第148話 六女の願い『おじさん、またあたしを見て』 後編


 シュウ宅の裏庭。
 グレル目掛けて、小石が豪雨のように降り注ぐ。

「今日の天気は晴れのち小石だぞーっと♪」

 と、大量の小石を浴びながらも、何ともない様子のグレル。

(さ、さすがバケモノ…)

 と屋敷の角から覗いているカレンやサラ、ユナは苦笑してしまう。
 グレルが自分の左腕を見、右腕を見たあと、辺りをきょろきょろと見回す。

「あれぇ? ユナぁ? ジュリぃ? どこ行ったぁ? ……お、いたぞーっと♪」

 とユナとジュリの姿を見つけたグレルが、スキップしながら向かっていく。
 ぴくっと左眉を動かしたマナ。

「グレルおじさん、あたしを見て…」

 呟くように言って、今度はグレルに石を降らせる。

「おおーっ? 晴れのち小石のち石だぞーっと。おーい、ユナぁ♪ おじちゃんと――」

「あたしを見て…!」

 と少し声を高くしたマナ。
 石は岩へ。

「おおーっ? 晴れのち小石のち石のち岩だぞーっと。なあなあ、ユーナ♪ おじちゃんと――」

「あたしを見て!!」

 と叫んだマナ。

(やばっ……!!)

 と、カレンとサラ、ユナが顔面蒼白した瞬間、ついに岩は隕石へ。

「ん?」

 とマナの声に気付き、振り返ったグレル。
 その頭上に、

 ズドォォォォォン!

 と落ちた隕石は、

 パッカーーーンっ!

 と真っ二つに。

  (バ、バケモノにも程がある…)

 と顔を引きつらせてしまうカレンとサラ、ユナ。
 一方のマナ、グレル目掛けて隕石召喚連発。

 ズドドっ!

「おおー? なんだあ?」

 グレルの身体が隕石に埋もれていく。

「今日は天気が変わりやすいなあ」

 ズドドドドっ!

「晴れのち小石のち石のち岩のち隕石だぞーっと♪」

 ズドドドドドドっ!

「がっはっはー! なかなかお目に掛かれない天気だぞーっと♪」

 ズドドっ!
 ズドドドドっ!!
 ズドドドドドドドドドドドドドドっ!!!

 地震じゃないかと思ってしまうような地響きに、山積みになった隕石。
 グレルの身体は埋もれて見えなくなってしまったが、笑い声が聞こえてくるところからすると何ともない様子。

 それよりまずいことになっているのはマナの方。
 いつもの冷静沈着な様はどこへやら。

「あたしを見てっ!! グレルおじさんっ!!」

 と半ば発狂し、隕石に埋もれているグレル目掛け、

 ズガァァァァァァンっ!!

 と地から岩を突き上げる。
 隕石の山を崩し、現れた尖鋭な岩。
 その先端に、またグレルがきょとんとして座っている。

「なんだあ?」と、また己の尻に目を落としたグレル。「おおーっと! 2度目の浣腸はやばいぜーっと!」

 尻から岩を引っこ抜き、地に飛び降りて屋敷の玄関の方へと駆けて行く。

「実がもれちまうぞーっと!」

 というか、完全にもらしながら。

 それを顔を引きつらせながら見送ったカレンとサラ、ユナ。
 グレルが駆けて行った方を指差しながら、声をそろえてマナに訊く。

「ねえ、本当にあれが好きなの!?」

「…ハァっ…ハァっ……!」

 カレンたちに背を向けた状態で立っているマナ。
 興奮のあまりにか、肩で息をしている。

「…お、落ち着いて」

 とカレンたちが言うと、マナが散らばっている隕石や突き出た岩を消した。
 崩れた地を均し、呼吸を整えてから振り返る。

(良かった落ち着いた…)

 とマナの顔を見て思ったカレンたちだったのが。

 グレルの後を追って行ったマナが、トイレから出てきたグレルにポケットの中の薬を突き出し、

「もう犯す…」

 と一言。
 カレンたちは驚愕しながら前言撤回。

(お、落ち着いてなかったぁああぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあっ!)

 一方のグレル。
 ぱちぱちと瞬きをしながらきょとんとしている。

「お? 犯すっておじちゃんのことかあ?」

 マナが頷き、さらにグレルに薬を突き出す。

「飲んで…」

 グレルが首をかしげ、マナから薬を受け取った。

「何の薬だあ?」

 と、訊いておきながら返答を待たずに薬を飲み干したグレル。
 マナがにやりと笑う。

「これで良し…」

「どれっ!!」

 と、グレルのパンツの中を覗いたのはサラである。
 目を丸くする。

「うわ、マジでスイカがキンカンに…!」

「お?」と自分のパンツの中を覗いたグレル。「おおーっと! おじちゃんの金メダルが可愛くなっちまったぞーっと!」

「よし、マナ! 犯(や)っちゃえ!」

 とのサラの言葉に頷いたマナ。
 サラと共にグレルを引きずっていく。

「おおーっ? おじちゃん犯されるぞーっと!」

 自分の部屋へとやって来たグレル。

「待ってたぞ、グレル師匠…!」

「待ってたわ、グレルおじさん…!」

 とキラとミラに出迎えられながら、部屋の中を見回した。

「オレの部屋がいつの間にかラブホと化してるぞーっと」

「い、いよいよなのですわあぁぁあぁぁあっ!」

 と、カレン。
 部屋の中に入り、鍵を閉める。

 それを確認したサラ。
 お代官様ごっこの気分で、グレルの身包みを剥がしていく。

「良いではないか、良いではないか♪」

「お代官様お止めくださいだぞーっと! あーーれーーーっ♪」

「げへへへへ――って、クサっ!!」

 サラ、飛び退る。
 キラが鼻を摘んで言う。

「ああ、臭うな…。グレル師匠、シャワー浴びてきてほしいぞ……」

「おー? さっき実もらしちまったからなあ。どれ、尻洗って来るぞーっと♪」

 と、備え付けのバスルームにグレルが入って行き、シャワーの音が聞こえ出す。
 マナは服を脱ぎ、下着姿でベッドの中に入って準備。

「ところで…」

 と口を開いたマナ。

「うん」

 と、相槌を打ったカレンとキラ、ミラ、サラに訊いた。

「どうやって犯すの…?」

「…………」

 数秒の間、シャワーの音だけが響いた部屋の中。
 しまった、とサラが頭を抱える。

「おっ、教えておくの忘れたあぁぁあぁぁああぁぁあっ!」

 続いてキラがごほんと咳払いをし、赤面しながら言う。

「そ、その、だな、マナ? は、母上は日々父上に犯される側だから、その、あれなんだが…」

「あんもう、ママ羨ましいっ」

「ミ、ミラは黙っていろ。そ、それでだな、マナ? その、えーとぉ…、う、う、う、上に、の、の、の、乗ってしまえば良いのではないかっ……!?」

 キラに続き、ごほんと咳払いをしたカレンも赤面して続く。

「そ、そ、そ、そんな感じよ、マナちゃんっ…? で、でも長時間乗ってるのはちょっと疲れる…かしらっ……」

 マナが首をかしげる。

「上に乗ってるだけなのに疲れるの…?」

「えっ!?」

 と、裏返ったカレンとキラの声。

「やーねぇ、マナったら」

 つんっ♪

 と、マナの額を突いたミラが笑う。

「動くから疲れるのよーう」

 マナが再び首をかしげる。

「どう動けばいいの…?」

「えっ!?」

 と、再び裏返ったカレンとキラの声。
 サラが声をあげる。

「ああもうっ! 時間がないっ! いい!? マナ!」と、マナをグレルと想定し、マナに跨ったサラ。「こう、動くの! こうっ! こうだよ、こうっ! こうね、こうこうこうっ!!」

 カレン、キラと同意して頷く。

「そ、そうそう、そんな感じよマナちゃんっ…!(サ、サラあなた、何て動きを…!)」

「う、うむ、サラの通りだぞっ…!(サラおまえ…、凄くないか?)」

 サラの動きを良く見たあと、マナが頷いた。

「分かった…」

「じゃあ、練習始めっ! ほら、アタシをグレルおじさんと思って乗って!」

「はい、サラ姉ちゃん…」

 と、サラの上に跨ったマナ。
 サラを真似て動いてみるものの、

「違う! もっと速く!」

 早々からダメだしを食らう。

「は、はい…」

「もっと!」

「は、はいっ…」

「もっとだって!」

「は、はいぃっ…」

「犯す側なんだから精一杯楽しむ勢いでっ!! ――って、お姉ちゃんは練習しなくていいっ!! 枕に跨ってないで、枕返して、枕っ!!」

「あん、パパとするときのために枕で練習してたのにぃ」

「ミーーーラァァァァァァァァァァァ……!?」

「きゃ、きゃああああっ! ママごめんなさああああああいっ!!」

 なんて騒いでいるうちに、いつの間にか1時間が経過。
 サラにビシビシと練習させられたマナが、ベッドに横たわって息を切らす。

(つ、疲れた…。でもこれで大丈夫かな……)

 なんて思った数秒後、はっとしてバスルームのドアに顔を向ける。

「グレルおじさんまだ…!?」

 そわそわとしながらカレンが言う。

「そうなのよ、まだなのよ。ずいぶんと遅いですわねえ…」

「なーんだ、もう…。のんびり入浴するなら言えっての。時間がないと思って焦ったじゃん」

 と脱力してベッドに倒れたサラの一方、マナが立ち上がった。
 焦ったようにバスルームの方へと駆けて行く。

 キラが訊く。

「どうしたのだ? マナ。おまえも今のうちに休んで――」

「あの薬、1時間から2時間で効果切れる…」

「――ええっ!?」

 と声をあげたカレンとキラ、ミラ、サラ。
 サラがベッドから飛び起き、バスルームへと駆けて行ってドアをどんどんと叩く。

「グレルおじさん!? ねえ、グレルおじさん!?」

「今行くぞーっと」

 と、グレルの声。
 もう浴室から出て脱衣所にいるようだ。

「ねえ、グレルおじさん!? (薬の効果は)大丈夫!?」

「余裕で大丈夫だぞーっと」

 とのグレルの声を聞いて、安堵したカレンたち。
 サラが続ける。

「じゃあ(薬の効果が切れる前に)早くしてよ、グレルおじさん」

「1分後に行くから待ってろよーっと♪」

 ということで、サラとマナはバスルームの前からベッドの方へと戻っていった。
 再びベッドに入り、グレルを待つマナ。

(グレルおじさん…)

 いつもは動悸を感じることはあまりないのだが、今は少しそれを感じている。

(またあたしを見て…)

 そして1分後。
 バスルームのドアからカチャっと音がし、マナは布団をぎゅっと握る。

(来たっ…!)

 とそこにいる女たちがバスルームのドアに顔を向けると同時に、全裸で姿を現したグレル。

「さあ、おじちゃん犯されるぞーっと♪」

「あはは、張り切ってるねー」と笑ったサラ。「――って…!?」

 グレルの股間に目を落として硬直。
 続いてカレンとキラ、ミラ、マナも硬直。

 次の瞬間、声を揃え、

「ぎっ、ぎゃあぁぁああぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁあああぁぁあああっ!!」

 絶叫した。

 どうやら薬の効果は切れたらしい。
 キンカンは元のスイカに。

 半ばパニックに陥り、部屋の中を逃げ惑う女たち。

 それを見たグレル。

「おー? 鬼ごっこかあ?」と勘違いし、「おじちゃんも混ざるぞーっと♪」

 真っ裸のまま女たちを追いかけ始めた。

「ほーれほれほれ、カレン! 早く逃げねーとおじちゃんに捕まっちまうぞーっと♪」

「きゃああああああっ! きゃああああああっ!」

「ほーれ、捕まえたぞーっと♪」

「いっ、嫌あああああああああああああああああっ! 離してっ…! 離してくださいっ! たっ、助けてシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥっ!!」

 とグレルに捕まり、泣き叫ぶカレン。
 その声を聞き、慌ててグレルに駆け寄ったサラ。

「ちょっ、ちょっとカレン離してよグレルおじさん――ってぇ!?」カレンに続いてグレルに捕まった。「ぎゃあああああああああああああああああああっ!!」

「サラも捕まえたぞーっと♪」

「おっ、おじさんスイカっ…! スイカ当たってるって! うわぁああぁぁあぁぁあぁぁあっ!! レっ…レオ兄、助けてえぇぇええぇぇえぇぇぇえぇぇぇえぇぇぇえぇぇぇえぇえぇぇええぇえっ!!」

 とサラも泣き叫び。
 キラが離れたところから顔を強張らせてグレルを指差す。

「おい、グレル師匠っ…!」

「どうした、キーラ♪」

「は、離すのだっ! 私の可愛い娘と息子の嫁を、今すぐ離――」

「なーんだ、おまえも捕まえてほしいのか?」

「は!? 違――」

「ほーれほれ、捕まえてやるぞーっと♪」

 と左腕にカレンを、右腕にサラを抱っこしているグレルがキラを追い駆け回す。
 キラ、大パニック。

「ふにゃああああああああああああああああああああっ!!」

「待てよーっと♪」

「来るなっ! 来るなあっ!! ふっ…ふにゃあぁぁあぁぁあんっ! リュウっ…! リュウ助けてなのだあぁああぁぁあぁああぁぁぁあっ!!」

 とカレン・サラに続いて泣き叫ぶキラ。
 寄って来るグレルに爪をぶんぶんと振り回す。

 そんなもんだからカレンとサラに当たりそうになり、グレルが慌てて2人を庇う。

「危ねーぞーっと!」

 その際、キラの爪が右腕に当たったグレル。

「お?」と、カレンとサラを降ろし、腕から流れ出る血を見たあと、「なあ、治癒魔法掛けてくれねえ?」

 と、今度はミラを追いかけ始めた。

 もう泣いているミラ。
 死に物狂いで逃げ回る。

「来ないでえぇぇええぇぇえぇぇぇえぇぇぇえぇぇぇえっ!!」

「なあ、ミラってばよー」

「スイカなんて嫌よおぉぉぉおおぉぉぉおおぉぉおぉぉおおっ!!」

「おじちゃんの傷、治してくれよー」

「私がほしいのはパパのメロンよ、メロンっ! メロ――」

 と、グレルに捕まったミラ。
 顔面蒼白して絶叫する。

「メロっ、メロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロっ!! パっ、パパ助けてえぇぇえぇぇええぇぇぇええぇぇええぇぇええぇぇえぇぇぇえぇぇええぇぇえええっ!!」

 そこへ帰宅したシュウ。
 玄関に入った途端、女たちの絶叫に何事かとぎょっとする。

「お、おい、どうした!? おい!?」

 と靴を脱ぎ捨て、声のする方へと猛ダッシュで駆けて行ったシュウ。
 グレルの部屋前で立ち止まった瞬間、

 バァンっ!!

 とドアが開かれて顔面を強打。
 中からカレンとキラ、サラ、ミラが泣きながら出てくると同時に、後方へと倒れる。

「――ガハァっ……!!」

 仰向けで床に転がったシュウの身体を、女たちが泣きながら揺する。

「シュウ助けてっ! シュウっ!!」

「シュウっ、母上怖いのだあぁぁあぁぁあっ!!」

「おっ、お兄ちゃあぁあぁぁあぁぁん!!」

「あ、あああ、兄貴っ! 兄貴っ! キンカンがスイカっ!! ス、ススス、スイカっ!!」

 事態がよく分からないシュウ。

「お、おい、落ち着いて何が起こったのか話せ」

 と、困惑しながら身体を起こしたとしたところ、

「おーい、シュウ? 帰ったのかー?」

 と全裸で登場したグレルの股間が突然目の前に。
 女たちが慌てて逃げ出すと共に、絶叫した。

「ぎっ、ぎゃあああぁぁああぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁああぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁああっ!!」

「おー、いたいた。なあシュ――」

「あっ、あああっ、あんた何してんだよっ!? 早くパンツ穿いてくれっ!!」

「えー? でもオレ、これからマナに犯されなきゃなんだぞーっと」

「ふざけんなスイカっ!! そんなのキンカンサイズでの話に決まってんだろ!?」

「そうなのかー?」

 と、部屋の中に顔を向けたグレル。
 その目線の先には、ベッドに潜っているマナがいる。

 はっとした一同。
 慌てて部屋の中を覗き込んだ。

「マナ!?」

「マナちゃん!?」

 ゆっくりと布団の中から顔を出すマナ。
 一同の驚愕した顔を見たあと、グレルの顔を見つめた。

(グレルおじさん…)

 グレルの股間を見て激しく戸惑ったものの、ベッドから起き上がってグレルに手を伸ばす。

「あたしを、見て…! あたしを……!」

 必死な様子のマナを見て、シュウたちは必死に首と手を横に振って制止する。

「いっ、いやいやいやいやいやっ!! 裂ける裂ける裂ける裂ける裂けるっ!!」

 と焦るシュウたちの一方、マナの方へと向かって行くグレル。

「誘惑されたぞーっと♪」

「ぎっ、ぎゃああぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁあっ!!」

 とシュウとキラ、サラがグレルを背後から押さえつけ、

「ダっ、ダメェエエェェエェェェエェェェェェェェエっ!!」

 と、カレンとミラが、マナを背に庇って両腕を広げる。

「どいて、ミラ姉ちゃん、カレンちゃんっ…!」

 とグレルの方へと行こうとするマナを、カレンとミラが抱きすくめた。
 カレン、ミラと真っ青になって首を横に振って言う。

「ダ、ダダダ、ダメよマナちゃんっ!!」

「そ、そそそ、そうよマナっ!!」

「嫌っ…!」と、マナが声をあげる。「身体でグレルおじさん繋いでおかなきゃっ…! あたしから離れて行っちゃうっ……!」

「大丈夫よマナちゃん! 大丈夫っ!」とマナを宥めるように言ったあと、サラを見て眉を吊り上げるカレン。「ああもうっ、サラが変なこと言ったからよ!?」

「ごっめーん。大丈夫だから落ち着きなよ、マーナ。ねえ? グレルおじさん?」

 と、サラ。
 一同、グレルに注目。

 グレルがぱちぱちと瞬きをしながら訊く。

「何の話だあ?」

「グレルおじさんっ…!」

 と、カレンとミラの腕からすり抜けたマナ。
 グレルに駆け寄っていく。

「あたしを見てっ…! グレルおじさんっ…!」

「お? 見てるぞ?」と、グレルが目を見開き、マナに顔を近づける。「ほーれほれ、おじちゃんの愛らしい瞳にマナの顔が映って――」

「意味ちげーよ」

 ドスっ

 と、サラのチョップを背に食らい、グレルが首をかしげる。

「じゃ、どういう意味だあ?」

 カレンが溜め息を吐いて訊く。

「グレルおじさま、どうして突然ユナちゃんを口説くようになったのかしら? マナちゃんと結婚するって言っていたのに」

「お? なーに言ってんだよ。口説かれたのはオレの方だぞーっと♪」

 と笑うグレルに、眉を寄せて声をそろえる一同。

「ハァ?」

「だってよ、ユナがオレの前で面食いだって言うんだぜ?」

「それが?」

「オレ口説かれたよーなもんじゃねーかよーう♪」

「……」

 一同、心底謎。

(何故そう思えるのか…)

 グレルが続ける。

「ユナも女なんだからよ、ちったぁ乗ってやった振りしねーと可哀相だろ? ユナの女のプライドを傷つけちまうっていうかよ。まぁーったく、何でそれが分かんねーかなあ、おまえたちはー」

 と言って深い溜め息を吐いたグレルに、引きつりまくった一同の顔。

(張り倒したい……!!)

 と心底思うが、このバケモノ相手では無理な願いである。

 マナに目を落としたグレル。
 マナの頭を撫でながら笑った。

「なーんだ、マナ? おじちゃんが浮気すると思ったのか? ん?」

「もうあたしのこと見てないのかと思った…」

「そんなわけないぜーっと! おじちゃんの嫁さんはマナだけなんだぞーっと♪ それで必死におじちゃんのこと犯そうとしたわけか?」

 こくんと頷いたマナ。
 グレルがさらに笑い、マナを抱っこする。

「何もそんなに焦らなくても良いぞ? おじちゃん、マナが大人になるまで待ってるからなっ♪」

「本当…?」

「ああ、本当だぞーっと♪」

「約束ね…」

 と、グレルの唇にキスしたマナ。

「――!?」

 一同、衝撃。
 マナがクマに噛まれているという目の錯覚を起こした。

 はしゃいだ様子のマナとグレルを交互に見て、シュウは脱力。

「あーもー、色々心配して損した。風呂入って疲れ取ろ…」

 と、肩を落とし腕をだらんとさせて部屋の外へと出て行ったシュウ。
 少ししてその耳に入ってきたのは、ドスドスという足音。
 何だか近寄ってくる。

 女たちがこんなに重たい足音のわけがなく。

 シュウが振り返ると、

「おーい、だから傷治してくれよーう!」

 グレルが追いかけてきていた。

「――ぎっ、ぎゃあぁああぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁああぁぁあぁあぁぁあっ!!」

 バッターーーンっ!

 と、グレルに押し倒されたシュウ。
 真っ青になって絶叫する。

「ぎゃああああっ! ぎゃあああああっ! おじさんパンツ穿いてっ! お願いパンツ穿いてっ!!」

「なあなあ、ココだよココ。ココに治癒魔法かけてくれよ、シュウ」

「パンツパンツパンツパンツパンツっ!!」

「ん? パンツ?」

「早く穿い――って、ぎゃああぁぁあぁぁあぁぁあっ!! アンタ何すんのおぉぉぉぉおおぉおおぉぉおぉおおっ!!」

「おまえがパンツパンツ言うから、どうしたのかと思ってズボン脱がせて確認してやってんじゃねーかよ♪」

「オレのことじゃな――」

「シュウの今日のパンツはハート柄っ♪」

「バラすなっ!!」

「可愛いぜーっと♪」

「カレンが買って来たんだよっ!!」

「うんうん♪ ピッタリの可愛いパンツだな、この銅メダルには♪」

「オッサン触んなっ!! うわあぁぁあぁぁあっ!! たっ、たたたっ、助けてっ! 助けてレオ兄っ…!!」

 恐怖でパニックに陥ったシュウ。
 泣きながら絶叫した。

「助けてっ、親父ぃぃいぃぃいいぃぃいいぃぃいぃぃいぃぃいぃぃぃいぃぃいいぃぃぃぃぃいぃぃいいっ!!」

 数秒後。

「おい、シュウ!? どうした!?」

 と慌てた様子で、予定よりも数時間早く帰宅したリュウ。
 玄関先、目の前の光景に、

「………………」

 硬直した。
 
 
 
 
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