第45話 修行中の長男と、その頃のカレン 中編


 修行初日。
 シュウはリュウから1日の修行メニューを教わった。

 AM5時ちょっと過ぎ。
 穏やかなところもあれば険しいところもある山道を、オオカミ風モンスターたちに追いかけられながらジョギング。

(オオカミに7回尾っぽ噛まれたってことは、7回走るスピード落ちたのか、オレ。そりゃ落ちるわ、長距離をダッシュされられりゃあ……)

 AM7時。
 腹筋・背筋・腕立て・スクワットを各1000回ずつ。

(本当は2000回だったところを、レオ兄が親父を説得してくれて1000回になったんだぜ……)

 AM8時。
 霧で視界が真っ白になってしまう場所で剣術の修行。

(親父の剣がどこから飛んでくるのかさっぱり読めなかったぜ。ついつい剣術より、治癒魔法かける方に集中しちまったじゃねーか。でもまあ、明日からは親父が相手じゃなくてレオ兄が相手だし、レオ兄は手加減してくれるよな……)

   PM12時。
 リン・ランが作ってくれた昼食を食べた。

(オレのために可愛い妹のリン・ランが一生懸命作ってくれたと思うと、それだけで美味かったぜ。ありがとな、リン・ラン)

 PM13時30分。
 精神統一のため、リュウの魔法が掛かった滝での滝行。

(ありえねええええ勢いで水が降り注がれるものだから、本気で首折れるかと思ったぜ。石とか混じってるし。丸太落ちてきたし。隣で普通に何食わぬ顔して頭から滝浴びてる親父はやっぱツエェェェと思った……)

 PM14時。
 どうやらオオカミ風モンスター以外にも手懐けていたらしいリュウ。
 リュウを継ぎ火・水・風・地・光を操れるシュウに用意されていたのは、その5つの属性を主とするモンスターたち。

(それそれ集団で遠慮なく攻撃してきやがった。火属性の飛行型のモンスターたちが吐いた炎により火傷したあと、水属性のキングコングみたいなモンスターたちに氷漬けにされて凍傷を負い、そこへさらに風属性の可愛い妖精みたいな姿のモンスターたちの台風で身体を巻き上げられ、ようやっと地面に落ちてこれたと思ったら地属性の巨大モグラみたいなモンスターたちが大地から岩を勢い良く突き出しオレの身体を再び宙に舞わせ、トドメに光属性のアフロヘアーをしてトラ柄のパンツを吐いた雷様風のモンスターたちが激しすぎる落雷をオレの身体に突き抜けさせたんだぜ……。オレよく生きてるな、オイ。魔力は上がったか分からんが、とりあえず耐性はついた感じ……)

 PM18時。
 リン・ランの作ってくれた晩ご飯を食べる。

(美味かった。昼に続き、すげー美味かった。リン・ラン、おまえたちの愛情のお陰で、ぼろぼろの兄ちゃんは癒されたぜ……)

 PM20時。
 魔法学校へ通うリン・ラン、ユナ・マナ・レナが図書室から借りてきた魔法書を読み、魔力と魔法の種類の増加に努力する。

(おおー、オレもついに足の速くなる魔法を覚えたぜ。これで仕事の移動が楽になるな)

 PM22時。
 炎魔法と水魔法を使って湯を作り、この大自然の中に不自然に置かれたネコ足バスタブに入れて入浴タイム。

(やっぱ1日の疲れを取るには風呂だよなあ。……にしてもリン・ラン、兄ちゃんの身体をそんなに必死に隅々洗おうとするな……)

 PM23時。
 リュウがミーナと共に葉月島へ帰る。
 シュウとリン・ラン、サラとレオンのテントに分かれて就寝。
 シュウはリンとランにべったりとくっ付かれながら、瞼を閉じた。

(明日から親父いねーけど、修行頑張らねーとな。この厳しい修行で親父に一歩近づけるし、強くなって帰ったらカレンのキスが待ってるし……。カレン、今日何してたかな。好きな人形売ってる店行くみたいなこと言ってたっけ……。今何してるかな。もう、寝たかな……)

 修行初日の夜。
 シュウはカレンの顔を思い浮かべながら眠りに落ちていった。
 
 
 
 シュウたちが修行に向かって3日目のこと。
 昼下がりに買い物に行こうと玄関に向かったキラのところに、カレンが駆け寄ってきた。

「キラさまっ、どこへお買い物に行かれるのですかっ?」

「ん? 今夜の夕食の材料を買いに近くのスーパーへ…、いやまあ…、それなりに品揃えの良いスーパーならどこでも良いのだが」そう言ったあと、キラはカレンの様子を見ながら訊いた。「行きたいところがあるのか? カレン」

「はい、一昨日行ったドールショップへ行きたいのです」

「そうか。では私はその近くのスーパーに行くことへするから、一緒に着いてくると良い」

「ありがとうございます、キラさま!」

 カレンはうきうきとしながら、キラと一緒に外へ出た。
 キラが言う。

「カレンは本当に人形が好きなのだな。一昨日その店に行ったばかりだろう」

「はいっ! 毎日行っても飽きないくらいですわ。一昨日久しぶりに行ったとき、あたくしの知らないバイトの女の子がいたのですが」

「ふむ?」

「ミヅキちゃんと言うのですが、一緒に話しているととても楽しくて……」

「ほお」と、キラが声を高くした。「友達になったのか?」

「いえ、そこまでではないのですが。彼女は自分でドールを作れてしまう特技を持っていて、ドールが好きなあたくしとしてはとても羨ましいことで……。もし友達になれたら、その技術を教えてほしいと思うのです」

「そうか。だが、カレン。おまえの安全のために言っておくぞ」

「はい、キラさま?」

「念のため、おまえがハンターで、そしてシュウの弟子だということは伏せておけ。ハンターたちにはもう知れ渡っているだろうが、一般人の口の端にはまだそんなに上っていないはずだとリュウが言っていた」

 カレンは承諾した。

 一昨日もやって来たドールショップの近くでキラと一旦別れ、アンティークなレンガ造りのそこへとカレンは小走りで向かう。
 店内に入ると、すぐさまミヅキが寄ってきて笑顔で迎えてくれた。

「いらっしゃいませ、カレンさま! お待ちしておりました!」

 今日のミヅキは、カレンと同じようにロリータファッションをしていた。

「まあ」と、カレンは顔を輝かせてミヅキを見る。「ミヅキちゃん、とっても可愛いのですわ!」

「ありがとうございます。でもカレンさまの方がお似合いです」

「あら、ありがとう」

 カレンとミヅキが店の出入り口で話していると、店の奥から店長がやってきた。

「おや、カレンちゃん。お久しぶり」

「ごきげんよう、店長。お久しぶりですわ」

「ここのところ見ないから心配していたんだよ」

「ええ、ちょっと色々忙しかったもので……」

「そうかい、大変だねえ。…あ、これ」と、店長がミヅキの頭に手を乗せて言う。「うちの看板娘なんだよ。よろしくね……というか、もう仲良さそうだったね。話をするなら、店の端にテーブルと椅子があるからそこでするといい」

 ということで、カレンはミヅキと顔を合わせたあと店の端にある椅子に座った。
 ミヅキが紅茶を持って来て、カレンの向かいに腰掛ける。

「アールグレイでよろしかったですか、カレンさま」

「ええ、ありがとう。ミヅキちゃん」と、カレンは出された紅茶を一口飲んだあと、「ねえ、ミヅキちゃんの創作人形のことなのだけれど」

 訊きたかったことを、さっそく切り出した。
 そして話が盛り上がり、一昨日に続いてついつい時間を忘れてしまったカレン。

「あっ、いけない!」

 と慌てて立ち上がる。

(キラさま、もうお買い物終わってしまったかしらっ……)

 カレンに続いて、ミヅキも立ち上がった。

「お帰りですか?」

「ええ。もっと話をしていたかったのだけれど……」

「今日は私とお話をしてくださるためにここへ……?」

「ええ。…あっ、ごめんなさい! 何か買っていくわね」

「いえ、結構ですからお気になさらずに。それより、わざわざ私とお話をするために来ていただいたなんて……、とても嬉しいです。ありがとうございます」

 そう言って嬉しそうに笑うミヅキの顔を見て、カレンは少しおどおどとしながら言ってみた。

「…あ…、あの、ミヅキちゃん? そのっ…、あたくし、ミヅキちゃんとお話しているととても楽しくて……。お、お友達になれたらな……なんて思うのだけれどっ……」

「えっ、本当ですかっ?」

 と、ミヅキが声を大きくした。

「ええ。迷惑でなければの話だけれどっ……」

「わあ、嬉しいです! 私もカレンさまとお話していると、とても楽しくて! ありがとうございます!」

 というわけで、カレンとミヅキの友達契約成立。
 カレンが店から出て行ったあと、ミヅキは交換したカレンの携帯電話番号を確認する。

(まずはもう少し電話で仲良くなったあとに遊びに誘って……。あそこまで創作ドールに興味があるとなると、ぼくの家まで連れ込むのは容易だろうな。ぼくのこと女だって思いこんでるみたいだし、ちょっと誘えばあっさり着いて来そうだ)

 ミヅキは携帯電話をポケットにしまった。
 店長がやってきて言う。

「カレンちゃん、帰ったのか」

「ええ。つい先ほど」

「そうか。創作ドールの話をしていたみたいだな。俺も詳しくは聞いていなかったが、ミヅキおまえ、どういうドール作っているんだ?」

「どういう? まあ、女の子ドールですね」

「ふーん。作った型に何度かウレタン流し込んで、同じ造形のドールをいくつか作ったりすんの?」

「そうですね。特に」

 と、ミヅキは店長から顔を逸らし、にやりと笑って続けた。

「好きな女の子のドールなんか……ね」
 
 
 
 
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