第23話 奇襲


 これから仕事に行こうかとき、急にリュウから仕事を追加されてシュウはぎょっとした。

「ちょ、ちょっと待ってくれ、親父っ!」

「何だよ、シュウ」

「追加するにしたって、なんっっっだよこの量は!? オレ、カレンも連れてんだぜ!? 絶対今日中に終わらねえだろっ……!」

「んじゃあ、今日はカレンを置いて仕事へ行け」

「…そ、それでも24時過ぎるな、こりゃっ……」

「ごちゃごちゃ言ってるヒマあったらさっさと仕事に向かえ」

「く、くそうっ……! カレンに理由言っておいてくれよっ!」

 シュウはそう言って、家から飛び出して行った。
 それを確認したあと、リュウは書斎から出てリビングへ向かいながら携帯電話を手に取った。

「いいぜ、ミーナ」

「分かったぞ!」

 と、ミーナがリュウとの電話を切る。
 ほんの1秒後にはレオンとグレルを連れ、瞬間移動でリビングに現れた。

 リビングに集まっているのはリュウとキラ、ミラ、サラ、魔法学校へ行く前の双子・リンとラン、同様に三つ子のユナとマナとレナ。
 それからリンクとミーナ、レオン、グレル。
 そしてカレン。

 リュウはそこに集まっている者たちの顔を見回した。

「よし、全員集まったな」

「うむ。では話をするぞ」と言ったのはキラだ。「私は昨夜リュウから聞いたのだが……」

 まだ何も聞いていなかったミラや双子、三つ子はキラの話を聞いて驚愕した。
 リン、ランと交互に声をあげる。

「しゅっ、集団リンチだと!?」

「なっ、何てことをする輩なのだ!」

「わたしたちだって、嫉妬はするけどそんなことしないぞ!」

「わたしたちだって、ぶっ飛ばそうと思うけど行動には出さないぞ!」

 ユナが泣き出す。

「ふっ、ふみゃああああん! カレンちゃん可哀相だよおおおおおっ!」

 マナが苛立たそうに舌打ちをする。

「チッ…、ゲスが……」

 レナが怒りに顔を真っ赤にして立ち上がる。

「ぜっ、絶対に許さないんだからあああああああああああっ!!」

 カレンの隣に座っていたミラが、困惑した様子でカレンの顔を見た。

「ほ…本当なの? カレンちゃんっ……」

「…ご、ご迷惑をおかけしてしまって…ご、ごめんなさいっ……」

 カレンの返事は、ミラの質問を認めたものだった。

「なっ…なんてこと……!」

 ミラが手で口を塞ぎ、ぽろぽろと涙を零す。

「お姉ちゃん」と、サラがミラにハンカチを渡しながら言った。「お姉ちゃんは、カレンとジュリと一緒に家で留守番お願い」

 ミラが承諾した。
 リュウが話を続ける。

「本当はリン・ラン、ユナ・マナ・レナも連れて行きたくなかったんだが、犯人の数が数だから協力してもらうことにした。悪いな」

 リン・ランが首をぶんぶんと横に振って言う。

「何を言っていってますかなのだ、父上!」

「わたしたちそんな輩は許せませんなのだ、父上!」

 ユナ、レナと続く。

「そうだよ、パパ! あたしたち喜んで協力するよ!」

「そうだそうだ! 絶対にそんな奴ら許さないんだからね!」

 マナがリュウの袖を引っ張って訊いた。

「パパ…、その犯人の数は…?」

「9人だ。全員がハンターの女子寮に住んでる」

「9人……か」と、キラが短く笑った。「弱い輩ほど群れるものだな。リュウ、9人全員の部屋に同時に突っ込むのだろう? 割り当てを教えてくれ」

「おう、今から言うぞ」リュウは犯人たちの情報が書かれた紙を見ながら言った。「力のある犯人から順に、犯人A、B、C、D、E、F、G、H、Iとする。こっちの絶対的な安全を考えて、犯人Aの部屋は俺、犯人Bの部屋はグレル師匠」

「おう、任せろいっ!」

 と、グレルが承諾した。
 リュウは続ける。

「犯人Cの部屋はキラ」

「分かったぞ!」

「犯人Dの部屋はレオン」

「分かったよ」

「犯人Eの部屋はリンクとミーナ」

「了解やで!」

「犯人Fの部屋はサラ」

「OK」

「犯人Gの部屋はリンとラン」

「了解ですなのだ、父上!」

「犯人Hと犯人Iの部屋は……、うーん。この程度のハンター相手なら、マナ1匹でいけるか。でもまあ、絶対の安全を考えて犯人Hの部屋にユナとレナで、犯人Iの部屋にマナな」

 三つ子がそれぞれ承諾したあと、リュウは皆を見回した。

「いいか、部屋の隅々まで調べろよ。写真を見つけたら奪い、カメラや画像保存されている可能性のあるパソコンやメモリー、メディアなどは必ず全て破壊しろ。携帯もだ。シュウには夜中までかかる仕事を与えてある。カレンはシュウにバレないことを望んでっから、シュウが家に帰ってくる前に終わらせっぞ。あと犯人は逃げれねぇように、ロープで縛っておけ」

 全員が承諾したのを確認したあと、リュウはにやりと笑った。

「本日24時、楽しく決行しようぜ」
 
 
 
 ――23時55分。
 葉月島葉月ギルドの女子寮前。

 リュウ引き連れる一同は、ミーナの瞬間移動でやってきた。
 リュウが一同を見回し、小声で確認する。

「ロープは持ったか?」

 全員がロープを掲げた。

「突っ込む部屋の鍵は持ったか?」

 全員が鍵を確認した。

「武器はあるな?」

 それぞれが自分の武器を見て頷く。

「よし、行くぜい!」

 23時56分。
 女子寮内に侵入。
 そろりそろりと足音を立てないように、それぞれが割り当てられた犯人の部屋の前へと歩いていく。

 23時58分。
 暗い中、全員が己の担当する犯人の部屋の前に安着。

 23時59分。
 それぞれ鍵を準備。

 23時59分45秒。
 鍵をドアノブに挿し込み……。

 23時59分50秒。
 気分はアイドルの部屋に入る寝起きドッ○リテレビの司会者になって、鍵をそーっと回し……。

 23時59分55秒。
 ドアノブを握り締め……!

 24時00分00秒。
 いざ、奇襲!!
 
 
 
 犯人Aの部屋にて。

 バァン!!

 リュウは部屋を蹴り開けた。

「起きろ」

「だっ、誰!?」

 当然のごとく、犯人Aは仰天する。

「おまえの愛する男と同じ声って言われんだけどな」

 部屋の電気が点いて明るくなり、リュウの姿を見た犯人Aは目を見開いた。

「……リュ、リュウさま!? ど、どうしたんです!? 緊急のお仕事ですか!?」

「おまえどんだけ脳内幸せなの。一流に行くか行かないかごときの女ハンターに、俺がわざわざ訪ねて仕事の依頼持って来るかよ。俺がやって来た理由なんて、ちょっと自分の胸に訊いてみりゃ分かるだろ?」

 犯人Aの部屋にあったデジカメがリュウの拳で潰され、ノートパソコンがリュウの手で2つに折られ、4つに折られ、さらにそれは8つに折られた。
 机の上に散らばっていたカレンの写真を手に取り、リュウの黒々とした鋭い瞳は犯人Aの怯えた瞳を捉える。

「なあ、分かるだろ?」

「――」

 犯人Aにこれまでの人生で一番の戦慄が走った。
 
 
 
 犯人Bの部屋にて。

「邪魔するぜーっと♪」

「ふぎゃっ!」

 開けたドアの後ろでそんな声がしたのに気付かず、グレルは犯人Bの部屋の中へ入っていった。

「あーれえ? 留守かよ、仕方ねーなあ。んじゃあ、勝手にあさらせてもらうぞーっと♪」

 犯人Bの部屋にはデジカメやパソコンはなく、本棚から椅子まで家具をぶっ倒して見つけたものは、何一つなかった。

「何だよ、何もねーのかよ。つまんねーなあ」

 くるりと身体の向きを変えて、戸口を見たグレル。
 鼻から血を出し床に倒れている犯人Bにようやく気付いて、ぱちぱちと瞬きをする。

「おまえ風邪引くぞ?」

 その方がマシでした。

 犯人B、失神。
 
 
 
 犯人Cの部屋にて。

 足がぶらぶらと宙に浮いている犯人Cの首に、キラの右手の爪が食い込んでいる。
 その細い腕から、どうやったらこんな力が出るのだろう。

 犯人Cの瞳に映る。

 黒猫の耳と尾っぽ。
 ガラスのような銀色の長い髪の毛。
 並ぶ者がいないほど整った顔立ち。
 ここ葉月町の中央にある銅像と同じ姿。
 この世の英雄が、今たしかに己の目の前にいる。

 冷然として光るキラの大きな黄金の瞳に、犯人Cは総毛立った。

「おい、犯人C」

「…はっ…、はいっ、キラさまっ……!」

「カレンを集団でリンチしたことを認めるか」

「…はっ…はいぃっ……!」

「私は人間だろうとモンスターだろうと、ゲスは嫌いでな」

「ごっ…ごめんなさいっ……! ごめんなさいっ…、もう2度としませんっ……!」

「その言葉に嘘はないか」

「こっ、心に誓ってございませんっ……!」

「そう……か」

 犯人Cの首から、キラの手が離れた。

「ならば、おまえたちがやらかした今回の事件に関する物を全て出せ。そうすれば命は許してやる」

「はっ、はいっ……!」

 犯人Cが慌ててカレンの写真やら、デジカメやらメモリーやらをキラの前に出す。

「おい、犯人C。もう1つ訊いても良いか」

「はっ、はいっ、キラさまっ!」

「良いか、正直に答えろ」

「もっ、もちろんですキラさまっ!」

「私、今、前作並に目立っているか? 私、前作ではヒロインだったのだが、どうだ?」

「……」

 あの、キラさま。
 もしかして目立ちたかっただけですか?

「……前作に引き続き、ヒロインのような輝きっぷりでございます」

 犯人Cはそう言って、キラの機嫌を取っておいた。
 
 
 
 犯人Dの部屋にて。

 泣いている犯人Dの手足を縛りながら、レオンが言う。

「2度とこんな卑劣なマネをしたら駄目だよ。ハンターという職は、人々を守るものなんだからね。それなのに人を傷付けてどうするの?」

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」犯人Dが泣きじゃくる。「お願いですっ、命だけは助けて下さいっ!」

「それは僕じゃなくて、リュウの判断によるけど……」

「助けてくださいっ! レオンさんっ、助けてください! 私たち、リュウさまに殺されちゃうかもおおおおお!」

 わんわんと泣かれ、レオンは溜め息を吐いた。

「分かった分かった。リュウに頼んでなるべく優しい処分にしてもらうから、本当にもう2度とこんなことはしちゃ駄目だよ? 分かったね?」

「はっ、はい! レオンさんっ、ありがとうございますっ……! あんもうっ、かっこいいですぅっ……!」

 犯人Dがシュウよりもレオンに心が傾いたのは秘密である。
 
 
 
 犯人Eの部屋にて。

 犯人Eをリンクが縛っている。

「怪しいもの探せやー、ミーナ」

「分かったぞ、リンク!」

 ミーナが犯人Eの部屋の中を調べ出す。

「おおっ! ビールあったぞリンク! じゅるるっ」

「涎垂らすなや、家帰ればあるやん……」

「おおっ! プリン500gサイズあったぞリンク! じゅるるっ」

「あとで買ったるから……」

「おおっ! ケーキもあるぞっ! じゅるるっ」

「それも買ったるから……」

「おおっ! ピンクダイヤの指輪もあるぞっ!」

「ああもう、ちゃんと買ったるか――」リンク、はっとして言葉を切る。「いやいやいやいや! いっ、今の嘘っ! 嘘やからなっ!? 嘘や――」

「おおおおっ! ピンクダイヤの指輪買ってくれるのか、リンク! よし、キラとお揃いにするぞーっ」

「ちゃうちゃうちゃうちゃう!!」

「なあ、犯人E? この指輪いくらだ?」

「えと……、宝くじ当たって買ったのですが、800万でした」

「だそうだぞ、リンクー。楽しみにしてるぞーっ」

「あかんあかんあかんあかん!! 無理無理無理無理!! つい先日もキラとお揃いの超高級ウォーターベッド買ってやったやろ!? 絶対あかんからなっ!!」

「……ほしいのだぁ」と、ミーナのグリーンの瞳に涙がうるうると込み上げる。「わたしもピンクダイヤの指輪がほしいのだああああああっ! ふみゃあああああああん! キラァァァァァァァァァァァ!!」

「そっ、その名を呼ぶなあああああああああああっ!!」

 顔面蒼白して叫んだリンクだったが、ミーナが呼んでしまった以上来ないわけがない。

「ミーナァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 キラ、ドア突き破って降臨。

「貴様っ、リンク! 私の可愛い妹を泣かせるとはどういう了見だ!!」

「おっ、おっ、落ち着けキラっ……!」

「ふみゃああああん」ミーナがキラに泣きつく。「リンクがピンクダイヤの指輪買ってくれるって言ったのに嘘吐いたのだああああああああああ!!」

「なっ、なんだと!? 嘘吐いただと!?」

「うっ、嘘やなくて間違いで――ぎっ……、ぎゃああああああああああああああああっっっ!!」

 女子寮の全ハンターを眠りから起こすようなリンクの叫び声。

 この人たち、何しに来たんだろう……。

 犯人Eは、部屋の隅っこで喧嘩が終わるのを待った。
 
 
 
 犯人Fの部屋にて。

 ぐっすりと眠っていた犯人Fは、いきなり身体に衝撃が走って眠りから目が覚めた。
 まさに奇襲を受け、真っ暗な中で声を発する間もないほど身体中を殴られ続ける。

 犯人Fがぐったりとして動かなくなったあと、部屋の明かりが点いた。

「あー、スッキリした。さて……」

 サラは犯人Fの部屋の中を調べ始めた。
 
 
 
 犯人Gの部屋にて。

 寝ていたところをリン・ランにロープでぐるぐる巻きに縛られた犯人G。
 目の前にリン・ランが仁王立ちしている。

「申し訳ございませんでしたっ! おっ、お許しくださいーっ!」  リン、ランと交互に言う。

「まったく、駄目だぞ!」

「集団リンチなんて、しちゃいけないのだぞ!」

「弱いものいじめをしよって!」

「父上はきっと、おまえたちに厳しい処分を与えるぞ!」

 犯人Gが恐怖に泣き出す。

「ごめんなさいっ……! ごめんなさいごめんなさいっ! 許してくださいっ!」

「わたしたちに言われても困るのだが」と、リン・ラン。「父上に甘い処分にするよう頼んでやっても良いぞ?」

「えっ!?」犯人Gはリン・ランの顔を見た。「ほ、本当ですか!?」

「ああ」リン・ランが、こほんと咳払いをし、「ア、アレくれるなら……」

 犯人Gはリン・ランが指した物を見た。
 そこには、『シュウの隠し撮り写真集』……。

「……。ほしいんですか、お兄さんの隠し撮り写真集」

「う、うむ。だ、駄目か?」

「……。どうぞ」

「おおーっ! おまえ良い奴だなっ! わたしたち、頑張って父上を説得するのだ!」

 犯人Gの処分が甘くなるのは確定のようだった。
 
 
 
 犯人Hの部屋にて。

 犯人Hと格闘した末に勝ったユナとレナは、大きな本棚と向き合っていた。

「うーん、この本棚怪しいよね、ユナ。絶対カレンちゃんの写真ありそう」

「うん、怪しいよね、レナ。でもここまで大きいと、探すの大変だよね」

「……あっ、そーだっ!」と、レナがぱちんと指を鳴らした。「ユナの魔法で燃やしちゃえばいーじゃん!」

「あっ、なーるほど! そうしよう! えいっ、ファイアァァァァァァァ!!」

 ユナの炎魔法により、あっという間に燃え始めた本棚。

「おお、すごいじゃんユナ」

「えへへ、最近ちょっと魔力上がったんだぁ♪」

「あー、あたしもあたしも! でもマナの魔力の上がり方はもっとすごいよねー」

「だよねー。1年生の中でもトップだしねー」

 ユナとレナが話している傍らで、縛られている犯人Hは狼狽した。

「ちょ、ちょっとちょっとちょっとちょっと! 火が燃え移ってる!」

「え?」と、ユナとレナは燃える本棚に目を戻した。「――わっ、わあああああああああああっ!!」

 本棚を包む炎はカーテンに移り、ベッドに移っていた。
 慌ててリュウを呼ぶ。

「パパッ!! 助けてパパァァァァァァァァァァァ!!」

 違う階にいたリュウは、4秒後にやってきた。

「ユナっ、レナ!?」

 ユナとレナが、縛った犯人Hを引きずりながら慌てて部屋から飛び出てくる。

「ぱっ、パパパパパパパパ!! も、も、燃えるうううううううっ!!」

「げっ」

 リュウが慌てて魔法で水を起こし消火したが、犯人Hの部屋は大半が真っ黒焦げとなった。
 カレンの写真どころかカメラやパソコンも持っていなかった犯人Hは、呆然と部屋の中を見て立ち尽くした挙句、失神して廊下に倒れこんだ。

「……ごっ、ごめんねっ?」

 そんなユナとレナの言葉は、犯人Hの耳にはもちろん聞こえていない。
 
 
 
 犯人Iの部屋にて。

 クシャ

 と、マナの召喚した石にデジカメと携帯電話が潰され、

 グシャッ

 とマナの召喚した岩にパソコンを潰される。

「あとは…」マナは部屋の中を見渡した。「カレンちゃんの写真はどこ…?」

「もっ、持ってないです!」犯人Iは必死に嘘を吐いた。「持ってないですっ! 私本当に何も持ってないです!」

「ねえ…」

「――グエっ!」

 マナの召喚した隕石に潰され、犯人Iは床の上に這いつくばる。

「写真どこ…」

「ほ、ほ、本当に持ってないですっ……!」

 そう答えた犯人Iに、マナが人差し指で隕石を操る。
 立てている人差し指をひょいと下げ、犯人Iはさらに押しつぶされる。

「グエェェェェェェェ! ご、ご、ご、ごめんなさいぃ、言いますうぅぅ……!! つ、机の上から2段目の引き出しですうぅぅぅ……!!」

「そう…」

 マナが机の上から2段目の引き出しから無事にカレンの写真を見つけ出し、犯人Iの上から隕石が消える。

「しっ、死ぬかと思ったっ……!」

「あとはない……?」

「なっ、ないです! あとは本当にまじで絶対にないです!」

「そう…」

「そっ、それにっ! カレンさんのことだって、私は本当はリンチなんてしたくなかったんです! 先輩たちに、無理矢理連れて行かれたんですっ! 本当なんですっ!」

「犯人I……」  いつでも無表情のマナの淡い紫色の瞳が、犯人Iを捉えた。

「はっ、はいっ!!」

「見苦しい…」

 犯人Iの上に、先ほどよりも一回り大きい隕石が落下した。
 
 
 
 24時21分。

 縛られた9人全ての犯人が、女子寮の前に集められた。
 がくがくと震えている犯人、恋したようにぽーっとしている犯人、気絶している犯人、ボコボコにされた犯人と何故かリンク、瀕死状態の犯人など色々な状態で。

 犯人たちの処分をどうするかで話し合いが始まった。

 25時00分。

 ようやく処分が決まる。
 犯人たちは、ハンターの少ない睦月島に飛ばされることになった。
 そこに永住してしっかりと働けとのリュウの命令を、犯人たちは喜んで引き受けた。
 思っていた処分よりも、ずっと甘いものだったから。

 25時10分。

 ミーナの瞬間移動でそれぞれ帰宅。
 屋敷の前、キラはカレンの写真を見て顔を歪めた。

「本当にひどいことをしたものだ」

「まったくだよ」と、サラが溜め息を吐いた。「でもまあ、これで写真全部だよね。良かった。あとはこれを兄貴に見つからないよう処分して――」

「何を?」

 と、後方から声が聞こえ、一同は驚倒して振り返った。

 そこには仕事を終えて帰宅したシュウの姿。

「わっ、わああああああっ!!」

 慌ててカレンの写真を隠そうとする一同。

「なっ、なっ、何でもないよ兄貴っ!?」

「……すげー声裏返ってんぞ、サラ」

「なっ、何でもないっ! 何でも――」

 固まった一同の中から、ひらりひらりと一枚の写真がシュウの足元へ落ちていく。

「やばっ……!」

 慌てて写真を拾い上げようとしたサラだったが、それはシュウの手に奪われた。

「返して兄貴っ! 返せっ!!」

「怪しいから返さねえ」

 シュウがサラの手に届かぬよう、写真を高く掲げる。
 そして、その写真に顔を向けた――。
 
 
 
 
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