第156話 トーナメントバトル 中編


 10月。
 シュウたちはギルドイベントである『全島ハンター・各階級別トーナメントバトル』に参加する。
 2日目の今日は、四流ハンター級のバトルだ。

 それにはカレンが参加するのだが。

 不安一杯で敵ハンターに囲まれたカレン。
 バトル開始早々敵ハンター集団に、

「やーい、貧乳」

 なんて声をそろえられ。

 ブチブチブチィっ…!!

 と己の中で何かが切れる音が聞こえた。
 次の瞬間、肩からかけていたマシンガンを乱射。

「なんですってえぇぇえぇぇえぇぇぇぇえぇぇええぇぇえぇぇええぇぇえぇぇええぇぇええぇぇぇぇえぇぇえっ!!」

 ズバババババババっ!!

 と、一気に敵ハンターの3分の1を蹴散らしたカレンのマシンガン。
 皆ハンター用に作られた強力な防具を身に着けてるとはいえ、伝わってくる衝撃は四流ハンターには耐え切れない激痛で。

 蹲ったり、悶えたり、失神する敵ハンターたち。
 意識があるハンターは一体どういうことかと困惑する。

 己の口が勝手に喋ったものだから。

 原因はバトル開始前にリュウに飲ませられた、マナ作『鸚鵡返しの薬・改(人間・モンスター・ハーフ用)』。
 以前のものよりも即効性が高められ、A液を飲んだカレンの敵ハンターたちは、B液を飲んだリュウの言葉を、1分後には鸚鵡返しに言ってしまう。

 そのことを敵ハンターたちは知らなかった。

 弾丸が当たったハンターたちを審判が慌てて戦線離脱させ、ケリーが一斉に治癒魔法をかける。

「ちょっ、あんたたち大丈夫かい!?」

 なんて訊いたケリーだったが、見るからに大丈夫じゃなさそうだった。

 一方のカレン。
 戦場に残っている者たちに、徐に顔を向けた。

「――!?」

 カレンのあまりの形相にびくついた敵ハンターたち。

「あなたたち、さっきあたくしのこと何て言いましたのこと…!? え…!? たしか、たぁーしぃーかぁー、貧乳って、ひ・ん・にゅ・うって、言ったわよね……!?」

 カレンの問いかけに、必死に首を横に振る。
 言いたくて言ったんじゃないと、必死に首を横に振って伝える。

 が、その口から出た台詞は、

「おまえ乳えぐれてんじゃねーの」

 なんて、カレンの怒りを煽るもので。
 敵ハンターたちは、仰天して己の口を手で塞ぐ。

「なっ、なぁぁぁんですってえぇぇええぇぇええぇぇええぇぇえぇぇぇえぇぇえっ!!」

 と、さらにブチ切れてしまったカレン。
 バズーカを肩に担いで構える。

 それを見て慌てて逃げ出す敵ハンターたちだったが、

「ちゃんと出っ張ってるわよっ!!」

 ボカァァァァァァァンっ!!

 とバズーカの爆発に吹っ飛ばされ、戦線離脱。

 一方、カレンの背後にじわりじわりと近づいていく影。
 後ろから気付かれないように攻撃しようと試みようとした者たちであるが、その口は自ら宣告する。

「おい後ろだ、貧乳!」

「――!」

 はっとすると同時に、完全に頭に血が上ってしまったカレン。
 後方に催涙ガス弾発射。

 足元にそれが着弾し、クモの子を散らしたように逃げていく敵ハンターたちだったが、

「人に貧乳ぬかしといて逃げてんじゃないわよっ!!」

 ズキュキュキュキューーーンっ!

 と、カレンが両手にリボルバーを持って撃ち。
 その弾丸に背をやられて倒れてしまい、ほとんど逃げられず。

 3秒が経過し、辺りに響き渡った破裂音。

 広範囲を煙と催涙ガスが包み込み、敵ハンターたちは目や鼻、喉に激痛を訴えたまらず戦線離脱。

「あとは残りっ!!」と手榴弾の紐を歯で噛んで引き、点火したカレン。「あんたたちも貧乳言ったわねえぇぇえぇぇえぇぇえぇぇえぇぇえ!?」

 それを逃げていく残りの敵ハンター目掛け、投げまくり。

 ボカァァァァァンっ!
 ボカァァァァァンっ!!
 ボカァァァァァンっ!!!
 ボカァァァァァンっ!!!!

 とあちこちで起こる爆発。
 それに吹っ飛ばされて宙を舞う敵ハンター。
 おまけに審判。

「ふん、いい様なのですわ!」

 そんなこんなで、カレンは大暴れで初戦を勝ち抜いた。

 続いての準々決勝でも、準決勝でも、そして決勝でも、薬を飲まされた敵ハンターたち。
 リュウの言った言葉を鸚鵡返しにしてしまった瞬間、まるで断末魔のような声を響かせていた。

 あっという間に優勝したカレンを見ながら、サラが声を高くする。

「カレン、すっごいなあ。優勝しちゃったよ!」

「すごいね…」

 と、同意して頷くマナの傍ら。
 顔面蒼白しているシュウ。

「マ…、マイハニーっ……!?」

 弱いものばかりだと思っていた妻の姿に驚愕だった。
 あはは、と笑ってサラが言う。

「兄貴、浮気したら穴だらけになるねー♪」

「……。…ウン」

 ボク、絶対ニ浮気ナンカシナイヨ。

 もともと浮気なんてするつもりはないシュウだったが、改めて心に誓い、肝に銘じた。

 カレンのトーナメントバトルが無事に(?)終わったら、次は二流ハンター級に参加するサラの番。
 2日後だ。
 
 
 
「というわけで、あれから2日後です。読者さまはたぶんあれから約1秒後でしょうか」と語りながら、長い戟をぶんぶんと振り回して準備運動をしているのは、「本日トーナメントバトルの二流ハンター級に参加するサラです」

「気合充分ね、サラ! あたくしに続いて優勝よ!」

 と張り切った様子のカレンの傍ら、進まぬ顔をしているのはリュウとレオン。
 二流ハンターとなれば、女ハンターの数は極端に減る。
 それほど危ない階級に参加するサラが心配で仕方なかった。

「お、おい、サラ、やっぱり三流ハンター級に…」

「今さら何言ってんの、親父。てか、三流ハンター級のトーナメントバトルは昨日だったんだからもう無理っていうか」

「ね、ねえ、サラ。危なくなったらすぐに逃げるんだよっ?」

「もー、大丈夫だよ、レオ兄」とサラが笑う。「アタシ、そんなにか弱くないしー」

 たしかにそうなのだが。
 たしかにサラは17の少女とは思えぬほど強いのだが。

 サラの父親と夫は、心配で居ても立っても居られない。

「んじゃ、そろそろ始まるからアタシ行ってくるねー」

 と、二流ハンターの集まるところへと向かって行くサラ。
 途中、苦笑して立ち止まり、振り返る。

「ちょっと、親父、レオ兄? 何で着いてくんのさ…」

「急遽審判を務めることにした」

 と、声をそろえたリュウとレオンに溜め息を吐き、サラは再び歩き出した。

(大丈夫だって言ってんのに、もう…)

 二流ハンター級の初戦は各ブロックごとに10人ずつ戦い、1人が次に進出。
 サラの参加するCブロックの女ハンターはサラ1人だけだった。

 戦場のすぐ脇でリュウとレオンに見守られながら、二流ハンター級の初戦開始。

 9人の敵ハンターを見回すサラ。

「ああ、久しぶりの戦闘でぞくぞくしちゃうな、ア・タ・シ♪」

 と振るわせる身体の回りには、小さく風が巻き起こっている。

 警戒して構えた敵ハンターたち。
 次の瞬間、

「行っくぜえぇぇええぇぇええぇぇええぇぇぇいっ!!」

 ゴオオオオオオっ!!

 と、サラの放った巨大なトルネードが突っ込んできて、吹っ飛ばされないよう踏ん張った。
 が、数人が渦に巻き込まれ、ぐるんぐるんと空高く目掛けて飛んでいく。

 再びぞくぞくっと身体を震わせたサラ。
 妊娠していたが故に戦いというものからしばらく遠ざかってしまっていたが、その感覚が身体に戻ってくる。

「そうそう、これこれ…。これがハンターなんだよね」

 と独り言を言いながら、

 ガキンッ

 と飛んできた剣を、戟で受け止めたサラ。
 手に伝わってくる衝撃に、再びぞくぞくっと身体を震わせる。

「ああ、これこれ…。これなんだよ、これこれ……!」

 と、にやにやと笑い出すサラ。
 刃を交えている敵ハンターを押しやって間合いを取り、

「これなんだよねえぇぇええぇぇえええぇぇええぇぇえぇぇえぇぇえええぇぇえぇぇえっ!!」

 と絶叫しながら、長戟をデンジャラスに振り回し始めた。
 ぎょっとして思わず防御の態勢を取る敵ハンターたちに、サラがるんるんと向かってくる。

「サラちゃん、ふっかぁぁぁああぁぁああぁぁあぁあぁぁあああぁぁああぁぁあぁぁつっ!!」

 見るからに重そうな戟を片手で振り回しているサラ。

 敵ハンターの武器を破壊し。
 敵ハンターの盾も破壊し。
 敵ハンターを一撃でぶっ飛ばし。

 辺りに笑い声を響かせる。

「あーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!! オラオラオラオラァっ!!」

 このままじゃやばい、と思った生き残り敵ハンター2人。
 必死にサラの背後に回ったが、こんなにデンジャラスに長戟を振り回されちゃあ、近づくことが出来ない。

 よって、魔法でサラに攻撃しようと思い、サラに手をかざしたその時のこと。

「――!?」

 びくっと身体を震わせた。
 背筋に寒気が走って。

 恐る恐る後方に振り返ったら、

「――!!?」

 身体が凍りついた。

 2人に突き刺さっているのは、リュウとレオンのぎらぎらとした視線。
 身体に穴が空きそうなほど痛いそれが訴えているのは、

『サラを傷付けたらどうなるか分かってるな?』

 ごくり、と唾を飲み込んだ敵ハンター2人。
 リュウとレオンの心の声が聞こえた。

 おまけに、

『分かってるな…!?』

 と、念を押して訴えるようにリュウとレオンが目を見開いたと思った途端、

「はぅあっ!!」

 後方に吹っ飛んだ2人。
 驚愕。

(めっ…、目からビーム出たっ……!!)

 実際はそんなもの出ていないのだが、そう感じるほどリュウとレオンの視線が強烈だった。

「ん?」

 と、戟を振り回すのを止めて振り返ったサラ。
 尻を着いている敵ハンター2人を見つめたあと、顔をあげて遠くのリュウとレオンを見つめた。

 そこには、

「おー、さっすが俺の娘だな。強いぜサラ」

「サラもうちょっとだよ。頑張ってー」

 にこにこと笑っているリュウとレオンの姿があった。

「うんー」

 と、手を振って応えたサラ。
 尻を着いている敵ハンター2人に顔を向ける。

 その途端、豹変するリュウとレオンの顔。
 ぎらぎらと敵ハンター2人を睨みつける。

「…っ…あっ…あっ……!」

 とリュウとレオンの方を見てがくがくと震える敵ハンター2人。
 サラが首をかしげて再びリュウとレオンに顔を向けると、

「ほらー、サラ。トドメ指しちまえー」

「サラ、今だよー」

 やっぱりにこにこと笑っている。

「うんー…」

 とまた手を振って返事をし、尻を着いている敵ハンター2人に目を落としたサラ。

(なんか変だな…)

 と察し、素早くばっと顔を上げてリュウとレオンを見た。

 再び顔を豹変させて敵ハンター2人を睨みつけていたリュウとレオン。
 サラの視線を感じ、肩をびくっと跳ねさせた。

 それを見てサラが眉を吊り上げる。

「あぁああぁぁあぁあっ! やっぱり脅してたっ! ちょっと親父っ! レオ兄っ! 邪魔しないでよねっ!!」

「な、なんのことだ? サラ。お、俺たち何もしてねーよな、レオン?」

「う、うん。何もしてないよね、リュウ?」

 と惚けるリュウとレオンに、呆れて溜め息を吐いたサラ。

「ごめん、あの2人のことは気にしなくていいから」と目を落として敵ハンター2人を見、「――って、ちょ……」

 顔を引きつらせた。

 残りの敵ハンター2人、失神と失禁につき。
 サラ、初戦突破。

「おおーっ、さっすが俺の娘!」

「さっすが僕の奥さん!」

 とぱちぱちと手を叩いているリュウとレオンに向かって、サラは声をあげる。

「もおぉぉおぉぉおっ!! 次からはこんなことしないでよねっ!!」

 こんなんじゃまともな戦闘ができない。
 リュウとレオンが承諾したのを確認したあと、再び気合を入れるサラ。

「よおぉぉおし、準々決勝がんばるぞーっ!!」

 が、先ほどのリュウとレオンの行動はほとんどの者が目にしており。

 準々決勝戦。
 相手はがたがたと震えてまるで戦える状態じゃなく、サラ不戦勝。

「……。つ、次の準決勝がんばるぞっ…!」

 準決勝戦。
 相手が逃げ出し、サラ不戦勝。

「……。つ、つ、次の決勝がんばるぞ……!」

 そして決勝戦。
 相手すら出て来ず、サラ不戦勝。

 よって、サラ優勝。

「なっ…、なんっっっじゃそりゃああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁあぁぁああぁぁああぁぁあぁぁあぁぁあぁぁああぁああぁぁああぁあっ!!」

 戦場にぽつんと1人で立っているサラの絶叫が、辺りに響き渡って行った。

 それを遠くで聞きながら苦笑したシュウ。
 リュウやサラ、レオンの家族であるが故に周りの視線をちらちらと感じ、何だか恥ずかしくなってゴホンと咳払いをした。

「え、えーと…、次は2日後――最終日の超一流ハンター級トーナメントバトルのときにやって来ればいいんだな」

 そこでシュウは、

(必ず、親父に一撃を与えてみせるっ…!!)
 
 
 
 
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