第16話 予定変更で……
シュウとカレン、サラ、レオンでこっそりとした相談の結果。
サラとレオンのデートは、シュウの誕生日から一週間後の日になった。
当日の分の仕事は前日までに終わらせ、当日は仕事へ行くフリをしてサラとレオンはデートへと向かう。
サラがとても喜んでいたせいか、レオンは反対できなかったようだ。
リュウに内緒でデートに行く、ということを。
(サラと内緒でデートに行ったなんて親父にバレたら、レオ兄ただじゃ済まされねえよな……。絶対バレねーようにしねえと)
サラとレオンのデート日の2日前、仕事から帰ってきたシュウは螺旋階段を上りながらそんなことを考えていた。
2階へと上って、向かって一番右端の自分の部屋へと向かう。
途中、サラの部屋のドアが少し空いているのに気付いて立ち止まった。
「サラ? いるのか?」
「いるよー」
と、サラの声。
シュウがドアを開けると、サラがうきうきとした様子でクローゼットからたくさんの洋服を出していた。
「気が早いな。デート明後日だろ?」
「いーの。ねえ、兄貴」
「ん?」
「レオ兄ってミニスカとショーパンどっちが好きかな」
「さあ? んでも、どっちでも褒めてくれるだろ」
「うーん。初デートだし、スカートにしよっと」
サラの姿を見て、シュウは微笑む。
(こういうとこは可愛いよな。サラも女の子っていうか)
サラが続ける。
「ねえ、兄貴」
「ん?」
「勝負下着は可愛い系と清純系とセクシー系とエロカワ系どれがいいかな」
「……。おまえヤル気満々だね」
シュウは苦笑した。
サラが続ける。
「ねえ、兄貴」
「ん?」
「アタシさ、門限6時までに帰ってこなきゃいけないじゃん? 遅くなると親父にバレるかもしれないし」
「そうだな」
「外が明るいうちに入りやすいラブホってどこかな」
「……。知らね……」
サラ、おまえ…。
間違いなく親父の血を引いてるな……。
シュウは顔を引きつらせたあと、サラの部屋のドアを閉めた。
一階の方からリュウの声が聞こえてくる。
「シュウ、帰ったのか?」
思わずどきっとしてしまいながら、シュウは訊いた。
「お、おう。な、何? 親父っ……」
「一週間分の仕事渡すから、書斎まで来い」
良かった、仕事の話か。
シュウは安堵して再び一階まで下り、書斎へと入っていった。
リュウが仕事内容の書かれた書類を、シュウに手渡す。
「まずこれが明日の分な」
「ん」
シュウは書類を受け取りながら、ざっと目を通していく。
「で、これが明々後日の分な」
「ん」
と、次の書類を受け取ったシュウ。
瞬きをしてリュウの顔を見る。
「あれ? 明後日の分は?」
「ああ、悪い。忘れてた」
と、リュウ。
一枚の紙をシュウに渡した。
「ほら、明後日の分」
「え? 1つだけか、めずらし――」
と、紙に目を通したシュウは言葉を切った。
顔が強張る。
『依頼内容:葉月島超一流ハンター・リュウの可愛い娘である次女・サラと、同じく葉月島超一流ハンターであるミックスキャット・レオンのデートを尾行せよ。詳細は依頼者まで。
依頼者:葉月島超一流ハンター・リュウ
住所:おまえと同じ
連絡先:おまえ知ってるだろ
報酬金額:10万ゴールド』
シュウは驚愕してリュウの顔を見た。
リュウがダークな笑みを浮かべて訊く。
「どうかしたか、シュウ」
「なっ、何で知って……!?」シュウは、はっとした。「まっ、まさか親父っ、オレの誕生日の日、オレたちが話してるの盗み聞きしてたな!?」
「俺はおまえらが怪しいってことに気付いただけで、そんな無骨なことしてねえぜ」
「じゃ、じゃあ何で知ってんだよ!?」
「珍しくレオンがいつまで経っても俺に何も言わねーもんだから、ついさっき電話で吐かせてな。なぁに、安心しろ。デート後だったらぶっ飛ばしてたが、デート前だから何もしねえぜ。優しいな、俺」
ああ、レオ兄…。
言っちゃったのね……。
シュウは苦笑した。
リュウに問われたら、レオンが黙っていられるわけがないとは思っていたが。
リュウが依頼の詳細を話し始める。
「いいか、シュウ。これは仕事だ。無粋だなんて思わずに、心置きなくサラとレオンを尾行しろ」
「って、言われてもよ……」
「んで」と、リュウが続ける。「サラがレオンに何かされそうになったら、すかさず阻止するように」
「それじゃあ、尾行してたのバレバレじゃねーか」
「あくまでも偶然を装え。決して仕事だとバラすなよ、俺がサラに嫌われっからな…!? 絶対だぞ…!? 絶対にバラすんじゃねーぞ……!?」
必死だな、親父……。
シュウは深く溜め息を吐いて承諾した。
「わかったよ、親父」
「よし」
「でもさ、やっぱり尾行なんてしたくねえからさ……。オレとカレンも一緒に遊びに行くっていうのじゃダメ?」
「ダブルデートか」
「ダブル……? オレとカレンは別にデートってわけじゃねえけど」
「いいぜ、それでも。すぐ間近にいた方が、すぐにサラを助けられるしな」
と、リュウ。
依頼内容を『サラ・レオンを尾行しろ』から、『サラ・レオンと一緒に遊んで来い』に変更した。
リュウから一週間分の仕事を受け取ったあと、シュウは自分の部屋へと戻った。
部屋のドアを閉めるなり、レオンに電話をかける。
「もしもし、レオ兄?」
「うん、ごめん……」と、電話の向こう、レオンが苦笑したのが分かった。「シュウの誕生日の日、何を話してたか訊かれて……。黙ってられなかったよ」
「いや、いいよレオ兄。レオ兄は誠実ってだけだから。それでさ、親父にバレたことサラには言ってないよね?」
「うん、まだ言ってないよ」
「じゃあさ、言わないでくれるかな」そう言ったあと、シュウは苦笑した。「オレ、親父に仕事頼まれてさ……」
「仕事? 何だって?」
「サラとレオ兄のデートに一緒に行けっていう……」
「へえ、リュウにしては優しい依頼だね。デートに行かせるなっていうような内容かと思ったよ」
「アレだろ。そんな内容だと、親父が裏にいるってバレバレだから」
「ああ、なるほどね。バレてサラに嫌われるのが怖いのね」
「そゆこと。だからさ、オレとカレンも仕事として一応一緒に行くけど、サラには仕事だってバラさないでくれないかな。必死なんだよ、親父……」
「分かった。サラには言わないよ」
「ありがと、レオ兄。サラの説得はカレンにしてもらうのがいいよな。オレがサラに言っても喧嘩になるだけだろうしさ」
レオンの同意を確認したあと、シュウは電話を切った。
次はカレンに電話をかけ、今の状況を伝える。
「つまりダブルデートの提案を、あたくしがサラに出してみれば良いのよね?」
「そうしてくれると助かる」
「分かったわ。リュウさまにバレてしまったものは仕方ないもの。これからサラに電話してみるわ」
「サンキュ。それじゃ、おやす――」
「あっ、待ってっ……!」と、電話の向こうでカレンが慌てたように声をあげた。「ね、ねえ……、シュウ」
「ん?」
「明後日のダブルデート、どんなお洋服がご希望かしら?」
「おまえも張り切ってんのかよ」シュウは笑った。「オレなんかとのデートで、気合入れなくてもいいっての」
「きっ、気合なんて入れないのですわっ……!」カレンの声が上ずった。「でっ、でもっ、一応気を遣って訊いてあげたのですわっ……!」
「そうかよ、サンキュ」そう言いながら、シュウはもう一度笑った。「じゃあ、そうだな。おまえが一番気に入ってる服がいいな」
「分かったのですわっ」
カレンが明るい声で承諾した。
電話を切ったあと、シュウはベッドに寝転がって微笑む。
(デート前の女の子は可愛いな、まったく……)
それから30分後あたりか、うとうととしていたシュウは身体を揺すられて目を開けた。
「兄貴っ、兄貴っ」
と、シュウを呼んでいるのはサラだった。
はしゃいだ顔をしている。
「ねね、兄貴。明後日さ、やっぱりダブルデートね!」
何も知らないフリして、シュウは鸚鵡返しに訊く。
「ダブルデート?」
「アタシとレオ兄、それから兄貴とカレンで! 楽しそうだからいいよねっ? ていうか、もうカレンと一緒に決めちゃったし!」
どうやら、カレンはばっちりサラの説得をできたらしい。
「分かった、いいぜ」
シュウがそう答えると、サラがさらにはしゃいだ。
あまりお目に掛からないサラのこういった表情に、シュウは顔を綻ばせる。
(可愛いな、オレの妹)
なんて思ったあとに苦笑した。
(とかバカなこと言ってると親父みたいだぜ……)
デート当日。
サラは仕事へ行くフリしてカレンの家へ行き、そこでデートの準備をする。
シュウは車で屋敷まで迎えに来てくれるレオンと一緒に、時間になったらカレンの家へと向かう。
朝食を済ませ、魔法学校へ通う妹たちの弁当作りを終えたあと、シュウは自分の部屋へと向かった。
ドアを開けると、そこにはサラの姿。
「はい、兄貴。今日これね」
と、サラがシュウに渡したものは、リュウのクローゼットから持ってきただろう服。
サラが言う。
「ファッションに関しては、兄貴より親父の方がカッコイイからね。ほら、このジャケット良いでしょ?」
「デートとなると、オレもそれなりに気合入れないといけねーのか……」
「あったりまえじゃん! カレン気合入れてくるんだよ? 兄貴もカレンのためにいつもよりカッコよさ3割増しくらいにはなってよね」
シュウが差し出された服を受け取ると、サラが戸口へと向かって行った。
「じゃ、アタシ行くね。10時だからね、10時。ちゃんとレオ兄と一緒に迎えに来てね」
「分かってるよ」
シュウが笑って承諾すると、サラが足取り軽く玄関へと向かって行った。
サラが家から出て行ったあとは、リュウがシュウの部屋までやって来た。
「やっぱりおまえか」
と、リュウ。
シュウが持っている服を見て言った。
「サラが持ってきたんだよ。親父、今日この服着んの?」
「いや」
「んじゃあ借りていいよな」
「いいけど」そう言ったあと、リュウがじっとシュウの顔を見つめた。「……なあ、シュウ」
「ん?」
「なんだかんだで、おまえも気合入ってんのな。カレンのこと落としてくんの?」
「そんなんじゃねえって」
「ちゃんとゴム持ってけよ。ラブホのゴムは良くねえぞ」
「違うって……」
「違わねーよ?」
「ゴムの話じゃねえっ!」シュウは突っ込んだあと、溜め息を吐いてリュウの顔を見た。「オレはカレンのこと好きとかそういうんじゃねえって言ってんの。前も言っただろ」
「ふーん。でも、カレンの方はどうだろうな」
「は?」
「何でもねー」
リュウがそう言いながら、シュウの部屋のドアを閉めた。
鍵も掛けた。
「お、親父? 何して……?」
「期待させてワリィけど、俺おまえのことは抱けな――」
「んなこと期待してねえっ! 何してんだって訊いてんだよオレは!?」
「リン・ランにデートの準備してるってバレたら厄介なことになんだろ」
「ああ……、それで鍵かけたのね」と、納得したあと、シュウはぱちぱちと瞬きをしてリュウの顔を見た。「てか、何で親父がオレの部屋に入ってくんの?」
「手伝ってやる」と、リュウが備え付けてあるバスルームの洗面所へと向かって行く。「デートの準備」
「は? いいよ……」
「じゃあ来い」
「いや、遠慮するって意味で……」
「うるせーなあ」と、リュウが整髪料片手に洗面所から顔を出した。「ビシッと決めてくれねーと困るんだよ、俺と同じ顔してんだから」
「それが理由かよ」
「さっさとこっち来い」
「分かったよ……」
シュウは苦笑しながら、リュウのいる洗面所へと向かった。
ふと時計を見ると8時少し前。
ダブルデートまで、あと約2時間だ。
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