第28話 入れ替わり 中編


 健康ドリンクだと言われ、入れ替わり薬A液を飲まされたシュウ。
 サラが入れ替わり薬B液を飲み、マナが指をぱちんと鳴らしながら言った。

「はい、チェンジ…」

 次の瞬間、シュウとサラの中身が入れ替わってしまった。

 サラの身体になったシュウは、急遽リビングに家族全員と居候のカレンを集めた。
 リュウが訊く。

「どうした、サラ」

「いや、サラじゃねーんだよ親父。オレだよ、オレ。シュウだよ」

「は?」

 と、リュウとキラがぱちぱちと瞬きをした。
 シュウの身体になったサラが続ける。

「アタシがサラね。マナの作った入れ替わり薬飲んだらさ、こういうことになったんだわ」

 マナの作った薬。

 何も知らなかった家族たちは、それで全てを理解した。
 ユナ、レナと言う。

「すごいなあ、マナって」

「本当だねー。今度は入れ替わる薬作っちゃったんだあ」

 リン・ランと続いた。

「すごいぞーっ、マナ!」

「天才だぞーっ、マナ!」

 キラ、リュウも続く。

「うむ、マナは将来有望だな!」

「だなあ。本当すげーな、うちのマナ」

 おまけにジュリも続いた。

「マナあねうえ、すごいねー」

 家族を見回して、シュウは苦笑してしまう。

「いや、感心してねーでさ……。明日までこのままなんだぜ? どうすんだよ……」

「どうって、何がだよ」と、リュウ。「たった1日なら別に困らねーだろ」

「そそ」と、サラが同意した。「でもさ、親父。アタシ仕事休んでいいでしょ?」

「ああ、そうだな。慣れない身体で怪我したら、苦痛を味わうのはシュウじゃなくてサラだしな。よし、今日は休め」

「うぃー」

「んでも、おまえは仕事行けよ、シュウ。レオンならサラの身体に怪我させねーから大丈夫だし、レオンの奴も仕事多いから1匹じゃ大変なんだよ」

「そ、そりゃレオ兄のことは手伝いに行くけどさっ……」と、シュウはサラを見た。「おい、サラ。おまえオレの身体で変なことすんなよ!?」

「分かってるって」

 そういうサラの顔はにやけている。
 シュウは顔を引きつらせた。

「サラおまえ、何考えてやがる……!?」

「何もー」

「嘘こけっ!! その顔は絶対何か良くねーこと考えてやがる!! ああもうっ!! よりによって、なんでサラなんだよ!?」

「お姉ちゃんよりマシじゃん。お姉ちゃんと入れ替わってたら、女の子座りされたり、内股になられたり、親父にキス求めたりされてたって」

「……だ、だな。ミラと入れ替わった場合を考えるとサラのがマシかっ……」

「そそ。分かったらいつまでも喚いてないで、さっさと仕事行けってのー。ママの銅像の前でレオ兄と待ち合わせだからねー」

「わ、分かったよ。んじゃ、行って来る」

 シュウが立ち上がり、同じく仕事へ行くリュウや魔法学校へ通う双子や三つ子も一斉に立ち上がって玄関へと向かって行った。
 それを手を振りながら見送ってやったあと、サラは傍らにいたカレンに目を落とした。

「……ふーん、こりゃ可愛いわ」

「え?」

 と、カレンがシュウの身体になったサラの顔を見上げる。

「兄貴から見たカレンって本当小さくて、頭撫でたくなるの分かる。可愛いもん。どれ、ちょっと抱っこ」

 と、サラはカレンの身体を姫抱っこしてみる。
 そして驚いた。

「うわあ、軽いや。兄貴からしたら、女ってこんなに軽いんだ。アタシも自分の身体で女のこと姫抱っこできるけど、こりゃ感じる重さがまるで違うわ。親父だったらもっと軽く感じるんだろうな」

「そんなに驚くほど軽いの?」

「うん。兄貴の前では体重気にしなくて済むなあ、女は」

「あら、それは嬉しいわねえ」

 そんなことを話していたとき、ミラの声が聞こえてきた。

「サラ、カレンちゃーん! 今日お家にいるなら、家事手伝ってくれるーっ?」

 カレンとサラは、承諾してミラのところへと向かった。
 そこではキラとミラが、洗濯物を干そうと庭へ向かおうとしていたところだった。

 カレンが赤面する。

「ね、ねえ、サラ?」

「ん?」

「シュウの姿であたくしの下着を干されると、何だか恥ずかしいのだけれど」

「え? あはは、そっか。ごめんごめん。んじゃあ、アタシ別のことしてるわー」

 それを聞いたキラが言う。

「それでは、ミラと一緒に、2階の部屋の掃除を頼むぞ」

 サラとミラは、2階へと向かって行った。

「んじゃあ、お姉ちゃん。アタシ兄貴の部屋掃除するから、お姉ちゃんはアタシの部屋の掃除からお願い」

「分かったわ」

 ミラはサラの部屋へと入った。

 シュウはリュウを継いで火・水・風・地・光を操れる。
 もともと風を操るサラには、掃除機は不要だった。
 シュウの身体でも風を操り、部屋中の塵や埃を巻き上げて、窓から外へポイッと捨てれば終了だ。

 一方、治癒魔法しか使えないミラはいつもそうしているように、掃除機を使う。
 部屋の隅々まできっちりと掃除機をかけ、棚の上などは雑巾で水拭き。

「ふぅ、サラの部屋は完了」

 掃除を終えてサラの部屋を出ようとしたとき、ミラはあることに気付いた。

「あれ……?」

 と、ベッド脇の置時計と壁の掛け時計を見比べる。

(この置時計、時間遅れてるわね。ときどき秒針が止まるし、電池が切れそうなのかしら)

 あとでスーパーに買い物に行ったときにでも、電池を買って来ようか。

 ミラがそんなことを考えていたとき、サラが大慌てで部屋に入ってきた。

「おっ、おおおおおおお、お姉ちゃあああああああああんっ!!」

「ど、どうしたのよ、サラ!?」

 ミラは驚倒しながらサラの顔を見た。
 サラの顔といっても、シュウの顔だが。

「た、たたたた、大変だよお姉ちゃん!! ヤバいって!! これはヤバい!!」

「だ、だからどうしたのよ、サラ!?」

「あっ、兄貴の部屋っ……!!」

「おっ、お兄ちゃんの部屋っ!? お兄ちゃんの部屋がどうしたの!?」

「隅々まで探したのに、エロ関係のものが何もないっ!!!」

「は?」

「おかしいって!! これはおかしい!! 兄貴17だよ!? 健全な17歳だよ!? なっ、何でないの!?」

「……もう、驚かせないでよ、サラ」と、ミラが溜め息を吐いた。「あれでしょ? ネット利用してんのよ、お兄ちゃん」

「あー……、なるほど」

「納得したなら、次はカレンちゃんのお部屋を頼むわ。私は自分の部屋のお掃除始めるから」

「うぃー」

 サラが承諾してカレンの部屋へと入り、ミラは自分の部屋へと入った。
 ミラの頭は、すっかり置時計の電池のことを忘れてしまっていた。
 
 
 
 昼下がり。
 昼食を取りに来たシュウやリュウ、レオンは再び仕事へと向かい、キラとミラは庭でジュリの遊び相手を始めた。

 カレンのメルヘンな部屋の中、ティータイム中のカレンとサラ。
 紅茶を飲みながら、カレンが訊いた。

「ねえ、ティータイムが終わったら何しようかしらね、サラ? ――って、顔を見るとやっぱりシュウと話しているみたいだわ」

「嬉しいでしょ?」と、サラが笑う。「兄貴になるのって楽しいなー。カレンって、兄貴の前だと可愛い表情とか反応するね。恋する女の子っていうか」

「そ…、そうかしらっ……」

「うん。まったくもう」と、サラがティーカップを置いた。「オレ、ムラムラしちゃうぜ?」

 突然シュウ口調になったサラの言葉に、カレンが赤面する。

「ム、ムラムラって・・・…」

「さて、するか」

「な、何をかしらっ?」

 サラがにやりと笑い、立ち上がった。
 カレンを姫抱っこしてベッドに寝かせる。

「何って、念願のキス」

「あっ、甘いキッス!? 優しい口付け!?」

「夢の接吻。情熱のベーゼ」

「きゃああああああああっ! 待って、準備するからっ!」

 と、カレン。
 胴の上で手を組んで目を閉じ、気分はおとぎ話のお姫様。

「いざっ、カモオォォォォン! ですのよおおおおおおおっ!」

「いざっ、ゴオォォォォォ!」

 とサラがカレンに負い被さり、躊躇いなく唇を重ねた。
 抵抗しようがしまいがお構いなしというような勢いのキスは、シュウというよりリュウを思わせる。

 心の中、カレンは黄色い声をあげる。

 きゃあああああああっ!

 してるっ!
 してますわっ!
 あたくし、たしかにしてますわ!

 シュウとキスを!
 中身がサラとはいえ、シュウの唇とキスしてますわ!

 ああっ……!

 これぞ念願の甘いキッス!
 優しい口付け!
 夢の接吻!
 情熱のベーーーーーゼっっっ!!

 ああっ……!
 し・あ・わ・せ……(ハート)

 それにしても、サラってば……。
 何その…、その……。
 テクニック……!?
 レオンさんと毎日どれだけキスしてるのかしらっ……!

 ああっ……!
 とろけそうっ……!
 今のあたくしは、まるで湯煎にかけられたチョコレートっ……!(謎)

 キスをしてから1分が経ち、2分が経ち、5分が経過。
 もう少し先に進もうかとサラが思ったとき、ドアをノックする音が聞こえた。

「邪魔が入ったか……」と、舌打ちをして、サラはドアの方に顔を向ける。「何ー?」

「サラ、お兄ちゃんの身体の間に手伝ってほしいことがあるんだけど」声の主はミラだった。「お味噌とかお醤油とか、そういう重いものを業務スーパーで大きいの買いたいのよ。荷物持ちとして来てくれない?」

「あー、そっか。分かった。玄関で待っててー」

 ミラが承諾して玄関へと向かって行ったあと、サラは腕の間のカレンに目を落とした。
 恍惚としてしまっているカレンを見て笑う。

「続きは今夜だぜ、カレン」

「続きっ……!?」

「キスだけじゃ済ませねえぜって言っただろ」

「えっ……!?」

 カレンの顔が真っ赤に染まるのを見たあと、サラはカレンの部屋を後にした。
 スキップしながら2階から降りてきたサラを見て、ミラが苦笑する。

「ちょっとサラ、カレンちゃんの部屋で何してたわけ?」

「べっつにー?」

「唇にカレンちゃんのグロスついてるわよ」

「あ」

 と、サラが手の甲で唇を擦る。

「まったく、お兄ちゃんの身体なのに……」

「んだってさ、お姉ちゃん。カレン可愛いんだもん。もう、たまんねーよ?」

「……サラ、あなたって、男の子に生まれてきても良かったわよね」

「だよねー」

 サラが笑いながら玄関の戸を開け、ミラと共にスーパーへと向かった。

 その辿り着いたスーパーにて、ミラは何かを忘れているということを思い出す。
 何を忘れているのか思い出そうと思うのだが、まるで思い出せそうになくて、ミラは唸る。

「うーん…、うーん……」

「どしたの、お姉ちゃん」

「何か忘れてるのよねー。何かを買おうと思っていたような……」

「忘れる程度のものってことじゃん。大したものじゃないよ」

 そんなサラの言葉に同意したミラ。

「じゃあ、気にしなくてもいいわよね」

 そう思うことにして、電池売り場の脇を通り過ぎていった。
 
 
 
 
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