で声をあげるシュウ。「ついさっき言ったばかりじゃ――」

「別に気にしないで出てくればよろしいのですわっ…」と、染まったカレンの頬。「あ、あたくしはあなたの恋人なのだからっ……」

「え…」

 と言ってから固まって数秒。
 シュウが再び声をあげた。

「えっ、えええええええ!? おっ、おまえオレに犯されてえってこと!?」

「そ、その言い方やめてちょーだい…」

「だっ、だだだ、だって今のオレじゃ、おまえを抱くっていうより犯す感じだしっ!」

「そ、そんなことないのですわ、きっとっ…! 何だかすごくガツガツしてそうだけれどっ…、それでも抱かれてる感じがするに決まってるのですわっ……!」

「な、なんで?」

「…シュ…シュウだからなのですわっ…! 好きな人になら、どんな抱かれ方されても平気なのですわっ…!」

 と言ったカレンだったが。
 慌てて付け足した。

「SMとか以外ならっ……!」

 冷や汗を掻きそうになる。
 シュウがリュウになっているというのなら、縛られても何らおかしくはない。 

 カチャ…

 と、脱衣所のカギが開く音。
 続いて、

「ま…、まじでいいの?」

 と、シュウの声。

「ま…、まじなのですわ」

 とカレンが答えると、脱衣所のドアが少し開いた。
 そこからシュウの片目が見える。

「こ…、これから11時までの約3時間抱かれることになっても?」

「――!? な…、長いですわねっ…! で、でも平気なのですわっ……」

「い…、1回と1回の間の休憩が5分しかなくても?」

「――!? ちょ、短っ…! …へ…平気なのですわっ……」

「ほ…、本当っすか」

「ほ、本当っすなのですわっ……」

「そ…、そっち行っていいっすか」

 それはもう、色んな意味の動悸を感じるカレン。
 勇気を振り絞って答えた。

「…カ…、カモオォォォンっ…」

 次の瞬間。

「フィーバァァァァァァァァァァァァァァァァっっ!!」

 といつものようにカレンのところへと飛んできたシュウ。
 その速さ、瞬間移動並。

 黒猫の尾っぽをぶんぶんと振り、カレンに負い被さる。

「い、いいいい、いいんすね、お嬢さん!?」

「…っ…」

 カレンはごくりと唾を飲み込んだ。
 シュウの鼻息の荒さが只ならない。

(あ、愛するダーリンのため、がんばるのよあたくしっ……!)

 シュウの気迫に押されながら、カレンはうんうんと2回頷いた。

「おおおおう、まーじかああああっ! キタキタキターっ! ムラムラキターーーっ!!」

 と、シュウはパンツをポーイっと脱ぎ捨て、

「いっただっきまああああああああああすっ!!」

 カレンの身体に吸い(噛み)付いた。
 もちろん力加減に細心の注意を払いながら、カレンとフィーバー開始。

 シュウ、1回戦目。
 まあ、いつも通り。

「…デ…、デリシャスっ…!」

 2回戦目。
 驚愕。

「ほっ…、本当に5分で回復しやがったっ…!」

 3回戦目。
 さらに驚愕。

「オレいっつも3回戦でダウンだってのに、まだまだ元気なのかよっ…!」

 ついでに、1階の両親の寝室からリュウの叫び声。

「おっ、俺の身体を返せええええええええええええええええええええっ!!」

 4回戦目。
 カレンがギブアップ。

「ぜっ…、前言撤回なのですわっ…! もっ、もう無理なのですわっ…!」

「ごめん、止まんないっ…」

 5回戦目。
 カレンが泣き出す。

「もう嫌なのですわあああああっ!!」

「ご、ごめん、カレンっ…! ああぁ…、泣き声がたまらんっ……!」

「そっ、そんなところまでリュウさまにならないでっ!」

「オっ、オレに言われてもっ…!」

「もう嫌ったら嫌っ…! 嫌ああああああああっ!!」

「ああぁ…、ゾクゾクするうぅっ……!」

「この、変態ィィィィィィっ!」

 最後、6回戦目。
 カレン、死んだようにぐったり。

「…ま…、まだ終わらないの?」

 一方のシュウは、

「お…終わんねえっ…! ま、まだまだムラムラ、まだまだデリシャスっ…! ど、どうなってんだよこの身体っ…! どうなってんだよ、どうなってんだよ……!?」

 恐怖に襲われていた。
 そしてついに叫ぶ。

「オっ、オレの身体を返せえええええええええええええええええええええっ!!」

 そして終了した6回戦。

 時計の針が、PM11時を差した。
 身体を包み込んでいた魔法が取れたのを感じ、シュウはぐったりとしてベッドに横たわった。

「…や…、やった、戻ったっ…!」

「よ…、良かったのですわっ…」

 と、もう身体を起こすことすら難しいカレン。

「あっ、ごめんっ……!」

 シュウは慌ててカレンに治癒魔法をかけた。
 何度もかけた。
 己にもかけた。

 一方、1階の両親の寝室から聞こえてくるリュウの元気な声。

「よっしゃああああああああああああっ!! 戻ってきたぜ俺の身体あああああああああああああああっ!! おいキラ、4回戦っ!!」

 続いてキラの声が聞こえてくる。

「なっ、何を言っているのだリュウっ!! 時計を見るのだっ!!」

 その次に聞こえてきたのは、2階の階段を駆け上がってくる足音。
 足音はシュウの弟妹たちの部屋の前を通り越し、最初にシュウの部屋の前へとやってきた。

「おい、シュウっ!!」

 とドアを蹴り開けて登場したのはリュウ。

「はいはい、分かってんよ」

 と言いながら、シュウはカレンの肩まで布団をかける。
 そのあとリュウの顔を見て続けた。

「初詣に行く準備をしろ、だろ?」
 
 
 
 
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