第143話 これで完璧? 七女の初体験 後編


 ミヅキのアパートの寝室の中。
 ベッド脇、全裸でボディービルのポーズを取ったレナ。
 マナの薬の効果で興奮状態だ。

 そして絶叫してミヅキを誘惑。

「ヘイ、カモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!!」

「――!!?」

 ミヅキ、驚愕。

(何すんの!?)

 レナのメモその1。

『誘惑するときはボディービルのポージングで「ヘイ、カモォォォォンっ!!」と絶叫』

 見事やってのけたレナは、それが間違っていることに気付いていなかった。
 ミヅキが狼狽した様子で訊く。

「ま、待ってレナ!? 今から何すんの!? プ、プロレス!?」

「NO! ドキドキ♪ 初・体・験っ!!」

「だ、だよね、エッチすんだよね? だ、抱いていいんだよね…?」

 と困惑しながら訊いたミヅキ。

 レナのメモその2。

『逆に誘惑されたときは恥ずかしそうに「ダ…ダメェっ……!」と言いながらライダーキックをかましてベッドへGO』

 発動。

「ダ…ダメェェェェっ……!!」

 ドガァっ!!

「――ガハァっ!?」

 とレナのライダーキックを腹に食らい、

 バァンっ!!

 と背を寝室のドアに叩きつけられたミヅキ。

「あっ、ベッドはこっちだったっ…!」

 と焦ったレナに、

 ドガァっ!!

 と今度は背にライダーキックを食らう。
 吹っ飛んだミヅキの身体は、うつ伏せの形でベッドの上へ。

 悶えて身体を丸めるミヅキ。
 最強人間と最強モンスターのハーフであるレナの攻撃を食らって、痛くないわけがない。
 腹も背も激痛だ。

(な、何かおかしい…! 何かおかしい、何かおかしい、何かおかしい! たしかレナはシュウとカレンちゃんのエッチ見て勉強してきたって言ったよね…!? ってことは、カレンちゃんを言動を参考にしてるハズだよね……!?)

 それなのに何なんだ、このレナは。
 明らかにカレンとは程遠いものを思わせる。

 仰向けになり、困惑しながらレナを見たミヅキ。
 レナがベッド脇にやってくる。

「ハァっ…ハァっ……!」

「レ、レナ、落ち着いて!」

「ミヅキくっ……!」

「な、何か違――」

 ミヅキの言葉を遮るように、レナの手がミヅキの腰のタオルに掛かる。

 レナのメモその3。

『さて始めようとなったとき、モジモジとしながら「んもーう、仕方ないわね、アナタってば…!」と言いながらミヅキくんの服を剥ぎ取って床に投げ捨ててあげる』

 発動。

「ん…、んもーう、仕方ないわね、アナタってば……! ――うらぁっ!!」

 ビシィっ!!

 と床に投げ捨てられたミヅキのタオル。
 当たってたら絶対腫れ上がりそうな勢いのそれを見ながら、ミヅキの顔が引きつる。

(こ、怖っ……!)

 ミヅキが冷や汗を掻きながらレナに目を戻すと、今度は何やら両腕をあげて飛ぶ態勢になっている。

「ちょ、ちょちょちょ、レナ!?」

「ハァっ、ハァっ、ハァっ…! ミヅキくんっ…! ミヅキくんっ……!」

 レナのメモその4。

『ミヅキくんを全裸にしてあげたら「フィーバァァァァァァァァァっ!!」の台詞と共に気合を入れて飛び掛かる』

 発動。

「フィーバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!」

「って、それシュウの――」

 ドガァっ!!

 と、結果的にレナのボディプレスを腹に食らったミヅキ。

「――ガハァっ!!」

 と頭と足が跳ね上がる。
 それと同時に確信。

(レ、レナの言動、シュウとカレンちゃんがゴッチャになってる……!!)

 ミヅキの上に負い被さったレナ。
 息切れが激しい。

「ハァっ、ハァっ、ハァっ…! ミヅキくんっ……!」

「レ、レレレ、レナ!?」

「上手くできなかったらごめんねっ…!」

「えっ!?」

 レナのメモその5。

『ミヅキくんの身体に吸い付きながら言う言葉は「デリシャス♪」』

 発動。

「ちゅううううう……!!」

「いっ、痛い痛い痛い痛いっ! レ、レナ吸いすぎっ!」

「デリシャスっ…♪」

「……(シュウ、そんなこと言ってんのか…)」

「ちゅううううう……!!」

「痛い痛い痛い痛いっ!」

「デリシャスっ♪」

「…っ……!!」

 狼狽したミヅキ。

(食われてる! ぼく、食われてる!)

 がしっとレナの肩を握った。

 レナのメモその7。

『触られたときは「そんなとこ嫌っ…!」と言って頬を染める』

 発動。

「ミヅキくん、そんなとこ嫌っ…!」

「は!? 肩じゃん!?」

「ちゅううううう……!!」

「いたたたたたた!」

「デリシャスっ…♪」

「レナ待っ――」

「そんなとこ嫌っ…!」

「腕じゃん!?」

「ちゅううううう……!!」

「いたたたたたた!」

「デリシャスっ…♪」

「ちょ、レナってば――」

「そんなとこ嫌っ…!」

「頭じゃん!?」

「ちゅううううう……!!」

「ああもう、痛いってばあああああああああああああっ!!」

 絶叫したミヅキ。
 これじゃキリがない。

(ていうか犯される!!)

 やばい。

 と感じたミヅキは、死に物狂いでベッドの脇に転げ落ちた。

「あれっ、ミヅキくんっ…!?」

「お、お、お、落ち着こう、レナ…! ね!? 落ち着こうっ…! 薬の効果が切れてからゆっくり続きしようっ…! ね!?」

 と言いながら、寝室の戸口の方へと向かっていくミヅキ。

「ええっ? ミヅキくんっ?」

 と慌てて追いかけてくるレナから、ミヅキは慌ててリビングの方へと逃げていく。

「レナ、落ち着いて! レナっ!」

 とレナの方を向きながら後ずさっていくミヅキと、

「ヘイ、カモォォォォンっ!!」

 ボディービルのポージングを取りながら追いかけていくレナ。
 それはミヅキがドール工房としている部屋へと逃げ込んだあとも続く。

 部屋のドアの前、様々なボディービルのポージングを取るレナ。
 絶叫している。

「カモォォォォンっ!! カモォォォォンっ!! ヘイ、カモォォォォォォォォォォォンっ!!!」

「………………」
 
 
 
 薬の効果が切れたのは、それから1時間後のこと。
 切れた途端、レナに襲い掛かってきたのは恥ずかしさだった。

(何してんだろう、あたしっ…!)

 ミヅキがこもってしまった部屋のドアの前、真っ赤になって蹲る。
 今になってようやく気付いた。

(兄ちゃんとカレンちゃん、あんなことしてないじゃん…!)

 レナが急におとなしくなり、ドアを隔てて背をくっ付ける形で座っていたミヅキが口を開いた。

「レナ? 戻ったの?」

「うえぇぇん、穴があったら入りたいよおぉぉ」

 と泣き出したレナ。
 ミヅキがドアを開けると、逃げるように服を脱ぎ捨てたところへと駆けて行く。

「レナっ…!」

 と、ミヅキがレナの腕を掴んで引っ張るが、レナは背を向けたまま俯いて泣きじゃくる。

(絶対ミヅキくんに嫌われたっ…!)

 そう思って、ミヅキの顔を見ることが出来ない。
 恥ずかしさのあまり、顔を見せることも出来ない。

「離して、帰るっ…!」

「見なかったことにするから」

「見たものを見なかったことになんか出来ないっ!」

「じゃあ、忘れるから」

「忘れられるような出来事じゃなかったっ!」

「そうだね」

「ほーらあぁぁぁぁっ!」と、さらに泣き出すレナ。「帰るったら帰るっ! かーえーるぅぅぅううぅぅぅうぅぅぅうぅぅぅぅうううぅぅぅうぅぅうっ!!」

「ダメ」

「離してっ! あたしミヅキくんに嫌われたっ!!」

「ぼく一言も嫌いになったなんて言ってな――」

「振られたっ!!」

「ぼくがいつレナを振――」

「だから帰るうぅぅうぅぅううぅぅうぅぅぅううぅぅうぅぅぅうぅぅうぅううううぅぅうっ!!」

「……」

 プチっ…

 ミヅキからそんな音が聞こえたと思ったあと、ミヅキがレナから手を離した。

「っそ。んじゃ帰れば」

 そんなミヅキの言葉に、レナは慌てて振り返る。

(怒らせたっ…!)

 ミヅキと付き合い始めて約一ヵ月半。
 ミヅキが結構な短気であることは分かっていたのだが。

「ミ、ミヅキくんっ…!」

 とレナが伸ばした手を、ミヅキが振り払って背を向ける。

「早く帰れって言ってんの」

「あっ、あのっ、ごめんなさいっ…! ごめんなさいっ、ミヅキくんっ…! ミヅキくっ……! うえぇぇぇんっ!」

 と背で狼狽して泣きじゃくるレナに、にやけてしまうミヅキ。

(焦ってる焦ってる。ああ、可愛い…)

 なんて思ってしまう奴であることを、レナは振り返ったミヅキの顔を見たときに思い出す。

 にやにやにやにやと笑っているミヅキの顔。
 レナの顔が引きつってしまう。

「ちょ…ちょっとミヅキくん……!?」

「何?」

「今、あたしで遊んでたでしょ…!」

「人聞きが悪いな」

「もう、帰るっ!」

「何言ってんの、これからエッチってときに」

「す、すんのぉ!?」

「するって言ったじゃん」

 とレナを抱き上げ、ミヅキが足取り軽く寝室へと向かう。
 レナが顔を真っ赤にして騒ぎ出す。

「きゃああああああああっ! きゃああああああああああっ!! ま、ままままままままま待ってミヅキくんっ!!」

「うん、分かった」

「良かっ――」

「待たないよ」

「――って、エエェェエエェェエェェェエ!?」

「さっきまで人襲っといて今さらそれはないっていうか」

  「あ、ああああああれはあぁぁあぁぁああぁぁあっ!!」

 レナをベッドの上に押し倒して、にやにやと笑っているミヅキが言う。

「ああ…、やっぱりレナはこうじゃなくっちゃ」

「ミ、ミヅキくんてちょっとパパみたいっ!!」

「やだな。リュウさんは鼻にメロンだけど、ぼくは鼻にミカンだから大したことないよ」

「そ、そういうところじゃなくて――」

「ああ、オトーサン。娘さんいただきます」

 レナ、食われる。
 ミヅキの感想をどうぞ。

(デリシャスっ…♪)
 
 
 
 午後5時過ぎに帰宅したレナ。

(レナ14歳、大人になりましたっ…♪)

 玄関まで出迎えたキラが首をかしげる。

「どうした、レナ? ぼーっとして…。頬も赤いし」

「な、なんでもないっ…!」

 と言って、逃げるように2階へと駆け上っていったレナ。
 その際レナのポケットから例のメモが落ちて、キラがそれを拾い上げる。

「何だ、これ…?」と、メモの内容を見たキラ。「――!!?」

 衝撃。

(ま、待て、レナ…! おまえ、まさかこんなことをしてきたのか…!? 普通こんなことしたら引かれることくらい、母上だって分かるぞっ…! そうかレナ…、おまえ今日ミヅキの誘惑に失敗したのだな……!?)

 と、娘を不憫に思い、目頭を押さえるキラ。
 数秒後、はっとした。

(もしかして、私もこの方法でリュウを誘惑すれば、今夜はイトナミに休みをもらえるかも…!?)

 なんて期待し。

 その晩。
 夫婦部屋の中、瞳を輝かせながらベッドの上に立ったキラ。
 風呂上りのリュウを呼ぶ。

「リュウ、リュウ♪」

「何だ、キラ」

「私、今日はリュウを誘惑するのだ♪」

 と言ったキラ。

   ムキムキムキっ…!

 とボディービルのポージングを取って絶叫。

「ヘイ、カモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!!」

 どうだ、萎えるだろう!

 と心の中でにやけた次の瞬間、

「まーじでぇー?」

 とリュウに押し倒されたキラ。

「――なっ、何故だあぁぁああぁぁああぁああぁぁあぁぁああぁぁああぁあああぁぁあっ!!」

 いつも以上に激しく食いつかれ、先ほど以上に絶叫した。

 その絶叫は人間並の聴力であるシュウの耳にも達し。
 バスルームの中、膝の上のカレンと共にぎょっとしてしまう。

「な、なんだあ? 母さん、すごい声だな…」

「きっとお義父さまに襲われてるのよ…」

「だ、だろうな…。ていうか、今日のレナの様子だと、あいつもミヅキと……」

「ええ、そうよねっ…!」と、カレンがはしゃぐ。「レナちゃんもついに大人になったのねっ…! きゃあああああ! どうだったのかしらああぁぁああぁぁああぁぁあっ!!」

「……さ、さあ」兄として何だか複雑なシュウ、苦笑。「とりあえず、ミヅキがレナに手ぇ出したこと親父にバレないことを祈る……」

「そ…そうね……」

 と顔面蒼白しながら同意したカレン。
 少し間を置き、シュウが話を切り替える。

「でさ…、カレン。オレが闇の力持ってたってこと、言っただろ?」

「ええ」

「知った瞬間はまるで実感なかったんだけどさ、だんだんと感じてきたせいかな…」

「ええ?」

「誰が闇の力持ってるとか、何となく分かるようになってきた」

「まあ」

「だから、オレの他にもう一匹、母さんの闇の力受け継いでることも知ったよ」

「えっ?」と驚き、カレンが振り返ってシュウの顔を見た。「だ、誰っ? サラとかっ?」

「いや、ジュリ。小さいから、まだ闇の力も弱いけど…」

「ジュリちゃんが…!?」

「うん。そう思うとさ、怖いもんだな。親父の気持ちがよく分かる…」

「そ、そうね…、あたくしもあなたが持ってると思うと怖かったもの」と同意したあと、カレンが訊く。「ねえ…、シュウ? 自分が闇の力を持っていることは怖いと思わないの?」

「ん? それは全然怖くねーよ」

 と、笑ったシュウ。

 決して偽りじゃない。
 自分が闇の力――破滅の呪文を持っていることなんて怖くない。
 むしろ嬉しい。

 だって、

「破滅の呪文があれば大切な人守りきれるだろうし」

 それに何より、

「オレが一番早く親父を超えられる方法だから」
 
 
 
 
次の話へ
前の話へ

目次へ
感想掲示板へ
小説トップへ
HOMEへ
inserted by FC2 system