第142話 これで完璧? 七女の初体験 前編
7月上旬。
季節は梅雨。
本日魔法学校が休みの双子と三つ子。
外は雨が降ってるからと家の中で遊んでいる。
そんな中、朝起きて朝食を食べたあとから昼過ぎまで、ずっとそわそわしている子が一匹。
「シャワー完了っ…! バッグの中に『大胆になれちゃう薬』よーしっ、昨日がんばって書いたメモもよーしっ…!」
三つ子の一番下の子である、七女・レナだ。
これから恋人であるミヅキ宅へと行き、ミヅキへの誕生日プレゼントしてミヅキの作る人形のモデルを務めてくる。
全裸になるが故に、昼食は食べなかった。
(お腹出ちゃったら恥ずかしいからねっ…!)
マナの作った『大胆になれちゃう薬』は、その名の通り大胆になれる他に、徐々に興奮作用が働いてくるとか何とか。
レナの中の予定としては、ミヅキ宅へと着いたらマナの作った『大胆になれちゃう薬』を飲み、大胆になれたところで服を脱ぎ、ミヅキに人形の設計図を書いてもらう。
そしてミヅキが設計図を書き終えたときには、きっと働いているだろう興奮作用。
それに身を任せ、求めてくるだろうミヅキに抱かれてドキドキ初体験。
(あああ、緊張するよぉぉ…!)
自宅を出る前、玄関で真っ赤になって足を止めてしまうレナ。
バッグの中のメモを取り出す。
(だ、大丈夫だよね初体験っ…! 昨日、兄ちゃんとカレンちゃんのイトナミ見させてもらって勉強したし!)
メモの内容をもう一度読み直したあと、
「よし! いってきまああああああす!」
とレナは傘を差してミヅキとの待ち合わせ場所――キラの銅像前に駆けて行った。
そのメモの内容はレナがパニクってしまったが故に、目で見たものと完全に違った内容になってしまっているのだが、レナはそのことにまるで気付いていなかった。
ミヅキとキラの銅像前で落ち合ったあと、レナはミヅキに手を引かれてミヅキ宅へと向かって行った。
ミヅキ宅へと来るのはこれで2度目だ。
(ひ、久しぶりだなあ)
とドキドキとしながらリビングの中を見回すレナ。
リビングの戸口から向かって左の方にあるドアがドール工房、右の方にあるドアが寝室だ。
(し、寝室…。あ、あああ、あそこ行くんだよね!? ドールの設計図作り終わったら、あそこ行くんだよね!? そ、そそそ、それで、ミ、ミミミ、ミヅキくんと、は、ははは、初体験っ……!!)
なんて考えていたら、顔が真っ赤に染まったレナ。
(お、落ち着けあたしぃぃいぃぃぃぃいいぃぃぃいっ!!)
ミヅキが飲み物を用意している間に、バッグの中から『大胆になれちゃう薬』を取り出す。
(レ、レレレ、レナ14歳っ! マッパとその後の初体験、が、ががが、頑張りますっ!!)
と、薬をごくごくと飲み干したレナ。
効果はすぐにやってきた。
「――…んんっ!?」
それから30秒後。
アイスティーを用意して戻ってきたミヅキ。
「お茶でも飲んで落ち着い――」
面食らってグラスを落としそうになる。
ミヅキに背を向けて立っているレナ。
いつの間にか全裸になっている。
「レ、レナ…!?」
「ミヅキくん!」
と顔を傾け、ミヅキに目を向けたレナ。
パァン!
と己の尻を叩いて訊く。
「どう!? このボンジリ!」
「ボ……?」
くるっと周ってミヅキと向き合ったレナ。
今度は太股を叩いて訊く。
パァン!
「このモモ肉は!?」
「……」
パァン!
「ムネ肉足りる!?」
「……」
パァン!
「っていうか見てよこの皮――」
「焼き鳥か」
思わず突っ込んだミヅキ。
もしかして、と察して訊く。
「マナちゃんの薬でも飲んだ?」
「今のうちにドールの設計図を!」
「飲んだのね…」
ミヅキ、苦笑。
レナの緊張をほぐしてからドールの設計図を書こうと思っていたが、その必要はないようだった。
まずはレナの身体のあちこちのサイズをメジャーで測る。
部分によっては少し戸惑ってしまうミヅキに比べ、マナの薬を飲んだレナはまったくもって平気そうだ。
「ミヅキくんミヅキくん、あたしのムネ肉どれくらい!?」
「アンダーバスト63cm、トップバスト77cm…」
「おお、もうちょっとでCカップ! さすがあたしママの子!」
「そうだね……(今のぼく、傍から見たら変態のようだ…)」
と、苦笑しながらレナのサイズを測り終えたら、ようやく設計図を書いていく。
リビングのソファーに座りながら、目の前のテーブルの上に紙やシャーペンなど必要なものを置いたミヅキ。
テーブルを挟んだ正面に、レナに直立してもらう。
「ここでいい!? ミヅキくん!」
「もうちょっと後ろ下がって」
「このへん!?」
「うん、OK。ていうかそんな大声出さなくていいから」
「分かった!」
と大声で返事をしたレナを見て、また苦笑してしまったあと。
ミヅキはシャーペンを手にした。
レナの頭の先から爪先まで、改めてその栗色の瞳で見つめてみる。
(…綺麗だなあ……)
キラほどではないものの、白いその肌は少し眩しい。
「書かないの!? ミヅキくん!?」
「…ごめん、見惚れてた」
「え!? どこに!?」
「全身」
「あとでエッチするんでしょ!?」
「する気で来た?」
「来た! お勉強もばっちりしてきた!」
「勉強?」
「兄ちゃんとカレンちゃんがしてるとこ覗いてお勉強してきた!」
「覗いたのか…」
「誘惑の仕方とかもうバッチリ!」
「ふーん? それは楽しみだなあ」
と笑い、シャーペンを動かし始めたミヅキ。
レナの姿形をそっくりに書いていく。
(まだ成長中とはいえ充分ソノ気にさせられるね、まったく…)
動悸がした。
大人へと向かって成長中のレナの身体。
華奢な肩や鎖骨、細い腕。
膨らんできた胸。
(すでにカレンちゃんよりあるけど…)
両手の中に収められてしまいそうな腰。
まだまだ子供っぽいとはいえ真っ直ぐで美しい脚に、小さな尻。
細い背に浮き出た肩甲骨は、天使の羽のようにも見えた。
(これがぼくのドールになるなんて…)
そう思うと動悸が増す。
今日レナが帰ったあと、明日バイトがあることも忘れて眠らずに作ってしまいそうだった。
設計図の大きさは実際のレナの2分の1サイズ。
どこもかしこもレナそっくりに書き終えると、ミヅキはシャーペンを置いた。
背を向けて立っているレナに言う。
「お疲れ様、レナ。もういいよ」
「うんっ…!」
と、振り返ったレナの顔を見て、ミヅキはぱちぱちと瞬きをした。
レナの顔が赤い。
「どうかしたの、レナ?」
「興奮作用が働いてきたっ…!」
「興奮作用? 何…、薬の?」
「うんっ…! マナが興奮して初体験盛り上がってきてってっ……!」
「へえ?」と、にやっと笑ったミヅキ。「んじゃ、盛り上がらせてもらおうかな。先にシャワー浴びてきていいよ」
「浴びてきたっ…!」
「そう、準備がいいね」
と笑い、立ち上がったミヅキ。
バスルームへと入っていく。
「寝室で待ってて」
と、言い残して。
シャワーの音が聞こえ始めると、レナはバッグの中からメモを取り出した。
「どきどき初体験のための最終確認っ…!」
と、最後にもう一度メモを見るレナ。
間違えまくりであることに、結局気付かなかった。
箇条書きで書いてあるそれを一行目からぶつぶつと声に出して読んだあと、寝室へと向かって行った。
(これで完璧、初体験っ!!)
シャワーを浴びるミヅキの脳裏に、レナの白い身体が浮ぶ。
(まだ少し子供を思わせるけど、綺麗だったなあ…)
と改めて思うと、再び動悸がした。
(ぼくなんかが抱いちゃってもいいのかな…)
そんな罪悪感すら持ってしまう。
が、
(ああ…、ぼくってラッキー)
そんな嬉しい気持ちのが大きいミヅキ。
シャワーを止めて脱衣所に出る。
(可愛い反応するんだろうなあ、レナ)
軽く身体を拭き、バスタオルを腰に巻いて外へと出る。
リビングを通り、寝室の方へと向かっていく。
寝室の手前、ドアノブを握って一度立ち止まった。
(そういえば、シュウとカレンちゃんのイトナミ覗いて勉強してきたとか言ってたっけ)
くすっと笑ったミヅキ。
(さぁーて、どんな誘惑してくれるんだか)
と寝室のドアを開けた。
ミヅキに横顔を見せる形で、レナがベッドに腰掛けている。
「おまたせ」
とミヅキが言うと、ベッド脇にすっと立ち上がったレナ。
ゆっくりとミヅキの方へと身体を向ける。
頬が真っ赤だ。
「ベッドに入って待ってれば良かったのに」
と言ってレナのところへと歩き出そうとしたミヅキ。
レナに異変を感じて数歩で立ち止まる。
「ハァっ…ハァっ……」
と、興奮作用がさらに働いてきたのか、息切れしているレナ。
右肘を折り曲げ、身体の脇に「く」の字を作った。
「レナ?」
「ハァっ…ハァっ……」
さらに左肘も同様に折り曲げ。
「何し…?」
「ハァっ…ハァっ……」
腰の脇で、ぎゅっと拳を作り。
「は…?」
「ハァっ…ハァっ……」
「レ、レナ――」
「ふんぬぁーーーっ!!」
ムキムキムキっ…!
と、その細い腕に筋肉を浮き立たせたら。
大きく息を吸い込み。
レナ、絶叫。
「ヘイ、カモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!!」
「――!!?」
メモその1。
『誘惑するときはボディービルのポージングで「ヘイ、カモォォォォンっ!!」と絶叫』
完了。
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