第155話 トーナメントバトル 前編


 10月。
 本日はカレン17歳の誕生日パーティーだった。
 いつもの一同で食べて飲んで騒いだあとのシュウ・カレンの夫婦部屋の中。

 まだ渡していなかった誕生日プレゼントを、シュウがカレンに渡す。

「ヘイ、ハニー! 誕生日おめでとう!」

「まあ、ありがとう」

 と頬を染め、カレンがシュウからそれを受け取った。
 手の平サイズの箱だ。

「指輪かしら?」

 と訊きながら、カレンが包みを開けていく。

「うん。去年はルビーのネックレスだったから、今年は指輪にした」

 箱の中のケースを取り出して蓋を開け、カレンの瞳が輝く。
 カレンがいつも身に着けているネックレスと同じ赤い石の指輪。

「ありがとう、シュウっ…! とっても嬉しいのですわっ……!」

「おう」

 カレンの嬉しそうな笑顔を見て、それ以上に嬉しそうに笑ったシュウ。
 カレンにキスしようと顔を近づけたとき。

「――って、あら?」

 一瞬目を閉じたカレンが、再び目を開けた。
 今シュウの背で、ガサっと音がして。

「シュウ、背中に何を持ってるのかしら?」

 ギクっとしたシュウ。

「こ、これは後でっ…!」

 と言って半ば強引にカレンにキスして口を塞ぐ。

 気になったカレン。
 キスしつつ手をシュウの背に持っていく。
 そしてシュウが手に持っているものを触り、はっとして唇を離した。

「こっ、これはミヅキくんの働くドールショップの包装紙なのですわっ!」

「――!?」シュウ、驚愕。「ちょ、おま、手触りで当てんなよ…! 母さんがどのパンツ穿いてるのか手触りで当てる親父よりすげーよっ……!」

「ドールのお洋服なのねっ!? そうなのね、シュウっ!?」

「ち、ちが――」

「いいえ、そうよ! 絶対そうよっ! 早くちょーだいっ!」

「だ、だから、あーとーでええええええええっ!」

「今ほーしーいーのおおおおおおおおっ!」

 とシュウの背に周り、シュウの手からそれを奪ったカレン。
 シュウが苦笑する中、包みを開けて絶叫する。

「きゃああぁぁああぁぁあぁぁああぁぁあっ!! こ、こここ、これは明日発売の限定50着しかない超レアドレスなのですわあぁぁああぁぁああぁぁあぁぁああぁぁああぁぁあっ!!」

 興奮のあまりぶっ倒れそうなカレンの身体を支えて、シュウはさらに苦笑してしまう。

「よ、良かったな…」

「ダァァァァァァァァリンっ!! 1億と2千年あとも、あ・い・し・て・るううぅううぅぅううぅぅううぅぅうぅぅぅうぅぅううぅぅうぅぅううっ!!」

「アク○リオンかよ…」

 カレンがシュウの唇に軽くキスしたあと、ベッドの上で早速人形の着せ替え遊びを始める。

「ああもう、だから嫌なんだよぉぉぉぉ……」

 とがっくりと肩を落とし、カレンの背に寝転がったシュウ。
 カレンの腰に片腕を回して、ちょっと憎しみを込めながら着せ替えられていく人形を見つめる。

「そういえば、シュウ?」

 とカレン。
 決してシュウの方は向かず、人形遊びを続けながら言う。

「あなた、最近修行時間が増えたんじゃない?」

「おう、大分。トーナメントバトルで親父に一撃与えるからな」

「そうね。身体壊さないように頑張ってね」

「うん…」

 と小さな声で言ったシュウの顔をちらりと見たあと、カレンが訊く。

「どうかした?」

「いや…さ、もしオレが親父に一撃与えたとするだろ?」

「ええ」

「そしたら、今度こそ親父…褒めてくれるかな」

「『強くなった』って?」

「うん…」

「もちろん」とカレンがシュウに笑顔を向けた。「褒めてくれるわよ、きっと! あのお義父さまに一撃を与えるなんて、とてもすごいことだもの! 大丈夫よ、シュウ。大丈夫。お義父さまは褒めてくれるわ」

「…うん、そうだよな」

 と笑ったシュウ。

(決してオレはファザコンじゃねーっすよ!?)

 と読者さまに訴えてから、

(言ってくれるかな…、親父。『強くなった』って言ってくれるかな…)

 とリュウに一撃を与えたときのことを考えて、胸を弾ませた。

(オレ、最強の男に『強くなった』って認めてもらえるかな……)
 
 
 
 カレンの誕生日パーティーから一週間。
 文月島で、これから6日間に渡ってギルドイベント『全島ハンター・各階級別トーナメントバトル』が行われる。

 初日は新人ハンター級のバトル。
 2日目は四流ハンター級、3日目は三流ハンター級、4日目は二流ハンター級、5日目は一流ハンター級。
 そして最終日は超一流ハンター級。

 シュウたちがミーナの瞬間移動で文月島へと向かうのは、トーナメントバトルの2日目と4日目、最終日だ。
 四流ハンター級にカレンが、二流ハンター級にサラが、そして超一流ハンター級にはシュウとリュウ、レオン、グレルが参加するから。

 優勝したところで賞金も何も出ないこのトーナメントバトルには、己の力に自信や誇りを持っている者ばかりが参加してきているようだ。
 よって超一流ハンターとなれば多くが参加しそうなものだが、全島の超一流ハンターの半分も集まらないようだった。

「…どうやら、リュウやグレルに恐れをなしたみたいなんだよね…」

 と、超一流ハンター級の参加者の書かれた紙をリュウに手渡しながら言ったのは、文月ギルド長兼、超一流変態兼、超一流ハンターのゲールだ。
 超一流変態の彼は身体を傷付けられるという快感を味わうため、超一流ハンター級に参加するらしい。

「情けねえ」

 とリュウが溜め息を吐く傍ら、苦笑するシュウ。
 当然といえば当然だと思う。

「下手すりゃ親父やグレルおじさんに当たった超一流ハンターは、一秒も経たずに決着つけられるじゃねーか…」

「何だ、シュウ。おまえ俺に一秒で俺に負ける気か」

「そ、そんなわけねえだろっ! オレは必ず親父に一撃与えるんだからなっ!」

「おう、その気合で挑んで来い」

「おうよっ!!」

「とりあえず今は…」

 と、カレンに顔を向けるリュウ。
 シュウも向ける。

 今日はトーナメントバトル2日目。
 四流ハンターのバトルが行われる=カレンが戦う。

 様々な銃を身体のあちこちに装備しているカレン。
 おろおろとしていた。

「怖いわあぁぁあっ! 怖いのですわあぁぁあぁぁあっ!」

 シュウ、苦笑。

「やっぱおまえ参加しない方が――」

「するのですわっ!!」

 とシュウの言葉を遮ったカレン。
 師であるリュウの腹の辺りの服を引っ張って訊く。

「お、おおお、お義父さま、あ、あああ、あたくし、だだだ、大丈夫ですの!?」

「超一流となれば飛んでくる弾丸なんざ切捨てっから話にならんが、四流にゃそんな奴はいねえから大丈夫だ。それにおまえの銃は合計1億かけて威力高めてあっから余裕だろ」

「なあ、それって」とシュウが顔を引きつらせた。「相手が危ねーんじゃねーの?」

「危なくなったら審判が止めるから大丈夫だろ。それにハンター用に強力に作られた防具装備だし、ゲールんとこの妻…ケリーだったか? 治癒力の高い赤犬がいるから大丈夫だ」

「そ、そうか…」

「…ちなみに…」

 とゲールが口を挟んだ。
 カレンと、その傍らにいるサラの顔を見て言う。

「…二流・三流・四流は数が多いから、複数で戦ってもらうからね…」

「複数で?」

 カレンとサラが鸚鵡返しに訊いた。
 ゲールが頷いて続ける。

「…特に三流・四流は数が多くてね…。…初戦は50人くらいずつ戦ってもらって、残った2名が次に進出ね…」

 カレンが驚愕しながら声をあげる。

「た、たった2人しか次に進めないんですの!? お、おおお、お義父さま、あたくしどうすればあぁぁああぁぁああぁぁぁああぁぁあぁぁあっ!?」

「いっぺんに倒せて便利じゃねーか」

「か、かかか、簡単に言わないでくださいぃぃいぃぃぃいぃぃぃぃいいぃぃぃいいいぃいいいぃっ!!」

 ゲールがとある方向を指差しながら言う。

「…そろそろ参加する四流ハンターはあの辺りに集まって…。…カレンはAブロックだから一番手前の集団のところね…」

 カレンがますます声をあげる。

「お、おおお、お義父さまあぁぁああぁぁあっ!! ど、どどど、どうすればああぁああぁぁあぁぁああぁぁぁぁあぁぁあっ!!」

「ったく、仕方ねーな」と溜め息を吐いたリュウ。「マナ、行くぞ」

 とマナを手招きし、トーナメントに参加する四流ハンターが集まっているところへと向かって行った。
 マナの肩からは大きなバッグがぶら下げられている。

 カレンが初戦で戦う集団――Aブロックに集まったハンターたちのところで立ち止まり、ハンター一人一人に何かを渡しているマナ。
 ハンターたちの様子を見ると、薬を飲んでいるようだ。

 それを見ながら、シュウが眉を寄せた。

「親父、何して…? まさか弱くなる薬でも飲ませたんじゃ……」

「そ、そんな…!」

 とカレンが困惑する傍ら。
 リュウ自身も薬を飲んだのを見て、サラが否定した。

「いや。そんな薬じゃないよ」

「え?」

 じゃあ、どんな薬?

 とシュウとカレンがサラに振り返ったとき、ゲールがカレンの背を押して催促させた。

「…早くAブロックに行って…」

「は、はいっ…」

 と慌ててAブロックのハンターたちが集まっているところへと駆けて行くカレン。
 すれ違い様に、リュウが言う。

「余裕だ」

「えっ?」

 一体何を飲ませたのか。

 ますます困惑してしまいながら、Aブロックの集団の中に入って行ったカレン。
 着いた途端、バトル開始だった。

(こ、怖いのですわっ…! シュウ、サラ、お義父さまっ……!)

 今にも泣き出してしまいそうな中、マシンガンを構えたカレン。

 その瞬間、敵ハンター達が一斉に声をそろえた。

「おい、カレン」

「――へっ?」

 声が裏返ったカレン。
 声をはもらせたハンターたちの顔を見回して、一体何なのかと動揺する。

 遠くからそれを見つめながら、マナが口を開いた。

「即効性が高められて1分後には効いちゃう『鸚鵡返しの薬・改(人間・モンスター・ハーフ用)』を飲ませた…」

「えっ?」

 と、マナの顔を見たシュウ。
 鸚鵡返しの薬といえば、シュウが今年の正月にカレン宅を訪れる際に飲んだものだ。
 あのときは効果があるまでに15分掛かったものだが。

 マナが続ける。

「A液を飲んだハンターたちは、B液を飲んだパパの言ったことを鸚鵡返しにしちゃうんだよね…」

「――!?」

 シュウがリュウの顔を見ると、リュウがにやにやと笑っていた。
 そして言う。

「やーい、貧乳」

 その台詞を鸚鵡返しにしたAブロックのハンターたち。
 次の瞬間、

 ブチブチブチィっ…!!

 と、カレンの中で何か切れる音がした。
 
 
 
 
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