第153話 今年も無人島へ 後編
8月後半。
今年も無人島へと遊びにやって来たシュウ一同。
砂浜に引かれた線のところに、左からリュウ、シュウ、グレルと並んでいた。
それぞれの頭に巻かれたハチマキには文字が書かれている。
シュウは『カレン命』。
リュウは『キラ命』。
グレルは『マナ命』。
バカ夫婦だったりバカップルであることを訴えたいのか何なのか知らないが、とりあえず最愛の者の名が書かれている。
これから行われるのは『かけっこ勝負IN海面上』。
つまりは徒競走を海の上で行うようなものだ。
浜から人間の肉眼で見える程度に離れた海の上には、通常のものよりも最高速度が速く作られているハンター用水上バイクが3つ浮いていた。
左から操縦者はミーナ、レオン、リンク。
その背にはシュウとリュウ、グレルの最愛の者が背をくっ付ける形で乗っていた。
ミーナの後ろにはキラ、レオンの後ろにはカレン、リンクの後ろにはマナ。
その手にはハンド型メガホン。
彼女らを囮にしてしまえばシュウたちの足はますます速くなるだろうと、サラが思いついてやらせたらしい。
「うん、速くなるなっ…!」
と納得したシュウ。
己とリュウ、グレルに足の速くなる魔法を掛ける。
それを確認したあと、サラがピストルを天に掲げた。
「よーーーいっ」
気合を入れるシュウとリュウ、グレル。
パァンっ!
とピストルが鳴った瞬間、雄叫びをあげながら海へと向かって飛び出した。
「うおおぉぉおぉおおおおぉおぉぉぉおおぉぉぉおおぉぉおおおぉおぉぉぉぉぉぉぉおおおっ!!」
同時に走り出した水上バイクが、囮のカレンとキラ、マナを連れて逃げていく。
それを追うシュウとリュウ、グレル。
やっぱりリュウとグレルはシュウよりも前を行くが、シュウも何とか着いて行っている。
ちゃんと海面を駆けている。
今のところ、順位は上からリュウ、グレル、シュウ。
それを見たキラが、にこにことして言う。
「うんうん♪ さっすが私の主だぞーっ! グレル師匠はどうか最後までわからぬが、シュウには余裕で勝つぞ♪」
メガホンを通して言ったその台詞は、隣を走るカレンの耳にもよく聞こえていた。
「ちょっと、お義母さま?」と、キラの顔を見て眉を吊り上げたカレン。「勝負は最後まで分からないのですわっ」
「おい、メガホンを通すなカレン。私の猫耳にはキンキンするぞ…。それに、やっぱりシュウはリュウに勝てぬと思うぞ」
「そんなことありませんわっ!!」
と声をあげたカレン。
キラが思わず猫耳を塞ぐ中、大きく息を吸い込んだ。
そしてシュウに向かって絶叫する。
「ヘイ、カモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!!」
それを聞いたシュウ。
「フィーバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!」
まさかの加速。
グレルを抜かし、リュウの傍らに並ぶ。
それを見てむっとしたのはマナ。
メガホンを口に持っていく。
「グレルおじさん、早く来て…」
それを聞いたグレルも加速。
「嫁さんに誘われちまったぞーっと♪」
シュウとリュウを抜かしてトップに。
ここでむっとしたキラも、口にメガホンを持って行って声をあげる。
「おい、私の愛する主!」
返って来る返事は、キラの猫耳に届く。
「何だ、俺の可愛い黒猫!」
「そっ…そのっ……!」
「おう?」
「い、1位だったら、こ、今夜のイトナミ…」
「今夜のイトナミ…!?」
「そ、そのっ…! あ、あああ、朝まで良いぞっ!」
「お…おおおっ!!」と目をきらきらと輝かせたリュウ。「まーじでええぇぇええぇぇえぇぇぇぇぇぇえぇぇぇえぇぇぇえぇぇえぇぇええぇえぇえぇぇええ!?」
超加速。
「よっしゃああぁあぁあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁああぁぁぁあぁぁああぁぁぁあっ!!」
あっという間にシュウの傍らから離れ、グレルを追い越し、ダントツトップに。
キラの台詞を聞いたカレンが顔面蒼白している。
「お、お義母さま? そ、そこまでして勝ちたいのですかっ…!?」
「リュ、リュウは誇り高いのだっ…! 息子相手にまだまだ負けさせてはならぬのだっ……!」
「お義父さまみたいな人は、大人気ないって言うのですわっ!」
「……(ひ、否定してやれないぞ、リュウ…)」
リュウの怒声が聞こえてくる。
「おいこらカレンっ!! てーめえ、今なんか言ったか…!?」
ふん、と鼻を鳴らしてカレンが答える。
「いいえ、大したことは言ってませんわよ。ただ、お義父さまが子供だと言っただけですもの♪」
「んだとコラ! 生意気なんだよ、てめーは!」
「あら、本当のことですも――」
「乳にパッド何枚も入れてんじゃねーぞ、この貧乳が!!」
それ禁句。
ふと背に手を持っていったカレン。
マシンガンを取り出し、リュウに向けていざ構え。
「なぁぁぁぁんですってえぇぇえぇぇえぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!?」
ズババババババババっ!!
と、入っている弾丸30発全てを連射。
手の指だけでは挟みきれなかった弾丸は、横に走ったり、ジャンプしたりして避けたリュウ。
顔を引きつらせる。
「マシンガン持って来てんじゃねえ!!」
カレンのおかげでシュウとグレルが前へと出た。
「カレンちゃんナイス…」
とマナがにやける一方、頭を抱えるキラ。
「ふっ、ふにゃあぁぁあぁぁあぁぁあっ! リュウがあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁああぁぁああぁっ! カっ、カレンっ! 何するのだっ!」
「うふふ♪ シュウ、がんばってぇーっ♪」
「むうぅぅぅっ!」
と頬を膨らませたキラ。
むきになって声を上げる。
「リュウ! 優勝したら今夜のイトナミは生だぞっ!!」
「お…、おおおおおおおお!!」
と再びシュウとグレルを抜かすリュウ。
「ああっ!」
と声をあげたカレン。
キラに続いてむきになる。
「シュウ! 優勝したら、あ、あたくしも今夜は避妊しないでしたいのですわっ!!」
「え…、ええええええええ!?」
と、赤面しながらリュウに追いつくシュウ。
顔を見合わせるカレンとキラ。
その間に火花散る。
キラ、カレンと赤面しながら交互にメガホンで絶叫。
「リュウ! こ、こここ、今夜好きなだけ挟んでやるぞ!」
「ちょ、お義母さま…!? シュ、シュウ! 今夜好きなだけ挟……ゴホゴホっ! な、何でもないのですわっ…!」
「リュウ! 今夜、な、な、中出ししても、よ、よ、よ、良いぞおぉぉぉぉぉおぉおおっ!!」」
「お、おおお、お義母さま!? あ、あたくしだってぇっ…! シュウ、今夜、な、な、な、ななな、中に出してえぇぇええぇぇぇぇぇぇえぇぇえぇぇえええぇぇえぇぇええっ!!」
リュウがシュウを追い越し。
シュウがリュウを追い越す。
その繰り返しで、グレルを大きく突き放していく2人。
そんなもんだから、コースの折り返し地点に来たときに水上バイクにかなり接近しており。
カレンとキラは夫の顔を見ながら顔を引きつらせた。
息を切らして興奮している。
鼻の穴を広げて興奮しまくっている。
絶対かけっこ勝負だということを忘れている。
「ね、ねえ、お義母さまっ?」
「な、なんだ、カレンっ?」
「な、何だか、かけっこ勝負の雰囲気じゃないのですわっ…!」
「う、うむ。このままじゃ掴まって犯される雰囲気だぞっ…!」
「と、特にバケモノの中のバケモノであるお義父さまはすぐにでも追いついて来て――って、来ましたわよ、お義母さまああぁぁあぁぁああぁぁあぁぁあっ!!」
と、だんだんと近づいてくるリュウに、カレンが顔面蒼白しながら絶叫。
「ふっ、ふにゃあああああああっ!」
このままじゃ掴まる!
と、水上バイクから飛び降りたキラ。
己の足で海面を走り出す。
その方が速いから。
リュウが興奮に息を切らし、にやけながら追いかけてくる。
「オイ、待てよ俺の可愛い黒猫! なあ、さっき何て言ったっ? なあなあなあ!」
「ふにゃあああっ! ふにゃああああああっ! お、おおお、犯されるうぅぅぅううぅぅうぅぅううぅぅぅうっ!!」
「今夜のイトナミこれから始めようぜっ? なあ、生なんだろっ? 中出ししてほしいんだろっ? 朝までしてーんだろっ? え!?」
「ふにゃあああっ! ふにゃああああああっ! や、ややや、やっぱりダメなのだああぁぁああぁぁあぁぁああぁぁああっ!!」
折り返し地点を曲がったと思った途端、キラがコースから大きく外れて逃げ出す。
それを追っていくリュウ。
「まあ、戦線離脱っ…!?」と瞳を輝かせるカレン。「このままならシュウが優勝ねっ……!」
と確信した。
が、マナが口にメガホンを持っていく。
「させないよ、カレンちゃん…」
そう言うなり、シュウ目掛けて隕石を召喚するマナ。
振ってきた隕石を、
「ナ・マ・で・イ・ト・ナ・ミィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!!」
と、ガッツポーズでジャンプし、その拳で破壊したシュウ。
そのイトナミ魂、本物。
じわじわじわじわとレオンが操縦する水上バイク――というかカレンに近づいて行く。
「シュウっ! このままゴールよゴールっ! 浜まで戻って優勝よっ! そしたら、さ、さ、さ、さっきあたくしが言ったこと、今夜していいからっ…!」
「ナマナマフィーバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!」
と、カレンとレオンの脇を通り過ぎ、浜へと猛ダッシュしていくシュウ。
マナが慌てたように言う。
「グレルおじさん、兄ちゃんよりも先にゴールしてっ…!」
「了解だぞーっと♪」
と、グレル。
今まで力を抜いていたのか何なのか。
人間の肉眼では確認出来ないような足の回転でシュウを追いかけていく。
あっという間に抜かされた水上バイク。
カレンが狼狽して絶叫する。
「きゃああああっ! きゃああああああっ!! シュウっ!! 早くゴールしてええぇえぇぇぇええぇぇぇえぇぇえぇぇえええぇぇえっ!!」
ゴールの浜では、リンとランがテープを持って待っている。
シュウとグレル、どっちが先にゴールするのか。
カレンとマナは必死になって声援を送る。
「シュウっ! がんばってえぇぇええぇぇえぇぇええぇぇえっ!!」
「グレルおじさん、がんばって…!!」
浜にいるリン・ランも声援を送る。
「兄上がんばってなのだああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁあぁぁあぁぁぁあっ!!」
さらにミヅキ、リーナと続く。
「シュウっ! 優勝できるよ、優勝っ!」
「おおおおっ! シュウくん、まさかの優勝すんでコレはっ!」
「うっそ、マジで兄貴だよ…!」
とサラが目を丸くした。
この時点で、グレルはシュウのたった1m後ろにいた。
もうシュウは追いつかれる寸前だ。
だが、このときシュウはゴールテープの一歩手前にいた。
両腕をあげ、瞳を輝かせるシュウ。
(生っ……!!)
今、ゴールテープを――、
「中出しぃぃぃぃぃぃぃいいぃぃいいぃぃいぃぃいぃぃぃぃぃぃいぃぃいぃぃぃぃぃいぃぃいっ!!」
脇にキラを抱えたリュウが、ぶっ千切って行った。
「……………………」
その夜。
無人島でリンクの誕生日パーティーを楽しむ一同。
ただ1匹、シュウだけは不機嫌そうだった。
「シュウ、そろそろ機嫌直して…」
と苦笑するカレン。
「だってさ」と頬を膨らませるシュウ。「オレが優勝したと思ったのに、どうしてあそこで親父がっ…!」
コースから大きく外れていたのに、シュウがゴールする寸前に脇の方から現れてゴールテープをぶっ千切って行ったリュウ。
止まることなく、キラを抱えたまま無人島の奥の方へと駆けて行って、まだ戻ってこない。
「まあ、いいじゃない? シュウ。あなた、2位だったんだし!」
「そうだけどさ、カレン…」
「あのグレルおじさまより速かったのよ? シュウ? すごいじゃない!」
「そ、そうだけど……」
と口を尖らせ、ちらりとカレンの顔を見るシュウ。
シュウの胸中を察し、カレンは赤面した。
「も、もうっ…! そんなに避妊しないでしたいのっ……!?」
「うん」
と、はっきりと頷くシュウ。
「わ、分かったわよっ…! こ、今夜ねっ……!」
とカレンが言ってやると、ぱっと顔が明るくなった。
「まーじでぇぇぇぇぇ?」
ぐふふ、と笑いカレンを膝の上に抱っこする。
黒猫の尾っぽは嬉しそうにパタパタと振られている。
「まったくもう、シュウったら…! やっぱりお義父さま似ねっ……!」
と呆れたように言うカレンだが、満更でもなさそうだ。
「それにしても」と、サラが溜め息を吐いた。「親父の奴、まさか無人島で朝までイトナミする気かね」
「ああ、まったく戻ってくる気配のないこの様子だとそうだな…」
と、苦笑したシュウ。
無人島を見渡しながら、ふと感じた。
(ここ、オレと親父が戦う場所になる気がする…)
人が居なくて広いこの場所は、思えばリュウとの戦闘に向いていた。
「兄貴? どうかした?」
「いや、何でもねえ」
と、サラに顔を戻したシュウ。
もう大分大きくなっているサラの腹に目を落とした。
「来月だな、サラ。産まれるの」
「うん、来月だよ。兄貴がオジサンになるの」
「う、うるせーぞ…」
「あはは」
と笑ったサラ。
自分の腹を撫でて微笑む。
「ママになるんだよね、アタシ。どんな子が生まれて来るのかなあ…」
希望としては、
(レオ兄似の可愛い男の子がいーなっ♪)
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