第147話 六女の願い『おじさん、またあたしを見て』 中編


 シュウ・カレンの夫婦部屋の中。
 マナが立ち上がる。

「そーれだ…」

 カレンとサラはぱちぱちと瞬きをした。

「そーれだって…」と、顔を見合わせたあと、マナの顔を見て訊く。「今の、実行するの?」

 マナが頷いた。
 グレルを再び振り向かせるため、どうやらカレンの『薬を利用』作戦と、サラの『身体で繋ぐ』作戦を実行するらしい。

 カレンが訊く。

「それって…、グレルおじさまに痺れ薬を飲ませるとか?(昔のミヅキくんみたいに…)」

 サラが続く。

「で、グレルおじさんが動けないのをいいことに犯すとか?(昔のミヅキみたいに…。いや、未遂だったけど)」

 マナが首を横に振る。

「そんなことをしたところで、身体で繋いでおけない気がする…。こういうのはやっぱり同意の上で…」

「同意…」

 と鸚鵡返しに呟いたカレンとサラ。
 サラが訊く。

「つまり、何? 犯してもいいですか? ってグレルおじさんに訊くの?」

「サラ…」と、カレンが苦笑。「抱いてください、とかの方がいいと思うわよ? ねえ、マナちゃん?」

 こくんと頷いたマナ。

「そして薬を飲ませる…。最初は平気かなって思ったんだけど…、よく考えてみるとやっぱりスイカを最初から受け入れるのは無理そうだから…」

「どんな薬?」

 とカレンとサラが訊くと、マナが戸口へと向かいながら答えた。

「スイカをキンカンにしちゃう薬…」
 
 
 
 今朝のあれ以来、部屋にこもって魔法薬の調合を行っているマナ。
 夕方に帰ってくるらしいグレルに飲ませる気満々のようだ。

 一旦昼に帰ってきたシュウとレオン。
 キッチンでカレンとキラ、ミラ、サラに囲まれて昼食を食べていた。

「はぁっ?」

 と、カレンたちの話を聞いていたシュウが声を裏返す。
 同様にレオンも声を裏返して続く。

「な、何だって?」

「いや、うん、だからね?」と、サラはもう一度言う。「マナが今日、グレルおじさんの股間に生えてるスイカを薬でキンカンサイズまで縮めて犯す気……じゃなかった。抱かれる気満々なんだよね」

「ま、待て」と、顔を引きつらせたシュウ。「何で!?」

「何でって、最初からスイカじゃ――」

「そうじゃなくて! マナのやつ、もしかしてマジでグレルおじさんに惚れてんのか!?」

「みたいよ…」と苦笑したカレン。「まあ、マナちゃんが好きだっていうならいいじゃない? お義父さまがいない今日が進展のチャンスよ」

「そ、そりゃ親父がいない今が進展するチャンスだけどっ…!」と、頭を抱えたシュウ。「なっ、何であのバケモノなんだよマナァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!」

 と衝撃のあまり絶叫した。
 その傍ら、衝撃のあまり蒼白しているグレルのペット・レオン。

「マ、マ、マ、マナ、正気…!? グレルって…えぇ!? グレルって……!!」

「お、おまえたちが焦る気持ちはよーく分かるぞ…」と、サラの隣で顔を強張らせているキラ。「し、しかしマナはグレル師匠と結婚したい模様…。キンカンサイズにしてしまうというし、私は生温かい目で見守るぞ……」

「わ、わ、わ、私も」と、カレンの隣で顔を強張らせているミラ。「マ、マ、マ、マナがそうしたいって言うなら、応援するわっ…。で、でも物凄く心配だから、今日のグレルおじさんとの初エッチは付き添わせてもらうわっ……!」

「つ、付き添うっ?」と、シュウの声がまた裏返った。「ちょ、ミラ、おま、それはどうかと…!」

「だ、だってお兄ちゃん! 心配じゃない! マナが痛がったら私がすぐに治癒魔法をかけてあげるの!」

「私も母として心配だ。私も付き添うぞっ…!」

 と、キラが続き、

「アタシもアタシもー。アドバイスのために付き添うー」

 とサラも続き、

「えっ? じゃ、じゃあ、あたくしもっ…!」

 とカレンも赤面しながら続いた。
 シュウが声をあげる。

「な、何でだよカレン!」

「だって皆が…。大丈夫よ、シュウ。えげつないモノじゃなくて、キンカンサイズの可愛いモノ見るんですもの」

「キ…キンカンの方がいいとか言いそうで嫌だっ!!」

「やーね、ダーリン。あたくしは日々パイナポーをカモォォォォンよっ…♪」

「パ、パイナポーって?」

「あなたの銅メダル(ハート)」

「……。オレ、そこまでえげつねーと思われてんの?」

「何を今さら」

 と、失笑したサラ。
 ミラが笑う。

「大丈夫よぉ、お兄ちゃん。銀メダルのパパなんて、メ・ロ・ン♪ いやぁぁぁぁぁぁぁぁん、私もほしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――」

 ガシャンっ…

「自重しろミラ」

 と、ミラの言葉を早口で遮ったキラの手の中で割れたグラスを見て、ミラの笑顔が引きつる。

「は、はーい、ママ(いやん、怖ーい…)」

 そこへやって来たマナ。

「でーきた…」

 その手には薬の入った小瓶が握られていた。
 シュウの隣に座り、キラに昼食を持って来てもらって食べ始める。

 バクライ(ホヤとコノワタの塩辛)をご飯に掛けて食べる妹を見ながら、シュウは訊く。

「で、でーきたって、その…スイカがキンカンになる薬が?」

 マナが頷く。

「しょ、正気!?」と訊いたのはレオンである。「マナ、本当にグレルでいいの!? グレルだよ、グレル! あのバケモノで天然バカのグレルだよ!?」

 再びマナが頷いて言う。

「ユナに嫉妬する自分を見て、あたし気付いた…。グレルおじさんのこといつの間にか好きになってた…。皆が言うようにグレルおじさんはたしかにバケモノで天然バカだけど…、すごく優しい人だってことも知ってるでしょ…?」

 マナのそんな言葉に、同意して頷いた一同。
 ペットであるレオンは、グレルの優しさを特に知っていた。

 マナが続ける。

「グレルおじさんと結婚するのは、このあたし…。あたし最近パパに似てきたって言われるけど、本当にそうだと思った…。パパがママに対して、それからパパ似のサラ姉ちゃんがレオ兄に対してそうなように、あたしも何としてでも自分の傍にグレルおじさん置いておきたいや…」

 と真剣な顔をして言うマナを見て、シュウとレオンはようやくその現実を実感。
 グレルの優しさは充分に知っているから、マナの気持ちは分からなくもない。

 が、しかし。
 一部の読者さまも言っていたが、やっぱり、

「ゲ、ゲテモノ好きだねーっ…!」

 と思う気持ちが何よりも濃かった。
 
 
 
 夕方。
 シュウ宅の裏庭ではユナとジュリが遊んでおり、レナはミヅキとのデートへ行っている。
 リン・ランは自分たちの部屋で夏休みの宿題中。
 一階にあるグレルの部屋の中では、キラとミラがベッドを整えていた。

 そして玄関にはカレンとサラ、マナ。

 少し開けたドアの隙間には、上からサラ、マナ、カレンと頭が並んでいる。
 外の様子を見ていた。

「そろそろ帰って来るころだよね、グレルおじさん」

「ええ、そうね、サラ。マナちゃん、緊張してる?」

「大丈夫…」

 と言いながら、マナはポケットの中に手を入れた。
 ちゃんと薬があることを確認する。

 数分後、スキップしながら帰って来るグレルの姿を確認。
 カレンとサラが声をそろえた。

「あっ、来たっ!」

 と、玄関のドアを閉め、3人何となく直立してしまいながらグレルを待つ。
 ――が、1分を過ぎても玄関のドアが開かれる気配はなく。

 カレンとサラは眉を寄せると、再び外の様子をドアの隙間から覗いた。

「あれ…?」

「? どうしたの、サラ姉ちゃん、カレンちゃん…」

 と訊いたマナに、カレンとサラが振り返って言う。

「消えた…」

「消えた…?」

 と鸚鵡返しに訊いたマナ。
 外に出て辺りをきょろきょろと見回す。

 するとマナの黒猫の耳に、裏庭の方から声が聞こえてきた。

「おじちゃーん、おかえりなさーい!」

 とジュリの声。
 続いてユナの声。

「あ、グレルおじさんおかえりなさい」

 そしてグレルの声。

「ただいまだぞーっと♪ よーしよしよし、おじちゃんいなくて寂しかったかぁー?」

 マナの頭の中に、グレルがユナやジュリを抱っこしてスキップする姿が浮かんできた。

 左眉をぴくっと動かしたマナ。
 早歩きで裏庭へと向かっていく。

「ど、どうしたのっ?」

 とマナを慌てて追うカレンとサラ。
 裏庭が近くなったとき2人にもグレルの声が聞こえてきた。

「ほーらほらほら、ただいまのチューだぞーっと♪」

「うっ、わああああああああああっ! しっ、しなくていいよおぉぉぉおおぉおぉおおおぉおぉぉぉぉおおっ!!」

 とユナの絶叫。

 マナが裏庭に辿り着き、カレンとサラが眉を寄せて屋敷の角から裏庭を覗く。
 するとそこには、グレルがユナを左腕に抱っこ、ジュリを右腕に抱っこ。
 そしてユナの頬にキスしているシーンに遭遇。

(ま、まずい…)

 とカレンとサラが顔を引きつらせたときのこと。

 マナの周りに漂うピリピリとしたオーラ。
 風も無いのに、マナの肩下まである銀髪の毛先がゆらゆらと動き始める。

「ちょ、マナちゃんやばくない? サラっ…!」

「うん、やばいね」

「も、もしかして、また石を頭に落とすっていうんじゃあ…! 今度はかなり大きい石とかっ…!?」

「いや、そうかもだけど、でもさ? グレルおじさんにマシンガンぶっ放せないって言ってたし、そんなひどいことはしないんじゃないかな」

「あ、ああ、そうね。じゃあ、大丈夫かしら――って、きゃああぁぁあぁぁあ!?」

 カレンはよろけてサラにしがみ付いた。
 地面が揺れている。

「ああ…、マナの仕業だね」と、カレンを支えながら苦笑するサラ。「きっと今、地の底から岩が突き上げてきてるよ……」

「えっ!?」

 とカレンが声をあげた直後のこと。

 ズガァァァァァァンっ!!

 と、グレルの足元から突出した尖鋭な岩が、グレルを突き上げていく。
 その際にグレルの腕からぽーんと飛んだユナとジュリ。

「わあぁぁあぁぁあっ! ジュ、ジュリぃっ!」

 とユナがジュリを腕に抱え、

「よいしょっと」

 サラがユナをキャッチでセーフ。

 一方。
 30mほど突き出た尖鋭な岩の先端に座り、きょとんとしているグレル。

「なんだあ?」と、目を落として己の尻を見、「おおーっと、浣腸されてるぞーっと!」

 一応驚いているのか、声を高くした。
 刺さっているところから少し下のところをバキっと折って地に飛び降り、尻から岩を引っこ抜く。

「危うく実が出ちまうところだったぞーっと」

 と尻を擦るグレル。
 ズボンも下着も見事に裂けている。

 その上空の方を見上げたカレンとサラ。
 顔がだんだん空から地へと下がっていく。

「…ねえ、サラ」

「何、カレン」

「マシンガンはぶっ放せないのに、マナちゃんは何故こんなこと出来ちゃうのかしら?」

「謎」

 今度はグレル目掛けて、小石が豪雨のように降り注いだ。

「今日の天気は晴れのち小石だぞーっと♪」
 
 
 
 
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