第41話 長男のハッピーサマー
シュウとその家族、カレン、リンク一家、レオン、グレルが声をそろえる。
「レッツゴオォォォォォォォっ!!!」
次の瞬間には、ミーナの瞬間移動で無人島へ到着。
砂浜へと足を着け、目の前に広がる青い海を見てカレンが顔を輝かせる。
「あたくし、海へ遊びに来るのとても久しぶりなのですわ!」
「カレン、カレン、早く遊ぼうっ!」
と、サラ。
カレンが振り返ると、皆が服を脱ぎ始めていた。
服の中に着ていたが故に、あっという間に水着姿に。
「ほな、遊ぶでジュリちゃん!」
「はいっ」
と、ジュリとリーナは波打ち際で遊び始め、
「うーん、今年は砂で何作ろうか、マナ、レナ?」
「山…」
「……。ねえマナ、もっと凝ったのにしない?」
ユナ・マナ・レナの三つ子は砂で遊び始める。
「よし、行くぞミーナ♪」
「うむ、行くぞキラ♪」
と、キラとミーナはシャチの浮き輪を持ち海に浮かび始め、
「さて、早速勝負しようぜ、リュウ♪ 今年も勝った方に100万ゴールドな」
「うす、師匠。去年に引き続き今年も負けねーっすよ。リンク、審判頼むわ」
「任せいっ! いつものように、あの遠くに浮かんでる岩が折り返し地点な! 勝負は10回! 引き分けだったら延長!」
リュウとグレルは毎年のように『かけっこ勝負IN海面上』を開催。
リンクはスタート地点でピストルを天に掲げる。
リュウが自分とグレルに足の速くなる魔法をかけ、スタート地点に立つ。
「ほな、いっくでーーっ! よおおおい!」
パァン!
とピストルが鳴ると同時に、砂浜から飛び出て海面を走り出すリュウとグレル。
初めて見るカレンは仰天してしまう。
「えええっ!? リュ、リュウさまとグレルおじさま、海の上を走るんですの!? なっ、何故!? 何故走れるの!?」
「ああ、うん。あの2人、人間のクセにバケモノだから」そう言ったあと、シュウは苦笑する。「えーと、いつも思うんだが大人はレオ兄だけかー?」
と思ってしまうくらい、レオン以外の大人たち(リュウ・キラ・リンク・ミーナ・グレル)は子供みたいなはしゃぎっぷりで。
「兄上っ、兄上! 見てなのだっ!」
と呼ばれてシュウが振り返ると、リン・ランが色違いのビキニを着て立っていた。
リンはオレンジ色、ランはレモン色。
期待に瞳を輝かせてシュウに訊く。
「似合うっ?」
「おー、似合う似合う」と、シュウはリンとランの頭を撫でながら笑った。「可愛いぞー、おまえたち。……つーか」
と、シュウは苦笑してリン・ランの傍らにいたミラに顔を向けた。
「早く鼻血を止めろ、ミラ」
ミラが砂浜の上に正座し、鼻からだらだら血を垂らしてリュウを見つめている。
「だっ、だってお兄ちゃっ……! あんもうっ、パパってばセクシーすぎてやばぁいっ……!」
「おまえがやべーよ……」と、ミラに呆れながら、カレンに戻したシュウ。「――って……!?」
面食らって赤面する。
カレンが花柄のワンピースを脱いで、白いビキニ姿になっていて。
(やっべ……! やっっっべ! まじやっっっっっべ……!)
ミラに続き鼻から流血し、シュウは鼻に手を当てて治癒魔法を掛ける。
(サラと入れ替わって戻ったときに一度カレンの裸見てるオレだが、あの時はパニック状態でほとんど覚えてないしっ……! カレン、おまえがパッドで誤魔化してても本当は乳がないことは分かってる! だけどっ、だけど何その二の腕とか太股とか、腰からヒップにかけてのラインとかっ……! スゲエェ女っぺーじゃねーかっ、オイ!! しっ、しかも白ビキニでさらにやべええええええええっ……!)
シュウの様子をじっと見ていたサラが、にやりと笑ってシュウの耳元に口を寄せた。
「今晩のおかず、で・き・た?」
「――ぶっ!?」シュウ、さらに鼻から鮮血噴射して治癒魔法を掛けまくる。「ちょっ、おまっ、そういうこと言うんじゃねーよっ……!」
「ああ、ごめん。そういうこと言われちゃったらやりにくいか」
「ちっ、ちがっ……!」
ひそひそと話しているシュウとサラを見て、カレンが首をかしげる。
「何を話しているのかしら?」
「えっ!?」シュウが声を裏返してカレンを見る。「なっ、なななっ、なんでもねえよ!?」
「そう?」
「う、うんっ! そっ、それよりカレンっ……!」
「何かしら」
「しっ、しししっ、白っ……白ビキニっ、かっ、かかかっ、可愛いっ! かっ、可愛いっす……!」
「ありがとう」
そう言って笑ったカレン。
久しぶりにもらったカレンの笑顔。
シュウは感動に包まれる。
(何このハッピーサマー……! 上空2500mすーげー……!)
サラがビーチボールを持ってカレンとレオンを引っ張り、海の中に入っていく。
砂浜の上にミラと並んで正座したシュウ。
はしゃぐカレンを見つめて瞳が恍惚とする。
(カレン…、かぁーーわいいん……! しかも白ビキニ…イイっ……!)
リンとランが、シュウの顔を覗き込んだ。
「兄上?」
「どうしましたかなのだ?」
「わたしたちと遊んでくださいなのだ」
「早く遊んでくださいなのだ」
「えっ……!?」
もうちょっとじっくりカレンの白ビキニ姿を拝ませてくれっ!!
と願うシュウだったが、リンとランに引っ張られて海の中へ入っていく。
途中、カレンたちとすれ違った。
(オレもカレンと遊びてえええええええええっ!!)
と必死に訴えているような表情をしていたシュウを見て、レオンは苦笑した。
シュウを呼んで手招きする。
「こっち来ればいいじゃない、シュウ。リンとランも。ほら、早くおいで」
「えっ!?」と、シュウが声を裏返す。「いっ、いいいいいいの!? オっ、オオオっ、オレもそっち行っていいの!? いっ、いいいっ、いいんすか!?」
シュウが視線を投げかけている相手はカレン。
カレンが眉を寄せて言う。
「別にそれくらい良くってよ? 何をそこまで遠慮しているのかしら」
「お…、おおおおおっ……!」
まじハッピーサマァァァァァァァァァァァァっ!!
シュウはリンとランの手を引っ張り、水の中を駆けてカレンのところへと向かった。
「あざーーーすっ!!」
隣へとやってきたシュウの顔を、カレンが見上げる。
(ずいぶんと嬉しそうね、たったこれだけのことで……)
レオンが言う。
「僕、ちょっとあっちの方行ってるね」と、指したのは波打ち際で遊んでいるジュリとリーナのところ。「まだ小さいから危なっかしくてさ」
「あー、うん。そっか。分かったあ」
サラが少し残念そうにレオンを見送ったあと、中断していたビーチバレーを再開した。
シュウとカレン、サラ、リン、ランで円を作り、か弱いカレンも取りやすいようにビーチボールを優しくパスする。
カレンがいなかったら豪速球が飛んでいたところだ。
(ああ、オレ…、カレンとビーチバレーしてるぜ……)
そんなことに感動しているシュウの耳に、シャチの浮き輪に乗って遊んでいるキラとミーナの声が聞こえてきた。
「おお、あそこを見てみるのだ、ミーナ」
「おお、今年は来てくれたぞ、キラ」
「今年は1匹で来たみたいだな」
「うむ。1匹しかいないみたいだぞ」
何のことだろう?
シュウはキラとミーナの会話に耳を傾けた。
「今年のイルカは変わった泳ぎ方をするな、ミーナ」
「今年のイルカはいつもよりも大きいな、キラ」
ああ、イルカか。
たまに現れるんだよな、ここ。
イルカね、イルカ。
イル…カ……?
シュウの顔がにやける。
カレン、イルカ見たらどんな反応するかな。
動物好きみたいだし、やっぱり大喜びしたりすんのかな。
きゃああああっ、可愛いーーーっ(ハート)
とか言って?
イルカときゃっきゃウフフ戯れちゃったりして?
シュウもこっち来てーーーっ(ハート)
なんて言われちゃったりして?
うっわ、どうしようオレ……!
どんだけハッピーサマァァァァァァァァァァァッッッ!!
「あ、シュウ! そっちにイルカ行ったぞーっ!」
と、キラの声。
「はあああああい!」
ヘイ、カモオォォォォォォォン!!
と振り返ったシュウ。
「――って……!?」驚愕した。「イっ、イルカじゃねえええええええええええええ!!」
キラがぱちぱちと瞬きをして言う。
「違うのか?」
「かっ、母さんコレっ……!」
「うむ?」
「フカヒレェェェェェェェェェェェェェェ!!」
と、叫ぶと同時に、シュウはカレンをサラの胸元に突き飛ばした。
「ちょっ、サメェェェェェェェ!?」
サラが慌ててカレンを姫抱っこして砂浜に駆けて行き、レオンもジュリとリーナを抱っこして砂浜に上がった。
「リン・ランーーーーーーーーっっっ!!」
と、海の上を走っていたリュウも慌ててやってきて、リン・ランを脇に抱えて砂浜へと向かう。
シュウがカレンを突き飛ばしてからここまでわずか2.5秒。
「来やがれフカヒレっ!! 切り取って茹でて皮を取って油脂分落として天日干しで乾燥させてから、贅沢に姿煮にして食ってやるぜ!!」
と、倒す気満々で腰に手を持っていったシュウ。
「あっ」
剣ネエェェェェェェェ!!!
巨大な口を開けたサメが、シュウに襲い掛かった。
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